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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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準々決勝を勝ち上がりベスト4まで残ったのは意外な4人だった。


まずウィルは危なげなく勝ち、俺も足に魔力を集中させ相手の繰り出す様々な技をなんとか耐えて、最後は突き出しで勝った。意外だったのは残りの2試合だ。



まずイーサンだが、相手は自らの右腕とも言えるオーウェンだった。


取り組みはまず牽制のような打撃の応酬から始まり、時々イーサンが組み合いに行こうとするも、オーウェンがその度距離を取るという展開になった。


やはりオーウェンとしては体格で勝るイーサンとの組み合いは避けたかったのだろう。その後も距離を取って立ち回るオーウェンにイーサンは徐々に体力を消耗していき、最後は古傷のある膝に見事な下段蹴りを受けて立ち上がれなくなった。


準々決勝で一番長く戦った二人はお互いもうヘロヘロで、勝ったオーウェンは喜びを爆発させながら土俵に倒れ込み、しばらく寝転がったままだった。



残りの1試合だが、これはロックとンダ族から参加した若者の対決だった。


年はとっているものの、ジャッド族顔負けの体格を誇り戦闘の経験も豊富なロックが優勢とみられていたが、取り組みが始まると終始優勢に試合を運んだのはンダ族の若者だった。


見た目はさほど体格がいいわけではないのだが、その下半身の安定感とバランス感覚は凄かった。おそらく日々の農作業で鍛えられたのだろう、ロックが力押しに押そうとしてもびくともせず、逆に引いてもダメだった。


ロックも兵士でない若者に配慮して打撃は一切使わなかったのだが、それを差し引いても若者の耐久力と忍耐力は凄いものがあった。


結局体力の限界を迎えたロックを、じりじりと土俵外まで押し出した若者が勝ち、農家が将軍を倒すという大金星を挙げることになった。


これには見ていた観客からも割れんばかりの拍手や喝采が飛び、ンダ族の若者は満面の笑みで手を上げてその歓声に応えていた。




「いやー、負けてしまいました。まだまだオーウェンには負けないつもりでしたが、やはり若さとは羨ましいものです」


「そんなことないさ。きっとオリビアやエミリーだってイーサンの戦う姿を見て頼もしく感じたはずだ。なぁエマ?」



土俵から離れ俺達のもとに来ると頭をかきながらそう話すイーサン。言葉とは裏腹にその表情は晴れ晴れとしている。イーサンが破れるということは、若い世代が着実に育っているということでもある。将軍としては嬉しいのだろう。



俺から話を振られたエマだが、聞いているのか聞いていないのかぼーっとしている。そう言えば昼休憩の前からなんか様子がおかしかった。妙に俺にくっついてくるし、何を話しかけても上の空といった風なのだ。



「おい。エマ聞いてるか?」



再度俺が声をかけるとようやくこっちの世界に帰ってきたようで、イーサンがいることにも初めて気付いた様子だ。



「……あら?パパ来てたの?まぁそんなことより、ねぇジャッジ様。ちょっと静かな所にでも行きませんか?」


「…静かなところ?具合でも悪いのか?誰か呼ぶか?」



急に変なことを言い出すエマ。もしかしたらあまりの熱気と人の多さに具合が悪くなったのかもしれない。俺も初めて父上に連れられて大きな街に行ったときには人酔いしたものだ。


俺が心配してエマに手を差しのべると、エマはその腕に豊満な胸を押し付けるように絡めると、その姿勢のまま俺の耳元で囁いてくる。



「……静かな二人っきりの場所で休めばすぐよくなります。………ついでに子作りでも致しましょうか?」


「なっ!?こ、子作り!?」



何を言い出すんだコイツは!と、俺が明らかに狼狽してオロオロしていると、



「あ、アンタ!!さっきのジャッジの戦いを見て興奮したのね!遂に本性を現したわね!この女狐!!」



と、ラミィが俺達の様子を見て烈火のごとく怒っている。


……ははぁ。ジャッド族の女性は強い男に惹かれるというのはこういうことか。確かに生命の危機を感じた時に最も繁殖能力が発揮されるとは聞いたことがある。これがジャッド族なりの民族繁栄の秘訣なのかもしれない。


しかし、今は止めてくれよ。今は…。



怒鳴りまくるラミィと、それに応戦するエマ。ウィルはいつものようにその姿を隠しているし、フラーはどこ吹く風といった表情でお茶を飲んでいる。


その中でも一番可哀想なのはイーサンだろう。愛する娘が自分の試合を見ていなかったどころか、そんなことの一言で一蹴されたのだ。その気持ちは察するに余りある。


実際、イーサンは今も固まったように動かないまま、



「そ、そんなこと…?そ、そんなこと…?」



と、自らに浴びせられた悪意のない鋭い言葉を反芻している。


可哀想に…。後でオリビアとエミリーに会ったらイーサンを誉めてもらうよう話しておこう。と、俺は心に決めた。


だってもしかしたらこれが俺の数十年後の姿かもしれないのだ。少しは救いがないとやってられないだろ?






その後ロックも俺の元を訪れ、



「やはり相撲とは奥が深いものです。それに農作業の生み出す強靭な下半身にも気付かされました。今後は兵の訓練にも取り入れようと思います」



と、抱負を語っていた。負けてもただでは転ばないとはこのことだろう。








そんなこんなで俺とウィルの準決勝の時間が来た。


俺の相手は先程ロックを破る大金星を挙げたンダ族の若者だ。名はゴヘイと言うらしい。俺にも勝てば更に観客からの覚えもよくなるだろう。


そしてウィルはオーウェンが相手だ。まぁ負けることはないとは思うが、オーウェンもイーサンを破って勢いがある。油断は禁物だ。




「はっけよーい……のこった!」



俺の取り組みが先に始まった準決勝だが、俺は開始の合図と同時に今回は自ら前に出ることに決めていた。


先程のロックとの取り組みの様子を見て、ゴヘイも待ちの相撲だと思ったからだ。両者待ちの相撲は持久戦になることが多い。それだと見ている観客はあまり面白くないと思ったのだ。


俺も主催者として少しは盛り上げとかないとな。と、ゴヘイに向かってじりじりと距離を詰める。


もちろん魔力は解放済みだ。今回は下半身はもちろん、両腕や上半身に多めに集めてある。反対に打撃はないと踏んで顔は無防備だ。もし農作業で鍛えた腕でパンチでも繰り出されたら一発で失神してしまうだろう。



ゴヘイもじりじりと摺り足で距離を詰めてきており、ちょうど土俵の中央付近で俺達はぶつかった。


お互いあまり相撲の技は知らないため、互いのズボンを掴みがっぷりと組み合う。そしてゴヘイは強靭な下半身を活かし、俺を土俵外に押し出そうと力を入れて押してくる。


その力はかなりの物で、魔力で強化しているはずの俺がじりじりと少しずつではあるが押されている。


その姿を見た観客からは悲鳴のような歓声が上がる。きっと皆はまた番狂わせが起こるのを期待しているのだろう。


…残念だが、俺も国王として簡単に負けてあげるわけにはいかないんだ。あっさり負けてエマやエミリーに冷たくされるのも嫌だしな。



俺は上半身の中でも腕と背筋に特に魔力を集中させ、ゴヘイのズボンをしっかりと握り直すとそのままゴヘイの体を吊り上げた。



フワッという感じでゴヘイの体が宙に浮く。まさか持ち上げられるとは思っていなかったゴヘイは足をバタバタさせて抗うが、俺の方が身長も高くゴヘイの足は地面には着かない。



そのままゆっくりと土俵の際までゴヘイを吊り上げたまま運び、よいしょっという感じで外に降ろした。



ゴヘイは最後まで諦めずになんとか俺の腕から逃れようとジタバタしていたが、さすがに土俵外に足が着くと諦めたのか体から力を抜いた。



「ジャッジ様の勝利です!」



審判の勝ち名乗りを受ける俺には、観客から割れんばかりの拍手が降り注ぐ。負けたゴヘイにも同じ位の拍手が送られ俺達はお互いの健闘を称える握手をした。



「強かったなゴヘイ。お前のような男がいればンダ族も安泰だな。街から離れた畑で何かあっても兵が駆けつけるにはどうしても時間がかかる。その間女性や子供を守るのはゴヘイ達ンダ族の男だ。これからも皆を頼んだぞ」


「は、はい!がんばります!」



ゴヘイは俺からの言葉を受け、感激したように何度も何度も手を握りながら頭を下げる。



ンダ族も順調に若い世代が育っているようだ。これでタゴサックも安心だな。

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