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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「いやぁ、ようこそおいでくださいました。ジャッジ王、それにケイレブ伯爵も」



俺達がダポン共和国議会を訪れ身分を明かしてトルス議長への面会を頼むと、しばらく待たされた後トルス議長の執務室へと通された。


そこで俺達を待ち受けていたトルス議長は、以前戦場で相対した時とは装いも違いまるで別人の様だった。俺達が入室すると一人一人手を握り満面の笑みで歓迎してくれる。





「………それで?本日はどのようなご用件でしょうか?」



トルス議長はひとしきり再開の挨拶も済み、皆が席に着き落ち着いた段階でそう尋ねてきた。


相変わらずその表情は笑顔のままだが、先ほどまでとは微妙に笑顔の種類が違う気がする。これは国の代表としての笑顔なのかもしれない。



俺も一応ここにはハートランド王国の代表として来ている。そのつもりで対応した方がいいのだろう。



「えぇ。実は今日はトルス議長に、…いや、ダポン共和国議会に提案があってきました」


「……………はい。伺いましょう」



俺がダポン共和国議会という単語を使うことで私的な訪問ではない。ということを匂わせたことに気づいたトルス議長は、表情を引き締めたように思えた。



「議長もご存じのように、現在この大陸はある一国によって全土が戦禍に巻き込まれています。かくいう私達の国もいつ宣戦布告されてもおかしくない状態です。実際降伏勧告は既に何度も受け取りました。……まぁ全て断りましたが」



そうなのだ。俺が防壁の作成に取り組み初めてから、もう何度もイーストエンド王国からの降伏を促す使者や文書が届いていた。もちろん返事はノーと決まっているので、防壁のことも知られたくないこともあり、抜け道に入る前の見張り所より内側には入れていない。使者には失礼だとは分かっているが、全てそこから追い返している。


勝手に人の国に攻めこんで占領しようとする奴らだ。それくらいしてもいいよな?




トルス議長は俺の言葉を頷きながら聞いていた。



「我が国も貴国と同じ対応をしております。使者は全て追い返し、降伏勧告もはねつけております」


「やはりそうでしたか。………そこで、今回私達が議長に提案したいことというのはですね。共にイーストエンド王国に立ち向かわないか、ということです」


「……共に?ということは…。同盟ということですか?」



俺が本題を口にすると、トルス議長は驚きの表情を見せながら問い返してくる。



……まぁそうだよなぁ。うちみたいな小国と対等な同盟なんて結べないよなぁ。議員や国民も反対するに決まってるだろうしな。



俺はそう思いながらも一応聞くだけ聞いてみようと、トルス議長に向かって返事をする。



「……まぁそんなところです。対イーストエンド王国として共同戦線をお願いしたいという事なんです。……同盟を結べればそれに越したことはないんですが…」



俺がそこまで話した途端、トルス議長は突然ガタン!と椅子から立ち上がると、興奮したように話し出した。



「ほ、本当によろしいんですか!?ジャッジ王の治めるハートランド王国と、我がダポン共和国が同盟を結べるということで!」


「……え、えぇ。それができるなら一番かと…。………ど、どうしました?」



俺が突然興奮しだしたトルス議長に戸惑いながらそう答えると、トルス議長は更にその興奮の度合いを増したようだ。後ろを振り返ると、そこで控えるように立っていた秘書のような人物に声をかけた。



「おい!聞いたか?今ジャッジ王は同盟をと仰ったぞ!聞いたか?記録したか?」


「はい!確かにこの耳でお聞きしました!」


「やったぞ!これで我が国は救われる!やったな!」



トルス議長と秘書は俺達を放っといて二人で大喜びだ。正直俺には話の流れがよくわかっていない。何故二人がここまで喜んでいるのかも不明だ。



「……ちょ、議長?」



俺が二人に向かってそう声をかけると、やっと俺達がいることに気づいたようにトルス議長はこちらを振り向いた。



「あ、あぁ。申し訳ありません。つい興奮してしまいました。……いや、あまりにジャッジ王のご提案がうれしかったものですから」


「嬉しい?そ、そうですか…?」



あまり俺がピンときていないのが分かったのだろう。トルス議長はそんな俺に向かって説明してくれた。



「先ほどジャッジ王が仰ったように我が国もイーストエンド王国の脅威にさらされています。…というか、正直戦えば負けるでしょう。その位今のイーストエンド王国軍は強い。………しかし!ジャッジ王率いるハートランド王国軍と共闘するとなると話は別です!ウィル殿やラミィ様を始めとしたその戦力は、正に最強と呼ぶに相応しい軍だと私は考えています。何よりその強さを我が軍は身を持って知っていますから」



そう語るトルス議長。確かにダポン共和国とは一度戦争をしたことがある。あの時はゲールが率いた兵をウィルとラミィの二人でほとんど殲滅したんだっけ。



「あぁ。そんなこともありましたね。…しかし、その時の兵の家族はあまりいい印象も持っていないんじゃありませんか?」



俺は疑問に思ったことを尋ねる。あの時は確か3万近くの兵が亡くなったはずだ。いくら自分達から攻め込んだとはいえ、息子や夫を殺された家族から見れば俺達は仇のはずだ。



トルス議長は俺の質問を受け、少し表情を引き締めると口を開く。



「……確かに、先の戦争では多くの兵が亡くなりました。そして、それ以上の遺族も生み出してしまいました。……しかし、それは全て私たち自身が選んだ道なのです。単民族でこの国を支配しようという愚かな考えに突き動かされた結果、多くの国民の血が流されました。私達ダポン共和国民はもうあのような愚かな戦争は二度と起こさないと決めています」



トルス議長はそこまで話すと一度言葉を切り、俺の方をじっと見つめる。



「あの戦争は我が国に大きな痛みを与えました。しかし、それと同時に単民族国家への野望を持つ者達の多くもこの世を去る結果となりました。……今この国に暮らすのはジャッジ王の治めるハートランド王国と同じ、多民族が皆で暮らせる国を理想とする人々です。どうか、我が国、ダポン共和国をお救いください!」



トルス議長はそう言うと、俺に向かって深々と頭を下げた。後ろの秘書も同じように立ったまま腰を折っている。



……なるほど。前回の戦争に従軍していたのはゲールと同じ思想を持った兵が多かったのか。だからこそここまでの早さでトルスが議長になれたのかもしれない。


トルスにしてみればゲールを追い落とすとともに、その支持者までも失わせる戦争だったわけだ。こういっちゃなんだが俺達は都合よく使われたわけだ。まぁ被害もあまりなかったからいいが、俺は毒で殺されかけたぞ?



俺はトルス議長から目を離し、隣のウィル達に視線を向ける。


今までの会話を聞いていたウィル、ラミィ、イーサン、ケイレブ伯爵も同盟にはもちろん賛成のはずだ。皆一様に俺に向かって頷く。



「……わかりました。頭を上げてください。共に手を取りイーストエンド王国との戦にあたりましょう。……というか最初は私たちから提案したはずなのに、いつのまにか立場が逆転しましたね。ハハハ」


「……それもそうですね。ハハハ。これからよろしくお願い致します。ジャッジ王」



俺とトルス議長はそう言い合うとがっちりと握手をした。



きちんとした国同士の同盟締結には議会の承認が必要だろう。だが、トルス議長の話では反対する者がいたとしても極少数だろうという事だった。それ位イーストエンド王国は脅威だということだろう。



……それにしても、まさか一度ならず二度も戦った相手と同盟を結ぶことになるとはな…。人生何があるか分からないな。だからこそ面白いのかもしれないな。

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