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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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土俵のほぼ中央でがっぷりと組み合う俺とウィル。俺はウィルを土俵外に押し出そうと魔力全開だ。踏ん張る後ろ足の親指などは、勢い余って地面にめり込んでいる。



「……くっ!これでも動かないのか…」



全力の俺に対しウィルはまだまだ余裕のありそうな表情だ。むしろ今すぐにでも俺を投げ飛ばせるのに、主人である俺にどう勝てばいいか悩んでいる風ですらある。



俺がウィルに勝つチャンスがあるとすればここだろう。まだウィルが力を出す前に速攻を仕掛けるのだ。おそらくウィルは俺にどう勝てばいいかまだ決めかねているのだろう。



「……これなら…どうだ!」



俺は下半身に集めていた魔力を半分位にして、両腕や背中に魔力を集中させる。先ほどゴヘイと対戦したときと同じ配分だが、その絶対量は全力の今の方が圧倒的に多い。


そして、ウィルのズボンをしっかりと掴み直し、これも先ほどの取り組みのようにウィルの体を持ち上げようとした。



「………!?」



さすがのウィルもこれには焦ったようで、足を大きく広げ重心を落として俺に持ち上げられまいとする。


一度宙に浮いてしまえばいくら力が強かろうが関係ないからだ。そのまま土俵外まで運んでしまわれると、いくらウィルでも為す術がない。



「……考えましたね、ジャッジ様」


「フフフ。力比べなら勝てないが、相撲のルール上でならやりようはあるのさ」



ウィルが俺に打撃技を使ってくることは無いと言い切れる。いつもの剣の稽古でも基本的にはウィルは受けるだけだ。見本を見せてくれることはあるが、それすらもいつも寸止めだ。


とにかくウィルは俺に甘い。万が一にでも俺が怪我をしないように、慎重に慎重を重ねて稽古をつけてくれている。


つまり、ウィルにとって俺と相撲をとるという事はは、打撃技を封じられた上に決して怪我をさせないように勝つしかないという、かなり制限のかかったものなのだ。




重心を落としたウィルを持ち上げる為、俺は更に背筋に魔力を集中させる。イメージとしては地中に埋まった大きな岩を引っこ抜く感じだ。


俺が精一杯力を込めると、一瞬ではあるがウィルの足が地面を離れた。すぐに持ち直し更に重心を低くするウィル。



いける!これはいけるぞ!



俺が確信するのと同時に、観客もまさかの展開に大歓声を上げる。


もし俺がウィルに勝つようなことがあれば、それはさっきゴヘイがロックを破った時よりも大金星だろう。相手は剣聖を超えると言われるウィルなのだ。



さすがにウィルも事ここに至っては焦った表情を見せ、遂に覚悟を決めたらしい。



「……くっ!…ジャッジ様。参ります」



そう言うと防御一辺倒だったウィルが攻めをしかけてきた。


俺のズボンを掴む力が明らかに強くなり腕の筋肉が盛り上がる。そして俺に対抗するように俺を持ち上げようとしてきた。



俺はウィルに持ち上げられまいと、腰を引き重心を低くする。しかしウィルの握力は凄まじく、俺のズボンを離そうとはしない。それどころか、ズボンのお尻のあたりからビリッという音が聞こえた気がした。



……まずい。ウィルに本気を出されると非常にまずい。こうなる前にさっさと勝負を決めたかったんだがなぁ。魔力全開の俺より力が強いってどういうことだよ…。これはさすがにもう無理か。



心の中でぼやきつつ半ば大金星を諦めた俺に対し、ウィルは勝負をかけにきた。



「フンッ!」



そう言って更に力を込めるウィル。



すると、ウィルの規格外の腕力と背筋力によって俺の体は宙に………浮かなかった。



「……………あれ?」



目の前では勢い余って後ろにひっくり返るウィルの姿が見える。そして、その手にはほんの少し前まで俺のズボンであった布が掴まれていた。



「キャー!!」


「じ、ジャッジ様!急げ!替わりのズボンを!」


「黒猫ね……。フフフ」


「……ほほぅ。ジャッジ様の物も中々…」


「ママー。なんかあの猫ちゃん飛び出して見えるよ」


「こ、こらっ!子供が見るものじゃありません!」



土俵の周りを囲む観客からは悲鳴が上がる。悲鳴以外の声もちらほら聞こえる気もするが、俺はそれどころではなかった。



……なぜなら、俺はパンツ一丁だったからだ。



ウィルの奴俺を持ち上げようと力を入れた時に、勢い余って俺のズボンを破ってズボンだけを持ち上げてしまったらしい。そしてその勢いで後ろにひっくり返ったみたいなのだ。



「うわっ!ちょ、ちょっと誰か何か隠すものくれ!」



俺はすぐに係の者が持ってきてくれた布を腰に巻き、なんとかそれ以上醜態をさらすのは食い止めた。


……食い止めたが、もう十分に皆に俺のパンツは見られただろう。しかも今日はラミィが前のデートの時にプレゼントしてくれた、幸運をもたらすという黒猫が大きく刺繍された物だったのだ。



恥ずかしさのあまりすぐに逃げ出したい俺を審判が止める。



「ジャッジ様の勝利です!……………プッ」



……おい、今笑っただろ!お前不敬罪で死刑にしちゃうぞ?



勝ち名乗りを受けた俺はひとまず土俵を降り、未だに大盛り上がりの観客を掻き分けてそそくさとラミィ達の待つ席に戻る。もちろんウィルも一緒だ。



「じ、ジャッジ様!大変申し訳ありません!」


「………いいよ、いいよ。気にするな。ウィルだってわざとしたわけじゃないんだから」



破けた俺のズボンを胸に抱えて何度も謝ってくるウィル。ウィルが悪いわけじゃない、それは間違いない事実だ。


……だけど、なんで俺は今日に限ってあんなかわいいパンツにしたかなぁ…。はぁ…。




席に戻るとラミィが爆笑しながら迎えてくれた。



「ぷっ、くく……。ゆ、優勝おめでとう!……は、ハハハハ!」


「く、くそっ!バカにしてるだろ!お前の選んだパンツだぞ!」



我慢できずに腹を抱えて笑い転げるラミィ。隣のエマとフラーがいつも通りなのが救いだ。エマは俺の猫ちゃんのパンツを見て更に興奮したのか、両目が真っ赤に充血して鼻息も荒い。これは今夜あたり部屋に突撃してくる可能性が高そうだ。用心しなくては。



フラーはいつもと変わらない態度で、俺にお茶を勧めてくれた。



「喉がお乾きになったでしょう。まずはこちらをどうぞ」


「あ、あぁ。ありがとうフラー」



フラーがコップに入れてくれたお茶を飲んで一息つく俺。


ちょっと恥ずかしい思いもしたが、結果的にはウィルに勝つ事ができたわけだし良かったと思うことにしよう。


俺がなんとかそうやって自分を納得させようとしていると、フラーがウィルにもお茶を渡した後俺に向かって質問してきた。



「……ちなみにあの技はなんという名前なのですか?……………モロ出しですか?………ぷっ」


「…………」









その後、第一回ジャッジ国王杯ハートランド王国相撲大会の授賞式が行われ、優勝者の俺は自分で自分に優勝トロフィーを授与した。


結果は俺が優勝、準優勝はウィル。3位がオーウェン、4位がゴヘイだった。まだ移住して日が浅いゴーン族からの出場者はほとんどいなかったが、次回からはきっと参加するだろう。そのときはまた結果は変わってくるかもしれない。



本来の目的である軍の部隊長も、相撲大会の成績を基に皆で協議して決めることができた。


ゴヘイにも軍にどうかと声をかけたみたいだったがあっさり断られたらしい。やはりンダ族としては畑で働くことが幸せみたいだ。



授賞式の後、新たに部隊長となるオーウェンらに俺から直接特別製の鎧を手渡した。これはラミィが大元を作った後、フォージが自ら装飾を施したデーヤモンドの特別製だ。大きさもある程度ならラミィの無属性魔法で調整できる為、それぞれの身体に合わせることができる。


今後は部隊長として、木製の鎧を着用した兵と差別化を図るために用意した。きっとごちゃごちゃした戦場でも目立つだろう。



新たに部隊長となった者には、強さだけではなく部下の兵をまとめるという責任もかかってくる。それぞれ特徴のある部隊になってくれると作戦を考えるイーサンやロックも助かるだろう。これからのハートランド軍に期待だ。

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