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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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我がハートランド王国に華々しく開店したフォージの鍛冶屋は、連日多くの客で賑わっていた。



「おい!それは後でいいから、こっちを手伝え!」


「バカかおめぇは!!まだ熱が足りねぇんだよ」



大きく間口を開けた工房からは、フォージが弟子達を怒鳴る声が聞こえてくる。そして、それに混じってカンカンという鍛冶屋特有のリズミカルに金属を叩く音も聞こえる。


今まで辛抱して使っていた刃物等を皆が一斉に修理に出したのだ。それに加えて主にンダ族が使う鍬などの農具も作製しなければならない為、フォージ達ゴーン族は朝早くから夕方まで工房に缶詰状態だった。



「親方!もうそろそろ火を落とさないと日が暮れます」


「くっ…。また今日も半端になっちまったか…。仕方ねぇ!続きは明日だ!さっさと火を落とせ!」



まだ日が暮れ始めたあたりだというのに、フォージの工房では炉の火を落とす等仕事を終える準備を始めた。順番待ちをしていた住民もその様子を見て、文句ひとつ言うことなく刃物を預けると家に帰っていく。


別に暗くなると仕事かできなくなるという訳でもないのに不思議な光景だが、これには理由がある。


炉が完成しこの工房が仕事を始めた当初、フォージ達は夜遅くまで大量に依頼された仕事をこなしていた。そして当然だがゴーン族の疲労も増していったのだ。


ある日興味本位で工房を覗きにきたジャッジは疲れきったゴーン族の様子を見て、



「日が暮れてからの仕事は禁止だ!」



と命令したのである。


そして、ついでとばかりに全国民に対しても同じことを要求した。



ンダ族は今までも暗くなると仕事をさっさと止めていたから影響はないし、今のハートランド王国には夜間に働かなければならないような仕事は無い。見張りの兵士だけはどうにもならないが、それ以外の仕事は基本的にハートランド王国では禁止されることになった。


どうしても仕事が終わらないと、ジャッジの元に直接談判しにきたフォージに対し、ジャッジは、



「終わらないなら次の日にすればいい。無理して働いてフォージ達ゴーン族が体を壊すことの方が問題だ。それにちょっと位遅れたって文句を言う人なんてこの国には一人もいないさ。仕事は楽しくするもんだろ?」



と、なんでもないことのように言い放ったという。



この言葉はフォージの心に深く刻まれ、その後のゴーン族が鍛冶師として働く上での重要な指針となった。



と、まぁそんな理由でフォージ達は暗くなる頃には自宅で家族と過ごすことができるようになったのだ。







「いやぁ、やっぱり露天風呂から見る街の夜景は最高だなぁ」


「確かに綺麗ですね。大分国民も増えて家の数も増えたからでしょうか」


「まぁそれももちろんあるけど、みんなが家で家族と過ごしてるだろうなっていう灯りはなんか違うんだよなぁ」



俺とウィルは今日も夕食後に露天風呂に入っていた。最近は少し寒くなってきたせいか、毎晩のように露天風呂に通っている。そして、ここから夜景を見ながらその日の疲れを洗い流すのだ。


先日も夜遅くまでカンカンうるさいフォージの工房まで文句を言いに行った。さっさと家に帰ってもらわないと、俺が楽しみにしている夜景の灯りの数が減ってしまうのだ。


仕事熱心なのは素晴らしい事だが、何も夜遅くまですることはないだろう。フォージ達が夜働くことによってカンカンという音が響くし、工房で働く人数分の町の灯りが減ることになる。いいことなんて一つもないじゃないか。



俺はそんな風に先日の出来事を思い出しながら露天風呂を楽しんでいたが、ふと思い出したことがありウィルに声をかけた。



「ウィル。そう言えばフォージにはもうあの鉱石は見せたんだっけ?」


「鉱石?……あぁ、この剣の基になった鉱石ですね。そう言えばまだ見てもらっていませんね」



ウィルは露天風呂の中にまで持ち込んでいる黒い剣を見ながらそう言う。


普段からウィルはラミィに魔法で加工してもらったこの剣を身に付けている。とにかく丈夫なこの黒剣は大して手入れをしなくても錆びないため、普段使いには適しているのだ。もちろんフォージからもらった名剣も大事に自室に保管している。



「フォージ達は鍛冶師として色んな金属を扱ってきたはずだから、もしかしたらあの鉱石についても知ってるかもしれないな。明日にでも持っていってみようか」


「そうしましょう。ラミィ殿に頂いたこの剣も素晴らしいですが、切れ味に関して言えばまだまだと言わざるを得ないですからね」



俺とウィルは明日の予定をたてると、十分に温まった体で露天風呂を後にした。


ウィルと入るとエマが乱入してくる心配がないから安心だ。エマの乱入で動揺してもうこの前のようなことになるのはごめんだ。俺も何度も毒矢になんかやられたくはない。










翌日、俺とウィルは館に保管してあった鉱石を持ちフォージの工房を訪れた。


幸いほとんどの仕事はフォージ以外の面々で出来るということだったので、俺はフォージに例の鉱石をみてもらうことにした。



「……これなんだが。何か分かるか?」



俺が例の鉱石を工房の端にある机の上に置き、フォージにそう尋ねると、フォージはまじまじとその鉱石を眺めた後、手に取り全体を確認している。


そして、ゆっくりと再び机の上に鉱石を置くと俺の方を向いた。



「……これはデーヤモンド鉱石ですね。ここまでの巨大な物は初めてみました。とんでもなく貴重な物ですので大事にされた方が良いですよ」



フォージはそう言うと、更に机の鉱石を眺めている。



「デーヤモンド?それは珍しいのか?」


「珍しいなんてもんじゃないですよ!あまりにも珍しすぎて、私達鍛冶師でも知らない者もいるくらいです。とにかく硬くて加工も難しい鉱石です。磨けば磨くほど輝きを増すので装飾品としても一級の価値があります」



俺はフォージの説明を聞いてもいまいちその価値にピンとこない。だって館にもまだ山ほど保管してあるし、タゴサック達が見つけた場所にはそれこそ山一つ分位の鉱脈があったらしいのだ。



俺は隣にいるウィルと顔を見合わせた後、ウィルの腰にある剣を少し借りて机に載せた。


フォージは何をするのかと不思議そうな顔をしていたが、俺が剣を鞘からゆっくりと抜き、その黒い刀身が徐々に姿を見せてくると、



「な、なんと!!これはデーヤモンドの剣ですか!?ど、どうやってこんな精巧に加工を!?」



と、飛び上がらんばかりに驚いている。



「これはラミィに加工してもらったんだ。魔法ならそんな難しいことじゃないみたいだぞ。それに、この鉱石ならまだ山ほどある場所を知ってる。タゴサックに頼めばいつでも案内してくれるはずだ」



俺がそう言うと、フォージは更に驚いて言葉も出ない様子だ。


どうやら本当に貴重な鉱石らしい。これはもしかすると、新しいハートランド王国の特産品になるかもしれない。いやぁ実にラッキーだ。


……でも、かなり前だが一度大規模な調査が山に入ったはずなんだがな。その時には発見されなかったのかな?



俺はそんな疑問が頭をかすめたが、とりあえず今はフォージにこの鉱石について確認する方が先かと思い直した。



「……は、ハハハ。やはり火の神に愛されしジャッジ様の治めるこの国は違いますね。こんな貴重な鉱石が山ひとつあるとは…」


「そうか?たまたまだよ。たまたま。……と、そんなことよりその貴重なデーヤモンドとやらはどうやって加工するんだ?フォージにも出来るのか?」



俺は驚いていつもよりおとなしいフォージにそう尋ねる。


いくら珍しいといっても加工できなけりゃ特産品にはならないだろう。鉱石のままより加工して売り出した方が価値は上がるはずだ。



「……残念ながら少しずつ研いで形を整える以外の方法はごさいません。それも研ぐ方の石が先にダメになってしまうので、何度も石を代えながら少しずつ研ぐしかないのです。……少しご覧にいれましょう。ウィル殿、剣をお借りしてもいいですか?」



フォージはそう言うと、ウィルが差し出した剣を手に工房の一角に向かった。


俺たちもその後を付いてフォージの後を追う。

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