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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ラミィとの関係がとっくの昔に国民全てにばれていたと知った俺だが、気を取り直してゴーン族探しに集中することにした。



「……そ、それで?ゴーン族についてはどんな話が聞けたんだ?」



運ばれてきた名物の鹿シチューを口に運びながら、俺はウィルに聞き込みの成果を確認する。



「はい。私たちが目指すサクラ山はここから歩いて3日程の距離にあるらしく、この街にもゴーン族が鍛冶の注文などを取りによく訪れるようです」


「ほぉ。もうそんなに近いのか。それならすぐに見つかりそうだな、さすがヒコウキーだ」



思ったより簡単に目的を達する事ができそうだと安心する俺に対し、ウィルは眉をひそめると続きを話し始めた。



「…それがそう簡単にいかなそうです。ジャッジ様」


「ん?どういうことだ?」


「ゴーン族の住むサクラ山は、一部では溶岩が吹き出し続ける火山なのですが、どうやら最近中規模の噴火を繰り返しているらしく、大きな噴火が後ひとつでも起きればゴーン族が暮らし続けるのも難しくなるらしいのです」


「……なるほど。ということは、ゴーン族は住みかを追われているってことか…」



ウィルの話を聞いて大体の事情は把握した。サクラ山の噴火で住みかを追われることになったゴーン族には気の毒だが、これはハートランド王国移住を勧める好機とも言える。


なんか人の弱みにつけこむようで気が引けるが、とりあえず話してみる価値はあるだろう。無理なら無理で別の場所に引っ越す手伝い位ならできるだろうしな。



「わかった。当初の予定通りこの後はサクラ山に向かおう。まずは直接ゴーン族と話してみてからだな。それでいいか?」


「はい」


「いいわよ」



話の決まった俺達はさっさと昼食を平らげると、料金を支払い店の外に出た。


名物の鹿のシチューはさすがの味だった。どうやってるのか分からないが臭みもあまり感じず、肉の旨さが際立っていた。


こんな風に各地の名物を食べれるのも旅の醍醐味だな。たまには国を飛び出すのも悪くない。きっと父上も世界中で色んな物を見たり食べたりしたのだろう。





再びヒコウキーに乗り込み移動し始めてからすぐ、目の前に大きな山が見えてきた。きっとあれがサクラ山だろう。


遠くから見てもすぐに分かる位、頂上から噴煙が上がっている。よく見ると山の裏側からにも噴煙が見えるから、火口が複数あるのかもしれない。



「…あれですね」


「あぁ、多分な。ラミィ山の近くまで寄ったら麓の辺りを探しながら飛んでくれ」


「わかったわ。ゴーン族の住む場所を探せばいいのね」



ラミィに指示を出し、ウィルが聞いてきたゴーン族の集落のあるサクラ山の麓を目指す。


ゴーン族はサクラ山の麓に住み、周辺の村や街に出向いては鍛冶の必要な物を預かって修理をしたり、注文を受けて武器や農具を作成したりして生計をたてているらしい。


鍛冶を得意とする民族だけに、火山であるサクラ山の麓に住むのには何か曰くがあるのかもしれない。





噴煙を上げるサクラ山が目の前まで迫り、俺達は山の周囲をぐるっと回るようにヒコウキーで飛んでいたが、前方に数軒の家が固まっている場所を見つけ、そこに向かうことにした。



「あー。やっぱりヒコウキーにも見えなくなる機能付ければよかった」


「ハハハ。たまには歩かないと太るぞ。お前クッキーばっか食べてるんだから」


「うるさいわね!その時は痩せる薬でも開発するわよ!」



さすがに山道を歩くと疲れるのか、文句を言うラミィ。ウィルなんか少し先を先行して索敵まで行っているというのに、これくらいで文句を言ってたらバチが当たるぞ。



特になんの問題もなく目当てとする集落まで辿り着いた俺達は、最初に出会った村人に族長?村長?の家を尋ねることにした。



「すいません。この村の長に話があって来たんですか…」


「あぁ!鍛冶の依頼ですね。族長の腕は抜群ですからね!そこの道を真っ直ぐ行った突き当たりが族長の工房です。族長も気まぐれだから、もしかしたら受けてくれるかもしれませんよ」



気前よく教えてくれた村人には感謝だが、どうやら鍛冶の依頼をしにきたと勘違いされたようだ。直接ここまで依頼に訪れる人もいるのだろう。それ位鍛冶の腕には定評があるってことか。気まぐれってのは性格のことだろう。



教えられた通りに真っ直ぐ道を進むと、大きな家が見えてきた。これが族長の工房なのだろう。中からはガンガンと大きな音が響いてくる。



「……よし。行こうか」



俺が二人に声をかけて工房の敷居を跨ぐ。


中に入った途端一気に温度が上がり、モワッとした熱気が顔を襲ってきた。一瞬で汗が額に吹き出すような温度の中、工房の真ん中で上半身裸の大男が大きな鎚を振るっている姿が見えた。



「………ません。すいません!!」



ガンガンという大きな音にかき消されながらも、何度目かの叫び声がようやく大男に届いた様子で、鎚をもった男がこちらを振り向いた。



「なんだぁ!?客か?」



見た目通りの大声でそう聞いた大男は、正にノッシノッシと音がしそうな歩き方で俺達の目の前まで歩いてくると、更に言葉を発した。



「すまねぇが注文は受けれねぇ。というか今も受けてねぇんだ。どうせもうすぐこの村は溶岩に沈むんだ。今更仕事したって仕方ねぇしな」


「溶岩に沈む!?」



大男は悲壮感を漂わせるでもなく大声でそう言いきると、ハハハと笑った。


ちょっと待て。全然大男の話した内容が理解できないぞ。もうすぐ溶岩に沈む?この村が?それならなぜ逃げない?



「あん?知っててここに来たんじゃねぇのか?」



俺が明らかに困惑しているのが分かったのだろう。大男は不思議そうな顔をして尋ねてきた。



「……いや。その話は初めて聞きました。俺達はここから離れた国から鍛冶が得意だというゴーン族に会いに来たんです。まさか村ごと溶岩に沈むとは…」


「なんだ!わざわざ俺達に会いに来てくれたのか!そりゃ悪いことしたな。しかしそういうことだからもう注文は受けてねぇんだ。……よし!あんたらに土産をやろう。せっかく来たのに手ぶらじゃ帰れねぇだろう。ついてきな!」



そう言うと大男は鎚を地面に置き、俺達が入ってきた入り口とは反対側から出ていってしまった。



展開の早さについていけない俺達は、互いに顔を見合わせた後とりあえず大男の後を追うことにした。

大男が出ていった方向にはもう一軒家があり、どうやらその中に入っていったようだ。


勝手に入っていいものか迷っていると、中から俺達を呼ぶ大声が聞こえたので遠慮なくお邪魔することにした。



「そこで待っててくれ。今うちのに茶でも出させるからよ」


「いえいえ。突然お邪魔したのは我々なのでお構い無く」


「ハハハ!遠慮するんじゃねぇよ。茶ぐらい飲んでけ。うちのが入れた茶はうめぇぞ」



俺達を居間に座らせると、何やら奥さんに言いつけた後大男は奥にある部屋に行ってしまった。



「……なんとも豪快な人のようですね」


「あぁ。あまり話したことのないタイプだ」


「豪快?山賊みたいの間違いじゃない?」



すっかり大男にペースを乱された俺達は、言われるがまま居間に座りながら待っていた。


すると、大男の妻らしき女性がお茶を運んできてくれた。



「すみません。うちの人はあんな感じだけど悪い人じゃないんですよ。ちょっと乱暴というか、粗暴というか…」


「ハハハ。大丈夫ですよ。突然訪れた我々にお茶を出してくれる人が悪い人なはずないですから。お気になさらず」



申し訳なさそうに謝ってきた奥さんにそう返事すると、俺はついでにさっき大男が話していた内容について奥さんに聞いてみようと思い、お茶を一口飲んだ後質問してみた。

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