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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「……こ、これは。ジャッジ様…?」



呆然とジャッジを象った像を眺めるウィル。そんなウィルに恐る恐るイーサンは話しかける。



「う、ウィル殿?やはり勝手に像を作ったのはまずかったですか…?」



隣のフォージも初めて見るウィルの本気の威嚇に恐れをなしている様だ。固まったようにじっとして動かない。



ウィルはやっと自分が勘違いしていたことに気付き、ばっと頭を下げると二人に向かって謝罪の言葉を口にする。



「す、すみません!私の勘違いでした!てっきり、お二人が罠を作成してジャッジ様とラミィ殿を陥れるつもりだと…」



イーサンとフォージはその言葉を聞いて、しばらく顔を見合わせていたが、いきなり笑い出した。



「……ハハハ!まさか!そんなわけあるはずないですよ。私達がジャッジ様とラミィ様を罠に陥れるなど、天地がひっくり返ってもあり得ません」


「そうです!わしがこの国に来られてどんなに幸せか。この像もその感謝の気持ちを込めて作ったのですから」



よく考えれば、二人が反乱を起こす理由など無いことにすぐ気付けたはずだ。と、はやとちりで二人にきつく当たってしまったウィルは猛省していた。



イーサンはどうやらウィルの勘違いだと察したようで、ほっと肩の力を抜くとともに良いことを思い付いた。



「そうだ!ウィル殿にも手伝ってもらいましょう!ウィル殿の力があれば像を設置するのも楽にできるはずです」


「おぉ!それはいい考えだ!わし達だけではさすがに厳しいと思っていた所ですからね。よろしいですか?ウィル殿」



二人からそう提案されたウィルは、自分の軽率な行いを反省していたこともあり、すぐに了承した。



「もちろんです!是非手伝わせてください!」


「ハハハ!これで明日のお二人の帰還前には設置できそうですね」



誤解だったと分かりいつもの態度に戻った二人と、自らの勘違いを反省していつもより謙虚な態度になったウィルは、協力してジャッジ像の搬送に取りかかった。





その後すぐウィルとイーサン、フォージの三人はジャッジ像を荷車に載せ、街の中央にある広場に向かっていた。



像はなんと全てデーヤモンド製であり、なかなかの重量だったが、ウィルの力があればさほど苦労することなく運ぶことができていた。



いかに頑丈な荷車とは言え、巨大なデーヤモンド製のジャッジ像を載せて走ると、ミシミシと各所から木が軋む音が聞こえる。


フォージの工房から街の中央広場まではさほど距離は無いとは言え、途中で落とすわけにはいかないので、三人は土で出来た道をゆっくりと荷車を押していた。



「しかし、このように大きなデーヤモンドならラミィ殿の魔法無しでは作れなかったでしょう。一体なんと言って作ってもらったのですか?」



像を運ぶ途中で疑問に思っていたことをウィルが二人に尋ねる。



「ハッハッハ!実はですね。この像の大元を作ったのはラミィ様ではなく、ジャッジ様ご本人なのです」


「な、なんと!?ジャッジ様が自らお作りになられたのですか?」



荷車を押す足を休めることなく答えるフォージの発言に、ウィルはびっくりした。


決して自己顕示欲が強いわけではなく、むしろ一国の王としては謙虚すぎる性格のジャッジが、まさか自ら自分を象った像を作るとはとてもウィルには信じられなかったからだ。



そんなウィルの様子を可笑しげに見ていたフォージは、理由を説明し始める。



「ジャッジ様ご本人はお気付きになられていないでしょうね。ラミィ様から魔法を教わる過程で、デーヤモンドだけを抽出して固める方法をお試しになっているのを見て、試しに人型に固めて頂くよう私が声をかけたのです」


「……ははぁ。なるほど」


「お分かり頂けましたか?その人型に固めて頂いたデーヤモンド像を、私が少しずつジャッジ様に似せて削っていったのです。これもラミィ様作のデーヤモンド砥石があればこそ出来た荒業です。言うなればこのジャッジ様像は、ジャッジ様とラミィ様の共同作品と言ったところでしょうか」



フォージの説明でウィルにも大まかなところは理解できた様だ。しかし人型としてしか成形されていない像を、ここまでジャッジ本人に似せて削るのもすごい技術だろう。それをたった数日で成し遂げたフォージの腕も驚異的と言わざるを得ない。



「ハッハッハ。まさかご自分でお作りになったとは夢にも思われていないでしょうな」


「そうでしょう!そうでしょう!これはお目にかけるのが楽しみになってきましたね」


「………」



内緒で作製した像をジャッジ本人に見せた時の事を想像して、イーサンとフォージは盛り上がっているが、ウィルには苦い顔をして像を眺めるジャッジの姿が想像できた。


果たして自分もこの企みに荷担していいものかと、少し悩んだウィルだったが、勘違いで二人を責めた手前、今さら手を引くわけにもいかず、黙々とジャッジ像を運ぶ事にした。






広場に到着し、あらかじめジャッド族によって踏み固められていた、土台となる場所のすぐ横に荷車を停める。すると待ってましたとばかりにジャッド族、ゴーン族の面々が集まってきた。中には農作業を抜け出してきたであろうンダ族の若者もいる。



「よぉーし!!やるぞ野郎共!!」


「オォー!!」



フォージが気合いを入れると、ゴーン族だけではなくジャッド族やンダ族の皆も雄叫びを上げると像を取り囲んだ。


その大声や賑やかな雰囲気に釣られるように、周りの家からも人々が様子を見に集まってくる。そして、あっという間に広場は大勢の人々で溢れていく。



全国民の約半分の300人はいそうな広場を見て、ウィルは民族同士の垣根が無くなっている事を実感できた。そのこと自体は決して悪いことではなく、むしろジャッジの理想とする国の在り方だとは思うのだが、集まった理由がまさかジャッジ像の設置の為だとは…。



素直に喜べず微妙な表情のウィルをよそに、ジャッジ像の設置作業は着々と進んでいく。



大勢の国民達によって荷車から降ろされ、慎重に広場の中央に立てられるジャッジ像。作業する人数が多い為、ウィルが手伝うことなくあっという間に設置作業は終わった。


薄暗い倉庫ではなく明るい所で見ると、改めてその精巧さが目立つ。実際のジャッジの顔をこの中の誰よりも長く見てきたウィルには、見れば見るほど像がジャッジ本人にそっくりなのが分かった。



「おぉ…」


「な、なんと神々しい…」


「ジャッジ様!!」



フォージによって丁寧に磨かれたデーヤモンド製のジャッジ像は、陽の光を浴びてキラキラと輝きまるで後光が差しているようだ。


広場に集まった多くの国民は思わずその場に膝をつき、キラキラと輝くジャッジ像に向かって祈るような仕草をしている。中には涙を流しながら祈る者までいる。



「フッフッフ。どうですか?ウィル殿」



いつの間にか隣に並ぶように立っていたイーサンとフォージが声をかけてきた。


ウィルは普段なら気付くはずのその気配に気付かなかった自分に驚いた。どうやら他の皆と同じように我を忘れてジャッジ像に見とれてしまっていたようだ。



「……素晴らしい出来ですね。どこからどう見てもジャッジ様にしか見えません。………しかし、皆の反応には驚きました」


「ハハハ!これは正にジャッジ教誕生の瞬間と言っていいでしょう!」


「正にその通り!わし達だけでなく、この国の国民は皆がジャッジ様に感謝しながら暮らしているのです!」



「…………ジャッジ教?」



満足気にそう語るイーサンとフォージ。


ジャッジ教というのは初めて聞いたが、なんとなくその中身は想像できる。きっとジャッジ様本人は頑なに否定されるだろうな…。しかし、この様子だと信じる者は後を絶たないだろう。おかわいそうに…。



ウィルはそんな事を考えながらも、他の皆と同じようにジャッジ像に向かいこっそり手を合わせた。

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