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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ラミィとの魔力の実技指導を終えた俺は、再び皆の待つ席に戻っていた。


ラミィの説明では、魔力を集中させた場所の筋力が大幅に増大するらしい。また、同時に防御力も上がるため、俺のように魔力量の多い場合は、ただ魔力を循環させているだけでも身体能力は普段の数倍にはなるということだ。それが各部に集中させると更に数倍だから、とんでもない力になる。



そういえば魔力のコントロールを教わり始めた頃に聞いたような気もする。あの頃は魔法を覚えることに精一杯でそれどころではなかったが…。



「……ということは、今までも魔法を使おうとしている時には数倍の力があったということか…。全く気付かなかったな…」


「…はい?何か仰いましたか?」



俺が席についてからぶつぶつ独り言を呟いていると、ウィルが不思議そうな顔でこちらを見ている。



「いや、なんでもない」


「そうですか?それより、そろそろ始まりそうですよ」


「お!本当だな。俺たちはシードだったから出番はまだまだだな」



見ると眼下の土俵では既に一回戦の取り組みが始まりそうな気配だ。出場する二名の兵が土俵に上がり、審判がその二人の間で準備している。どちらも見たことのある顔だが、残念ながら名前までは覚えていない。ジャッド族の中でも若者に数えられる年齢だったと思う。



俺の本来の役目は大会が終わった後の講評だから、開始の挨拶などは既にイーサンか誰かが行ったのだろう。他の土俵では既に取り組みが始まっている所もある。




「はっけよーい……のこった!」



なんかよくわからない掛け声と共に、俺たちの真正面の土俵でも最初の取り組みが始まった。



このジャッド族に昔から伝わる相撲という競技は丸い土俵の中で行われ、相手を外に押し出すかその場に倒すと勝利となる。倒すという定義も結構曖昧で手や膝が地面着いてもすぐ立ち上がれば負けにはならない。反対に尻餅や背中は付いた時点で即負けとなる。


実際の戦闘でも尻餅を着いたり背中が地面に着くようなことがあれば、それはそのまま死に繋がる。そういう意味では実戦的な競技とも言えるだろう。


相手を倒す方法も自由であり、武器の使用はもちろん禁止だが投げる以外にも素手で殴る事も足で蹴ることも可能だ。相手の体勢を崩すための頭突き等も有効な手段として使われるようだ。




「いけー!!」


「きゃー」



観客からは裸の男が取っ組み合う姿に歓声が送られている。この国での最大勢力を誇るジャッド族の女性達が多いだけあって、応援にも熱が入っている様子だ。


もしかしたら結婚相手を物色しにきた女性もいるかもしれない。がんばれジャッド族の戦士達よ。頑張り次第では嫁が見つかるかもしれないぞ。








取り組みは順調に消化されていき、何事もなく一回戦が終了した。


俺やウィル、更にはイーサンにロックなどはシードで3回戦からの出場になっている。その他にもオーウェン等の実績のある兵は最初からは登場しない。


少しずるい気もするが、最初から猛者が出ると何も活躍することなく敗退してしまう出場者が出てしまうからだろう。さすがにそれは可哀想すぎる。特にウィルと当たる予定の出場者なんかは悲惨だ。何もさせてもらえずに負けるのが決定的なのだから…。




「そうだ!外に屋台が出てたわよ!アンタ達も出番はまだでしょ?食べに行くわよ!」



ラミィが俺たちをそう言って誘ってくる。


そう言われて周りの観客を見回すと、時々串焼きなどを食べながら観戦している者がいる。あれが屋台で買った物だろうか?誰が店を出してるのかな?サニーかな?



「そうだな。腹ごしらえも兼ねて俺たちも行ってみようか」



俺はラミィに同意し、せっかくだからと皆も誘って屋台に出掛けることになった。




会場の正面から出てすぐの場所に目当ての屋台はあった。木製の簡易屋台と言った感じの物が少し離れて二つ並び、それぞれサニーとサンが店主の様だ。


サンの屋台からは肉が焼けるとても良い匂いがしてくる。サンの方が皆が持っていた串焼きに違いない。タレが焦げる匂いや、ジュージューという肉が焼ける音も食欲を刺激する。



「サン。儲かってるみたいだな。俺たちにも一つずつ貰っても良いか?」



俺が客が少なくなったタイミングでそう声をかけると、サンは大量に汗をかいた顔を上げた。



「あぁ!ジャッジ様!いらっしゃいませ!お一つずつですか?お一つと言わずいくらでも持っていって下さい!ジャッジ様方からはお代を絶対に貰うなと親父から口酸っぱく言われてますから」


「いやいや、そうもいかないだろう。サンもサニーも商売だ。もちろんお代は払うよ。なぁウィル…」



「えっ!タダでいいの!?やったー!じゃあ私3つね!一番脂が乗ってるとこ頂戴!」


「へい!お任せください!」



俺が料金は払うと言ったそばから、ラミィはその言葉を台無しにするようにサンに注文している。


……コイツには遠慮するとという機能は付いてないのか?とんだ不良品を掴まされた気分だ…。



俺が遠慮なしに串焼きを両手で受けとるラミィを見ながら呆然としていると、俺たちの分の串焼きを紙袋に詰めてくれているサンがもう一つの屋台について教えてくれた。



「ジャッジ様はもしかしたら親父の屋台の方がお好みに合うかもしれませんね。ジャッジ様のお好きなソバを使った食べ物ですよ」


「なに!?ソバ?それは行かないわけにはいかないな」



サンの言葉を聞いた俺はどっちにしろこの後顔を出そうと思っていたが、好物のソバと聞いて居ても立ってもいられなくなり、串焼きはウィルに任せて独りでサニーの屋台に向かうことにした。




向かうと言ってもサンの屋台からは目と鼻の先であり、ほんの数十歩歩くとすぐにサニーの屋台に着いた。



「おぉい、サニー。冷やかしにきたぞ」



俺はそうサニーに声をかけながらソバの姿を探す。



「ジャッジ様!いらっしゃいませ!」


「……ん?ソバなんだよな?」



サニーは俺に元気良く返事を返しながら鉄板で何かを炒めている。ソバ料理と聞いていたが………まさか、炒めてるのか?ソバを!?



まさかソバを炒めるとは思い付きもしなかった俺が、ビックリしたように手元を見ているのが分かったのだろう。サニーは自慢げに自らが発案したソバ料理の説明をしてくれた。



「ハハハ!驚かれましたか?これは私が考案したソバの鉄板炒めです。名付けてヤキソバです!」


「ヤキソバ?」



聞きなれない料理名に首を傾げる俺。しかし俺の嗅覚は正直の様で、サニーの炒めるヤキソバの匂いに唾を飲み込む。



「そうです!ただでさえ香りの強いソバを炒めると、更にその風味が増すのでは?と、考え思い付きました。ソバだけでなく、野菜や肉と炒めてこの甘辛いソースを絡めると絶品ですよ!是非お試しください!」



「確かに旨そうだ…。俺にも一つくれ!」


「かしこまりました!」



サニーはそう言うと、あらかじめ準備してあった木製の皿に山盛りのヤキソバを盛って渡してくれた。もちろん木製の箸もつけてくれた。



「馬鹿息子からも聞いたと思いますがお代は結構です!ジャッジ様からこれ以上何か頂くと、もう私が生きているうちには恩をお返しすることが出来なくなりそうですから」


「そうか?むしろ俺の方が色々貰ってる気がするんだが…。まぁいいか!ありがとう!ご馳走になるよ」



俺はそう言うと受け取ったヤキソバを早速一口食べてみる。立ったままで行儀が悪いとフラーに叱られそうだが、こんな良い匂いじゃ我慢できるわけない。


茹でてあるいつものソバとは違い、甘辛いソースの香ばしい匂いが食べた途端に鼻に抜ける。そのあとにソバ特有の香りもしっかりと感じられる。また、肉や野菜も入っておりお腹も満たされそうだ。



「旨い!これは旨いな!」


「ありがとうございます!ジャッジ様のお墨付き頂きました!」



俺の褒め言葉にサニーが大声でそう応えると、初めて見る食べ物に躊躇していた人々が、様子見をやめてサニーの屋台に殺到し始めた。



さすが商売人。これで俺がタダで貰った分の何倍もの儲けが出るだろう。やるな、サニー。

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