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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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不審な人影達のあとを追うウィルだったが、なかなか追い付けないでいた。身体能力ではウィルが圧倒的に勝っているのだが、路地裏特有の近道や抜け道を駆使して逃げられ、着かず離れずの距離の追いかけっこは続いていた。


「くそっ!いつまで着いてきやがるんだ!」


「このままじゃアジトまで着いてこられるぞ。どうする?」


「ちっ!仕方ねぇ。おい!お前がここであいつの足止めをしろ」


リーダーらしき人影から命令された下っ端は、不満の表情を浮かべながら立ち止まる。そして懐から短剣を取りだし構えた。


あとを追うウィルにもその姿はしっかりと見えているが、袋を背負った人影以外はどうでもいい。とばかりに無視して通り抜けようとする。


「くそっ!無視すんな!おまえを行かせたらまた殴られるじゃねーか!」


そうはさせじと短剣を構えた下っ端が切りかかってくる。


ウィルは仕方がないとばかりに立ち止まる。襲ってくる下っ端だが構えもなんもあったもんじゃない。ただただ短剣を殴り付けるようにウィルにぶつけようとしているだけだ。ウィルからすれば欠伸がでるようなスピードであり、短剣の下をくぐるように躱し相手の脇の下に体をいれ投げ飛ばした。


投げ飛ばされた下っ端はドサッという音の後、なにも言わずに気を失った。下っ端からすればなにが起こったか分からない程の早業だ。剣聖とも言われるウィルを相手にしたのだから、死ななかっただけ幸運だろう。


下っ端がほんの少ししか時間を稼げなかった為、他の人影が、ある建物に入っていく姿をウィルはしっかり捉えていた。


「あそこにジャッジ様が。あんな狭い袋に押し込んで怪我でもしていたら覚悟しろ!」


強い怒気をはらみながら、ウィルは人影達が入った建物の扉を蹴破った。


ドーーン!!


扉の蹴破られる音が室内に響く。飛んで行った元扉だった木は、室内にいた男数人をまとめて吹き飛ばしバラバラになった。


「なんだ!?くそっ!足止めもできねぇのかあのバカは!」


室内を見回すと、吹き飛ばされた男達以外に5人の男達がいる。奥にまだいたとしても10人位だろう。ウィルにとっては問題にもならない数だ。


「おい!ジャッジ様を返せ!」


怒鳴るウィルに男達も怒鳴り返す。


「うるせぇ!なにを言ってやがる!アジトまで乗り込んできやがって。このまま返すわけにはいかねぇ。おい!やっちまえ!」


リーダーと思われる男の合図で、奥からも2人の男が飛び出してきた。これで相手は総勢7人ということになる。


最初に殴りかかってきた男の拳を躱し、腹部に悶絶必死のボディブローを叩き込む。口から吐瀉物やら血やらを撒き散らしながら倒れこむ男を無視し、2番目に剣で上段から切りかかってきた男を、剣を躱すこともなく前蹴りで吹き飛ばす。その男を玉にみたてたピンボールのように、3、4、5番目も男達も巻き込まれ奥まで飛んで行った。


男達の勢いが収まったところで、ウィルは室内を冷静に観察する。人が入る程の袋は見当たらない。奥の部屋にあるのだろうか?ジャッジ様が怪我をしない為にも、もう少し手加減をしたほうがいいかもしれない。


もうウィルの頭の中では、男達がジャッジをさらった犯人で確定している。少女の話などどこかへいってしまっている様子だ。そして残りの男達を制圧し、さっさとジャッジを救出したいウィルは、残りの2人の男達に向かいゆっくりと歩きだす。


「ま、まて。なにが欲しいんだ?金か?」


さすがに実力の差を感じたのだろう。まだ生き残っていたリーダーらしき男が話しかける。


「金などいらん!ジャッジ様を返せと言っている!」


ウィルはさっきも言った言葉をくりかえす。


「じ、ジャッジ!?そんなやつは知らん!そ、そうだ!薬か?さっき手に入れた極上のものがあるぞ!」


そう言いながらリーダーらしき男は、腰に下げた袋を右手で持ち、高く掲げる。ウィルの視線が少しその袋に向けられた瞬間、リーダーの横にいた男が姿勢を低くして短剣を腰だめにして突っ込んできた。


「死ねっ!」


そう叫ぶ男は修羅場を幾度か踏んでいるのだろう。なかなか様になった短剣の構えだ。だが、残念ながらウィルの敵ではない。


あっさりと突っ込んできた男を体を半身にして躱すと、そのまま男の頸部に手刀を落とす。男が意識を失って倒れこむのと同時に、リーダーに向かって一瞬で距離を詰める。ビックリしたように目を見開いているリーダーの腹部を思いきり蹴りあげる。リーダーは天井まで跳ね上がり、おもいきり頭をぶつけて床に落ちてきた。頭からは大量の血が流れている。


「手下はともかく、ジャッジ様をさらった主犯を許すわけにはいかんのでな。しかも薬物にまで手を出していたとなればさらに許せん」


いわゆる麻薬と呼ばれるものを資金源としている裏の組織は多い。その手は未成年にまでのびており、剣術道場で多数の少年を預かるウィルもその噂は聞いたことがあった。


「さて、ジャッジ様!どこにいるのです?ジャッジ様!」


室内をくまなく探すウィル。2人の男たちが出てきた奥の部屋に入ると、机の上に路地裏で男が抱えていたのと同じ大きさの袋が乗せてあった。


「ジャッジ様!?大丈夫ですか!?」


ぴくりとも動かないその袋の口を急いで開ける。


「ジャッジさ…… ん?これはなんだ?」


袋の口を開けると、中からは大量の葉っぱのようなものが溢れ出てきた。念のために袋をひっくり返してみるも、中身は全て葉っぱだった。葉っぱでいっぱいになった机を眺めながらウィルは呆然となる。


「この袋ではなかったのか?」


その後、家中を探したが同じような袋は無かった。どうやらウィルの早とちりだったらしい。


「しまった。勘違いだったようだ。まぁ悪いことをしていたようだから勘弁してもらおう。しかし、ここではないとすればジャッジ様はいったいどこに…?」


男達をぶちのめした割にはあまり悪びれていないウィルは、再びジャッジの居所について考えていた。ウィルにとってジャッジが一番であり、その他のことは基本的にどうでもいいのだ。


そんなウィルの耳に、荒れ果てた部屋を瓦礫を踏みながら歩く誰かの足音が聞こえてきた。男達が意識を取り戻したのかと少し身構えていると、足音はこちらに近づいてきた。


「おい!あんた大丈夫か?」


声をかけてきた足音の主は、軽装ながらしっかりと武装した兵士だった。


「あぁ、私は大丈夫です。どこも怪我していませんし」


倒した男達でも、その仲間でもないと判断したウィルはにこやかに兵士に返事を返す。


「あれ?ウィル先生ではないですか?剣術道場の。こんなところでどうされたんです?」


聞けば息子が道場に通っているという。住民からすごい音がして、家が崩れる程の騒ぎがあったと聞き付け出動してきたらしい。


その兵士に連れられて詰め所まで行き、騒ぎを起こした経緯などを話すと苦笑いしながら解放してもらえた。その兵士曰く、ウィルがぶちのめした男達はやはり薬物の売買で稼いでいた組織らしく、少数ながら最近台頭してきた新興組織だったらしい。なかなか尻尾がつかめず街の治安を担当する兵士達も手を焼いていたとの事だ。まぁ建物ごと破壊する勢いで暴れたウィルには、兵士達もビックリしたようだったが…。


帰り際にもしかしたら領主から報奨があるかもしれないと言われたが、ウィルは遠慮すると伝え、詰め所をあとにした。その後ウィルは、家にジャッジが帰ってきているかもしれないと考え、ひとまず家に帰ってみることにした。


無駄なことをしてしまった徒労感からか、ジャッジの安否を心配し続けたことによる精神的な疲労からか、とぼとぼと歩くウィルが噴水広場に差し掛かったときだった。


「おぉーい!ウィル。こっちだこっち!」


探し続けた主の声にパッと後ろを振り向くウィル。その目線の先にはこちらに向かって手を振るジャッジと、横に佇む少女の姿があった。


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