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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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翌日から早速街と国全体を囲う塀の建設が始まった。


基本的には俺とラミィの魔法頼りであり、更に魔法での強化となるとラミィにしかできない。その為この計画の最優先事項はラミィの機嫌を損ねないことだ。



「……あー、なんか喉乾いたわ」



ラミィがぼそっとそう言うと、側に控える兵がサッとお茶を差し出し、



「ずっと手を上げっぱなしで疲れてきたわ」



と言うと、これも控える兵が肩を揉む。

まるでどこかの国で悪政を敷く、性格の悪い女王様のような振る舞いだ。



作業中はずっとそんな調子のラミィに付き合わされている兵も大変だと思い、俺が一言ラミィに注意しようとすると、



「ジャッジ様。少しお待ちください」



と、現場の監督をしていたイーサンが止めてきた。



「……なんだ?イーサン。さすがにあのラミィの態度じゃ兵が可哀想だ。止めさせないと」



と、俺がもっともな事を言うが、イーサンは首を横に振るばかりだ。


イーサンがラミィに注意できないのは分かる。あんなちんちくりんな奴でもイーサンにとっては主筋にあたるのだ。ラミィなら有り得ない事だが、世間一般では主に注意した結果首をはねられたということも多々ある。


だからこそ俺が注意しようと思ったのだが…。


イーサンは、



「しばらく様子をご覧になってください。ジャッジ様にもすぐにお分かりになります」



としか説明してくれない。



仕方ない。と俺がイーサンとウィルとともに、その後もしばらくラミィのわがままぶりを遠くから見学していたのだが、そのうち定期的にラミィの世話をする兵が交代しているのに気付いた。


しかも、交代するためにラミィの元に向かう兵はスキップしながらウキウキで向かっているではないか。逆に役目を終えた兵は残念そうな表情で下がっていく。



「……これは、どういうことだ?」



俺には兵の表情は逆だと思うのだが…。まさかラミィのわがままを聞くのがうれしいのか?……まさかね。




その後も塀の建設現場で繰り広げられる不思議な光景を観察していた俺だったが、



「お分かりになられましたか?まだでしたら少し近づいてみましょう」



と促すイーサンに付いて、ラミィと兵との遣り取りが聞こえる場所までこっそりと近づいた。


そこはちょうどラミィ達からは死角になっている場所で、こちらからもラミィ達の姿は見えないのだが声ははっきりと聞こえてきた。



「……上が確認したいわね。ほら!アンタ踏み台になりなさい」


「えぇっ!?よ、よろしいのですか?」


「……?なに言ってるの?ほら、早く!」


「は、はい!……………あ、あぁ。もっと!もっとお踏みください!ハァハァ…」



おそらく塀の上の部分の出来を確認したいラミィが、その低い身長を補うために兵に踏み台になるように指示したのだろう。


あまり誉められた行為ではないが、適当な踏み台が近くになければ仕方ないと言えなくもない。



……それよりも気になるのは踏み台に命じられた兵の言動だ。明らかに踏み台となりラミィに踏まれることに喜びを感じている様子だ。



「………なんなんだ一体」



俺はイーサンを振り返り、ラミィ達に聞こえないよう小声で問いかける。隣のウィルは何故か苦い顔をしながら黙っている。


俺の問いかけにイーサンはなんでもないことのように答えた。



「おわかり頂けたかと思いますが、あの兵達は自ら志願してラミィ様のお世話をさせて頂いています。………まぁなんと言いましょうか…。いわゆるマゾ体質とでも言いましょうか。……とにかく、あの兵達はラミィ様の無理難題を聞くことが喜びなのです」


「…………………なるほど。ドMってことね…」



俺にもやっと理解できた。つまり、ラミィのわがままはドMの兵にとってはうれしいことなのか。だからあんなウキウキで交代しにきていたわけか…。



変わった性癖を持つ兵もいるもんだ。と、なんとか理解できた俺の耳に、俺達からは死角になる位置にいたラミィ担当の兵を纏めているオーウェンの呟きが聞こえてくる。



「く、くそっ!あいつめ!あんなの最上級のご褒美じゃないか!………俺も踏まれたい…」


「……………」



俺は聞いてはいけないものを聞いた気がしてウィルとイーサンの方を向くと、二人揃って黙ったまま首を横に振っている。



「………俺達は俺達の仕事をしよう」


「……それがよろしいでしょう」



そう言い合うと、俺達三人はラミィ達には声をかけずにそっとその場を離れた。


人には誰しも知られたくない秘密の一つや二つあるだろう。大丈夫だオーウェン。お前の秘密は俺の心の中にそっとしまっておくよ。…………多分。







俺は自らの持ち場である国全体を囲う塀の建設現場に着くと早速魔法を使う。


今回は土ではなく石壁を造らなければいけない。以前はただの土壁か岩ぐらいしか生成することはできなかった俺だが、ラミィとの特訓の結果今では立派な石壁も造れるようになっている。



俺の作った模型を基にした設計図に従い、一回で数十メートルずつ石壁を造っていく。一度暫定的に建てた後、再度細かい部分を調整するという作業を延々と繰り返す。


細かい魔力制御が苦手な俺は、石壁の細部を調整するとボロボロと余計な部分まで削ってしまうことが多い。その度にまた多めに石を生成して削っていくのだが、その際に出る散らばった石の欠片を集めるのは俺担当の兵の仕事だ。


結構な重労働だと思うのだが、皆文句ひとつ言わず黙々と作業に従事してくれている。もしかしたら俺の方の兵の中にもマゾ気質の者が混ざっているのかもしれない。


………まぁ、それならそれでいい。俺はあまりわがままは言わない方だとは思うけど…。







「いやぁ、この調子ならすぐに完成しそうですね」



作業を見学していたイーサンが俺に向かってそう声をかけてきた。



「そうだな。ひとまず全体を囲うだけなら一月もあればなんとかなりそうだ。後は門とラミィの強化待ちになるだろうな」



俺には無限とも思える魔力量がある為、たまに休憩をとりながら一日中壁を造り続ける事ができる。壁を生成するのはあまり魔力を使わないから出来る芸当でもある。


ラミィがやっている魔力での石壁の強化は結構な量の魔力が必要らしく、毎日少しずつしか作業は進まない。俺が代わってやりたい所だがそうもいかないのが現状だ。こればっかりは時間をかけるしかないだろう。


とにかく今は形だけでも国全体を囲う塀を完成させることが先決だ。ただの石壁でも有るのと無いのとでは大きく違う。イーストエンド王国の出方が分からない現状なら尚更だ。



「よし、続きをやろうか。今日はソバ畑の近くまでなんとか終わらせたいな」


「畏まりました。休憩終わり!配置に着け!」


「はっ!」



イーサンの号令で再び兵達が動き出す。さっきまでと顔ぶれが違うのは交代したからだろう。



最初の頃に比べると大分軍らしくなってきたな。なんて思いながら俺は再び魔力を集中し石壁を生成し始める。


まだまだ終わりは見えないが作業は着実に進んでいっている。皆を守るためだと思えば大変などとは言ってられない。がんばろう。




その後、俺が作業する国全体をぐるっと囲うような石壁が完成したのは2か月後の事だった。

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