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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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相撲大会当日。ハートランド王国の天気は快晴であり、早朝には本日の相撲大会が予定通り開催される事の合図として、ラミィによってその快晴の上空に花火が打ち上げられた。



相撲大会は午前中から始まっておそらく丸一日かかる予定だ。なにしろ参加者が約600人しかいない国民中150人もいるのだ。


主にジャッド族で構成される兵の他に、ンダ族やゴーン族からも参加希望者が現れ最終的には150人という数になってしまった。


一応兵達の序列決めの為の相撲大会なのだが、こうなると娯楽の要素が強くなってしまい、むしろ序列決めがついでみたいな所もある。


まぁ、皆が楽しめるならそれでいいけどね。




「おぉーい。皆行くぞ。ほら、フラーも急いで」


「ち、ちょっとお待ちください。やはり、私は留守を守らなくては……」


「いーや、ダメだ。今日の相撲大会は皆参加なんだからな」



そうやって渋るフラーを無理矢理連れ出した俺は、館に住む皆と連れだって相撲大会会場に向かう。


会場は皆の家が並ぶエリアからは少し離れた、復興前に住宅が立ち並んでいて今は更地になっている場所に造られている。


丸い円を描くように造られた舞台(土俵というらしい)が3つ並び、それを囲むように3段の観客席が造られている。俺も少し土魔法で手助けはしたが、ほとんどは兵達が一昨日と昨日の二日間で造り上げた物だ。



会場に着くと、参加者は既に組分けを待っている様子で上半身裸の男達が勢揃いしている。こうやってみると、やはりジャッド族の男達の体はすごい。皆筋肉ムキムキで褐色の肌がよく似合う。



さて、じゃあどの辺りで見物しようかなー。と、俺がぼつぼつ埋まり始めた観客席を物色していると、



「ジャッジ様!ようこそおいでくださいました。ジャッジ様方の見物席はご用意させて頂きました。どうぞこちらへ」



と、忙しいイーサンに代わりオーウェンが席に案内してくれた。


どうやら俺達の座る場所は一番高い場所のようだ。ここならどの土俵もよく見える。俺たちだけずるい気もするが、発案者だしこのくらいはいいだろう。



俺は案内された席に着くと、オーウェンに声をかける。



「ありがとう。オーウェンも出るんだろ?がんばれよ」


「はっ!ありがとうごさいます!ジャッジ様に恥ずかしい姿をお見せしないよう、全力で戦います!」


「これはイーサンとロックもうかうかしてられないかもな。期待してるよ」



力瘤を作りやる気に満ち溢れた表情のオーウェン。若さで言えばオーウェンに分があるだろうし、これはもしかしたら本当にイーサンに勝ってしまうかもしれない。


俺がそんな風に軍の世代交代について思いを巡らせていると、オーウェンが不穏な事を口にする。



「あれ?確かジャッジ様もご参加されるのでは?名簿にジャッジ様のお名前があったような…」


「なっ!なに!?うそでしょ!?」



おいおい。そんな事一言も聞いてないぞ。これは早急に確認しなくてはいけない。こんな筋肉ムキムキの男達に投げ飛ばされたら大怪我どころじゃすまないぞ。



「ち、ちょっと見てくる!」


「私もお供します!」



そう言うなり、席を離れ半裸の男達が集まる場所に急ぐ。付いてきたウィルと共に、抽選の終わった組み合わせ表に飛び付くようにしてその中身を確認する。


すると、一番右のシードに俺の名前が書いてあった。



「うわっ!本当に参加することになってる!」


「……私の名前も書いてあります」



ウィルの指差す先を見ると確かにウィルの名前もある。俺とは反対側のシードらしい。


あぁよかった。これでウィルと当たるのは決勝まではない。負けないぞー。


………………じゃない!




「おい!イーサンはどこだ!?ロックでもいい!」



俺は必死に周りを見回し、周りの兵にも声をかけてイーサンとロックの姿を探す。


すると、兵達をかきわけるようにイーサンが現れた。



「おぉ!ジャッジ様。ようこそおいでくださいました。本日は私達の為にこのような素晴らしい大会を開いて頂き、皆心から……」


「ちょ、ちょっと待て!挨拶はいいけど、これはどういうことだ?」



長々と挨拶を始めたイーサンの言葉を遮り、俺は組み合わせ表の自分の名が書かれた部分を指差しイーサンに詰問する。


イーサンはそれを見て、ギクッと音がしそうな顔をした後申し訳なさそうに理由を説明し始める。



「……じ、実は、兵達の間からジャッジ様とウィル殿の相撲での実力が見たい。という意見が続出しまして…。私は必死に止めたのですが、やはりあれだけの魔法を使われるジャッジ様ならきっと相撲もお強いだろうと、皆は確信しているようです」


「えぇー……」


「どうか!どうかお願い致します!」


「えぇー……」







結局イーサンに押しきられる形で俺の相撲大会参加が決まった。ウィルはなんかいつのまにか参加になっていたが、それは問題ないだろう。対戦相手が可哀想なだけだ。



問題は俺だ。お世辞にも筋力はあるとは言えない。そりゃ寝たきりの頃からしたら大分体力は戻っていきいるが、魔法の使えない相撲となるとよくて人並みといった所だろう。あんな筋肉ムキムキの兵士に敵うわけない。



「はぁ…」



席に戻った俺が、近い将来訪れるみっともない負け方を想像しながら肩を落としていると、



「何よ、ため息ばっかりついて。そんなに私と二人っきりじゃないのが不満なの?」



などと隣のラミィが的はずれな質問をしてくるので、俺は相撲大会に参加することになった経緯を説明した。



それを聞いたラミィは始めは爆笑していたが、ひとしきり笑って落ち着いてくると仕方ないと言った感じでアドバイスをくれた。



「……あー、面白かった。じゃあアンタに裏技を教えてあげるわ。実は魔法にも身体能力を上げる方法があるのよ。それも元の何倍もね」


「ほ、本当か!?どうやるんだ?」



ラミィは笑いすぎて腹筋でも痛くなったのか、お腹を押さえながら立ち上がると、付いてきてと俺を外に連れ出した。





「さて、あまり時間がないけど基礎が出来てるアンタならすぐに出来るでしょ」



連れ出した会場の裏手でラミィは俺に向かってそう言うと、裏技のレクチャーを始めた。



「まずは魔法を使う前みたいに、ストッパーを外して魔力を体内に循環させなさい。それも目一杯」


「こ、こうか?」



俺はラミィの言う通り全力で魔力を循環させる。


身体中を魔力がグルグル回るイメージで集中すると、俺の体か金色に輝きだした。これも毎日訓練で行っているから、最初からすると大分スムーズにできるようになっている。



「相変わらずすごい量ね…。まぁいいわ。じゃあその魔力を足に集めるイメージで移動させてみて。私がやるのを見ながらでいいから」



ラミィはそう言うと自らも魔力を循環させ始めた。そしてその魔力を下半身に移動させ始める。魔力を見ることのできる俺の目にはラミィの魔力が下に動いているのがよく分かる。



「わかった。やってみる」



俺もラミィのように魔力を下半身に動かすイメージで集中するが、なかなか上手くいかない。見るのとやるのとでは大きく違うみたいだ。



「イメージはそうね…。下に動かすって感じじゃなくて、元々身体中を循環している魔力を下半身で留めるって感じかしら」


「……留める?なるほど、それなら…」



ラミィの助言を聞き、動かすのではなく留めるイメージで集中すると魔力が下半身に集まっていくのが分かった。



「おぉ!出来た!出来たぞ!」


「いいわね。まだ無駄が多いけど最初だしそんなもんでしょ。それじゃそのままの状態でジャンプしてみて」


「……ジャンプ?跳べばいいのか?」



俺は不思議に思いながらも、軽く跳ぶつもりで地面を蹴った。


すると自分が思っていた数倍は跳び上がり、なんとそばに生えていた木の天辺より高く跳び上がることができた。



「おぉ!なんだこれは!」



あれだけ高く跳び上がったというのに、着地した足も全く痛くない。俺は驚き、今自分が天辺まで跳んだ木や自分の足を何度も繰り返し見る。


ラミィは満足そうにそんな俺を見ていたが、ラミィポーズをとると俺にこう言い放った。



「それが魔力の裏技よ!それで相撲大会で王の強さを見せつけてきなさい!」

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