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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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翌日。昨夜しっかりとジャッジ教の信徒となったらしいウィルとともに、俺は国民代表者会議に参加していた。


会議では新しく仲間入りを果たしたサニーとロックの紹介から始まり、サニーの店の新店舗建設やロックの将軍就任が決まった。


サニーはまさか店舗をタダで建ててもらえるとは思ってもいなかった様子で、狂喜乱舞していた。ロックも将軍就任を快諾してくれた。兵長から将軍とは、国は違えど出世には間違い無いだろう。これからは先任将軍のイーサンと共に、ハートランド王国軍の中核を担ってもらいたい。




「さて、後はデーヤモンドの扱いに関してだが…」


「はい!それについては私に腹案があります」


「おっ?それは助かるな。聞かせてもらえるか?」



俺が今回一番の難航すると思われていたデーヤモンドについて言及すると、サニーがさっと手を挙げて発言した。どうやら昨夜のうちに考えてきてくれたようだ。



「はい。皆さんもご存じの通り、デーヤモンドは大変貴重です。まずはこれをご覧ください」



サニーはそう言うと、懐からひとつの指輪を取り出した。銀色に輝くその指輪には小振りな宝石が光っている。おそらくあれもデーヤモンドだろう。


サニーはその指輪を皆の座る机の中心に置くと、皆の顔を見回すように見た後質問を投げ掛ける。



「これは時折市場に出回っている平均的な大きさのデーヤモンドの指輪です。この指輪でいくらすると思いますか?」



サニー先生の質問を受けた皆は、それぞれ頭を悩ませている様子だ。フラーとフォージだけはおよそ見当がついているのか余裕の表情だが、その他のメンバーは指輪を手に取ったて眺めたり、こそこそと隣の者と相談したりしている。

かくいう俺も指輪についたデーヤモンドをじっくり眺めるが、値段となるとさっぱりだ。



「ハハハ。実はこのサイズのデーヤモンドが付けられた指輪で金貨100枚します」


「ひ、ひゃくまい!!」


「そんなに!」


「な、なんと…」


「詐欺よ!私は騙されないわ!」



サニーから正解が発表されると、フラーとフォージ以外の全員が驚いている。もちろん俺もかなり驚いた。なぜなら、この指輪に付けられている位のデーヤモンドの欠片なら、魔法で加工するときに鉱石に余った分を捨ててしまっていたからだ。


今考えるととても勿体ないことをしていたらしい。確か館の裏の山に捨ててたよな?後で拾いに行った方がいいかな?



俺が過去の愚かな行いを反省していると、サニーは驚く皆に満足したようで続きを話し始めた。



「そうです。皆さんが驚かれたように、デーヤモンドというのはとても高値で取引されています。そして、このサイズからは大きければ大きい程値段がつり上がります。それは、大きなデーヤモンド原石があまり見つからないことが原因です」


「なるほど…。ということは、魔法で加工してデーヤモンドだけを固めている俺たちはズルしてるってことになるのかな?」



サニーの説明を聞き、自分達のしていることに疑問を抱いた俺はサニーに尋ねた。


すると、サニーは手を横に振りながら答える。



「いえいえ、そんなことごさいません。ほんの極稀にですが大きなデーヤモンドの原石が発見されることもあります。もしかすると、それもジャッジ様とラミィ様のように魔法で加工された物かもしれませんね」


「……その可能性もあるか。魔女はラミィ以外にもいるわけだもんな…」



他の魔女も当然無属性の魔法が使えるだろう。それならばデーヤモンド加工もお手のものだ。


すると、ラミィがそこで口を挟んできた。



「あぁ。それは多分無いと思うわよ。人の世界に関わりを持とうとする変な魔女なんて私くらいだと思うわ。…あ!それとアンタの母親もいたわね」


「そうなのか?」


「えぇ。私達魔女は長く生きるからこそ、人の世界の移り変わりについていけないのよ。それが嫌になって独りで生きていくの。……まぁ、私とかアンタの母親みたいに一緒に生きていきたいって人でもいれば別だけど…」



ラミィは話しながらどんどん顔を赤くしていく。なんか聞いている俺まで恥ずかしくなってきた。皆の視線が痛い。みんなニヤニヤして俺を見てる気がする。



「ほほぅ。孤高の魔女まで落とすとは、ジャッジ様もなかなかやりますな」


「それでこそ我が王に相応しい!我が娘のことも是非お願い致します」



フォージとイーサンがそう言って茶化してくる。この二人はジャッジ像建設の事があってから妙に仲が良い。筋肉ムキムキ同士どうやら馬が合うようだ。そう言う意味ではロックとも気が合いそうだ。



「と、とにかく!デーヤモンドが貴重だって事は分かった。後はそれをどうやって売っていくかだ。そうだろ?サニー」



俺は話を逸らそうと、声を大にしてサニーに投げ掛ける。



「仰る通りです。貴重故、あまり大量に市場に流すと値が荒れます。更に出所を探ろうとする者も当然出てくるでしょう。この国の安全の為にもそれは避けなければなりません」


「勿論だ。皆が安心して暮らせなければ意味がない」


「はい。そこで私が考えたのは、大物と小物の二面販売です」


「二面販売?」



サニーの口から出た聞きなれない言葉に俺は首を傾げる。他の皆も聞いたことのない言葉のようでキョトンとしている。


タゴサックに至っては、大分前からうつむいて黙ったままだが、あれは寝てるんじゃないだろうか?まぁ毎日畑仕事で疲れているだろうしな、今はゆっくり休んでくれ。お疲れ、タゴサック。



「そうです。小物、つまりこの指輪のように市場に出回っても不思議でないサイズのデーヤモンドは、少量ずつですが私かサンが行商で売りに出ます。それとは別に、滅多に市場に出回らない大きいサイズのデーヤモンドを、身分の高い方々に直接購入して頂こうと思うのです。それも秘密裏に」



自らの考えたデーヤモンド販売方法を説明するサニー。今のところ特別変わった方法ではない気もする。王族や爵位を持つ貴族、または大商人などに直接営業に来る商売人は多い。そのほとんどが珍しい品や、庶民には手が出せない高価な商品を持参してくるはずだ。


俺がそんな風に考えていると、ウィルが口を開いた。どうやらウィルも同じようなことを考えていたみたいだ。



「……それだと従来の販売方法と同じでは?サニー殿から大物のデーヤモンドを購入した客がサニー殿の身許を洗えば、この国に辿り着いてしまうのではないですか?」



すると、サニーはニヤッと笑うと更に説明を始めた。



「ウィル殿の仰る通り、私が売ればすぐにこの国の事がバレてしまうでしょう。それを避ける為にも、この二面販売には協力者が必要です。そこで、それをケイレブ伯爵にお願いしようと思っているのですが…。いかがでしょうか?ジャッジ様」


「ケイレブ伯爵に?どういうことだ?」



俺にはいまいち意味が分からなかったが、ウィルやフラーは、


「なるほど!」


とか、


「……それは考えましたね」



などと納得しているようだ。



「ケイレブ伯爵はご存じの通りジャッジ様の事を真の主と定めているご様子です。そこで、ケイレブ伯爵とご親交のある貴族の方々に、直接大物のデーヤモンドを紹介して頂ければと考えました。デーヤモンドの出所は他国の行商人から買ったとでも説明して頂ければ、私のこともこの国の事もバレないでしょう。更に、その貴族から噂が広まれば別の貴族、また別の貴族と、大物のデーヤモンド購入客は途切れることなく続くはずです。お金はある所にはあるものですから」


「……な、なるほど!サニーそれはすごく良い考えじゃないか?どう思う皆?」



懇切丁寧に説明を受けて、ようやくサニーの考えが理解できた俺は感動した。ケイレブ伯爵の協力が必要不可欠だが、必死に頼めば了承してくれるはずだ。この国の為なら俺の頭位いくらでも下げよう。



俺の問いかけに、皆も一様に頷いてくれた。ラミィだけはポカンとした顔をしたままだが、コイツは放っとけばいいだろう。間抜けな顔もかわいいし。



「よし!じゃあデーヤモンドに関してはその方法で販売しよう。細かいところはサニーに任せるよ。細かい加工は俺にはできないけど、固めるまでなら出来るからいつでも声をかけてくれ」


「はい!お任せください!この国とジャッジ様が好きなだけ贅沢できる位には稼がせて貰いましょう」




こうしてデーヤモンド販売に関する事が決まり、国民代表者会議は解散となった。



……あぁ。ちなみにタゴサックは皆が椅子から立ち上がるガタガタッという音で目覚めた様子で、その後何事もなかった様な顔で会議室を出ていったが、口許にはよだれの後がくっきりと付いていた。



お疲れ、タゴサック。いつも皆の為に美味しい野菜やソバを作ってくれてありがとう。

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