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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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俺達が爆発玉について頭を悩ませていると、ラミィが業を煮やしたように口を開いた。



「もう!アンタ達揃いも揃ってバカばっかりね!そんな玉なんて飛んできたのを撃ち落とせばいいじゃない!火が着いたら爆発しちゃうんでしょ?それならアンタの火魔法なら楽勝よ!」



そういい放つラミィに対し、俺はため息をつきつつ返事をする。



「はぁ…。そんな簡単な話だったらいいんだけどなぁ。……でも確かに今のところそれが一番ましな作戦かもな。どうかな?皆」


「………それしかないでしょうな」


「ラミィ様の仰る通りです。悩んでいても状況が改善することはないでしょう」


「ジャッジ様。撃ち落とすことは可能でしょうか?」


「あぁ、できないことはないな」



俺達はそう話し合い、結局爆発玉については基本的に出たとこ勝負ということになった。俺とラミィの火魔法で撃ち落とすことができればそれが一番だが、そうそう上手くいくもんじゃないだろう。おそらく何発かは直撃を受けるはずだ。それが外で戦う兵達じゃないのを祈るばかりだ。



俺は手を叩き、皆の注意を集めると取り合えず今回の作戦会議を終わらせることにした。



「よし。じゃあ今回の会議はこれで終わりにしよう。後はそれぞれ決戦に備えて準備をしてくれ。兵達にも今回の結果を伝えるのを忘れないようにな」


「はっ!」



そう返事をすると三々五々会議室を出ていく皆。後に残るのは俺とウィルとラミィだけだ。


とはいえ、俺も砦や壁の上部に備え付ける盾を作製しなければならない。これは取り合えず石で作っとけばいいだろう。魔法で固い石をイメージすれば、かなり頑丈な物ができることは今までの砦や壁建設で分かっているからな。



「ウィル、ラミィ。俺達も行こう。10日間の間にやれることはまだまだあるぞ。特にラミィには働いてもらわないとな」



俺は席を立ちながらそう声をかける。



「えぇー…」



文句を言いたそうなラミィの手を引き、俺は砦の屋上に上がる階段に向かう。まずはここの屋上から済ませるとしよう。その後は俺は壁の盾作り、ラミィはダポン兵の盾の強化だ。












セカーニュを出発したイーストエンド軍は、ダポン共和国との国境まであと1日あまりという場所まで進んでいた。



「陛下。偵察に出た兵からの報告では、ダポン軍は国境付近にある砦にて戦闘準備をしているようです」



今回の遠征の総指揮を取る将軍が、アルト王の乗る馬車を訪れるとそう告げた。


アルト王はもたれ掛かるように座っていた馬車の席に座ったまま、将軍に答える。



「やはり降伏する気はないようだな。兵数は分かるか?」


「はっ。はっきりとは分かりませんがダポンの総兵力をつぎ込んでいたとして、精々3万がやっとというところだと思われます」


「3万か…。ならば恐れることはないな。予定通りに攻めろ」


「はっ!」



アルト王はそう指示を出し将軍が馬車の扉を閉めた後、慣れない馬車での移動で痛む尻を数度撫でると、自らの対面に座る人物に声をかけた。



「兵器の準備はできているんだろうな?」



黒いマントを羽織るその人物は、アルト王の声かけに忍び笑いを漏らすと返答する。



「フフフ…。ご心配なく」


「………うむ。頼んだぞ」



アルト王は不気味な同乗者にそう声をかけると、再び尻の痛みに耐えるだけの時間に戻った。


今回もだが、警備の厳重なはずのこの馬車にいつのまにか座っているこの男のことをアルト王は気味が悪いと感じていた。


こんなとことが数回も続けばさすがにアルト王も慣れてしまっていたが、未だにいつ現れたかは分かっていない。


新兵器の中でも、黒装束達が()()と呼ぶ玉は黒装束達だけで管理し、我が軍の兵には触らせてもくれない。華々しい戦果を上げてくれているからいいものの、未だにその詳細については味方である我々にも秘密のままだ。



少し目を離して考え事をしている間に姿を消した黒装束の座っていた場所を見ながら、アルト王は一日でも早くこの馬車の旅が終わることを祈っていた。














「……おい!おい!そこの者」


「……は、はい。私でしょうか?」



イーストエンド王国の王城の地下にある窓の無い部屋には、この国の前王であるアルフレッドが幽閉されていた。


少し前までは玉座に座りきらびやかな衣装を纏っていたアルフレッドだが、今では日の当たらぬジメジメした部屋で薄汚れた上下を纏っていた。


そんなアルフレッドは今日初めて食事を届けてくれた女性に声をかけた。下働きであろう女性が持ってくるスープは、なかなか美味しく具材もしっかり入っている。元国王だからと、少しは良いものを与えるよう命令でもされているのだろう。



いつもは黙って食事を受けとるだけのアルフレッドから声を掛けられて驚いたのだろう。女性は急に振り向いたせいでバランスを崩しそうになったのを、なんとか立て直しながら返事をした。



「おぬしはアルトが何をしているのか知っているのか?」


「あ、アルト陛下のことでしょうか…?」


「……陛下か。そうじゃ、そのアルト陛下じゃ」



女性の答えに苦笑いで答えるアルフレッド。少し前まで自分がそう呼ばれていたのに、不思議なものだ。



「あ、アルト陛下は今はダポン攻略の為に遠征にお出掛けになっています。それでは…」



女性はそれだけ答えると、そそくさとアルフレッドのいる部屋を離れていった。部屋を出入りする扉にはしっかりと鍵がかかっており、食事を受けとる用の小さい隙間からは出れるはずもないアルフレッドには、女性を追う手段などない。



女性の去った部屋で、アルフレッドはまだ少し温かいスープを机に運ぼうと手に持ちながら呟く。



「アルト…。いずれお前の前にも現れるだろう。あれは悪魔だ…。我々では敵うはずのない…」














順調に進軍するイーストエンド軍の後方で、ケイレブ伯爵は物資の受け渡しの為と偽りホースと面会していた。



「ケイレブ様。どうやら明日にも現地に到着するようです」



自ら見聞きしてきた情報を伝えるホース。ケイレブもセカーニュの領兵を従える身として既にそのことは聞いていた。



「うむ。ジャッジ様方のご準備はできたであろうか?」


「聡明なジャッジ様がおられるのです。きっと準備万端で待ち構えておられるはずです」


「そうだな。そうに違いない!私が心配するなどおそれ多いことをしてしまった」



二人はそう言い合うと少し笑い合う。


ジャッジやその側近の力を信頼している二人は、この戦でジャッジ率いるダポン・ハートランド連合軍が負けるとは全く思っていない。むしろ二人にとって今一番心配なのは、自らの率いる兵が巻き添えをくわないかということだ。


堂々とジャッジ達の味方をすることができれば一番なのだが、二人の立場上それは難しい。今の二人にできることは内部情報をジャッジ達に伝えることと、自らの兵の命を守ることだ。



「ケイレブ様。私は率いる部隊と共に予定通り左翼後方に陣取ります。もしもの際はそちらまでご連絡ください」


「うむ。わかった。私は右翼だ」


「了解致しました」



二人は最後にそう確認すると、それぞれ自らの兵の待つ場所へと帰っていった。


明日には決戦予定地である砦まで辿り着く。そうなれば軍全体で慌ただしくなる。こんな風に二人で会う機会もこれが最後だろう。



結局最後まで爆発玉についてはまともな情報は得ることができなかった。そのことだけが二人の心には小さな刺のように刺さっていた。


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