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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ラミィが家出から帰ってきた翌日、国民代表者会議の場でゴーン族探しの出発日が正式に決まった。


ちょうどサニーがサンとともにファイスの街に帰ったこともあり、特にハートランド王国でのイベントはしばらくないであろうという事で、準備の時間を考えて明後日の出発になった。



まぁ準備といってもヒコウキーに屋根を付ける位だろうか。着替えや食料はいつものようにラミィと俺のマジックバッグに入れたらいいわけだし。



「あ!そうだ!フラー。ちょっといいか?」



国民代表者会議が終わり、皆が三々五々会議室を後にする中、俺は思い出したことがあってフラーを呼び止めた。


フラーは会議の際のいつものように、皆に出されたお茶が入ったコップを片付けているところだった。



「はい?なんでしょう?」


「いや、そんなに大したことじゃないんだが…。いつも世話になってるフラーにプレゼントがあるんだ」



俺はそう言うと、先日サニーから購入したネックレスをポケットから取り出す。


一日中館の仕事や学校での先生としての仕事にとびまわっているフラーも、代表者会議の日だけは時間を多めにとっているのを知っていたからだ。今朝忘れずにポケットに忍ばせておいた俺は偉い。



「小さい頃からずっと一緒に暮らしてきたけど、フラーに何かプレゼントするのは初めてかもな。……いつも俺やこの国の皆の為に働いてくれてありがとう。フラーがいなきゃこの国は成り立たないだろう。これからもよろしくな」



俺はそう言いながらネックレスをフラーに差し出す。



フラーは俺が差し出した真珠があしらわれたネックレス

と俺の顔を交互に見ていたが、すっと俺の側まで寄ってくると小声で話しかけてきた。



「……ジャッジ様。私より先にお渡しする方がいらっしゃるのではないですか?」



眉をひそめながら心配そうにそう聞いてくるフラー。


きっとラミィやエマのことを言っているのだろう。そう言えばフラーにはラミィの家出の原因を話してなかった。もうそのせいで一悶着あったんだよ…。



「安心してくれって言い方も変だが、二人にはもう渡したから大丈夫。たがらフラーも気兼ねなく受け取ってくれ」



苦笑しながら俺がそう言うとフラーは安心したように笑顔になり、ネックレスを大事そうにそっと受け取った。



「ありがとうございます。あの小さかった悪戯っ子から、こんな立派なプレゼントを貰う日がくるとは思いもしませんでした。これは大事な日に身に着けることにします」


「おいおい。そんなに高価な物でもないんだから普段から着けてくれ。ほら、ちょっと貸して」



相当うれしかったのだろう。ネックレスを胸の前で抱えるフラーの姿を見て、このままではタンスの肥やしになると思った俺は、自らフラーにネックレスを着けてあげた。



「壊れたらまた買えばいいよ。それくらいは俺にもへそくりがあるからさ」



フラーを心配させないように、ネックレスを着けた後で笑いながらそう話す。実際はもう俺のへそくりはからっぽだけどね。


フラーは胸元に光る真珠をしばらく見つめていたが、改めて俺に感謝の言葉を伝えると、上機嫌でコップを持って会議室を出ていった。



「フラー殿も喜んでいたようですね」


「あぁ。フラーにはいつも世話になってるからな。まだまだ恩返しには足りないけど」



俺もウィルとそんな会話をしながら部屋を後にした。



今日はこれから兵の訓練を見学して、夕方からはイーサンの家に行く予定だ。いつものようにソバを御馳走になる腹積もりだが、その代わりエミリーにもプレゼントがある。


なんかエミリーだけ特別扱いしているようで気が引けるが、将軍であるイーサンの娘だし、将来俺の妻になるかもしれないエマの妹だ。少し位贔屓してもいいよな?










「やっぱりイーサンのソバは格別だな。なんか違うんだよなぁ」


「ハハハ。そうでしょうそうでしょう。ひと括りにソバと言ってもその作り方は各家で違いがあります。我が家では特にコシに力を入れてますから」


「コシ?」



俺は兵の訓練の視察を終え、イーサン宅にてソバを御馳走になっていた。


正直訓練の後半はソバが楽しみで視察も上の空だった。まぁ、訓練といっても半分は相撲の稽古の様になっていたからいいだろう。


ウィルが若い兵士をちぎっては投げ、ちぎっては投げするのも、見慣れてしまえば驚くこともない。いとも簡単に投げられる兵達もちっとも怯まずに次々に挑んでいく。やはりジャッド族は勇敢な民族だと思う。



「コシとは歯応えというか、喉ごしというかそんなものです。力強く捏ねることで茹でた後にコシが出るのです」


「ははぁ。なるほど。だからイーサンのうったソバは弾力があるのか」


「そうです!それが我が家自慢のソバです。自治区にいた頃はソバも贅沢で年に数回しか食べれませんでしたが、今ではしょっちゅう食卓に並びます。これも全てジャッジ様のおかげです」


「全てって…。それはさすがに言いすぎじゃないか?俺はこの国に誘っただけだぞ?」



ソバに対してのうんちくを聞かせてもらいながら、和気あいあいと皆で食事を楽しむ。俺とウィル、そしてエマも連れてきたので一家勢揃いとなったイーサン一家は、大きな机を挟んで皆笑顔だ。


イーサン宅でたまにソバを御馳走になるようになった当初は、俺だけ先にソバを出してくれていたが、俺が皆で一緒に食べたいと我が儘を言ってから皆一緒に食べることになった。


だってどんなに美味しい料理も一人で食べたら美味しさも半減するだろ?やっぱり食事は皆で楽しく食べるのが一番だと俺は思う。


あぁ。ちなみにラミィもちゃんと誘ったが断られた。何やら昨夜徹夜して眠いらしく、昼食だか夕食だか分からない時間にご飯を食べて夕方には自室に帰ってしまった。きっと今ごろは夢の中だろう。



腹一杯ソバを食べ、デザートのソバクレープまで平らげた俺は、エマの軽い嫉妬の視線を浴びながらエミリーを膝に乗せ寛いでいた。



「あぁそうだ。エミリー、良い物を今日は持ってきたんだ」



そう言うとポケットからカチューシャを取り出してエミリーに渡す。このカチューシャは銀で出来ていて飾りには星や花などがあしらわれた装飾がなされている。サニーは比較的安価な宝石だと言っていたが、宝石ってこんな風に加工できるんだな。



エミリーは突然の贈り物をうれしそうに受け取ったが、思ったよりも高価そうな物でびっくりさせてしまったのかもしれない。オリビアの方を不安そうに見ている。



「ジャッジ様。そのように高価な物を本当にエミリーが頂いてよろしいのですか?」



オリビアも不安そうに俺に尋ねてきた。


俺は笑いながらそれに答える。



「ハハハ。実はそんなに高い物じゃないんだ。それにエミリーはいつも俺と遊んでくれる大事な友達だからな。是非受け取って欲しい」



それを聞いたオリビアはエミリーに笑顔で頷く。するとエミリーも満面の笑顔になり、うれしそうにカチューシャを抱えて跳び跳ねている。



「ありがとう!王様!私おっきくなったら王様のお嫁さんになる!」


「ハハハ。エミリーが大きくなった頃には、俺はもうおじさんだぞ?」


「ダメよ!ジャッジ様の妻の座は例え妹であろうと渡さないわよ!」



妹のエミリーにまで嫉妬するエマも参戦してきて、イーサン宅は皆笑いながら大騒ぎだ。



きっとエミリーに似合うと思っていたが、実際オリビアに頭に着けてもらったカチューシャは、とてもエミリーに似合っていた。



「えー。王様もう帰っちゃうのー?」



と、ほっぺたを膨らましながら見送ってくれたエミリーとイーサン夫婦にソバのお礼を伝えた後、俺とウィル、エマは館へ帰った。



帰り道ずっとエマが俺にくっついてきて歩きづらくて仕方なかったのでウィルに助けを求めたが、ウィルはやはりそこにはいなかった。きっとウィルのことだから俺達が見える位置にはいると思うのだか、全くその気配を感じさせないあたりはさすがだ。



……いや、そんなとこで天下無双の実力を出されてもなぁ。

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