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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ジャッジ達がヒコウキーにてその場を飛び去った事をウィルは気配で感じていた。刺客の男との激闘の最中ではあったが、自らが第一に考えるべき主の動向は常にウィルの意識の中にあった。




確実にジャッジ達がイーストエンド軍の夜営地から離れたと思われる程の時間が経った時、ウィルは満を持して男を全力で叩きのめすことに決めた。



「……はぁっ!」


「うっ…」



今までは制限付きの状態で戦っていたウィルが、後ろを気にせずに思う存分攻めるとどうなるのか?


……そう。圧倒できるのだ。




ウィルは一度もそう思ったことはないが、ジャッジ達という重りから解き放たれたウィルは本来の動きを取り戻していた。



今までは躱すよりも受け流していた曲剣での剣戟を、前後左右に動きながら躱す。更には男の背後を取るような仕草で男の注意を誘うと、逆をついて男の太ももあたりを斬りつける。


今まで拮抗していた戦況が一気にウィル有利に傾く。明らかに今では攻めているのはウィルの方で、刺客の男は防戦一方だ。



「………っ!」



刺客の男は次々と体の至るところに増えていく切り傷を感じながら戸惑っていた。



さっき仲間が迎えに来て、この場を妙な乗り物で去っていったのが噂のジャッジ王だろう。当初は今対戦しているウィルという剣士と、魔法を使うというジャッジ王二人を同時に相手取るつもりであった。


その為、常にウィルの後方にいたジャッジ王も牽制しながら戦いを進めていたのだが、何故か戦いに介入することなく遂には戦場をいち早く離脱した。


男からすればこれは僥倖でもあった。注意をウィル一人に集中できるのだ。ジャッジ王をこの場から逃すのは受けた命令に反することでもあったが、さっきから戦っているウィル一人相手になんとか互角といった所だ。ジャッジ王まで仕留めるのはこの場では難しいだろう。



……そう考え、気付いていながらも()()()ジャッジ王を含む数人を逃したのだが、その後は男の思う展開とは全く違う物になっていた。



ジャッジ王達がいなくなった途端、急にウィルの圧力が増したのだ。今も男はウィルの圧倒的な剣術に翻弄され、致命的となる一撃を避けるだけで精一杯だった。




「すまんがさっさと終わらせるぞ。ジャッジ様を追わないといけないのでな」



ウィルはそう言うと、更に剣を振るう速度を上げ男が左手に持つ曲剣を弾き飛ばし、返す刀で男の左腕を斬り飛ばした。



「があっ!」



ボトッっという鈍い音と共に斬り飛ばされた男の左腕が少し離れた場所に落ちる。


左腕を失った男は、バランスを崩しその場に膝を着きうずくまってしまった。さっきまで左腕があった場所からは夥しい量の血が流れ、男の上着の左脇は真っ赤に染まっている。


右手の曲剣も地面に落ち、右手は左腕の傷口を押さえている。そうしなければすぐにでも出血多量で死に至るだろう。こうなれば戦っている場合ではない。明らかに戦闘不能だ。




ウィルはそんな男を見下ろしながら後ろに飛び下がる。


これでこの刺客の男は戦闘不能だろう。止めをさしてもいいが、両手で剣を扱う剣士が片手を失ったのだ。剣士としては死んだも同然だろう。それにこの出血量ならば録な治療もできないこの場所では、放っておけば死ぬ可能性が高い。


ウィルはそう考え、男に止めをさす時間も惜しんでジャッジ達を追って砦に戻るためにその場を去ることに決めた。




地面にうずくまったままの男に背を向け剣を鞘にしまうと、ウィルはジャッジ達がヒコウキーにて飛び去った方向に走り出そうとしていた。


……しかし、ウィルが一歩目を踏み出そうとした瞬間。



ダーン!



という乾いた破裂音があたりに響き渡ると、ウィルは自らの脇腹が裂けたかのような痛みを感じた。見るとラミィ特性の木製鎧の脇腹部分が粉々に砕け散り、そこから見える地肌から血が滲んでいる。



すぐに身構えたウィルは周囲を警戒する。どうやら攻撃を受けたらしい。いくら戦闘が終わり油断していたとしても、今は全く敵の気配を感じられなかった。しかもこの攻撃手段は何だ?矢がこの鎧を砕けるとは思えない。幸い脇腹をかすった程度だからよかったものの、無防備な頭部を狙われたら危なかった。



ウィルは内心冷や汗をかきながらも辺りの気配を注意深く探るが、先ほどの刺客の男以外の気配はない。もう戦闘不能だったはずだが…。と、念のため後ろを振り返るウィル。


すると、そこには残った右手に何かを構えて立っている刺客の男がいた。



「なっ…!?」



ダーン!!



驚くウィルに向かって、再度構えた何かから破裂音とともに何かを発射する男。


今度は真正面からそれを見ることの出来たウィルは、頭を狙ってもの凄い速さで飛来する小さな弾をなんとか避けた。



どうやら脇腹を削ったのも今の攻撃らしい。今まで見たことのない武器だ。あの速さで攻撃されたら常人は反応すらできずにやられるだろう。弓矢のように攻撃に繋がる予備動作も見られなかった。明らかに新兵器だ。



ウィルはその後も数発続けて発射された弾を、避けたり剣で弾いたりしながら無傷でやり過ごしていたが、合計6発程避けると男はその武器を手にしたままバタリと地面に倒れた。


男の左腕があった場所から流れた血が体を伝って足元に血溜まりを作り、そこに倒れ伏した男はさながら自らの血に溺れているようだった。



よくぞそんな状態で立ち上がり、尚且つ新兵器にて攻撃を続けていたと誉めたくなるような状態だ。…まぁ今のウィルにとっては迷惑でしかない状況なのだが。




ウィルは警戒を緩めることなく男に近づくと、今度はしっかりとその胸に剣を突き立て止めをさす。そして、男が右手にしっかりと握ったままの新兵器と思わしき武器を、男の右手から引き剥がすように奪うと懐にしまった。



「……よし」



ウィルは再度周囲を警戒した後、闇の中を今度こそジャッジ達の向かった方向に走り出した。












砦の屋上にヒコウキーで着陸した俺は、ここを出発するときよりも燃え盛る食料で明るくなったイーストエンド軍の夜営地の方向を見つめていた。



「……ウィルは大丈夫だろうか」



俺がそうつぶやくと、ウィルがいない時は自分が側にいる役目だ!とばかりに先ほどからずっと離れずにいたロックが口を開いた。



「ご心配なく。ウィル殿が負ける姿など想像できません。きっと今ごろはさっさと敵を片付けここに向かっている途中でしょう」


「そうか…。そうだな」


「はい!ウィル殿の強さはジャッジ様が一番ご存じでしょう。なんせたった一人で6000人を殲滅したお方ですよ?」



ロックの言葉に俺はそんなこともあったなぁ…。と、既に過ぎ去った遠い過去のように感じるファイスの街での出来事を思い出す。



あの頃はまさか自分がファイスの街が属するイーストエンド国と戦争をするなんて思いもしなかった。今思えばここにこうして立っているきっかけの一つは、ロックと出会った事なのかもしれない。



俺はさながらキャンプファイヤーのように火柱を上げて燃えるイーストエンド軍夜営地の一角を見つめながら、ロックを始めとする今まで出会った人々に感謝していた。



「……思えば色々あったなぁ。皆こんな俺によくついてきてくれてるよなぁ…」



俺が思わずそう呟くと、



「はい?なんか仰いましたか?」



と、ロックが聞き返してきた。


俺が感傷に浸っていたことがバレるのが少し恥ずかしくなり、誤魔化そうと言い訳を口にしようとした時、



「ジャッジ様!ウィル殿がお戻りです!」



と、砦の門の真上で見張りをしていた兵が、下から声を張り上げて報告してきた。



「本当か!?」



俺とロックはすぐにそこから真下に向かって目を凝らす。するとまだ小さな点にしか見えないが、確かに誰かがこちらに向かって走ってくるのが見えた。


俺も今夜の夜襲でずっと暗闇に目を凝らしていたおかげで、少しは夜目が効くようになったのかもしれない。

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