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ケイレブ伯爵の住むセカーニュの街には、ある程度大物のデーヤモンド商品が揃ってから行くことになり、取りあえずはデーヤモンドの加工を待つことにした。
デーヤモンド販売の儲けに関しては、ソバの時と同じで良いとサニーが言ってくれたので、またもこの国は大儲けできることになりそうだ。本当サニー様様だ。
今日は、サニーの店ハートランド王国本店の建設の為に、建設予定地にラミィと共に来ている。イーサン達ジャッド族に全部頼んでもいいのだが、やはり店舗となると複雑な造りになる為、細かい所はラミィの無属性魔法の出番となる。
「どう?こんなもん?」
「おぉ!なんと素晴らしい!……ですが、もう少し右に寄せて頂くと更に素晴らしい気がします」
「そお?やっぱり天才美人魔女王妃にかかればこの位簡単なのよねぇ。……こんな感じかしら?」
「素晴らしい!世界に類を見ない美しさと同時に、このように素晴らしい魔法まで使えるとは、ラミィ様こそ真の王妃と呼ぶに相応しいですなぁ。……あぁ、そこは少し下にお願いします」
「ホーホッホッホ!そうよ!もっと私を讃えなさい!……この位下でいいの?」
なんかすごくラミィの扱いが上手いサニーに、上手く使われているラミィをよそに、俺はウィルとロックとその様子を見物していた。
「……なんかサニーがすみません。昔から口が達者な男でしたが、商人となってからは更に拍車がかかったようでして…」
「……いや。あれは踊らされるラミィが単純なんだ。あの調子だとデーヤモンドの加工も喜んでするだろうな。哀れな女だ…」
「ラミィ殿……」
俺たちは三者三様の感想を抱きながら、大道芸人の見世物のピエロの様に、哀れに働かせられるラミィの様子を見ていたが、ふとロックがこんなことを言い出した。
「そうだ!ジャッジ様。イーサン殿が兵の序列を決めるための相撲大会を開きたいと話していました。そしてその講評をジャッジ様にお願いしたいと」
「相撲大会?なんだそれ。……でも面白そうだな!」
ロックの話をまとめると、ロックが将軍として加わり、ハートランド軍にも兵法というものが少しずつ浸透してきた。その為、部隊ごとに訓練をすることも多くなってきたのだが、その部隊をまとめる部隊長を誰にするかで揉めることも多くなってきたらしいのだ。
そこで、将軍であるイーサンとロックを頂点として、それを補佐する部隊長を数人選出することになり、じゃあ相撲で決めよう。ということになったらしい。
「ウィルも出てみたらどうだ?っていっても相手にならないか」
「いえいえ。イーサン殿やオーウェン殿などはかなりの強力で苦戦しました」
イーサンのいる軍の兵舎に向かう道すがら、俺がウィルに話しかけるとウィルは謙遜してそう話す。
以前見たときは、ウィルが造作もなく兵達を投げ飛ばしていたから本当に謙遜だろう。そりゃ山の様な岩を軽々と投げ飛ばすウィルにかかれば、人なんて軽いものだろう。比べるのが野暮というものだ。
「いやぁ。遂にジャッド族と相撲がとれるのかぁ。夢のようです!」
ロックは将軍のくせに自分も参加する気満々だ。きっとイーサンも出るのだろう。この国のおじさんは皆血気盛んだ。
俺が兵舎に着き、イーサンに相撲大会の見物に来たことを伝えると、
「おぉ!わざわざ足を運んで頂いてありがとうございます!我々ならいつでも準備はできております!早速今から始めますか?」
と、今すぐにでも相撲大会を始めそうになったので、俺はロックから話を聞いた時から考えていたことをイーサンに提案した。
「いや、ちょっと待ってくれ。せっかくだから国民皆が見ているところでやらないか?その方が兵達もやる気が出るだろう。皆も自分達を守る兵の実力を見たいと思っているかもしれないし」
「……なるほど。さすがジャッジ様!そこまで深く我々国民のことをお考えになって下さっていたとは…。感動しました!」
「いやいや…。そんな感動するほどじゃないって」
イーサンは俺の言葉の真意をあまりに深く取りすぎて感動している。俺はただあまり娯楽の無い皆に相撲大会という娯楽を提供したらどうかなー?なんて思い付いただけなんだが…。
「よぉーし!そうと決まれば会場の設営に取りかかるぞ!わかったな、お前ら!」
「オォー!!」
イーサンがそう命令すると、いつまでたっても軍というより盗賊みたいな掛け声の兵達は、イーサンの指揮のもと威勢よく会場の設営に取りかかった。
当然将軍であるロックもそれに加わる為に俺のもとを離れていき、その場には俺とウィルだけが残された。
「さて、簡易とはいえ会場が出来るのは今日一杯はかかるだろう。相撲大会はちょっと余裕を見て明後日あたりにするか?」
「それがよろしいでしょうね。他の皆に宣伝する時間も必要だと思われます」
「あぁ、そうか。皆に知らせないといけないのか…。よし!俺は今日は暇だから宣伝活動でもするかな」
「お供します」
そう会話を交わすと俺はイーサンに相撲大会は明後日行おうと伝え、自分は他の国民への宣伝に回ることにした。
あまり国王が自ら宣伝活動するという話は聞いた事がないがまぁいいだろう。こんなちっちゃい国だから皆が知り合いみたいなもんだしな。俺が国王だからと言って変に萎縮する者もいないし、子供なんかは一緒に遊ぼうと言ってくれたりもする。うれしいことだ。
その後俺とウィルは、まずは中央広場(ジャッジ像広場)にいる人達に明後日相撲大会が開かれることを伝え、知らない人には伝えてもらえるよう頼んだ。その後はンダ族の働く畑に行き、タゴサックに明後日は仕事は休んで相撲大会の見物に来るよう話をした。
話を聞いたタゴサックは、
「……かしこまりました。皆にも伝えておきます」
と、言葉少なに了承してくれた。何故か仕事が休みだと少し残念そうなのがンダ族という民族だ。働くのが嫌いな俺には理解できないが、よっぽど農作業が好きなのだろう。
好きと言う物は人それぞれだ。この国では人に迷惑さえかけなければ、好きな事を好きなだけすればいい。俺が望むのはそんな国だ。だからタゴサック達も好きなだけ農業に打ち込んでもらいたい。
そんな感じで宣伝活動に勤しんでいたら、いつの間にか夕方になっていた。真っ白なソバ畑が赤い夕日に照らされてとても綺麗だ。
「さて、そろそろサニーの店もいい感じになってきた頃じゃないか?一度戻ろう」
「はい」
俺とウィルはそう言い合うと、街の中心部に向かって歩き出す。サニーの店の建設予定地は中央広場すぐ横だ。
「おぉー!なかなか立派な店になりそうだな」
俺たちがサニーとラミィが作業している現場に着いたとき、既に本日の作業は終わった様子でラミィはベンチに座ってクッキーをポリポリ食べていた。周りにはちっちゃい子供が数人集まり、リスのようにラミィからもらったクッキーを両手で持って噛っている姿がある。
「えぇ。今日で大分進んだわね。後は内装が少し残っているくらいかしら?サニーは中で内装を考えてるわよ」
ラミィは大分お疲れの様子だ。きっと俺たちが去った後もサニーの口車に乗せられて、それこそ馬車馬のように働かされたのだろう。
「王さま!ラミィねえちゃんの魔法すごいよ!木がびゅーってなったり、グニャグニャになったりするの!」
子供の集団からトトトトッと俺の方にエミリーが駆け寄ってくると、身振り手振りを交えながらさっき見た光景を説明してくれる。
その髪には俺が贈ったカチューシャが光っている。口の周りや服にはクッキーの破片がボロボロ付いているから、大分長いことクッキーを食べながらラミィの作業を見学していたのだろう。
「おぉ、そうか。実はあれと似た事を俺も出来るんだぞ?今度見せてやろう」
「ほんと!?パパは王さまの魔法は山を吹き飛ばせるって言ってたよ?私の家吹き飛ばさない?」
エミリーはやや不安そうにそう尋ねてくる。
「ははは…。だ、大丈夫だよ。危なくないやつもあるから」
「わかった!じゃあ約束ね!」
「あぁ、約束だ。……ほら。そろそろ夕御飯の時間じゃないか?早く帰らないとママに起こられるぞ?」
「えっ!?そうだ!じゃあね王さま!約束だよ!」
エミリーはそう言うと皆に声をかけて自宅に向かって走って帰っていった。残りの子供達も続々と帰宅していく。
「………イーサン。俺が危ないやつみたいな言い方しなくてもいいのになぁ…」