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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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遂にセカーニュの街にイーストエンド軍の本隊が到着した。約10万という途方もない人数を全て受け入れる余裕等あるはずもなく、王やその側近、士官などの例外を除いて一般兵は街の外で夜営することになっている。


ファイスの街の司令官として軍の中でもそこそこの立場であるホースは、街の中で宿舎を割り当てられた。早速開かれた幹部での会議では出発は1週間後に決まり、それまでに作戦内容を把握しておくよう命令が下された所だ。




「なるほど…。やはり正面突破か。まぁこの大軍で攻めるわけだから当然か…」



ホースは先ほど貰ったばかりの作戦指令書を開き、中身を確認しながらそう呟く。


今回も特に奇をてらった作戦ではなく、とにかく兵力でもって押す正面突破が選ばれたようだ。今までの侵攻戦でも概ねこの作戦で勝利しており、アルト王も自信を持っているのだろう。



「ケイレブ様も当然これはご存じだろう。となると、俺が出来ることは……。よし!」



ホースはしばらく考えた後、そう気合いを入れると宿舎として利用している宿屋を出ることにした。向かう先は街の外で夜営している一般兵の元だ。まずは自らが率いることとなるファイス出身者の多い部隊の所に行くことにした。





街の門を抜け、夥しいテントが立ち並ぶエリアに着くと、早速自らの部隊に与えられた場所までやってきたホース。


一応毎日短時間の訓練は行っているようだが、決戦も近いためそれもすぐに終わり一日のほとんどは自由時間だ。その為部隊ごとに集まり、カードで遊んだり雑談に花を咲かせたりと皆気ままに過ごしている。


ホースの部隊もその例に漏れることなく集まってガヤガヤと話をしている様子だ。



「よぉ。どうだ?怪我人なんかいないか?」



ホースはその輪の外から声をかける。


司令官の中でもホースは部下にフレンドリーに接する方だ。元々生まれ育ったファイスの者ばかりということもあり、公務以外の場では部下にも砕けた態度で接することが多い。



突然現れたホースの姿を見た兵達は、驚いて皆一斉に立ち上がり直立不動となる。



「し、司令官殿!……はっ!皆怪我ひとつなく訓練に励んでおります!」


「ハハハ。そんな固くならなくていいぞ。今は自由時間だ。俺も暇だったから顔を出しただけだ。皆ゆっくりしてくれ」


「はっ!…………司令官殿、わざわざ足を運ばなくても呼んでくだされば私の方から伺いますのに。……ほら。他の兵が萎縮してしまうじゃないですか」


「す、すまん…」



ファイスの街にも着いてきてくれた直属の部下から苦言を呈されたホースは、小さくなって小声で謝る。


その様子を見た他の兵達からは笑い声も聞こえる。こんな所もあり、ホースは他の司令官よりはまぁまぁ好かれていた。




再び座り込み各々自由に過ごし始めた兵達から少し離れ、ホースは先ほどの直属の部下にあることを尋ねていた。



「なぁ。お前新兵器って見たことあるか?」


「……新兵器ですか?うちの部隊は基本的に後方支援が主ですから、まだ目にしたことはないですね。それがどうかされましたか?」



部下はそう答えると、ホースに尋ね返してきた。



ファイスの部隊だけでなく、各街からの兵は基本的に前線には出ない事が多い。今までは逆に最前線で体を張り、命を落としながらも前線を押し上げる役割が多かったのだが、新兵器導入後はそれもなくなった。新兵器のおかげで兵の磨耗が抑えられているからなのか、それとも新兵器を扱うのには特別な訓練が必要で、それを習得しているのが中央の兵だけだからなのか理由は分からない。


ホース達地方の兵からすれば助かる話だが、新兵器の情報を少しでも得たいホースは困っていた。



「……いや。結構話題になってるけど、俺もまだ見たことないなと思ってな」



ホースは苦し紛れにも聞こえる言い訳を口にする。



「ハハハ。司令官殿でもやはり気になりますか。……あぁ、そう言えば私の昔の同僚が兵器科にいますよ。見せてもらう位ならできるかもしれません」


「おっ!それはいいな。頼めるか?」


「お任せください。奴には貸しがいくつかありますから断らせませんよ」



思わぬ展開だったが、これでなんとか新兵器についての情報が得られるかもしれないとホースは安堵した。やはり持つべきものは信頼できる部下であり、友だな。



その後、ホースは投石機と多数の矢を発射できる装置(連弩というらしい)を見学し、実際それを運用した兵からの話も聞くことが出来た。


ホースが思っていたよりもその威力は大きく、投石機に到っては城壁を一発で破壊する程の大きさの石を放ることもできるそうだ。これは必ずジャッジ様に伝えなくてはならない。


残念ながら最も情報を得たかった爆発玉については、軍内部でも極秘とされているらしく現物を見ることは叶わなかった。その代わり威力や着火しなくては爆発しないなどの情報は得ることが出来た。あとはケイレブ伯爵に任せるべきだろう。



部下とその友人に感謝を告げてホースは宿舎である宿屋まで帰ることにした。ケイレブ伯爵との面会予定は明日の夜中だ。指定された店までこっそりと向かう必要はあるが、この街の領主であるケイレブ伯爵が指定する程の店だ。店内は安全だろう。


そこでお互いに情報を持ち寄り、ケイレブ伯爵からジャッジ様に伝えて頂くことになる。ホースの役目はひとまずそこで終わりだ。



「これで少しはお力になれただろうか…」



ホースは宿屋までの道のりをとぼとぼと歩きながらそんな事を考えていた。いつのまにかホースもジャッジをまるで本来の主であるかのように考え始めていた。


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