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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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サニーはここ数日、街の外に準備した馬車に少しずつ荷物を運ぶ作業を繰り返していた。




「おい!それはもうちょっと丁寧に運べ。もし割ったらお前の頭もかち割ってやるからな!」


「…怖いこと言うなよ、親父」



今日も朝から荷物を運んでおり、ちょうど最後の荷物を運び追えた所だった。さすがに疲れているサンが割れ物を雑に扱った所に、サニーの怒声が飛んでいる。



申請が却下されたことを伝えに来たロック兵長が翌日もう一度訪れ、なんと自分も一緒に移住すると言い出したのだ。


どうやらサニーと同じくジャッジ王の人柄や国作りに魅了されたらしく、たった一人の家族である息子も説得済みだという。連れ合いを亡くして大分経つロック兵長だし、息子も立派に独り立ちしている。ロック兵長の話では、息子も少し早い隠居だと思って賛成してくれたとの事だ。



今はそのロック兵長の権限を使って秘密裏に待機させている馬車に荷物を運んでいる所だ。



「おぉい!どうだ?俺の方の馬車はまだ余裕があるぞ。お前の店の品がまだあれば載せれるが…」


「…ん?あぁ、そうだな。ならもう少し保存食を積んどこうかな」



今日から始めたわりには、たった一往復しただけで全ての荷物を積み終わったロック兵長が、サニーに声をかける。独り身の荷物などたかがしれているのだろう。用意した大型の馬車の中身はスカスカだ。





「……しかし、こんなに堂々と馬車を停めてて大丈夫なのか?思いっきりお前のとこの兵にも国軍の兵にも見られてるが…」



サニーはロック兵長の馬車に追加の荷物を積み込みながらそう尋ねる。


今もすぐ近くで領兵が見張りをしてくれている。匂いに釣られた野生の獣から荷を守るためだ。



ロック兵長はサニーを手伝っていた手を止め、ニヤッと笑いながら返事した。



「それが大丈夫なんだな。もうホースからも黙認するように命令が出てるはずだ。うちの兵でこの辺にいるのはみんな俺の直属の部下ばかりだしな」



そう話すロック兵長はどこか誇らしげだ。



ホースとあの店で話をつけた翌日、ロック兵長はこっそりと領主とも面会し移住の許可を得ていた。領主もジャッジ王やウィルには恩義を感じていたらしく、ロック兵長の話を聞かなかったことにするし、こっそり移住することに関しても見ない振りをしてくれることになった。


それでも街の外で準備をしているのは、少しでも世話になったこの街に迷惑をかけない為だ。




「……これでよし。こっちは準備できたぞ。出発はいつだ?」



店にあったほぼ全ての荷物を積み終えたサニーがロック兵長に声をかける。



「お?もう終わったのか?そうだな…。こういうのは街道に人がいない時間がいいだろう。今夜はどうだ?」


「わかった。それでいい」



そう話すロック兵長の提案で出発は今夜に決まった。



ここからハートランド王国まではもう慣れた道だ。一番の心配は盗賊だが、これは遭遇したら運が悪いと思うしかない。まぁこれまでとは違って今回はロック兵長が一緒だ。少数の盗賊位なら蹴散らしてくれるだろう。



サニーの頭の中は、もうハートランド王国に着いてからの新しい生活や商売のことで一杯だった。ソバをメインとした新しい商売も楽しみだが、それより楽しみだったのはハートランド王国の住民の、商品を前にした笑顔だ。みんな本当に楽しそうに商品を選んでくれる。あの笑顔を見るとサニーは心から商人でよかったと感じるのだ。



「さぁ、これから忙しくなるぞ」



サニーはそう呟くと最後の確認の為に馬車の中に入っていった。









ファイスの街でそんな事が起こっているとは夢にも思わない俺は、同じ頃ラミィとデーヤモンド鉱石の加工に取り組んでいた。



「……なぁ。なんで俺のは少し曲がってるんだ?」


「そんなの決まってるじゃない。アンタの魔法がヘタクソなのよ!プップー!」



俺が手に持った真っ直ぐとは言い難い剣を見ながらラミィに尋ねると、ラミィはそう馬鹿にしてくる。



「はぁ…。どうやら俺には無属性魔法の才能は無いみたいだな」



ラミィにデーヤモンド鉱石の件を話し、加工を頼んだついでに俺にも無属性魔法を教えてもらったのだが、何度やっても俺にはラミィのような剣は作れなかった。



「まぁ仕方ないわよ。アンタには火魔法があるじゃない。それにデーヤモンド鉱石から不純物を取り除いたり、デーヤモンドだけを固めることは出来たからそれでいいじゃない。加工は私に任せて、アンタは下準備だけしてなさいよ。………私の助手としてね!」


「……くっ」



勝ち誇ったように話すラミィに俺は何も言い返すことはできない。無属性魔法に関しては逆立ちしてもラミィには敵わないだろう。


俺はなんか微妙に曲がった剣を太陽にかざすように持ち上げると、改めて大きくため息をついた。



「はぁ…。これじゃ剣としては使えないか…」


「なっ!何を仰います!これだけ見事な出来の剣があれば、私なら兜ごと首をもぎ取ってやりますよ!」


「………それは剣の正しい使い方なのか?…ありがとうウィル。ウィルの気持ちはうれしいよ」



意気消沈する俺を見て、ウィルが慰めようと慌てて言葉をかけてくれたが、この曲がった剣でそんなことができるのはウィルぐらいだろう。他の兵に使わせるわけにはいかない。


今後も無属性魔法の練習は続けるとして、デーヤモンドの加工は基本的にラミィに任せることにしよう。



「……あぁ、そう言えばデーヤモンドの砥石はどうなったんだ?上手く作れたのか?」



俺は午前中ラミィがフォージと作っていた砥石について尋ねると、ウィルが答えてくれた。



「今ごろ工房ではフォージ殿が私の剣を研いでいるはずです。どうやら希望通りの砥石になったらしく、これならいくらでも研げる。と言っていましたから」


「そっかぁ。それはよかった。剣や防具以外にもこれからフォージ達には色々と作ってもらわないといけないからな。もちろんデーヤモンドも含めて」



まだラミィやウィルには話していないが、俺はデーヤモンドをサニーの店を通じて販売することを目論んでいる。かなり貴重だということなので、少量ずつ宝石等に加工したものを国外で売りに出そうと思っている。


あまり大々的に販売してデーヤモンド目当ての人たちが押し寄せるのも嫌だし、知らないところで恨みを買うのも嫌だからだ。もう毒矢なんかで狙われるのは二度とごめんだ。



その時、黙々とデーヤモンドを剣や盾に加工していたラミィが声を上げた。



「えー!それってまた私が作らないといけないやつでしょ?私も結構忙しいんだから、そんないっぱいは無理よ!」



……ちっ、聞かれていたか…。正直に話すと絶対に断られると思ったから、少しずつ騙し騙し加工させようと思っていたのに…。こうなれば仕方ない、物で釣る作戦にするか。



そう考えた俺は曲がった剣を地面に置くと、ウィルから離れラミィの隣まで移動し腰かける。


そして、ラミィの耳に顔を近づけると小声で囁くように話しかけた。



「……ラミィ。今度一緒にデートしないか?お前の好きな店なら何軒でも付き合うぞ?」



ラミィに効果覿面の決まり文句を聞いたラミィだが、今回は意外にも耐えている。



「………う、うーん。確かに行きたい…。けど……イヤよ!」



どうやら大量の魔力を使うデーヤモンドの加工は相当堪えるらしく、あの甘いものに目がないラミィが断った。



それを聞いた俺は仕方ないと、最終手段に出ることにする。



「………ラミィ。………今夜部屋に行っていいか?」


「…………!!??」



ラミィはその言葉を聞いた途端、顔を真っ赤にして手に持ったデーヤモンドの塊を足元に落とし、バッと俺の方を振り向いた。


そして、真っ赤な顔のままもじもじしながら口を開いた。



「……し、仕方ないわね。ちょうど無属性魔法の練習したいと思ってたのよ。つ、ついでにデーヤモンドの加工もしてあげるわ!」



……ラミィ。婚約者の俺だからいいとして、誰にでもそうやって付いていくんじゃないぞ…。

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