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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ケイレブ伯爵からの手紙が届いたとの報告を受けたのは、俺がやっと眠りについてすぐの時だった。



「ふわぁぁ…。…………眠い」


「申し訳ありません。宛名がジャッジ様宛でしたので、私共では封を切ることができませんでした」



俺を起こしに来た兵がそうやって謝るが、これは誰が悪いわけでもない。ただ俺が眠いばかりにわがままを言っているだけだ。



「………ハハ。気にしないでくれ。すぐ目が覚めるから」



俺は兵にそう空元気で言うと、後ろに続いて会議室までの暗い廊下を歩く。



きっとウィルとロック、それに夜襲部隊の皆も寝ていないはずだから俺は少しでも寝れただけ幸せな方なのだろう。








「遅くなった。待ったか?」



俺が迎えに来た兵を扉の前に残し、そう言って会議室に入ると既に俺以外の面々は勢揃いしていた。なんなら皆装備も完璧だ。俺だけが眠そうな顔で鎧を着ていない。



「いえ。皆ちょうど今集まったところです。………ジャッジ様。こちらを」



ウィルがそう言いながら一通の封筒を手渡してくる。この封蝋の紋章はケイレブ伯爵の物だ。さっき兵が言っていたように皆俺が来るのを待っていたのだろう。中身は大体想像がつくだろうに律儀な人達だ。



俺は封筒を受けとると封を破り中の手紙を取り出す。そしてもう見慣れたケイレブ伯爵の筆跡に目を通す。





「……ははぁ。なるほど…」



そんな風に俺が手紙で語りかけるケイレブ伯爵に相づちをうっていると、



「いかがですか?どこまで調べかついていますか?」



と、ロックが待ちきれないように尋ねてきた。


ちょうどその時手紙を最後まで読みきった俺は、手紙をロックに手渡すと他の皆に言い聞かせるように内容を説明する。



「手紙は皆で順番に読んでくれてかまわない。むしろじっくり読んで内容を理解してくれ。俺からは簡単に説明しておく。………伯爵が調べることができたのは本隊の食料を担当している部隊の位置のみだ。やはり爆発玉やアルト王の居場所など、重要な事は一部の幹部しか知らされていないみたいだな。………ということで今夜は食料を燃やすことになりそうだ」



俺はそう話し終わると皆が手紙を読み終わるのをじっと待つことにした。


手紙は最初にロックが読み、その後にウィル、最後に居残りではあるが作戦内容を把握しておく必要のあるガイル将軍まで回った。



「よし。皆ちゃんと内容は理解したか?中身にあったように今夜の襲撃場所はイーストエンド軍の夜営地の後方だ。ぐるっと大回りすることになるから予定より少し早めに出ることにしよう」


「はっ」



俺がそう伝えるとロックと夜襲部隊は慌ただしく動き始めた。持参する武器やルートなどを確認しているようだ。


ウィルとガイル将軍は二人で何か話し合っている。ケイレブ伯爵からの手紙についてだろうか。




「ジャッジ様。少しよろしいですか?」



ウィルが俺にそう言いながら近づいてきた。ガイル将軍もその後ろにいる。



「あぁ。準備はまだみたいだからな。どうした?」


「はい。ケイレブ伯爵からの手紙についてなのですが…」



ウィルはそう切り出した。その表情はいつもより真剣だ。こんな顔をウィルがするときはあまり良くないことが起きている事が多い。


俺はなんの事かと思いウィルを見つめる。



「ガイル将軍とも少し話したのですが、あまりに食料の管理が杜撰すぎるような気がするのです。場所を何故全参加貴族に周知したのかも不明です」


「そのことか…」



ウィルが疑問に思っている事と同じことを俺も感じていた。


ケイレブ伯爵曰く、開戦数日前になって突然夜営地での食料保管場所が知らされたらしい。それも自ら食料をある程度用意している全貴族にまででだ。


通常食料は参加する貴族が各々用意することが多く、今回全軍の食料をある程度準備することになったケイレブ伯爵だけならともかく、他の貴族までとなるとその目的が分からない。


そこのところがウィルとガイル将軍にはひっかかったのだろう。




「……私とガイル将軍は罠ではないかと疑っております。ジャッジ様。どうされますか?」



ウィルは真剣な顔でそう尋ねてきた。後ろのガイル将軍も不安そうな表情だ。



「罠か…。確かにその可能性もあるか…」



俺はウィルの言葉に考え込んでしまう。



数で劣る俺たちが夜襲をかけることは向こうも警戒しているだろう。そしてその対象は長期の戦になればなるほど必要になる食料だということも理解しているはずだ。


それならば敢えてその場所を明らかにして、そこで迎え撃つという作戦をとることも十分考えられる。もちろんどこかの内通者や密偵から俺たちに情報が漏れることが前提だろう。




俺はそこまで考えたが、やはり夜襲は短期でこの戦いを終わらせるためには必要であろうと決断した。



「……それは俺も考えていた。しかし、やはりこの戦争を早期に終わらせる為に夜襲は必要だろう。仮に罠だった場合はすぐ撤退しよう」



俺がそう決断したことを二人に伝えると、二人とも更に表情を引き締めたように見えた。そしてウィルが俺に向かって口を開く。



「畏まりました。仮に罠であったとしてもジャッジ様の御身は私の命に替えても必ずお守り致します。どうかご安心ください」


「いやいや…。危ないことになりそうならすぐ皆で逃げるからな。死ぬのは禁止だぞ」



すぐ命を賭けようとするウィルにそう釘を刺して、その場で予定通り夜襲は行うことに決まった。



出発はロック達の準備が終わり次第となる。精鋭揃いではあるが少人数のため敵に囲まれて身動きがとれなくなると万事休すだ。ルートの確認等の作業には万全を期すことになるだろう。


……いざと言う時には俺が魔法で注意をひきつけてでも皆を逃がさないといけないな。ウィルが退路を切り開けばなんとか他の皆だけなら逃げることができるかもしれない。


ここまで逃げ帰ることができればラミィもいる。俺がいなくても立て籠って戦うぶんには有利に戦は進めることができるだろう。



そんな悲壮な覚悟を心の奥に秘めた俺は、ランプのみが照らす薄暗い会議室を慌ただしく行き交う見慣れた兵達を真剣な顔で眺めていた。



 










「……ほぅ。それではおぬしは夜の間は食料貯蔵場所で待つというのか?余の警護はどうする?」


「………私は指示に従うのみです。陛下のお側には既に優秀な兵が大勢いらっしゃるでしょう」


「フッ。確かにそうだな」




イーストエンド軍の中央より少し後ろあたりにあるアルト王専用の豪華なテントの中で、アルト王は自らの警護としてここまで帯同してきた黒装束の剣士と会話していた。


馬車の中でも常に一緒にいたこの剣士は、寡黙な男でありほとんど自分から口を開くことはなかったが、先程数日ぶりに口を開いたと思ったら夜間は警護を離れると言う。



どうやら黒マントの男が提案してきた夜襲を誘う作戦にこの剣士も参加するよう命じられているようだ。


この剣士が所属するのはイーストエンド王国ではない。つまり、国王である自分に従う理由はないわけだから、警護を離れるからといって引き留めるわけにもいかない理屈だ。



「よかろう。行って参れ」


「……それでは」



アルト王が許可を与えると、音もなく剣士はすっと姿を消した。



今回の戦だけでなくこれまでの大陸制覇に向けての戦いにおいて、黒装束の組織は多大な貢献をしている。新兵器を始めとする直接的な戦力はもとより、作戦の立案にも関わりそれのどれもが悉く成功しているのだ。


そんな組織が決定したことに口を挟むのは、いくら国王であるアルト王でも難しい。



「夜襲か…。おそらく黒マント達の予想通りになるのだろう。となるとこの戦も早く終わるか…」



アルト王は一人そう呟くと、テントの排気用に開けられた隙間からわずかに覗く夜空を見上げた。


夜空には無数の星が輝き、明日も良い天気であると自慢しているようだ。

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