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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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フォージ達ゴーン族の一団がハートランド王国に到着したのは、サクラ山出発から約一月後だった。


俺とラミィ、ウィルの3人は定期的にヒコウキーで食料等の物資を届け、病人や年寄り等数人をヒコウキーに乗せて、皆より一足早くハートランド王国まで送り届けたりもした。


本当は皆を乗せたい所だったが、ヒコウキーの広さ的に5人程が限界だったのだ。無理矢理詰め込んで途中で落ちては意味がない。



まぁとにかく、そうこうしているうちにゴーン族100人が新たなハートランド王国の仲間として到着したというわけだ。



「あぁ…。これが火の神の国ハートランドか!おめぇら!気合い入れてこの国とジャッジ様の為に働くぞ!」


「オォー!!」



「いやいや…。まずはゆっくり休んでくれ。おーい!フォージ聞いてるか?」



ハートランド王国に到着した途端いきり立つように気合いを入れ、早速働こうとするゴーン族をなだめた俺は、この日の為に用意した住居まで案内した。



「どうだ?多分人数分はあると思うけど、家族構成まではわからなかったからもし足りなかったら言ってくれ」



ジャッド族の住むエリアの隣に用意した新居群を背に、俺はフォージに語りかける。


フォージ達ゴーン族の面々は、まさか新居まで用意されているとは思わなかったのだろう。驚きの表情で立ち並ぶ家を見ている。スミティ達女性の中には涙を流している者もいるようだ。



「……な、なんと。まさか私達の住居まで用意してくださったとは…。お、おい!おめぇら!これが火の神に愛されしジャッジ様の御業だ!これに答えるにはどうすればいいかわかってるな!?」


「死ぬ気で働きます!!」


「よし!いくぞ!!」


「オォー!!」



「………まてまて。いいから今日は休め。それと死ぬまで働く必要はないからな」



何かにつけて働こうとするゴーン族を再びなだめて、フォージとスミティに家の割り振りを任せた俺は、ウィルとともにその様子を眺めていた。


言葉では今すぐにでも働くと言っていたゴーン族だが、やはり一月に及ぶ長旅は相当体にきていたらしく、出発の準備のときのようなてきぱきさは今回は見られなかった。


それでも男達が順序よく荷物を運んでいる姿はさすがゴーン族といったところか。もしかすると鍛冶には手際の良さや、作業の順番といったものが重要なのかもしれない。



ひとしきり家に荷物を運び込むのを見届けた俺は、フォージに今日と明日は絶対に働かないで、長旅で疲れた体をゆっくり休めるように厳命すると、明日の午前中に館にくるよう伝えその場を後にした。



こうでもしないと明日の朝にはもう働こうとすると思ったのだ。やる気があるのは素晴らしいが無理はよくない。俺が目指しているのは皆が好きなことをして暮らしていける国なのだ。甘いと言われるかもしれないが、この世界にひとつくらいはそんな国があってもいいと思わないか?










「皆大変喜んでおりました!中には今日中にジャッジ様を象った像を作ると意気込んでいる者もいました」



翌日、早朝に館まできてくれたフォージは興奮してそう話している。


俺はまだ朝食の途中だったので、無作法だとは思うもののパンをかじりながらその話を聞いていた。



「それはよかった。ジャッド族の作る家はフォージ達が暮らしていた家とは造りが違うから、不便な点もあるだろう。その時はまた教えてくれ」


「いえ。一晩寝て今までの家よりも過ごしやすいと感じました。きっと他の者も同じ意見でしょう」



総木造のジャッド族の家は確かに風通しもいいし、床が地面から一段高いから底冷えもしない。夏にも冬にも適した造りと言えるだろう。


まぁ満足してくれたならよかった。不満が出たらその時にまた対処するとしよう。



そう考えた俺は残りのパンを口に放り込むと、牛乳で流し込みながらフォージに話しかける。



「ところでその俺を象った像の製作は止めてくれたんだよな?」



するとフォージはニコニコと笑顔で返事をした。



「まさか。より精巧な作りにするように、ゴーン族の中でも装飾を得意とする者に協力するよう命令してきました。きっと素晴らしい出来になるはずです」


「えぇー……」


「ハッハッハ!ご心配なく!いずれは金属で作った巨大なものをご本尊としてこの国の中心に沿え、更に小さな物は各家庭に一体ずつ配布する予定です!これで火の神に愛されしジャッジ様を信仰する者も満足するでしょう!……そう!正にジャッジ教ですな!ハッハッハ!」


「えぇ……」



フォージは満足そうにそう言うと高笑いしている。



ジャッジ教って…。そんな怪しい宗教誰も入らないだろう。そもそも火の神を崇めていたんじゃないのか?そんな簡単に乗り換えていいのか?



俺はようやく朝食のパンと牛乳を飲み込んだ所で、まだ頭が本格的に目覚めていない。そんな風にぼけーっとフォージの言葉を聞いていた。


……今思えば、あの時にもっと必死にフォージを止めるべきだった。まさかあんなことになるとは…。





その後国民代表者会議にフォージも加えることとなり、皆の前で紹介した後、今後の計画についても話し合った。



「まずはフォージ達ゴーン族の協力で鍛冶ができる環境を整えたいと思う。フォージ、まずは何からすればいい?」


「そうですね…。まずは炉でしょうか?炉がなくては鍛冶をしようにも金属を溶かすことができませんから」


「なるほど。なら炉を作ることにしよう。えーっと、誰か手が空いてる人がいるかな?」



フォージの意見を聞き、まずは炉を製作することになった。その為に協力できる者の立候補をその場で募ったところ、



「はい!私達軍にお任せください!」



と、イーサンが真っ先に手を上げた。


確かに軍を構成するジャッド族の体力には定評がある。力仕事ならお手のものだろう。



「土の選定が必要ならおら達も役に立てます」



タゴサックも手を上げると珍しく自ら発言した。



「よし!じゃあイーサンとタゴサックに任せることにするよ。場所はどこでもいいけど、フォージ達が使うんだから家の近くがいいかもしれないな。まぁその辺も含めて3人で話し合ってくれ」


「はい!」



俺はそう締め括るとさっさと会議室を出ていった。



今回の炉製作や、鍛冶に必要な道具などはあの3人に全て任せようと思ったのだ。


やはり国としていつまでも国王である俺があれこれ口を出すのは良くないと思う。任せられる事は今後は積極的に任せていこう。そのくらい信頼できる人達がこの国には集まっているしな。



俺はなんとなく寂しくもなったがそう決意し、後をついてきたウィルとラミィとともに他の仕事に取り組むことにした。



今俺が取り組んでいるのは町を囲う壁の設置だ。以前のハートランド王国にも簡単な土壁や木の柵しか設置していなかったが、今ではそれも朽ちてしまい全くの無防備だ。


さすがにそんな頻繁に他国からの侵攻などないとは思うが、有事に備えておくのに無駄はないだろう。ということで、基本的には俺の土魔法で、ラミィがいるときにはラミィと二人で壁を設置している。



「今日はなんとか街の南側を終わらせたいなぁ」


「…それはそうですが、あまり無理はなさらないでください」


「ははは。大丈夫だよ。どうやら俺にはかなり魔力があるみたいだから」


「そうよ!アンタのそのバカみたいに多い魔力量なら魔力切れの心配もないわ。まったく…。アンタばっかずるいわよ!」



そんな風に話しながら、俺は底無しの魔力量を活かしてドンドン壁を設置していき、その壁の細部はラミィが繊細な魔力のコントロールで整えていく。

ウィルはというと、壁を設置する過程でどうしても出てしまう余りの土や石を一ヶ所にまとめている。こうしておけば後で兵が処理してくれるのだ。


俺とラミィは基本的には使うのは魔力だけなので手を突き出して立っているだけだが、ウィルはあっちこっち走り回って重たい土や石を集めている。もしかするとこの作業で一番大変なのはウィルなのかもしれない。



さぁ、なんとか今日で南側の壁を終わらせよう。フォージ達も今ごろ炉の作成に取りかかっているはずだ。俺も負けるわけにはいかない。

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