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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ゴーン族がハートランド王国移住を決意した翌日、村中で引っ越しの用意が迅速に行われていた。



「おぉ、みんなテキパキ動くなぁ。この調子だと今日中に準備が終わるんじゃないか?」


「これだけでゴーン族が働き者だということがわかりますね」


「ねぇ、このお菓子まだある?あ!あとお茶もね」



俺達は朝から皆がせっせと働く中、フォージ宅の外に設置された椅子に座りその様子を眺めていた。


初めは少しでも早く移住の準備を終わらせるために、俺達も手伝うつもりだったのだが、フォージを筆頭にゴーン族は決してそれを認めてくれなかった。

それどころか、椅子やテーブルにお菓子やお茶まで用意され、現在のような状況になったというわけだ。


やはり皆が一生懸命働いている中、自分だけのんびりしているのは気まずい。俺はどうにも肩身の狭い思いをしているのだが、ラミィはそんなことお構い無しでお菓子のおかわりまで要求している。



「おい!ラミィ。あんまりわがまま言うんじゃないぞ。俺達は出来るだけ邪魔にならないようにしないといけないんだからな」


「わかってるわよ!これで最後よ、さ、い、ご!」



俺の注意にもラミィは分かってるのか分かっていないのか、せっせとお菓子を口に運んでいる。



「………まったく。ごめんなスミティ」


「いえいえ。これだけ美味しそうに食べてもらえると、作った私もうれしいです」


「ハハハ!そうです!ハートランド王国に移り住んでからもいつでも食べにお越しになってください!」



謝る俺に対し、フォージもスミティも全く気にした様子はない。それどころかニコニコと笑顔でお菓子を食べるラミィを見つめている。



それでも申し訳ない気持ちが抜けない俺だったが、どうすることもできないのでとりあえず話題を変えることにした。


あぁ、ちなみに俺が敬語をやめたのはどうしてもとフォージ達から頼まれたからだ。これからハートランド王国の国民となるにあたって、他の人達と同じように接して欲しいと昨夜懇願された。

更に言えば、火の神に愛される俺に敬語など使われると畏れ多いらしい。



「鍛冶の道具とかも持っていくのか?イメージだと大分重そうな気もするが…」



移住する為には皆で長旅を乗り越えないといけない。その時に荷物が多いと苦労する事は、前回のジャッド族、ンダ族との旅で身を持って痛感した。


今回も日数で言えば同じくらいかかるだろう。できるだけ荷物は少ない方がいいんだが…。村ごと引っ越しとなるとそうもいかないか…。



心配する俺に向かい、フォージは笑いながら返答する。



「心配いりません。鍛冶に必要な道具は現地で調達する予定です。炉なんかは結構時間がかかりますが、それが出来てしまえば後の道具は作ればいいのです。材料さえあれば鍛冶師の威信にかけてなんでも作って見せますよ!ハッハッハ!」


「それは頼もしいな!………そうか、なら荷物は少なくてすみそうだな」



俺達がそんな風に話している間にも、村の中心を通る広い道にはどんどん荷物を一杯に載せた荷車が登場していく。


ゴーン族はてきぱき動くし、とても統制がとれている民族のようだ。これは鍛冶の他にも、兵士としても期待できるな。




ゴーン族の引っ越し準備が完了したのはその日の夕方であり、出発は明日の朝ということになった。結局たった一日で村ごと引っ越しの準備か整ったことになる。これはなかなかすごいことなのでは?











「それじゃまた数日後に様子を見に来るよ」


「はい!道中の心配はご無用です!盗賊や狼など剣の錆びにしてやりますよ!ハッハッハ!」


「お、おう…」



ゴーン族とともにハートランド王国へと出発した俺達だったが、それから2日経ち一足先に俺達3人は帰ることになった。


フォージ達ゴーン族だけにするのは少し心配もあるが、食料が心許なくなってきたのだ。急な出発だったので前もって保存食を準備しておく事が出来なかった上、約100人の大移動だ。あっという間に用意した食料は少なくなっていく。それで一度報告も兼ねて食料の補給に帰ることにしたわけだ。




「ほら!行くわよ」


「あぁ。また頼むよ、ラミィ」



ゴーン族に見送られながら再びヒコウキーに乗り込み空の旅人となった俺達は、さっきまでの徒歩での移動が馬鹿馬鹿しくなる程の早さでハートランド王国に帰り着いた。




早速国民代表者会議を開き、今回のゴーン族移住の経緯を説明すると皆喜んでくれた。



「さすがジャッジ様ですね!まさか火の神にまで愛されていたとは…」


「いやいや!それは勝手にゴーン族が勘違いしてるだけだから!俺は火の神なんて知らないよ!」



ウィルとラミィが余計なことまで話したせいで、イーサンまで勘違いしそうになったじゃないか。勘弁してくれよ…。



その場でゴーン族の住む場所や住居の建設などが決まり、とりあえずゴーン族受け入れの準備を始めることとなった。



これでハートランド王国の国民も約600人となり、大きめの村くらいにはなる。元の規模からするとまだまだだが、始まりが俺達3人だったことを考えるとたった一年あまりでここまで増えたのはうれしいことだ。










「トルス議員。これがご依頼のものです」


「あぁ。ありがとう。これで大体揃ったかな?」


「はい!これだけの証拠があれば、さすがのゲール派も言い逃れ出来ないでしょう」




ダポン共和国議員トルスは、自ら新しく立ち上げた派閥が借りる事務所で今日も仕事に励んでいた。


任期満了に伴う選挙が行われる時期に、ダポン国内にハートランド王国侵攻戦の敗戦が伝えられたこともトルスに追い風となり、トルスは圧倒的な票数で当選した。また、トルスを支持すると早々と表明していた候補者に加え、在職の議員の中にも支持を明らかにする者も現れ、今やトルスの派閥はダポン共和国議会で第二勢力となっていた。



「これでやっとこの国をまともな国に変えることができる。皆が平等に暮らせる国に…」



トルス達はゲール議長の行った汚職や非人道的な行為の証拠を集めていた。そもそも少数民族国有化法などという法律自体が人の道に反しているのだが、これは議会で正式に可決されたものであり、そこまではトルスもどうこう言うことはできない。


今のトルスが出来る最善策は、敗戦以降行方知れずのゲールが帰ってきた時の居場所を無くすことと、今までゲールが行ってきた行為を知らせることで、国民の目を覚まさせることだと考えていた。


その為には発言する自分も議会の一員である議員であること、そして言い逃れできない程の証拠を掴むことが大事だと考え、ここしばらくは証拠集めに全力を注いでいた。


もともとゲールの方針に疑問を抱いていたのか、それとも行方知れずのゲールに対する信頼を失ったのか不明だが、多くの議員や関係者から証拠を入手することができた。


いまや、トルスの手元には十分な量の証拠が揃い、明日の議会ではおそらくゲールの議員資格の剥奪が決定されるだろう。それどころか罪に問われる可能性も高い。



「これでゲールも終わりだ。やはりジャッジ王の仰る通りに行動すべきだったな。あのお方には先を見通す目がある」



ジャッジと始めて邂逅した日の事を思い出しながらトルスは独り言を漏らす。


まだあれから一年程しか経っていないが、この国や自分を取り巻く環境は一変した。それもこれも全てジャッジに諭され行動した結果だとトルスは感じていた。



「まだ私より若いのに将来名君と呼ばれる王は違うものだな…。ジャッジ王、このご恩は必ずお返しします。それまでしばしお待ちください」



トルスは頭の中で凛々しく佇み、自分の進む道を示してくれたジャッジに対し感謝の気持ちを伝えると、再び机の書類と相対し始めた。







「……ックション!な、なんだ?急に寒気が…」


「まぁ!これは大変!今夜は早くお休みになってください。私を湯タンポ代わりにお抱きになって…」


「なっ!?ば、バカなこと言ってんじゃないわよ!私が魔法で温めてあげるわ!」



夕食後、館で寛いでいると急な寒気に襲われた俺に、側にいたエマとラミィは大騒ぎしている。



「いやいや。ただのくしゃみだから大丈夫。湯タンポも魔法もいらないよ。……それにラミィの魔法だと黒こげにされる未来しか想像できないしな」



俺はため息をつきながら二人にそう断るが、それでもヒートアップした二人は言い争っている。


まぁいつものことか。しばらくしたら落ち着くだろう。…さて、俺もそろそろ寝ないと。明日はまたヒコウキーでフォージ達の様子を見に行かないといけないしな。


と、後ろにいるはずのウィルに声をかけようと振り返ると、ウィルはその場にはいなかった。




……また逃げたな。

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