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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ホースとの面会からあっと言う間に数ヵ月が過ぎ、ハートランド王国は春を迎えようとしていた。山々に積もった雪も暖かい日差しを浴びて雪解け水となり、木々に実る恵みは人々の胃袋を満たしていた。


昨年から取り組んでいた国全体を囲う石壁も完成し、入り口には黒く輝くデーヤモンドの大門がそびえ立ち、まだまだほとんど訪れない旅人等の訪問者を今や遅しと待ち構えていた。






「なんか観光客に受けるような名所でもないとダメかなぁ?どう思う?」


「うーん…。それも大事でしょうが、何より今の情勢では観光などと洒落込む人はあまりいないのではないでしょうか」


「そうなんだよなぁ…。皆それどころじゃないよなぁ」



俺は新たにンダ族によって作られた果樹園の視察を終え、街に続く大門を見上げながらウィルと話をしていた。



ウィルの話すように今は西の大陸中の国々が戦争中といってもいい情勢だ。イーストエンド王国のアルト王はその大軍でもってあっさりとマフーン王国を攻め落とし、今やクルス国までその手中に納めている。残るパール国も必死に抗戦しているようだが、巷の見方ではそれも時間の問題のようだ。


次は自分の国では?と西の大陸中の各国は警戒し、それぞれの国に暮らす人々もいつ自分達の国が戦場になるかと戦々恐々としている。


もちろん我がハートランド王国だって例外ではない。こうやって防壁を新調したりと、一応戦いの準備はしているつもりだ。




「帰ったらサニーに他の国の様子を聞いてみようかな。もうそろそろパール国も攻め落とされているかもしれないし」



俺は視線を大門から手に持ったリンゴに移し、それを一口噛りながら呟く。


このリンゴは去年獲れた物を雪の中で保存していた物だ。少し色は変わっているが味に変わりはない。今年からは新設した果樹園でも色々な果物が獲れる予定だ。収穫できたらフルーツジュースを作るのだとラミィは張り切っていた。是非がんばってほしい。



俺とウィルはその後も雑談をしながら街に向かって歩き、サニーの店ハートランド王国本店まで辿り着いた。


ソバだけでなくデーヤモンドでも多額の利益を上げているサニーの店は、今やセカーニュとダポン共和国にも支店を構えるまでに成長した。


サニーとサンは基本的にどちらかが行商に行っているが、片方は本店にいる。最近ではサンに行商を任せることも多くなったようで、サニーも楽ができると漏らしているのを聞いた事がある。




サニーの店の大きく開け放たれた入り口を潜り、様々な商品が陳列された棚を抜けてカウンターまで辿り着く。俺はそこで店員として働くジャッド族の女性に声をかけた。



「忙しそうだね。サニーはいるかい?」


「は、はい!ジャッジ様!今すぐ呼んで参ります」



少し緊張させてしまっただろうか?ウィルに声をかけさせるべきだったかな?


なんて俺が反省しながら待っていると、サニーが店の奥から急いで出てきた。



「ジャッジ様。ようこそいらっしゃました!……本日は何かお探しでしょうか?」


「あぁ、今日は買い物じゃないんだ。ちょっとサニーから話を聞かせてもらおうと思ってさ」



俺がサニーにそう告げると、サニーは店の奥に俺達を案内してくれた。設計から関わった俺には勝手知ったる間取りであり、迷うこと無くサニーの後を付いていく。



サニーが商談用に是非作って欲しいと言っていた小部屋に案内されると、これも従業員として雇っている女性がコーヒーを入れて持ってきてくれた。


この前始めて飲んだコーヒーはなかなか香りが良くて俺のお気に入りだ。この苦さもまた味わいのひとつだろうに、ラミィはいつも砂糖とミルクをこれでもかと言う程入れて飲んでいる。まったく子供だなぁ…。




「……それで。お話というのは何のことでしょうか?」



サニーは席に着くなりそう尋ねてきた。俺はコーヒーの香りを楽しんでいたが、一口口に含んでから訪問の目的を語る。



「サニーに最近のこの大陸の情勢を聞こうと思ってきたんだ。特にイーストエンド王国の事とかね」


「なるほど…。その事でしたか。かしこまりました。私が知っている限りの事をお話します」



そう言うとサニーは行商で見聞きしてきた他国の様子や、商売仲間から聞いた情報などを話してくれた。



どうやらイーストエンド王国は既にパール国も落としたらしく、その事実に恐れをなした小国が次々と恭順の意を表しているとの事だ。


今やイーストエンド王国は西の大陸の下半分をすべて支配下に置き、このまま戦わずして小国が降伏を続けると大陸制覇も夢ではないという所まできているらしい。



「…………大陸制覇の大きな障害とみられているのがダポン共和国です。ダポンは国の政治形態からも分かるように降伏するのにも国民の支持が必要です。なかなか他の王政の国とは違い、戦わずに降伏とはならないとみられています。更にその軍隊も多民族合同でなかなかの精強さを誇っていますからね」


「そうだな。トルス司令官……いや、今では議長だったな。トルス議長の国作りが実を結んできたんだろう」



俺はサニーの言葉に相づちを打つ。ダポンは少数民族への迫害が禁止となり、今では多民族国家に変身している。各民族からも優秀な兵士が誕生して、軍も厚みを増したようだ。



「更に大陸の北側でも撤退抗戦を辞さない構えの国がいくつかあります。これはどれも小国であまり期待はできませんが…。つまり、まともにイーストエンド王国とやりあえるのはダポン共和国だけというのが大方の予想です。……………ここハートランド王国の関係者以外は」



サニーはそう言うとニヤリと笑った。



……まぁほとんどの人々はウィルやラミィのいるこの国の力を知らないからな。そう思われても仕方ないだろう。実際国の領土という面で見れば、今や大陸の半分以上を占めるイーストエンド王国とは比べ物のならない程の小ささだしな。吹けば飛ぶとはよく言ったものだ。




「……そっかぁ。じゃあこの国にも攻めてくると考えた方が良さそうだな。しかし、それだけ多くの国を占領したならもう兵数も10万どころじゃないんじゃないか?」



俺がそう疑問を投げ掛けるとサニーは少し考えてから答える。



「そうですね…。もし仮に総力を投入してくると考えると、30万は固いでしょう。まぁ守備隊ももちろん必要ですから実際は20万といった所でしょうか」


「20万かぁ…」



俺は頭の中で20万もの兵がこの国を囲んでいる場面を想像する。きっと見渡す限りの人の波だろう。さすがにその数はウィルとラミィでも皆を守りながらだと厳しいかもしれない。被害を考えないでいいならなんとかなりそうな気もするが…。



「ジャッジ様。私にお任せください。20万程度全てこの剣の錆びと致しましょう」



ウィルは俺の頭の中を見たかのように、そう自信満々で話しかけてくる。



「そ、そうだな。その時は頼りにしてるよ。でも、やはり皆を守りながらとなるとここで戦うのは厳しいかもな。……いや、ここから離れている方が逆に不安か。うーん…。どうすればいいんだ?」



俺は思わず頭を抱えてしまう。


皆を守りながら戦うとどうしてもウィルやラミィは本気を出すことができない。しかし、離れた場所で戦うと国の守りが不安になる。


おそらく前線に出してもらえない俺が守りを担当したとしても、被害をゼロにすることはできないだろう。いくらハートランド軍が精強と言えども、数の暴力の前では体力が保たないだろう。



「…………ダメだ。いくら考えても答えが出ない。これはまた皆で話し合って決めよう」



俺はそう結論を出すと、また国民代表者会議の場で同じ話をしてくれるようにサニーに依頼し、ラミィへの土産だというお菓子をもらってサニーの店を後にした。



店を出る時も店内は繁盛しており、店員の女性は大忙しといった感じだった。この様子ならもう2、3人従業員がいても良さそうだがサニーにも考えがあるのだろう。



皆に買い物を楽しんでもらう為とサニーの店を繁盛させるために、国民皆に金貨、銀貨、銅貨取り混ぜて金貨10枚分ずつ配ったのがよかったのかもしれない。


受け取った皆からは「もらいすぎだ!」という声も上がったらしいが、デーヤモンドの大物1つ売れただけで元が取れるくらいの金額だ。今のこの国では痛くも痒くもない。



……だんだんこの国も豊かになってきたなぁ。



俺はそう思いながら楽しそうに商品を選ぶ人たちを眺めていた。

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