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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「………ウィル。敵は早ければ10日後にはここに辿り着くそうだ」


「10日ですか…」


「あぁ。それと新兵器の詳細も大体分かった。これで対策を考えることにしよう」


「畏まりました。早速ガイル将軍達を呼んで参ります」


「うん。頼むよ」



ウィルがそう告げて部屋を去った後、俺は再びケイレブ伯爵からの手紙に視線を落とし、そこに書かれている些細なヒントも見逃すまいと見返していた。



今朝方、俺の元にケイレブ伯爵からの手紙が届いた。この手紙が書かれた時点で既にイーストエンド軍の出発まで5日を切っていたとの事なので、予定通りだと2週間、少し早まったなら10日程しか猶予はない。


手紙にはイーストエンド軍の作戦についてや、新兵器に関する情報も記されている。きっとケイレブ伯爵とホースが危険と隣り合わせで得たものだろう。俺達にとっては喉から手が出る程欲しかった情報だ。大事に活用させてもらうことにしよう。




俺が一言一句見逃さないように、もう何度目か分からない程読み返した手紙に更に目を通していると、



「お待たせ致しました。皆を連れて参りました」



とウィルが帰ってきた。その後ろにはガイル将軍やイーサン、ロックが続き、なんと最後にはラミィまでいた。こういう作戦会議にラミィが出席するのは珍しい。いつもならどこかで油を売っているのだが…、どういう風の吹きまわしだろうか?



「ラミィ。珍しいなお前がくるなんて」



俺が席に着くラミィを見ながらそう声をかけると、ラミィは俺の物言いに納得できないような表情をしながら言い返してきた。



「ふん。いいじゃない別に。………ちゃんと話を聞いておかないと、また間抜けなアンタが毒矢にでも撃たれた時に助けにいけないじゃない」



ラミィはそう言い終わるとちょっと頬を赤らめて、口を尖らせてそっぽを向いてしまった。



……なるほど。戦いの時に俺がどこにいるかを確認する為に参加してくれたのか。…………かわいいじゃないか。



俺はニヤニヤしながらラミィをしばらく見つめた後、気を取り直して集まった皆に手紙の内容を伝えた。




俺が手紙に記されていた情報を伝え終わっても、皆は揃って難しい顔をしたまま黙っている。



「……さて、どうしようか?何か対抗策を思い付かないか?」



俺が黙ったままの皆にそう問いかけると、皆より一足先に内容を聞いていたウィルが真っ先に口を開いた。おそらく皆を迎えに行く間も考えていたのだろう。



「今回の戦は基本的に砦に立て籠って戦う籠城戦になると思われます。ジャッジ様とラミィ殿のお力で兵全てを収容できる砦が用意できたからです。…となると、おそらく投石機と連弩による攻撃は脅威ではないでしょう。強いて言えば、更に安全性を増す為に壁や砦の高さを増すことくらいでしょうか」



ウィルの発言を聞いたガイル将軍もそれに同調する。



「確かに…。この砦や石壁の頑丈さは異常です。石や矢などでは破ることはできないでしょう。これがラミィ様の魔法のお力ですか…」


「そうよ!この天才美人魔女王妃にかかれば鉄より固い壁を作るなんて簡単なことなのよ!」



……ラミィがまた調子に乗り始めたな。でも確かに魔法で強化された壁は強い。破られる心配をしなくていいからな。



俺は座ったままラミィポーズ改を繰り出すラミィに冷たい視線を送った後、ガイル将軍に問いかける。



「将軍。高さというと後どれくらいあればいいか分かりますか?」



俺の質問を受けたガイル将軍は、少し考えると答えを返す。



「はっ。投石機の射程がはっきり分からないのでなんとも言えませんが…。完全に防ぐとなると今の1.5倍は必要ではないでしょうか」


「1.5倍かぁ…。ちょっと間に合うか微妙なとこだな」



今の1.5倍の高さに増築するとなると俺とラミィがかかりっきりで作業してもギリギリになりそうだ。そうなると他の事に手が回らなくなる。それどころか予想より行軍速度が速くて、早めにイーストエンド軍が到着なんかした日には目も当てられない。建設途中の砦で戦うはめになる。



俺がそうやって悩んでいると、ロックがおもむろに挙手して発言した。



「ジャッジ様。魔法で投石機だけ先に狙い撃つということは可能でしょうか?」


「ん?あぁ、出来ると思うぞ。なぁラミィ」



俺がラミィにそう話を振ると、もう若干飽き始めて手遊びをしていたラミィが答える。



「えぇ。出来るわよ。どうせ木製でしょ?しかも大きいらしいしゃない。そんなの的にして下さいって言ってるようなものよね」



ラミィの答えを聞いたロック将軍は満足そうに一度頷くと、更に俺に向かい意見を述べる。



「それならば砦の高さを増すよりも、ある程度の被害は我慢し、本格的に攻撃される前に魔法で潰すことを提案します。私の経験上、投石機というものはそのままで持ち運ばずバラバラで運んで現場で組み上げる物です。射程が長いということは従来の物よりも大型でしょう。それなら尚更運ぶのも大変でしょうから」


「なるほど…。確かに手紙にもかなり大型だと書いてあったな。よし!投石機に関してはロックの作戦でいこうか!」


「はっ!」



俺の決定に皆も声を揃えて同意してくれた。



「……となると、後は連弩と爆発玉か。連弩はおそらく壁の上や砦の上部まで届くだろう。上の方に備え付けの盾でも置くことにしようか」


「はい。それは良いお考えだと思われます。降りて戦う兵にはラミィ殿特製の盾を持たせることに致しましょう」



ウィルがそう俺の意見に賛成してくれたので連弩に関しても盾で防ぐことに決まりそうだ。


ラミィが強化した盾ならば相当強力な弓であっても貫通することはないだろう。ハートランド軍の兵は既に特製の木の盾を装備しているから、後は期限までにダポン軍の鉄の盾をできるだけ強化するだけだ。そこまで数は量産できないだろうが、これはできるだけでいいだろう。基本は立て籠って戦う予定だからな。




着々と対新兵器についての対抗策が決定されていく中、ここまで特に口を開くことなく静かに会議に参加していたイーサンが挙手した。



「ジャッジ様。爆発玉についてはいかが致しましょうか?」


「……そうなんだよなぁ。結局そこなんだよなぁ…」



俺はイーサンの言葉に頭を抱えたくなる。



爆発玉に関しての情報は結局あまり得ることはできなかった。ケイレブ伯爵やホースも必死に探ってくれたらしいのだが、イーストエンド軍の中でも極秘中の極秘扱いで管理する部隊すら分からなかったらしい。


威力や使用方法については今までの戦に参加した兵から話は聞けたらしいが、その兵達も実際爆発玉そのものを見た者はいなかったらしい。



「……おそらくだが、爆発玉はイーストエンド軍の中でも一握りの限られた部隊が担当してるんじゃないだろうか?あまりにも情報が少なすぎる」



俺がケイレブ伯爵からの手紙から考察した意見を述べると、イーストエンド軍についてはこの中で誰よりも詳しいであろうロックも同意する。



「ジャッジ様の仰る通りだと思われます。イーストエンド軍にはアルト王直属の親衛隊の他に、特別な作戦を行う秘密の部隊もあると聞いたことがあります。もし爆発玉を扱う部隊があるとしたらそれでしょう」


「……そうかぁ。となると爆発玉については今まで得た情報だけでなんとかするしかないってことだな。……確か着火しないと爆発しないんだったよな?」



俺は手紙の内容を思いだしながら、確認するように言葉に出す。



「はい。爆発玉からは細長い紐の様なものが伸びており、その先端に火をつけてから投擲するようですね。火を着けると一定時間で爆発玉本体に着火し爆発する仕組みのようです」



ウィルが皆に分かりやすいように説明を付け足してくれた。まぁこれもケイレブ伯爵とホースが貴族や兵から聞いた情報なので、確実とは言えないがそこそこ信憑性はあるだろう。



……しかしだからどうしろって言うんだ。やはりあまりにも情報が足りなすぎる。

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