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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「あー!楽しかったわね!」


「そうだな。ケイレブ伯爵にも久しぶりに会えたしな。それにソバの人気も実際見ることができてよかった」




俺達はセカーニュの街からヒコウキーに乗って帰る途中だった。ラミィは上機嫌でハンドルを操作している。


昨日の午後と今日の午前中いっぱい、俺達はセカーニュの街を堪能した。


いつもながら不思議なラミィの情報網を頼りに数軒の甘味処を巡って、その間には他の店も見て回った。ラミィはその小さい体のどこに入るのか、どの店でも数種類の甘味を注文しては平らげていた。



「それにしてもケイレブ伯爵はもうアンタの臣下になったつもりね」


「………」



ラミィが茶化すように話す言葉に、俺は昨夜を思い出し苦笑いで黙ってしまう。



昨夜はケイレブ伯爵と久しぶりに話をしながら夕食を共にした。ケイレブ伯爵邸にて街でも有名な料理人を招いて行われた夕食会には、とても食べきれない程の料理が並んでいた。


数々の料理はそのどれもが美味しく、俺も満腹になるまでご馳走になり食後はお腹が苦しい位だった。ラミィも俺以上に食べていたから、きっと満足したことだろう。



……しかし。しかしだ。夕食の時も、その後軽いお酒を楽しみながら会話した時も、ケイレブ伯爵は俺に対して臣下としての態度を崩さなかったのだ。


何度も俺が普通に接してくれるよう頼んだが、ケイレブ伯爵は頑としてその態度を変えようとしなかった。俺は一応他国の王だからある程度の礼儀は必要だというのは分かるのだが、その度を過ぎた態度や持て成しぶりには終始閉口した。



「………ま、まぁどう思うかはケイレブ伯爵の自由だからな!俺がどうこう言う問題じゃないはずだ。……よな?」


「フフフ。さぁね」



俺達はそんな風にセカーニュの街での出来事を話しながら、我が家のあるハートランド王国への道のりを文字通り飛ぶように帰っていた。











「コブ!コブはいるか?」



ジャッジ達が去った後のケイレブ伯爵邸には、ケイレブ伯爵が執事のコーブルを探す声が響いていた。



「はい。何かご用でしょうか?旦那様」



長年ケイレブ伯爵に仕える執事のコーブルは、主の自分を呼ぶ声にその姿を現した。


この執事のコーブルであるが、とても有能でセカーニュの街や周辺地域の領主を務めるケイレブ伯爵の右腕として日夜働いていた。ちなみにコブというのはケイレブ伯爵がコーブルを呼ぶ際の愛称である。



ようやく自らの相談相手を見つけたケイレブ伯爵は、近くにあった椅子に腰かけると早速相談事を口にする。



「コブ。ジャッジ様とラミィ様は楽しんでおられた様子だったか?私には楽しんで頂けた様に見えたんだが…。お前から見るとどうだ?」



コーブルはその場に直立のまま、少し宙を見つめここ二日間の事を思い出していた様子だったが、ゆっくりと主の質問に答える。



「はい。私にも大変楽しんでおられた様に感じられました。……ただ」


「……ただ?なんだ?何か問題があったのか!?」



言い淀むコーブルの様子に、慌てて口を挟むケイレブ伯爵。彼が心の主と敬愛するジャッジに、何か失礼があったとしたらとても許せる事ではない。



そんなケイレブ伯爵とは反対に、あくまでも冷静にコーブルは続きを話し出した。



「……ただ、旦那様のあまりの持て成しぶりに、ジャッジ様も幾分困っておられるようにも見えました」


「……………そうか。ジャッジ様はあのように謙虚なお人柄だから、あまり直接的に接待されるのはお好きではないのかも知れんな」


「いや、そういう事では…」


「そうか!分かったぞ!それならば影からジャッジ様を支えるという意味で、ハートランド王国産のソバの購入量を増やすことにしよう!ちょうど以前この街に訪れたサニーと言う者に、国としての貿易を全て任せると仰っていたではないか。次にその者が訪れた際には買えるだけのソバを購入しよう!そうだ!それがいいな!」



コーブルの言葉の意味を履き違えたケイレブ伯爵は、自らの思い付きに満足したのかニコニコと満面の笑顔だ。


基本的にケイレブ伯爵の事が大好きなコーブルも、満足そうな主の姿を見て、これはこれでいいか。と、勘違いを正すことなくその様子を笑顔で眺めている。




こうして、ジャッジが知らないところで大口のソバ購入先が誕生していたのである。









「あ!見えてきたな」



ヒコウキーに乗る俺の目線の先に、愛する我が国を守るようにそびえ立つ山々がその姿を現した。


ラミィの運転するヒコウキーは、その山々を飛び越えるように通過した後徐々に高度を下げていく。あまり急に下げすぎると何故か耳がキーンとなって痛いのだ。前回はそれでしばらく耳の聞こえ方が悪くなったような気がした。



「たった二日間だったけど、やっぱり自分の国に帰ってくるとほっとするわね」


「あぁ。そうだな」



何か毎回帰国する度にこの会話してないか?と思いながらも、そんな会話をラミィとしながら俺たちの乗るヒコウキーは少しずつ街の上空を降りていく。



着陸の目印になる館が見えてきて、ラミィは下降速度を落としながらゆっくりと館の庭に着陸する。

そこには出迎えの為か、いつものウィル、フラー、エマの他にイーサンやフォージの姿もあった。



俺はヒコウキーから降りると、待ち構えている皆のもとへ歩き挨拶する。



「ただいま。皆のおかげで楽しかったよ。何か変わったことはなかったか?」



すると、皆を代表してウィルが返事をする。



「無事にお帰りくださり安心致しました。留守中もこの国も皆も変わりなく過ごしておりました」


「そうか。皆が無事ならそれでいいよ。あぁ!ケイレブ伯爵にも久しぶりに会ったぞ。あんまり多くはないけど土産もある。後で渡すよ」


「そんなに気を遣って頂かなくてもよろしかったものを…」


「ハハハ。ウィルがよくてもエマは欲しいかもしれないだろ?」



俺は茶化すようにそう話しながら、側に立っているエマの方を笑いながら見る。エマはその言葉を聞いて少し恥ずかしそうに頬を赤らめている。


そんなエマの様子を、かわいいなぁと思いながら眺めた後、俺たちは連れだって館の中に入った。時間はすでに夕方であり辺りの景色も夕日で赤く染まり始めていた。






たった一泊二日ではあったが、旅で疲れた体を露天風呂で癒した俺は、夕食を皆と一緒に食べた後リビングで寛いでいた。



「……あぁ、そうそう。帰りついた時にも話したけど、ケイレブ伯爵と久しぶりに会ってきたぞ」



俺はふと思い出して、隣でソファに座るウィルと、仕事終わりで一緒にいたエマに話しかける。



「ケイレブ伯爵もお変わりなかったですか?」


「あぁ。相変わらず元気だったよ」


「フフフ。アンタのことをまるで自分の主みたいに接待してたしね」


「ば、バカ!それは言うなよ!」



俺たちの会話にラミィが横から茶化すように口を挟んでくる。



「……主ですか?」


「……あぁ。なんか妙に盛大に接待されたんだ。ケイレブ伯爵も何度言っても、へりくだった態度をやめてくれなかったしな。まいったよ」



その言葉を聞いたウィルは、何故か満足げに口を開く。



「……なるほど。ケイレブ伯爵もジャッジ様の素晴らしいお人柄に遂に気付かれた訳ですね。さすが領主として多くの民を治める人物です。人を見る目がありますね」


「いや、そういう訳じゃ…」



俺が否定しても、ウィルは自分の言葉に満足したのかしたり顔で何度も頷いている。



……まぁ、実際ウィルの言うことは大きく間違ってはいないとは思うが…。色んな人から慕われるということは、俺のこれまでの国作りが間違っていなかったということでもあるし、王としての自信にもなるからいいんだが。


……なんか俺を慕ってくれる人のおじさんの割合が多すぎないか?ウィル、イーサン、タゴサック、フォージ、ケイレブ伯爵と、みんな世間的にはおじさんと言われる世代だ。


このまま行くといずれこの国はおじさんだらけになってしまうかもしれない。




……………それも面白いな。

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