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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「あぁ、参ったなぁ…。また戦争になるのかな。なんで皆戦争ばかりしたがるんだ?」



俺はケイレブ伯爵邸の大浴場に一人で入りながら、高い天井を見上げつつぼやいていた。



ケイレブ伯爵からの話の内容は衝撃的だった。王が交代したイーストエンド王国がまた侵略戦争を企んでいること。その対象に我がハートランド王国も入っていること。既に水面下で進められていた軍備の拡張も終わり、いつでも戦争を始められる位の兵力があることなどだ。



ケイレブ伯爵の説明で、大体イーストエンド王国の貴族の力関係も理解することができた。


残念ながらほとんどの貴族は既にアルト王側についたようだ。以前俺が脅迫したときにその場にいた者もいるだろうに、喉元過ぎればなんとやらというやつだろう。


ケイレブ伯爵のように真に領民を想う貴族も多少はいるようだが、あまり表だって反対もできないのだろう。そんなことして爵位を剥奪されでもしたら更に領民が苦しむことになるしな。




「……しかし、その黒装束ってのは気になるな。俺を狙った奴らも似たような服装だったし…。悪いことする奴の間で流行ってるのかな?」



ケイレブ伯爵の話した中に、アルト王の背後に黒装束を着た組織がいるというものがあった。どうやらその連中が唆してクーデターを起こした可能性もあるらしい。


たまたま同じ様な服装の可能性もあるが、一応警戒しておいた方がいいだろう。もう毒矢で倒れるのは二度とごめんだ。




そんな風に俺は独り言を呟きながら大浴場を後にした。そろそろ食事の用意ができたはずだ。さすがにラミィも風呂から上がった頃だろう。遅くなるとまた怒られてしまう。





俺が食事の用意された部屋に着くと、既に皆準備万端で俺のための上座だけが空席であった。


前回ラミィと訪れたときにもケイレブ伯爵は上座を俺に譲ってくれたので、俺もすんなりその席に座る。今回もすごく豪華な料理だ。突然訪問したのにこの館の料理人はとても優秀だ。



「遅いわよ!アンタのせいでせっかくの料理が覚めちゃったじゃない!」



俺が座るや否やラミィが予想通りに文句を口にする。食いしん坊の魔女としては、一番美味しい状態で食べたかったのだろう。それでもちゃんと俺を待ってくれているからお利口だ。



「すまんすまん。あまりに風呂が気持ちよくてな」


「ま、まぁまぁラミィ様。まだこれからも料理は出てきますので…」



ケイレブ伯爵が取りなしてくれてやっと夕食が始まった。俺が一応乾杯の音頭をとり、食前酒を一杯飲んだあと豪華な料理に手を付ける。




次から次に出てくる豪華な料理にお腹もいっぱいになった頃、ケイレブ伯爵が食後のお茶を使用人に頼んだ後、俺に話を振ってきた。



「ジャッジ様。ラミィ様から後で商売の話があると伺ったのですが…」


「……あぁ、そうでした。料理に夢中で忘れるところでした」



俺は本当にケイレブ伯爵から話を振られるまでデーヤモンドの件を忘れていた。前もってラミィが話しておいてくれて助かった。



「えぇと…。どう話せばいいのか…」



俺が何から話したものか悩んでいると、サニーが自ら説明すると買ってでてくれた。


商売の話なら俺よりサニーの方がずっと上手だろう。俺はそう思いサニーに任せることにした。



「伯爵様。私どもの暮らすハートランド王国の特産品と言えば何を思い浮かべますでしょうか?…………そうです。今伯爵様の頭にあるようにまずはソバという所でしょう。しかし!しかしですね、実は他にも他国にひけをとらない。……いや。それどころか、この世界中を探し回ってもなかなか見つからないとっておきの特産品がごさいます!」



こう始まったサニーの話に引き込まれてしまう俺達。話の中身を知っている俺ですらそうなのだから、ケイレブ伯爵は尚更だろう。


ケイレブ伯爵は完全にサニーの話術に嵌まったようで、使用人がお茶を運んできたのも気付いていない様子でサニーの話に聞き入っていた。








結果から言うと、事は俺達の希望通りに運んだ。


サニーの話を聞き終わるや否や、ケイレブ伯爵は拍手をしながら俺達の考えを褒め称え、他の貴族への紹介を快諾してくれた。


更にはハートランド王国や俺の名前が一切出ないようにと、その場で話を聞いていた使用人一人一人にここでの話を他言しない様注意する徹底振りだった。


雇い主であるケイレブ伯爵を裏切れば、解雇されるばかりかこの街で暮らしていくこともままならないだろう。これで使用人達から漏れることもあるまい。



細かい契約などは明日きちんと行う事になったのだが、ケイレブ伯爵の取り分の話で少し揉めることになった。


俺としては大物のデーヤモンド売却の主な役割を担ってもらうケイレブ伯爵にも、それ相当の儲けがあってしかるべきだと思う。だからこそ、売却で出た儲けの2割でどうかと持ちかけたのだがケイレブ伯爵は、



「そんな!私が利益を頂くなど滅相もない!儲けは全てハートランド王国とジャッジ様の為にお役立てください!私はジャッジ様の為に働けるだけで十分なのです」



と言って全く聞く耳を持ってくれなかった。



そこで仕方なく今回持ち込んだデーヤモンド製の盾を前払いとして受け取ってもらうことになった。これは本格的に装飾品を作る前にフォージが見本として作ったものであり、壁に飾っても十分インテリアとして機能する造りだ。


総デーヤモンド製であり、盾の表面にはハートランド王国のシンボルである炎と剣とクッキーのエンブレムが象られている。これはラミィとフォージの苦心の作で、フォージが今回この盾を選んだのもこのエンブレムの出来が決め手になった程だ。



ケイレブ伯爵もこの盾を一目見るとさすがに断るのが惜しくなったのだろう。何度も本当に貰っていいのか確認した後、手元に置いて細部を眺めたり大事そうに胸に抱えたりと、早速お気に入りのコレクションの仲間入りを果たした様だった。



結局、老執事に取り上げられるまで盾はずっとケイレブ伯爵の手から離れることはなかった。








「いやぁ、さすがジャッジ様お墨付きの御用商人ですな!目の付け所が違う!……それに何より私が嬉しいのは、ジャッジ様がまず私の事を思い出して下さった事です!これに勝る名誉はございません!」



ケイレブ伯爵は話が終わった後も上機嫌であり、もう完全に酔っぱらっている様子だ。後ろに控える老執事がそれとなくお酒を止めても、お構いなしにグビグビ呷っている。



……ケイレブ伯爵ってこんな人だったっけな?なんか初めからすると大分印象が違うな…。




「コブ!お前もたまには飲め!今日はジャッジ様が初めて私を頼ってくださった記念日だ!こんな目出度い日はないぞ!………よし、決めた!今日をセカーニュの街での記念日としよう!」


「いやいや、さすがに記念日はあんまりでは…」



ケイレブ伯爵が老執事に絡む様子を見ていた俺が、さすがに記念日はやりすぎだろうと声をかけるが、



「………旦那様、それは素晴らしいお考えです!早速明日にでも街の者に周知しましょう!」


「おぉ!分かってくれたかコブ!ついでにジャッジ様を称える祭りでも開催してしまおう!……是非その際はジャッジ様方もお越しください!是非!」



と一緒になって羽目を外していた。



……この主あってこの執事あり。といったところだろうか。やはり常日頃から一緒にいると主従は似てくるものらしい。


俺もウィルと似てるのかな?自分では気付かないけど周りから見ると似たもの同士なのかもしれないなぁ。


そんな事を考えながらふとウィルの方を向くと、ウィルもちょうどこちらを向いた所だった。


もしかしたらウィルも同じことを考えていたののかもしれない。二人して顔を見合わせると苦笑し合う俺達。




ケイレブ伯爵と老執事のコーブルはまだ祭の話で盛り上がっている。二人ともニコニコと笑顔で本当に楽しそうだ。


ラミィとサニーは食後に出された珍しいお菓子を前にして真剣な表情で何事か話し合っているし、皆それぞれ楽しんでいる様子だ。




そんなこんなでセカーニュのケイレブ伯爵邸での夜は更けていった。

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