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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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砦は今まさに大混乱といったところだ。


多くの兵が所狭しと走り回り、そこに響くのは上官の叫ぶような指示の声だ。それもそうだろう。なにせ安心しきっていた砦を守る壁が同時に2箇所も破られたのだから。


砦内で待機していた多くの兵は破られた箇所から侵入しようとする敵の排除に駆り出され、それと同時に壊された壁の修復も行っていた。









時は少し遡る。



俺はウィルと共にイーストエンド軍の新兵器である爆発玉の威力を確かめるために、砦の上部にいた。



「なぁ、ウィル。あの投石機は砦の中まで届くと思うか?」



俺は兵器に詳しいウィルにそう尋ねる。


おそらく既存の投石機と思われるそれは、俺の知識が正しければ砦の壁を越えることはまずないと思われた。



「いえ。無理でしょう。ギリギリまで近づいたとして最上段の縁に当たるか当たらないか…。そのくらいが限界だと思われます」


「だよな」



予想通りの返事がウィルから返ってきたことで安心した俺は、しっかりと爆発玉なる新兵器の運用方法や効果を確かめようと視線に熱を籠める。




そして遂にその時はやってきた。


イーストエンド軍の真ん中をゆっくりと進んできた投石機を押す部隊は、砦からの矢の射程範囲ギリギリと思われる場所でその足を止めた。


そして、盾を持つ兵達がしっかりと周囲を固める中、投石機を展開し爆発玉と思われる黒い塊を射出部に載せた。



「あれが爆発玉か…」



俺は始めて目にした噂の新兵器に思わずそう呟く。


おそらく爆発玉だと思われるソレは、人の頭程の大きさであり兵士二人によって慎重に扱われている。あまり重さはないようで扱う兵士二人には余裕が感じられた。一人でも十分持てそうだが、もしかすると振動などの衝撃に弱いのかもしれない。



そんな風に俺が観察している間にも着々と投石機の発射準備は整っていき、遂に周りを警護していた兵が側を離れた。最悪の場合の巻き添えを防止する為だろう。


そして次の瞬間、遂に投石機から爆発玉と思われる塊がこちらにむけて発射された!



「ジャッジ様!」



ウィルはそう言うと俺の肩をしっかりと掴み、その場に体を固定する。


まぁ大丈夫だとは思うが念の為だろう。俺はウィルに肩を掴まれながらもじっと飛んで来る爆発玉に視線を注ぐ。


かなり高い放物線を描く爆発玉は、最高到達点を過ぎ既にゆっくりと下降し始めている。どうやら狙いは砦の壁そのものらしい。このままいけば地面と壁の境あたりにちょうど当たりそうだ。



「さて…。どんなもんかな?」



俺はたまに街に来る大道芸人を初めて見たときのような、不思議な興味深さを感じながらじっとその行方を見つめていた。




………この時点で火魔法で迎撃することもできたのだが、俺は自分の愚かな好奇心によってそれをしなかった。

それによって起こった出来事は、これから一生俺が背負っていかなければならない十字架だ。




「来ます!」



ウィルがそう言いながら俺を掴む腕に力を籠める。



ズガァァーン!!



その瞬間、凄まじい爆発音が辺りに響き渡り、俺がいる砦の最上部までがまるで噴火に伴う地震のように揺れた。



「おおっと!」



俺のふらつく体はウィルによってしっかりと固定されているため平気だったが、条件反射で目の前にあった固定式の盾を掴む。



「ジャッジ様!ご無事ですか?」


「あぁ。平気だ」



ウィルにそう答えると、爆発玉が着弾したと思われる場所に目を向ける。


もうもうと立ち込める土煙でまだ被害は確認できない。しかし、砦からかなり離れた場所に砦の破片と思われる塊が落ちているのに気がついた。



「ウィル!まずい!壁が壊されたかもしれない!」


「なっ、なんと…」



ウィルもその塊に気がついたのだろう。顔色を変えている。


まさかあれほどの強度を誇る壁に傷をつけるとは…。爆発玉とはそこまでの威力なのか…。


俺は信じられない物を見た時の思考停止を体感しながら、呆然と土煙を見つめていた。



徐々に土煙が収まりその被害の状況が明らかになってきた時、俺は更に衝撃の事実を知ることになる。



「嘘だろ!たった一発で…」



思わずそう声を上げた俺が見たものは、俺とラミィが苦労して作り上げた砦の壁に大きく開いた穴だった。


大人が両手を大きく広げて二人は通れそうな大穴がそこには口を開けており、すぐそばの地面も大きく抉れている。周辺には壁の残骸が散らばりその威力を物語っている。



俺はしばし呆然とその有り様に見とれていたが、



「ジャッジ様!私は敵の侵入を食い止めて参ります!どうかご命令を!」



という、ウィルの一言によって我に返った。



「………ありがとう、ウィル。……よし!そっちは頼んだ!俺は残りの爆発玉を狙い撃つと将軍に伝えてくれ!防衛には突撃隊を使っていい!」


「はっ!」



ウィルは俺の命令を聞くとすぐにその場を後にした。


一刻の猶予もないとウィル自身も実感しているのだろう。もたもたしている間に砦の中に侵入されたら大変だ。元々数では圧倒的に不利なのだ。物量で押しきられてしまう恐れがある。



ウィルを見送った俺は、次弾の爆発玉を防ぐために砦の外に向き直ろうとして、ふと思い出し近くの兵に声をかけた。



「あ!ちょっと!…すまないけど、ラミィにも爆発玉を優先して迎撃するように伝えて貰えるかな?」



突然俺から声をかけられた兵は、さっきまでの俺と同じように呆然と壁の大穴に向けていた視線を俺に向け、驚いたように短く返事すると走っていった。


その姿は、まるで悪戯を見つかって叱られ逃げ出す子供のようだった。



「……そんなに驚かなくてもいいのになぁ」



俺はそう苦笑しながら、再び砦の外に体ごと向きを変える。


仕方ないといえば仕方ないだろう。一応これでも国王なのだ。さっきの兵はダポン軍所属だろうし、直接国王から声をかけられることなどないに違いない。

……そもそもダポンは共和国だし国王なんていないのかな?どうなんだ?その代わりが議長なのかな?


俺はふとそんな疑問が頭に浮かんだが、今はそんな場合じゃないと思い直す。


とにかく今は爆発玉をなんとかしないといけない。砦に開けられた穴はもう仕方ないとして、これ以上の被害を防ぐことが重要だろう。



そう考えながら視線を先ほどの投石機に向けると、なんと次の爆発玉がもう籠の部分に載っているではないか!



「ま、まずい!」



俺は急いで迎撃するべく魔力を右手に集める。そして、焦る気持ちのままおおまかに狙いをつけると火球を放った。



俺の手から放たれた火球は矢よりも速い速度で投石機に向かう。


投石機部隊もそれに気付いたのか、盾を持った護衛が数人前に出た。



バフッ!ドン!



という音とともに盾を持った護衛は、数人纏めて炎に包まれつつ後方に飛ばされる。おそらくあの様子だと大火傷は免れないだろう。この戦争ではもう戦力にはならないはずだ。



……しかし、その命を懸けた護衛の行動によって爆発玉を載せた投石機は難を逃れていた。



「くっ…。しまった!」



先程よりも急いで準備をしたと思われる投石機部隊は、まるでさっきの放物線をなぞるように同じ軌道で爆発玉を発射した。



俺は更に2.3発と火球を放つが、ただでさえ精密なコントロールの苦手な俺だ。焦る心とは裏腹に火球は爆発玉からは遠く離れた場所を通りすぎるだけだ。



………そして二発目の爆発玉が先程からそう遠くない位置の砦を守る壁に着弾した。

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