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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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俺達ハートランド軍が今回の戦に連れていく兵は計150に決まった。今は急ピッチで出兵に向けての準備を行っている。あえて100名弱の兵を残すのには訳がある。イーストエンド軍が別動隊でここハートランド王国を攻める可能性を考慮したのだ。


ダポン共和国の兵力はどうかき集めても2万がやっとらしく、その情報はイーストエンド軍も掴んでいると考えていい。約10万もの兵力を誇るイーストエンド軍からすればさほどの強敵とは言えないだろう。ならば兵を分けてハートランド王国にも同時に侵略してくる可能性もあると俺達は考えた。


将軍であるイーサンとロックは今回の戦には不可欠であり残す訳にはいかない。そこで今回はオーウェンを指揮官として残すことになった。オーウェン率いる部隊が中心となっていざと言う時もこの国を守ってくれるはずだ。





「ジャッジ様。準備は今日中には終わりそうです。明日にでも出発なさいますか?」



昼過ぎにイーサンが館を訪れて俺にそう報告してきた。ちょうど俺はエマやオリビア達が、タゴサックが持ってきた薬草から軟膏を作る所を見学していた所だった。



「早かったな。……うん。明日出発することにしよう。俺達は軍が出たらヒコウキーで一足先にダポンに向かうことにするよ」


「畏まりました。その様に皆に伝えておきます」



俺の決定にイーサンは跪きながらそう返事をすると、作業中のオリビア達に軽く声をかけてからその場を後にした。



このオリビア達が作っている軟膏は元々血止めに効果があるらしいが、完成後にラミィが魔法をかけることによって傷の治り自体も格段によくなるという。これがあれば兵の被害も抑えられるだろう。この国を守る為とはいえ、やはり皆には怪我をしてほしくない。できれば死者なんか一人も出したくないのが本音だ。



俺が皆が一生懸命薬草を磨り潰したり混ぜたりしているのを見ながらそんな事を考えていると、



「王さま。王さまも手伝わないとダメだよ!」



と、母と一緒にきていたエミリーに叱られた。



「…………へ?」


「へ?じゃないの!ほら、わたしが教えてあげるから、こっちきて」


「………あ、あぁ」



俺はエミリーに促されるまま、フラフラと端っこにいるエミリーの隣に座る。


見るとエミリーの目の前にも小さいすり鉢が置かれ、他の皆の10分の1位の量だが荒く磨り潰された薬草が入っている。



「す、すみません…。こら!エミリー!ジャッジ様はこんなことをなさるお方ではないのよ」


「えー。だって…」


「だってじゃないの!」



オリビアが慌てて立ち上がるとエミリーをそう叱りつける。叱られたエミリーは不満そうに口を尖らせている。



俺は苦笑しながらオリビアに向かって口を開いた。



「ハハハ。いいんだオリビア。確かに俺だけぼーっと見てたのが悪い。忙しい時は手伝うのが当然だよな。なぁエミリー」


「そうだよ。わたしもおうちでいつもお手伝いしてるもん」


「もう……。ジャッジ様、本当に申し訳ありません…」



胸を張ってそう言うエミリーと、反対に申し訳なさそうに俺に頭を下げるオリビア。


確かに忙しい今、俺も何か手伝うのが当然だろう。いつの間にか王として偉そうにしていたのかもしれない。こんなことじゃ俺もアルフレッド王みたいになってしまうぞ。しっかりしろ!俺。



子供とは言え物事の本質を捉えたエミリーの一言に反省した俺は、エミリーの隣に座り見よう見まねで薬草を潰し始めた。




「……しかし、エミリーは偉いな。家で手伝いもするのか?」



俺はなかなか細かくならない薬草と悪戦苦闘しながらエミリーにそう尋ねる。



「うん!おねえちゃんがいなくなったからご飯の準備とか片付けとかおてつだいするの」


「ほぉ。それはすごいな!エマお姉ちゃんには俺も大分助けられてるからな。それにイーサンの事も頼りにしてる。………そう考えるとエミリーの家族には助けられてばっかりだなぁ。俺ももっとしっかりしないといけないな」


「王さまもがんばってるよ!だいじょうぶ!」



「……………」



俺がぼやくとエミリーにそう励まされた。



……少女に励まされる国王ってどうなのかな?









翌日、イーサンとロック率いるハートランド王国軍が出発したのを見送った俺達3人はヒコウキーに乗り、トルス議長と約束した砦までやってきた。


時刻は既に昼過ぎであり気温は暑いくらいだ。そんな中でも大勢のダポン兵が砦では作業を行っていた。



「おぉ!ジャッジ王、それにウィル殿にラミィ様も!お待ちしておりました」


「お待たせしました将軍。作業の進捗はいかがですか?」



俺は出迎えてくれたダポン共和国軍のガイル将軍にそう尋ねる。この将軍とはダポンでの会議で既に何度も話をしたことがある。歴戦の勇士といった風貌で、顔にもいくつか傷が残っている。その見た目と反してなかなか柔軟な考えのできる軍人で、部下からの信頼も厚いそうだ。


前回のハートランド王国侵攻には参加せず、辺境での守備についていたそうだ。祖父に少数民族がおり、そのせいで武勲の割には国の中央での役職は今まで回ってこなかったと笑いながら話していた。なかなか気の良い男だ。



そんな気の良いガイル将軍は、俺の質問に少し眉をひそめながら答えた。



「……思っていたより砦の状態が悪いようです。中は崩壊が進み、場所によっては崩れている所もあるようです」


「そうですか…。それなら思いきって新しく建て直しましょうか!」


「………はい?」



怪訝な表情のガイル将軍をよそに、俺は傍らのラミィに問いかける。



「いいよな?ラミィ」



ラミィは俺の突然の無茶振りに肩を竦めてやれやれといった感じだったが、



「……仕方ないわね。その代わりアンタも手伝うのよ」



と了承してくれた。



「………と言うことですので、砦から兵を引き上げてもらっていいですか?将軍」



俺がガイル将軍に向き直りそう告げると、ガイル将軍はなんだか不思議な表情をしながらも兵達に命令をするために砦に向かって歩いていった。



まぁいきなりこんなこと言われても戸惑うだろうな。俺だってラミィの魔法を見たことがなければとても信じられないだろう。砦を修理じゃなくて建て替えるなんて。



俺はそんなことを考えていたが、ラミィに向かって砦建設について尋ねてみることにした。



「どのくらいかかりそうだ?そんなに複雑な物じゃなくていいと思うんだけど」



するとラミィはちょっと考える仕草をすると、



「……うーん。まぁ砦だからある程度頑丈な方がいいでしょ?それでも全部石で作るんだったら3日もあればできるんじゃない?もちろんアンタも手伝ってってことならよ」



と返事をした。



3日ならばイーストエンド軍到着までには確実に完成するだろう。なんなら俺が国境に沿ってある程度の壁を作る時間も十分取れそうだ。一度仮の砦を建設してから、使い勝手を考えて増築や造りを変える時間もあるだろう。



「よし!それじゃ兵が退いたら早速始めるか。ウィルも兵の目線から色々と意見を言ってくれ。俺とラミィじゃ気付かない部分も多いだろうからな」


「畏まりました」



そう意見が纏まると、俺達はガイル将軍の後を追うように砦に向かってその歩を進めた。


ここから見ても砦はボロボロで派手に穴の開いた壁も目につく。ここは長いこと人の手が入っていないのだろう。建て直すのもむべなるかなだ。



一度壊すのがいいかなぁ。それともこれはそのままにして別の場所に造り直すか…。



俺はそんな風に砦について考えながらウィルたラミィとともに歩いていた。

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