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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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イーストエンド軍と砦で守りを固めるダポン・ハートランド連合軍との戦いは、夕方となり日が沈んだのをきっかけにして互いに休息に入っていた。


あの突撃の後も連弩や弓矢で絶え間なく攻め続けるイーストエンド軍に対し、魔法や弓矢で応戦しながら夕方までに計3度の突撃も行った。


初回ほどの成果を上げることはできなかったが、それでも毎回突撃隊の倍以上の敵兵を減らすことには成功し、損害で言えば圧倒的にイーストエンド軍の方が大きい状況であった。





「我が軍の被害は死者15名、戦闘不能であろう重傷者が115名、軽傷は約2000名です」



日が沈んだ後開いた作戦会議の場で、ガイル将軍がそう報告してくる。続けてイーサンもハートランド軍の被害状況を報告してきた。



「ハートランド軍には死者は出ておりません。皆どこかしらに軽傷を負ってはいますが、戦えない程の怪我をした者もゼロです。ラミィ様の軟膏を塗ればたちどころに出血も止まり、重傷に至る事もありませんでした」


「わかった。二人ともご苦労だった。死者が出なかったのが一番良かったな」

 


俺は二人に向かって笑顔でそう言うと、ラミィの方を向き言葉を掛けた。



「ラミィの方は投石機は来たか?俺の方は多分2台潰したと思うんだが」



すると、ラミィは魔力不足の為か少し怠そうな様子で日中の様子を教えてくれた。



「……えぇ。私も2台は確実に潰したわ。後は例の矢を連射できるやつも結構潰したと思うわよ。私があまりに可愛くて目立つから、あいつら集中的に狙ってくるんだもん。参ったわ」


「…………そ、そうか。それは大変だったな」



俺は疲れているであろうラミィをあまり刺激しないように、敢えてつっこまずに労いの言葉をかける。


ラミィが狙われたのは可愛いからじゃなくて魔法が脅威だからだろう。途中からは俺も似たような状況だった。皆も同じ感想を抱いた様子で、何故か俺に憐れみの視線を向けてくる。



……おい。そんな目で俺を見るな。まるで俺がラミィの尻に敷かれているみたいじゃないか。




と、そんな俺の思いを分かっているのか分かっていないのか、ラミィが俺に疑問を投げ掛けてきた。



「……ところで、夜はちゃんと寝れるのよね?こんな長い戦いなんて私初めてだから」



ラミィはそう言いながらも不安そうな顔をしている。そう言えば前回の戦はウィルとラミィでほぼ一日で終わらせていた。


本来国同士の大規模な戦闘になればなるほどその期間は長くなるものだ。俺の学んだ歴史では約2年も戦い続けた戦争もあったらしい。たった一日で3万もの兵を壊滅させる方がおかしいのだ。



俺はラミィを安心させるように軽く微笑みながら質問に答えた。



「あぁ。夜はゆっくり休んでくれ。たまに大きな音がするかもしれないが気にしないでいいぞ。何か急な事態があれば起こすからな」


「大きな音?……あぁ、夜襲とかってことね。分かったわ。防音の魔法でもかけて寝ることにするわ」


「そうしてくれ。また明日もラミィには活躍してもらわないといけないからな」



俺がそう言うと、ラミィはほっとした顔をしている。今日はラミィは大活躍だった。残念ながらお風呂なんて立派な物はないけど、せめて良いものを食べてゆっくり休んでほしい。




その後、明日に向けての話し合いが終わり会議は解散となった。


会議といっても基本的には明日以降も今日の戦術を継続するだけだけなので、被害の確認が主な目的だ。どうやらオリビア達が作り、ラミィが魔法で効果を増した軟膏が有能だったらしい。数に限りがあるので明日からは重傷者にのみ使用することになった。




「あー疲れたわ。じゃあ私は寝るわね。おやすみ」


「あぁ、ゆっくり休んでくれ。おやすみ」



ラミィがそう言いながら会議室を出ていく。自室に戻ってさっさと寝るのだろう。魔力不足には睡眠が一番だ。




ラミィが会議室を出て、もう確実に部屋に着いたと思われる時間が経つと、ラミィを除いた主要メンバーは再び席に着いた。



「……さて。じゃあ夜襲について確認しとこうか」



俺はそう言うと、あらかじめガイル将軍にお願いしておいた簡単な地図を取り出した。



「本当にジャッジ様も参加なさるのですか?」



ガイル将軍が地図を広げる俺に向かってそう確認するように問いかけてくる。


この話をラミィ以外の皆にしたときもそう訊いていた。ガイル将軍からすれば、国王が指揮を執るだけでなく直接戦闘に参加すること自体が珍しいのだろう。



「ハハハ。俺の魔法がこの夜襲の肝ですからね。ラミィがいないなら尚更参加しないわけにはいかないんですよ」



俺は笑って答える。


実際限られた精鋭のみで行う夜襲の場合、個人の力量でその戦果は大きく左右される。一人で何十人分かの威力を発揮する魔法は重要だ。



「ご安心ください。私が命に替えてもジャッジ様はお守り致します」



ウィルが隣でそう請け負ってくれた。


ウィルにだったら命を預けてもいい。というか、ウィルが守りきれなかったら世界中の誰にも守りきれないだろう。そのくらいウィルの力を信頼している。



俺はそんなウィルの言葉を頼もしく思いながら、改めて地図に目を落とす。皆もそれに倣って同じように地図に注目している。



「まずはケイレブ伯爵の密偵から情報を受けとる手筈になっている。……というかそろそろ砦のどこかに手紙が投げ入れられるはずだ」


「はっ。見つけ次第ここまで届けるように周知しております」


「うん。ありがとう」



ロックがそう答える。


ケイレブ伯爵には爆発玉の現在地や、アルト王の居場所、更に部隊の配置、食料の置いてある場所等、様々な依頼をしてある。


その全てが分かるとは思っていないが、1つ、2つでも把握できれば夜襲の成功率は格段に上がるだろう。暗闇の中、正に言葉通り闇雲に探すのは中々骨が折れる。




「じゃあその手紙を待つとして。実際動くのは皆が確実に寝静まった頃にしようと思う。……そして、参加するのは俺とウィル、そして今回はハートランド軍だけで行う予定だからロックと精鋭10人でいいだろう」



俺は皆を見回しながらそう告げる。選ばれなかったイーサンは少し不満げだが、砦を空にするわけにもいかない。それにラミィの事も頼みたいというのが俺の本心だ。やはりあんなのでも惚れた女なのだ。どうしても過保護になってしまう。



「作戦は簡単だ。これから手紙で得られた情報の場所にこっそり忍び寄って、俺の魔法で丸焼きにするだけだ。ウィルを始めとした精鋭には周りの警戒を頼む」


「はっ」



俺の言葉にウィルとロックがそう返事する。



今回ロックを選んだのにも実は理由がある。元々ファイスの兵長だったロックなら顔見知りがいるかもしれないと思ったのだ。いくら戦争とはいえ、本音を言えばあまりイーストエンド兵を傷つけたくはない。ましてや馴染みのあるファイスやセカーニュの住民なら尚更だ。だからロックを連れていって知り合いがいればその場を離れてもらおうと思っているのだ。


そんな上手くいくはずもないとは分かっているが、少しでも可能性があるならそれに賭けたい。


……もしかしたらその中にラミィお気に入りの菓子店の職人がいるかもしれないしな。そんな重要人物をクッキーよろしく丸焼きにしちゃったら後が怖い。



「よし。じゃあ皆それまで少しの間だか体を休めてくれ。……あぁ、ガイル将軍は交替の時間でもう少しよろしくお願いします」


「はっ。お任せください」



俺は夜間待機の最初の当番であるガイル将軍にそう声をかけると、ウィルと連れだって会議室を出た。


皆にはああ言ったが、きっとケイレブ伯爵からの手紙が届けばすぐに起こされるはずだ。今夜はほとんど寝る暇はないだろう。


徹夜なんて久しぶりだが、戦闘による高揚感が続いているのか不思議と眠くない。これは明日以降にまとめて眠気がくるパターンだな。


……あー。こんなのがしばらく続くのも気が重いなぁ。今夜の夜襲をちょっと頑張ったらアルト王が退却してくれないかなぁ。


俺はそんな甘い考えを持ちながら自室へと歩いていた。



昼間はあんなに騒がしかった砦の周りも今では不気味な位静かだ。窓から見える暗闇を透かしてみてもイーストエンド軍が夜営する明かりがうっすらと見える程度だ。

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