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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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同じポーズで半日集中し続けた結果、……なんにも感じることはできなかった。言い訳をさせてもらえば、集中する俺のまわりでラミィがクッキーをボリボリ食べたり、カップをカチャカチャさせてお茶を飲んだり、イビキをかいて昼寝したり、またクッキーをボリボリ食べたりしてうるさかった。


「はぁ…」


落ち込む俺と正反対にラミィは元気一杯だ。


「まだ始めたばっかじゃない。そんなすぐできるようになるもんじゃないわよ。それよりお昼ご飯食べましょう」


「さっきあんだけクッキー食べてたのにまだ食べるのか?」


呆れ気味に尋ねる俺に、ラミィはビクッとしながら恐る恐る聞いてきた。


「…やっぱり少食の女の方が好み?」


「いや、別にそんなことはないが」


俺の答えは正解だったらしい。再び満面の笑みにもどったラミィはお昼ご飯の準備をしに、家の中に入っていった。


俺もラミィのあとを追って家の中に入る。なにか手伝おうと台所の方に向かうと、ラミィが俺に背をむけてサンドイッチを作っていた。なにか手伝うことはないか?と尋ねると、


「別にいいわよ。リビングに座って待ってて。すぐできるから」


と、背中越しに言われた。リビングに向かおうと思ったが、なんとなくそのままボーッとサンドイッチを作るラミィを眺める。家ではウィルが料理をしてくれることが多いから、こんなふうに女性の手料理を食べるのは久しぶりだなぁと思う。


サンドイッチが完成したのだろう。たくさんのサンドイッチが乗った皿を持ってラミィがこちらを振り向き、ボーッと眺める俺に気付いた。


「な、なによ?私の料理する姿に見惚れてたのー?」


冗談っぽく聞くラミィ。


「そうだな。おもわずボーッと見ちゃってたよ。なかなか手際もいいな」


素直に返事する俺。別に隠すようなことじゃないしな。


「なっ…。こ、こんなもんでよければ、いつでも作ってあげるわよ」


褒められたせいだろう、ラミィは嬉しそうだ。


「あぁ、これからも(この家に来たときは)俺の為にご飯を作ってくれるとうれしい」


ガッシャーーン!


それを聞いたラミィは手に持った皿を下に落とし、サンドイッチを派手にぶちまけた。


「おい!どうした!?大丈夫か?」


急いでラミィのもとに駆け寄るが、皿の破片等で怪我はしていなさそうだ。ラミィは返事もなくカチコチに硬直してしまっている。突然どうしたんだこの魔女は?


せっかく作ってくれたサンドイッチを無駄にするのも勿体ないので、食べれそうなものを拾って、そのへんにあった皿にのせる。


「おい、ラミィ。サンドイッチリビングに持っていっとくぞ。片付けは食べ終わってから一緒にしような」


なんにも反応しなくなった、石の彫像のような不世出の天才魔女に声をかけて先にリビングに戻る。


俺が台所を出ようとしたとき、後ろからラミィの「こ、これがプ、プロ、プロポーズ……」とかなんとか聞こえた気がしたが聞き間違いだろう。


なんとか硬直の解けたラミィとサンドイッチを食べ、割れた皿の片付けをしたが、ラミィは一度も俺の顔をみてくれなかった。なにを聞いても、初めて酒場に行った箱入り娘のように「う、うん…」しか言わなくなった。


これじゃ訓練の指導も期待出来ないなと思っていたら、案の定何の役にもたたなかった。仕方がないので「う、うん…」繰り返し魔女をソファーに座らせ、俺は向かいの椅子に座り午前中やった訓練をする。



午前中とは違い、天才魔女が静かだった為か結構集中できた気がする。いつのまにか太陽が中天から大分動いている。


「ふぅ。喉が乾いたな。ラミィお茶淹れるけどお前も飲むか?」


「う、うん…」


相変わらず心ここにあらずの天才魔女は放っとき、お茶を勝手に淹れて飲む。一応ラミィの目の前にも淹れて置いておいた。喉が乾けば自分で飲むだろう。


お茶を飲みながらふと見ると、机の上に午前中ラミィが見せてくれた本がある。


「ラミィ。その本読んでもいいか?」


「う、うん…」


ほんとに理解して返事したかは不明だが、一応許可はとった。


改めて本を手に取り表紙を開いてみる。見出しをみる感じ、どうやら「魔女入門」みたいな本のようだ。元々本を読むことは好きなため初めはパラパラとめくりながら見ていたが、いつのまにか熟読してしまっていた。


気付くともう夕方といっていい時間になっていた。そろそろ帰らないといけない。ラミィの家に泊まるのは、もう少し訓練が進んでからの予定だ。


「おい、ラミィ!しっかりしろ!おい!」


ラミィの正面から両肩を掴み、体を揺さぶるように声をかける。至近距離で見ると背が低いだけで、コイツけっこう大人びて綺麗な顔だな、なんて思ったりもした。


「はっ!だ、だめです…こんな明るい時間から…あなた…」


「なに言ってるんだ。ラミィ!目を覚ませ!」


寝ぼけたことを言うラミィを起こすため、軽く頭を叩く。


「いたっ!?なにすんのよアンタ!」


しっかりこっちを睨み付け涙目で抗議するラミィ。よかった、こっちの世界に戻ってきたみたいだ。


「もうこんな時間だ。そろそろ家に送ってくれないか?」


「えっ!そ、そうね。ア、アンタも初日だし疲れたでしょう。今日はこのくらいにしといてあげるわ」


俺から言われて初めて結構な時間がたっていることに気付いたのだろう。窓のそとを見てビックリしたような顔をしたあと、俺にそう言った。


「そういや、今のままだとラミィと連絡とる手段がないんだよ。ここまで転移石なしで来ることはできないし…。なんかいい方法はないか?」


ふと思い付き、昨日から思っていたことを尋ねる。


「そういやそうね…。私はいつでもアンタのとこに行けるけど、アンタはそうもいかないのよね。私に会いたくて眠れない夜もあるだろうに…」


「いや、そういうわけじゃないんだが…」


どうもこの魔女は自意識が過剰なところがあるようだ。


「わかったわ。なんかいい方法がないか探してみるから、何日か待って」


「あぁ、よろしく頼む」


そんな会話があったあと、俺はラミィに送ってもらって家に帰った。送ったラミィはさっさと帰ってしまった。しばらくして帰ってきたウィルに、今日あったことを話す。


「そんな便利な薬があるんですか!?もう少し早くそれを知っていれば、ジャッジ様もこんなに苦しむこともなかったものを…」


と悔しがっていた。また訓練に時間がかかりそうだと伝えると「何事も努力の積み重ねで少しずつ進んでいくものです。剣の道も同じです」と、達人なりに納得していた。


その後夕食を食べ、明日もラミィとの訓練があるので早めに休むことにした。なんだかウィルも俺が元気になったことがうれしい様子で、いつもより口数が多かったような気がする。ラミィのこともそれなりに信用しているようだが、「女には気を付けなければなりません」とちょいちょい口を挟んでくる。ラミィとはそういう関係じゃない……よな?


まぁとにかく俺の体調回復の目処がたったおかげで、ハートランド王国再興の夢も一歩近づいただろう。明日からもがんばろうと思う。

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