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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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屋台でお腹を満たした俺達が相撲大会会場に戻ると、大会は既に2回戦の終盤だった。


ここに帰ってくる前に念のためにもう一度組み合わせ表を確認してみたが、そこには俺の名前がしっかりと書いてあった。やはり俺の出場は間違いではないらしい。



「はぁ…。仕方ない、ウィルそろそろ準備しようか」


「その方がよろしいでしょう。まずは私が先のようですね」



組み合わせの順番で言うとまずはウィルが入り口に近い土俵で3回戦を戦うようになっている。そのしばらく後に俺が中央の土俵で取り組みだ。というか、俺は何かの間違いで決勝まで残ったとしてもずっと中央の土俵で戦う予定だ。



俺とウィルはラミィ達から激励の言葉を貰った後、それぞれの土俵近くに移動することにした。


観客席から降りると、そこには既に取り組みを終えた参加者や、俺達と同じくこれから3回戦を戦う予定の参加者が集まっている。


ほとんどの者は体のどこかしらに傷や土を付けているが、その表情は正に戦士の物といっていい勇ましい顔をしている。



「それでは行ってきます。ジャッジ様もお怪我などなさらない様にお気をつけください」


「あぁ。気を付けるよ。ウィルはちゃんと手加減してやれよ」



俺達はそう言い合うとそれぞれの土俵へと別れた。





そろそろウィルの取り組みが始まった頃だろうか。一段低くなっている上に多くの観客が詰めよってよく見えないが、隣のウィルが戦っているはずの土俵からは大きな歓声が聞こえる。


ウィルを応援する声が一番多いが、対戦相手の名を叫ぶ声もちらほら聞こえる。ウィルの相手は勝てないにしても、是非力を出しきれるように頑張ってほしいものだ。



俺がそんなことを考えながら控え席にじっと座っていると、



「ジャッジ様!そろそろよろしいでしょうか?」



と、係の女性が声をかけてきた。確かこの女性は以前ソバ饅頭を考案して、わざわざ館まで持ってきてくれた女性だ。あれは美味しかった。



「あぁ。いつでもいいよ。……ところで、前君から貰ったソバ饅頭はとても美味しかった。機会があれば(みんなに)作り方を教えてくれないか?」



俺が返事ついでにそう声をかけると、ソバ饅頭の女性は驚きながらもどこかうれしそうに、



「えっ!?(二人っきりで)作り方をお教えする…?わ、わかりました。いつでもお呼びください!」



と言うと何故か頬を赤らめている。



「……?あぁ、そのときは頼むよ」



俺はソバ饅頭とはなんか恥ずかしい工程を経ないと作れないものなのかな?などと考えながらも、案内されて土俵に上がる。



「さあ皆様!遂に我が国最強の国王の登場です!是非中央の土俵にご注目ください!」



きっとラミィの魔法の道具であろう拡声器を使って司会が俺の取り組みを煽ってくる。その言葉を聞いた皆の視線が一気に俺に殺到するようで、なんか居心地が悪い。



俺は出来るだけ観客のことは気にしないようにしながら、対戦相手の方を向き試合開始の合図を待つ。もちろん魔力は既に解放済みだ。今も身体中をすごい勢いで循環している。いきなり土俵の外に押し出されないように少し多めに足に集中させとくか。



俺の対戦相手は見たことのあるジャッド族の若者のようだ。まぁまぁ引き締まっていると自分では思っている俺の体と比べても、筋肉の厚さが大分違う。まともに当たれば吹き飛ばされそうだ。


その表情も俺を倒して一躍時の人になろうという気概に溢れ、気合い十分といった所だろうか。




「はっけよーい……のこった!」



審判の合図とともに俺に向かって突進してくる対戦相手。さすがに俺に打撃は躊躇いがあるのか、どうやら土俵外に押し出そうというつもりらしい。


そちらがそのつもりなら俺も付き合おうじゃないか。と、俺は足に集中させた魔力はそのままに前方に突き出した両手にも魔力を集め、突進してくる相手を受け止めようとした。


すると、


ドーン!


という音とともに、俺の手に衝撃が走ったと思った次の瞬間には、突進してきた相手の体が勢いよく土俵の外へと弾き飛ばされた。


……いや、正確には土俵の()()()外までだ。




「おっ?…す、すまん。大丈夫か?」



審判が俺の勝利を宣言したのを聞いた俺は、急いで飛ばされた相手の元に向かう。


まさかここまで力が増すとは思わなかった。受け止めるつもりが力加減を間違ってしまったようだ。



対戦相手であるジャッド族の若者はなんでもないように立ち上がりながら、



「さすがジャッジ様です!おみそれしました!」



と、気持ちよく負けを認めてくれた。負けた相手に敬意を払うというジャッド族の流儀はとても良いと思う。あれだけ勢いよく飛ばされたのに、怪我ひとつしていない体の強さもさすがだ。



……それにしても、とんでもない力だったな…。



俺は自分の為した結果に少し恐怖を覚えながらも、観客の歓声を受けながら皆の待つ席に戻った。


ウィルは既に帰ってきており、当然秒殺だったとの事だ。




「フフフ。どうだった?上手く使えたみたいね」



ラミィが楽しそうに声をかけてくる。やはり一番弟子である俺の勝利はうれしいのだろうか?



「あぁ、びっくりしたよ。あんなに力が出るなんて。次からはもう少し加減しないといけないな」


「あら?そんなこと言ってていいの?次はもう準々決勝よ?」


「ん?あぁそうか。俺はシードだったからな」



ラミィの言うようにあと2回勝てば決勝だ。ここまで残っている者は間違いなく強者だろう。手加減などしたら俺の方が怪我してしまうかもしれない。


まだ相手は決まっていないが、次も全力で挑むことにしよう。明らかに筋力で劣る俺にはそれしかないのだから。 





3回戦が終わると一度休憩となり、皆は食事などを摂る様子だ。俺達はさっき早めの昼食を既に食べてしまった為マジックバッグからお菓子等を出して、雑談しながら時間を潰した。


もうそろそろ準々決勝開始のアナウンスがあるかという頃、俺達の席にイーサンとロックが訪れた。



「ジャッジ様!素晴らしい戦いでした!皆も驚いていました!」


「ハハハ。まさか俺が勝つとは誰も予想していなかっただろうな。正直俺自身が一番驚いてる位だから」



苦笑しながらそう話すと、俺はイーサンとロックに試合の結果を尋ねた。



「ところで、二人とも勝ったのか?」


「はい!まだまだ若い者には負けませんよ!」


「私もなんとか勝利することができました。この相撲という競技は奥が深いですね。単純な力比べとは違って技や経験も重要な様です」


「おぉ!さすが将軍だな。俺と当たっても手加減するなよ」



どうやら二人とも順調に勝ち上がったようだ。イーサンはともかくロックはまだ相撲の経験が浅いから心配だったが、そんな心配は無用だったようだ。領兵として数多の戦場を駆けた経験は伊達じゃないってことだろう。



「ジャッジ様と当たるには次も勝たないといけませんね。その時は全力で胸を借りる気持ちで挑ませて頂きます!」



そう言ってイーサンとロックは俺達の元を離れていった。



「さて、俺達もそろそろ行かないとな。ウィル」


「はい」



俺の次の相手は確かジャッド族の中でも相撲の技に長けた壮年の兵だったはずだ。年齢を重ねた分その技術も増しているだろう。油断はできないな。


俺は気を引き締めながらも、一度勝てたことでもう自分の役割は果たせたという安堵感からか、最初の取り組みよりはリラックスした気持ちで土俵に向かった。

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