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突然の噴火に慌てる俺。しかし、フォージは慣れているのか落ち着いていた。
「大丈夫だ!溶岩がここまで流れてくる程じゃねぇ。よくある小噴火だな。飛んでくる噴石にだけ気を付けろよ」
そう俺達の隣まで歩いてきて教えてくれると、サクラ山の頂上付近を指差した。
確かにフォージの指差す先には、俺が確認できるだけでも10以上の噴石が宙を舞う様子が見てとれた。ここから見ると小さく見えるが、実際はもっと大きいはずだ。あんなのが当たったら大怪我じゃすまないだろう。
俺はラミィを抱き締めたままじっとしていた。ウィルもそんな俺の腕をしっかりと掴んだまま、噴石が飛んでくる方向を凝視している。もし飛んできたら斬るなりなんなりして防ぐつもりだろう。
「うそ!?これが小噴火なの?」
ラミィは俺の腕の中で小さくなって噴火するサクラ山を見上げながら驚いている。
俺にもこれが小噴火とはとても思えない。フォージ達ゴーン族はこんなのが日常的に起きる土地に今まで住み続けてきたのか…。
そんな風に噴煙を上げるサクラ山と、ドン!ドン!と、地面に鈍い音を立てて落ちる噴石を見ながら、俺達がその場でじっとしていると、
「まずい!でかいのが混じってるぞ!」
とフォージは叫ぶなり急に走り出した。
俺もフォージの走り出した方向に目線を動かすと、視線の先に一軒の家が見え、その家に向かって飛んでいく大きな噴石が見えた。
「ジャッジ様!あれはまずいですよ!」
「あぁ!当たるな!あれじゃフォージも間に合わない!くそっ!間に合うか…」
俺は咄嗟に右手に魔力を集中し、手加減せずに魔力を放出した。咄嗟の事で細かくイメージする時間もなかった為、俺が一番得意な火魔法を放つ。
「火よ!」
俺の手から放たれた魔力は大きな火の玉となり、家に迫る噴石の何倍ものスピードで噴石に向かっていく。
そして、噴石が家に当たる直前ギリギリの所で、火の玉は噴石を直撃し、噴石を炎で包みながら吹き飛ばした。
ドドーン!!
という大きな音を立てて村から離れた場所に落下した噴石は、未だ激しい炎を纏って燃え続けている。
「……ふぅ。なんとか間に合ったか」
俺はほっと胸を撫で下ろし、噴石の直撃を免れた家を確認する。
よく見ると少し俺の火魔法で屋根が焦げてしまったようだが、あのまま噴石が直撃していたらバラバラになっていただろうからまだマシだろう。
もし家の中に人でもいたら大惨事だ。本当に間に合って良かった。
「ジャッジ様。さすがですね」
「ハハハ。ウィルが斬った方が速かったかもな」
「さすが私の一番弟子ね!まぁ、私が出るまでもなかったわね!」
なんて俺達がほっと安心して会話していると、
ダダダダッ!!
という、馬の群れでもいるのかって位の足音を立てながら、フォージ達ゴーン族の一団が俺達の方に向かって走ってきた。
そして驚いて身構える俺達の目の前まで来ると、皆一斉に地面にひれ伏した。
「………な、なに?」
突然のゴーン族の行動に戸惑いを隠せない俺達。そして、目前にひれ伏したゴーン族の先頭にいたフォージが顔を上げると驚きの発言を発した。
「ま、まさか火の神の遣いであるとは知らなかったとはいえ、無礼な行いの数々を私は…。大変申し訳ありません!」
「……ん?遣い?……な、なんのこと?」
いきなり態度の変わったフォージといい、その後ろで額を地面に擦り付け続けるゴーン族の面々といい、全く訳が分からない。……というよりなんか怖い!
怯える俺に向かい、フォージは更に言葉を続ける。
「神の遣いであるなら最初からそう仰ってくだされば、わがゴーン族をあげて歓迎致しましたのに…。はっ!まさか…、我々の信仰を確認しにこられたのですか!?も、もちろん!我々は火の神のいらっしゃるサクラ山と運命を共にするつもりです!……なぁ!お前ら!」
「おぉー!!」
フォージの言葉に気勢を上げるゴーン族の面々。ようやく顔を上げた皆はなんだかキラキラした目でこっちをみている。その表情には憧れや畏れといった複雑な感情が浮かんでいる気がする。
……あー。これは多分俺の事を火の神の遣いと勘違いしてるな。もしかして俺が火魔法を使ったからか?まぁ魔法なんて見たことないとは思うけど、それ位で勘違いするかなぁ?
「ちょっと待ってください。俺は火の神の遣いなどではないですよ。ただの魔法使いです。まぁ確かにちょっと火魔法が得意ではありますが…」
「それです!」
俺がひれ伏したまま顔を上げるフォージに向かって説明していると、フォージは目をキラキラさせたまま食い気味に俺に返事してきた。
「我々ゴーン族には昔から言い伝えが伝わっております。いつか巨大な火を操る者が現れ我々を導くであろう、と」
「は、はぁ…」
「まさに今見せて頂いた巨大な火の玉こそその証!ジャッジ様は我々が待ち望んだ火の神の遣いに間違いないのです!なぁ、皆!」
「おぉー!!」
やけに盛り上がっているゴーン族。そんなこと言われても俺は一体どうしたらいいんだ?どうしたらただの魔法使いだと信じてもらえるんだ?
困惑する俺をよそに、まだ俺の腕の中で事の成り行きを見守っていたラミィだったが、
「……仕方ないわね。私に任せなさい」
と俺に向かって話すと、腕から抜け出し一歩前にでた。そして、ゴーン族の一団に向かって声を張り上げた。
「コホンッ。いかにも私達は火の神の遣いよ!サクラ山と運命を共にしようとしているアナタ達を救うために遣わされたわ!アナタ達はこんな場所で滅ぶべきではない!おとなしく私達の国に来て鍛冶をしなさい!」
仁王立ちで腕を組み、ラミィポーズを繰り出しながら偉そうにそう言い放つラミィ。
さすがに突然そんなこと言われてもゴーン族も戸惑うだけだろう。……ほら、フォージだって面食らった顔してるじゃないか。きっと俺達が火の神の遣いなんかじゃないって気付いたんじゃ…。
「承知しました!おい!お前ら引っ越しだ!急いで荷物をまとめろ!」
「おぉー!!」
と、ラミィの言葉を聞き終わるや否や、フォージの号令で皆一目散にその場を去っていった。
「どう?これで一件落着でしょ?」
「えぇ…。何この人達…」
どや顔でこちらを見るラミィ。俺はフォージ以外が去った後呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「………つまり、俺は火の神なんて知らないんです。だから貴方達は俺に従う必要はないんですよ?」
「ハハハ!ご冗談を。あんなに巨大な火を操れる者が火の神と無関係なはずないじゃないですか!もし、それが本当ならジャッジ様は無自覚に火の神に愛されているということですよ!これは火の神の遣いより素晴らしいことです!正に我々が待ち望んだお人です!」
皆が引っ越しの準備をしている間、再び家に招かれた俺達はフォージから接待されていた。
昨夜も大分もてなしてもらったが、今は目の前には豪華な料理が並び、隣ではスミティが俺の器が空になる度にお酌してくれている。
「はぁ…。まいったな。ウィルどうしよう?」
「ゴーン族が納得できるならそれでいいんじゃないですか?ハートランド王国に来てもらえるなら我々にとってもありがたいですし」
「うーん…。まぁ確かにそうなんだけど…。なんか騙してるような気がしてさ」
ちびちびと酒を口に含みながら、既に酔いかけている頭で色々と考えるが打開策は思い付かない。まぁこれでフォージ達ゴーン族が滅ぶのを避けれるなら、それでいい気もするんだがなぁ…。
俺の表情が浮かないことに気付いたのか、フォージが声をかけてきた。
「ジャッジ様!我々は火の神から愛されるジャッジ様の国に移り住む事を心から望んでいるのです!火の神から愛されるジャッジ様の治める国、それは正に火の神の国と同じです!我々にとっての桃源郷なのです!」
恍惚とした表情で語るフォージ。
……なんか嬉しそうだな。フォージ達がそうしたいって言うならもういいか。俺も鍛冶ができる人達が引っ越してきてくれるならうれしいし、ウィンウィンの関係と言えなくもない。
色々と考えることが面倒くさくなってきた俺は、もうなるようになれ!とフォージ達を受け入れることを決めた。
「……わかった。これからよろしく頼むよフォージ」
「はい!ゴーン族皆でジャッジ様とハートランド王国の為に尽くします!」
こうして、予定通り?にゴーン族のハートランド王国移住が決まった。
……なんか俺ってどんどん二つ名が増えていってないか?
国王で魔法使いで火の神の遣い?いや、愛されし者か。あんまりラミィのことをバカにできなくなってきたな…。