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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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もう一つの準決勝、つまりウィル対オーウェンの取り組みが始まった。


オーウェンはこの国でも最強と目されるウィルを相手にするとあって気合い十分だ。反対にウィルは自然体で特に構えもとっていない。


しかし、武の達人ともなればそれでも隙がないのだろう。試合開始の合図があった後も、なかなかオーウェンはウィルに仕掛けられずにいた。



「おいおい!どーした?びびってるのか?」



観客席から同僚のものと思われる声がオーウェンを煽る。



「…くっ。わかったよ!行ってやるよ!」



オーウェンはその声に応えるように、細かくステップを刻んでいた足を大きく前方に踏み出しウィルに迫る。


それと同時に右腕を大きく振りかぶりウィルの頭部を殴り付ける。



ウィルは最小限の頭の動きで殴りかかってくる腕を避けると、その腕を取ろうとする。


腕を取られると投げられることが分かっているオーウェンは、その動きを予測していたのか腕の動きからは少し遅らせるようにして右足で下段蹴りを放っていた。


オーウェンの放った下段蹴りを左足の脛で防御することにウィルが気を取られた隙に、オーウェンは掴まれることなくその場から跳んで離れる。


この一連の攻防はまばたきをする程度の時間で行われたが、果たして両者の動きを全て見えた者がどのくらいいただろうか。


かくいう俺も、土俵下という絶好のポジションだったからこそ見えたようなもので、正直オーウェンの最後の蹴りなどは速すぎてよく見えなかった。



「おぉ!ウィルが攻撃を受けたとこは初めて見たな」


「むむぅ……。オーウェンのやつ更に速くなったな」



俺の隣で観戦していたイーサンも唸っている。あのウィルと一合でも打ち合うということは凄い事だ。大抵の戦いではウィルの一撃で相手は沈む。まだウィルの攻撃は受けていないが、防御させただけでも凄いと思う。




下段蹴りを入れることに成功したオーウェンは、いけると確信したのかウィルから距離をとりながら周りをゆっくりとぐるぐる回り始めた。

そして、時折牽制のように軽いジャブを放つ。


ウィルはその度にジャブを避けながら、体の向きをオーウェンのいる方向に変えている。


こうなると持久戦となりそうな展開だが、オーウェンは先ほどのイーサンとの激戦で体力はさほど残っていないだろう。一体どうするつもりなのだろうか? 



その時、俺の疑問に応えるかのようにオーウェンが動いた。


今までのジャブよりは大きく振り回した左フックを囮にして、スッと姿勢を低くすると両手を地面に着け、そのまま体を右回りに一回転させるように地面スレスレの後ろ回し蹴りを放ったのだ。


ルール上、手が地面に着いても負けにはならない。とはいえ、今までの相撲では見られなかった技だろう。オーウェンの放つ水面蹴りに観客もざわめく。 




オーウェンの意図としては、力比べでは勝てないウィルのバランスを崩して、尻餅をつかせることで勝ちを拾うつもりだった。


しかし、ウィルは意表をつかれたはずのその水面蹴りをあっさりジャンプして避けると、一瞬の早技でオーウェンに近づくと軽く体を押した。


地面に両手を着きながら放つ水面蹴りはバランスが良いとは言えない体勢であり、ウィルに軽く押されただけでオーウェンは、


ストン


という感じで尻餅を着き座り込んでしまった。



「う、ウィル殿の勝利です!」



審判が勝負ありの宣言をした後も呆然と座り込むオーウェン。その表情は正にあっけに取られたという顔だ。


きっと練りに練った作戦だったのだろう。確かに水面蹴りまでの伏線は完璧だった。上に意識を持たせて、予測できない足元の攻撃に繋げるというオーウェンの意図は十分理解できる。しかし、ウィルにはそれすら通用しなかった。ということだろう。



「鋭い攻撃でした。体力が万全なら私も危なかったですね」



座り込むオーウェンに手を差し伸べながらウィルは語りかける。


オーウェンはやっと状況が呑み込めたのか、苦笑しながらウィルの手を取ると立ち上がった。



「考えに考えてやっと思い付いた作戦だったのですが…。やはりウィル殿には通用しませんでした」



観客からはウィルの圧倒的な強さよりも、オーウェンの敢闘に対する称賛の声が多く聞こえてくる。


それもそうだろう。あのウィルと対戦してまともな勝負になったのだ。足りない部分を作戦で補うというのは兵法にも繋がる。オーウェンが部隊を任せられるようになればハートランド軍にもきっといい影響が出るだろう。



俺は二人の健闘を称える拍手を送りながら、今後の軍について思いを馳せていた。










「さぁ、皆さん!遂に決勝戦です!正にハートランド王国最強を決める戦いと言ってもいいでしょう!!」



決勝戦を前に観客を盛り上げる司会。今やハートランド王国民全てが集まっていると言ってもいい相撲大会会場は、異様な興奮に包まれていた。



「奇しくも主従対決となりましたこの取り組み、果たして栄誉ある第一回ジャッジ国王杯ハートランド王国相撲大会の栄冠を手にするのはどちらなのか!?それでは選手の入場です!」



仰々しい大会名と大袈裟な煽り文句のあと、司会によってまずはウィルの登場と同時に紹介が為された。



「東方に入場しますのは、この国最強と名高いジャッジ様付きの天下無双の剣士、ウィル~!!」



ウィルは少し恥ずかしそうにしながらも、堂々と花道を歩き土俵の東に陣取った。



「ジャッジ様をその身を挺して守るばかりか、先の防衛戦では二万の大軍をラミィ様とたったお二人で殲滅させたという剛の者!その豪腕で今日は主人を葬り去ってしまうのか!?」



……おいおい。俺を葬り去ったらダメだろう…。俺は別に気にしないけど他の国なら不敬罪ってやつになっちゃうぞ?


俺がそんな風に司会の煽り文句に突っ込んでいると、次に俺の登場の出番になった。



「そして、対する西方からは、皆様お待ちかねの我が国国王ジャッジ様の登場です!」



司会の合図で俺も準備された花道を歩く。詰めかけた観客からは沢山の俺を応援する声が聞こえてくる。客席を見ると、ラミィやエマ、フラーが大きく手を振っているのが見えた。俺も軽く手を振り返した後、土俵の西方に陣取った。



「若くして我々に安住の地を与えて下さったばかりか、その身に宿した魔力を使い山一つ軽々と消し去る魔法の使い手、その大きな器はこの国だけにとどまらずいずれは大陸をも呑み込むでしょう!そして、何よりラミィ様とエマ様という美女二人を侍らすその器量!なんと羨ましいことか!ここで優勝して、国中の女性を侍らせてしまうのか!?」



途中からなんか司会の個人的な意見も入ってきたが、みんなが盛り上がっているからいいか。



司会による二人の紹介も終わり、審判が土俵の真ん中に上がってきた。


俺も気を引き締めて正面に立つウィルに視線を向ける。ウィルは先ほどオーウェンと対戦したときのように、リラックスして立っている。特に気負っている様子もない。


いつも側でみているウィルだし、剣の稽古は今も欠かさず定期的に行っているから俺にも気負いはない。いつものように胸を借りるだけだ。



「それでは行きます。はっけよーい……のこった!」



審判の合図がかかると、俺は自らの持てる全ての魔力を身体中に循環させ特に下半身に多めに集める。そして全力でウィルに向かって突進し、予想通り簡単にウィルによって突進が受け止められると、そのままがっぷりと組みに行った。

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