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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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1ープロローグー

初投稿です。皆さんの暇潰しにでも読んで頂けると幸いです。

ここはハートランド王国……の跡地。

ほんの数年前まで小さいながらも活気のある国として栄えていた場所だ。

国といっても大きめの都市程度の領土しかなく、まさに都市国家といった体裁だ。

城壁などはなく、人間の背の高さほどの石塀がぐるっと街を囲い、周囲を天高くそびえる山々に囲まれ自然の要塞としていた。その山々を抜け領土に入るには抜け道を通るしかなく、滅多にどころかほとんど国外の人々は訪れなかった。

国民も1万人程度と吹けば飛ぶような小国である。


そんな国でも人々はそれなりに幸せに暮らしていた。

この国にとって悪夢としか言い様のないあれが起きるまでは…。



その日はいつもとなんの変わりもない、ほんとになんてことない夏の暑い日だった。


「そりゃ!うりゃ!それ!」


「はっ!」


キンッ!ガキンっ!と剣同士のぶつかり合う音、掛け声が山々の間に響く。


片方は少年から青年に移り変わろうとしている男、まだ体も十分に出来ておらず剣に振り回されているようにも見える。

そしてもう片方は、一見細身ながらもよく見ると鍛え込まれた体をしており、剣を軽々と扱って少年の攻撃を受け止めたり、いなしたりしている。


「もっと下半身を意識しながら!」


「はいっ!とりゃー!」


「おぉ!少しよくなりましたね」


「まだまだっ!」


そんな光景を見守るように少し離れたところでは、馬が2頭草をついばんでいる。初夏の山は夏草も青々としており、生命感に溢れている。

ここは標高も高く街のなかより随分と温度も低く、過ごしやすそうだ。


「ハァ、ハァ…フゥ、すごいな…。全く息も乱していないじゃないか。父上が天下無双というのも大袈裟ではないな」


その後もしばらく続けたあと、草のうえに倒れこむように座り込み、息をなんとか整えながら俺は話しかけた。



「殿下も訓練を続ければすぐに私など追い抜きますよ。

それに陛下のおっしゃることは大袈裟すぎます。私ほどの剣の腕を持つものなど世界中にはゴロゴロいます」


男はまだまだ余裕のありそうな様子で、使った剣の歯こぼれなどを確認していたが、問題なかったのだろう。満足そうに頷くと剣を鞘へと納め、少年の傍らへ座りながら返事をした。


「そうなのか?」


「えぇ、私が以前滞在した街で偶然友となった老人ですら私といい勝負でした。たまたま朝の素振り中に知り合い、頼まれて手合わせをしたのですが手強かったですね」


「そうか、老人ですらそこまで鍛えねば安心して暮らせないのか外国は」


「そういうわけでもないでしょうが、今の小国が乱立している状況では戦争は避けられません。そんなとき頼りになるのは自身の強さですから」


「うーん、やはり俺ももっと鍛えなければいけないな。あ!それと殿下っていうのはやめてくれ。うちの国じゃそんな畏まった言い方をするやつはいないしな」


国というのもおこがましい位の規模であるせいか、ハートランド王国では王族(国王である父と王子の俺しかいない)と国民との距離が近い。

まぁしょっちゅう街に出て、国民と一緒に飲んでいる王様のせいかもしれないが。

俺も「ジャッジ様」と呼ばれるのはマシな方で、「若」なんて呼んでくるやつもいる。

どこかのギャングの二代目かよ俺は…。

まぁでもこんな雰囲気の国も悪くないなとも思う。


「ですが… わかりました。なんとお呼びすればよろしいですか?」


「なんでも。ジャッジと呼び捨てにしてくれてもいい。ウィルは俺の剣の師匠になるんだから」


「わかりました、ジャッジ様。」


「様ねぇ、まぁいいか。これからよろしく頼むウィル師匠。それとあんまり畏まった話し方もしないで欲しいな」


「それはさすがに他の方がいるときは難しそうですね」


確かに、と二人は笑いあう。

そんな平和な光景が初夏の日差しを浴びなから繰り広げられていた。



汗もかいたしと、近くにある泉で水浴びをして汗を流しているときだった。


この山には中腹にいくつも水の涌き出ている場所がある。それはとても澄み通っており、暑い日などに飲むと冷えており最高にうまい。

この泉もそのひとつで涌き出た水が溜まって、小さな池のようになっている。



ドーン!とひとつ大きな爆発音が響く。その後も立て続けに何度も爆発音が、ジャッジたちのいる山の中腹まで聞こえてきた。


「ん?なんの音だ?」


音のした方を振り返りながらウィルに話しかける。

音の感じからすると結構遠くから聞こえてきた音らしい。


「街の方からですね。少しみてきます」


剣の達人ともなると音だけでなにかわかるのか。

明確に麓にある街のほうを見つめながらウィルは返事した。


「まて、俺も行く」


二人で急いで衣服を着用し、馬を走らせ見晴らしのいい場所まで急ぐ。


先程剣の訓練をしていた場所一帯は大きな樹もなく、少し走れば麓にある街が見渡せる場所がある。


「なっ……、ま、街が……、」


そこまで急いだ俺は眼下に広がる光景をみてまさに言葉を失った。


俺の住む館が、住民の住む家が、街、いや、国全体が燃えている。

それはさながら秋の紅葉が落ちてできる、真っ赤な絨毯のようにも見えて、頭の片隅に残った冷静な部分が「綺麗だな」なんて不謹慎な感想を残す。

だが、今はそんなこと考えている場合じゃない。


「ウィル!あれはなんだ!?どうしたんだ!なんで街が燃えているんだ!?」


ウィルに掴みかかりそうな勢いで問いかける。


「わかりません…が、とにかく山を降りましょう!一刻もはやく!山を降りても私のそばから離れないでください。なにが原因で街があんなことになっているかわかりませんから」


ウィルも焦っているのだろう。できるだけ冷静に話そうとしているが、早口でそう告げると手綱を握り直した。



ゆっくりと時折馬を休ませながら登ってきた朝とは違い、二人とも全速力で馬を走らせる。

馬上で木々から伸びた枝や葉っぱが顔や体に当たり、切り傷や擦り傷が少しずつ増えていく。


ウィルはさすがともいえる馬捌き、体捌きであまり傷ついている様子ではない。

だか、今はそんなことに構っていられない!とにかく一秒でも早く街がどうなっているか確認しなくては!

との思いで俺は手綱を握る。



ようやく山を降り平地に出た。

そこでも休むことなく街のほうに駆け出そうとする俺をウィルが止める。


「ジャッジ様!武装した兵士が見えます!」


「なに!?うちの兵士じゃないのか?」


「あきらかにこの国の兵士とは鎧などの武装が違います。どこの国かは分かりませんが他国の兵でしょう」


一応我がハートランド王国にも兵士はいる。

なんならハートランド騎士団という立派な名称までついているが、正直弱い。

他国との争いなどここ数十年無く、実戦を経験したことのある兵士はもうおじいちゃんたちしかいない。

訓練はたまにしている様子だが、騎士団専属なのは団長くらいであとは他に職を持つ。つまり兼業騎士団だ。

あまり役に立つとは言えないだろう。


「つまり、侵攻を受けているのか!?」


「その可能性が高いと思われます」


早く街に入りどうなっているか確かめたい気持ちを抑えながら考える。

驚いた。まさかこの国に侵攻してくる国があるとは…。

いや、小国が乱立し覇権を競い合っている今の情勢なら不思議な話ではないのだが…。


まさか我が国がその対象になるとは夢にも思わなかった。

そう思っていたのは俺だけじゃないだろう。

国民もいや、国王である父も考えもしなかったはずだ。

本来もっともそのような危機に敏感でいなければならない国王がそれじゃだめだろうと思うだろうが、この国はちょっと特殊なのだ。


まず立地が悪い。

四方を高い山脈に囲まれている上、隣国に行くのも抜け道を抜け、何もないような荒野を一ヶ月は歩かないといけない。

馬車や馬でも一週間はかかるだろう。


さらにはわざわざハートランド王国を通らなくても、山脈を迂回していけばより簡単に大陸内の行き来はできる為、訪れる旅人もほとんどいない。


そして極めつけは国力の低さだ。

目だった特産品もなし、開墾してやっと国民が飢えない程度の食料が採れている状況である。

周りの山々から珍しい鉱石でも採れればいいのだが、大昔に調査にきた遠い大国の調査団の調査の結果、どこにでもあるような鉱石の鉱脈しかなかったらしい。


と、まぁどこをとってもこの国を侵攻するメリットは無い為、すっかり国王含め国全体が安心しきっていた。


今日この日を迎えるまでは。



プロローグのみややシリアスな展開が続きます。ご容赦ください。

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