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月に一度の国民代表者会議で、デーヤモンド鉱石についての取り扱いについて大まかに方針が決まった。
デーヤモンドの加工については、ラミィが大まかに形を整えた後、フォージ達が細部をデーヤモンド製の砥石で少しずつ研ぐ事で形にすることが可能となった。
そこで、今後は剣や盾などの武具は国内だけの物とし、国外には宝石などの装飾品として輸出することにした。
何故武具を輸出しないかというと、それはあまりにもデーヤモンド製の武具が優秀すぎるからだ。
元々鎧や盾としてはとても優秀だったのだが、フォージ達の技術によって斬れ味を増した剣は、丈夫な上に斬れ味も鋭いという恐ろしい武器になってしまったのだ。
正直これが他国の手に渡ると我が国は危ない。圧倒的な数の兵がデーヤモンド製の武器を手に攻めてきたら、かなりの被害が出るだろう。それだけは避けないといけない。
というわけで、武具は国内だけの物として、国外には少量ずつ宝石等として輸出することになった。
もちろん大量の鉱脈があることは秘密だ。サニーにも相談して、出来るだけ我が国原産ということは伏せてもらうことにしようと思う。
「さて、じゃあ行こうか、ラミィ」
「えぇ。早く行きましょう!」
国民代表者会議が終わると、俺とラミィはそう言って出掛ける準備を始めた。実は今日は例のデートの日なのだ。
あの日の夜ラミィの部屋でセカーニュの街まで遠出するこが決まった。ヒコウキーがある今、セカーニュの街と言えどもギリギリ日帰りが可能になったのだ。今回は出発が昼前なので一泊する予定だ。
………あぁ。もちろんこの前の夜は何もしてない。……いや、キスはした。それくらいは別にいいだろ!
「くれぐれも気を付けてください。ジャッジ様はもう正真正銘の一国の王なのですよ。……本当に私は留守番なのですか?」
「すまん。どうしてもラミィが二人だけがいいって言うんだ。十分気を付けるから、今回は辛抱してくれ」
「……承知しました」
出発直前になっても同行しようと粘るウィルをなんとか説得し、俺とラミィはヒコウキーに乗り込んだ。
「よし!しゅっぱーつ!!」
ラミィのそんな掛け声とともに浮かび上がるヒコウキー。何度乗ってもこのフワッと浮き上がる瞬間は不思議な感覚だ。
グングン高度を上げ、見送りの皆の表情が分からなく位まで上昇すると、今度は勢いよく前進し始めた。
「おい!ラミィ!ちょっと速すぎなんじゃないか?」
「え!?なに?聞こえなーい!」
どうもスピードが出過ぎている気がしてラミィに尋ねるも、ラミィは聞こえない振りをしている。
きっと早く甘いものを食べたいのだろう。いくら風を受けにくい魔法を使ってあるとはいえ、さすがにこのスピードだと大声を出さないと会話は難しい。
……まぁいい。今日はラミィの好きにさせてやるか。
俺はそう覚悟し、ヒコウキーの床部分に置かれた座椅子のようなものに腰かけた。
「………行かれましたね」
「えぇ。ラミィ様のあのご様子だと引き返して来られることはないでしょう」
「では、そろそろ始めましょうか」
「えぇ、明日までに終わらせましょう」
ジャッジ達の姿が見えなくなると、そんな不審な会話を交わしたイーサンとフォージはそそくさとその場を後にした。
「………?」
耳のよさには定評があるウィルは、そんな二人の会話が耳に入ってきて、まさかとは思ったか念のために二人の後をつけることにした。
ウィルが後をつけているとは知らない二人は、早足で歩き続けフォージの工房の裏手に作られた倉庫に入っていった。
ここは最近フォージからの要望でジャッド族が建てた倉庫だ。中には鍛冶を待つ農具や刃物などがしまわれているはずだ。それに簡単な作業場もあると聞いている。
ウィルは自分が姿を現すと二人が警戒すると思い、倉庫から少し離れた場所に潜むことにした。ウィルの常人離れした聴力なら、倉庫の中の音も集中すれば少しは聞こえるはずだ。
イーサンとフォージの二人は倉庫に入って何か作業を行っているようだ。ガリガリ、シュッシュッという何かを削ったり磨いたりするような音と共に、時折話し声が聞こえる。
「……もうちょっと鋭い方がいいのでは?」
「そうですね。更に重厚さも加えてみましょうか」
どうやら鋭く重厚な何かを作っているようだ。おそらく武器の類いだろう。
……まさか!?密かに武器を作り反乱を起こすつもりなのか?二人ともジャッジ様に心酔しているように見えたが…。うーん…。勝手に決めつけるのもよくない。ここはもう少し様子を見よう。
ウィルはそんな風に心の中で葛藤しながら、更に身を低くしつつ耳を澄ませる。
倉庫の裏手の藪に潜むウィルの耳には、相変わらず何かを削るような音が聞こえてくる。
その他には子供達が外で遊ぶ声や、小鳥のさえずりが聞こえる。こんな平和な国で反乱など起きるのだろうか?しかも首謀者はあのイーサンとフォージだ。とても信じられない。
「……ふぅ。こんなもんでどうでしょう?」
「おぉ!素晴らしい!これなら皆も納得するでしょう!」
「よし!そうなればお二人が戻る前になんとか設置しなくてはなりませんな」
「えぇ。お戻りになる時には設置していなくては意味がないですからね」
そんな会話がウィルの耳に入ってきた。そしてその後重いものを動かそうとする音も聞こえてくる。
「……設置?……お二人が戻る前に?」
ウィルはその言葉の持つ意味をしばらく考えていたが、ハッとあることに気付いた。
「………ま、まさか!?設置型の罠か!?」
それならば鋭く重厚な何かを二人が吟味していたのも納得できる。ジャッジ様とラミィ殿がヒコウキーから降りる所を狙うのか、それともヒコウキーが着陸するところをヒコウキーごと標的にするのかは不明だが、どちらにしても設置型の罠の可能性が高い。
フォージの持つ鍛冶の技術なら罠の作成も十分可能なはずだ。こうなれば様子を見るなど悠長なことは言ってられない。設置される前になんとか阻止しなくては!
そこまで考えたウィルは、潜んでいた藪を飛び出し倉庫まで一気に駆けつけた。そして、勢いよく倉庫の扉を開けると中に飛び込んだ。
「待て!二人ともその場を動くな!」
倉庫に飛び込むなりそう大声で警告するウィル。
いきなり飛び込んできたウィルに、イーサンとフォージはかなり驚いている様子だ。
「!!??」
「……う、ウィル殿!?」
ウィルは二人の手に武器が持たれていないのを確認すると、素早く倉庫の中を見回して設置型の罠を探す。
倉庫の中には農具や刃物などが整頓して積まれているが、その中に罠らしきものは見当たらない。一番怪しいのは、二人の背後にある白い布を被せられた大きな物体だ。
その物体は今から荷車に載せられようとしているのだろう。隣に大きな荷車が用意されている。
ウィルはそれが設置型の罠だと判断して、二人に鋭く声をかける。
「それは何だ!ゆっくりと布を取って中身を見せろ」
「………へ?ど、どうしたのです?ウィル殿…」
「いいから早く取れ!」
「は、はい!」
いつもとは違う厳しい口調のウィルの迫力に押されて、イーサンは布の端っこを掴むと、何故か怒っているウィルを刺激しないようにゆっくりと引いていく。
覆っていた白い布が地面に落ちるにつれて徐々にその姿を現す大きな物体。そして、白い布が完全に地面に落ち、ウィルが設置型の罠だと思っていた物体の全貌が明らかになった。
「………こ、これは。……ジャッジ様?」
そこにはウィルの主であり、ハートランド国王であるジャッジ・ハートランドそっくりの像が横たわっていた。