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ウーランルシア大陸物語  作者: 流浪のツキ
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第四章 呪われた森の伝説

               第4章 呪われた森の伝説

 ヤルデン山脈はウーランルシア大陸の最北西部を連なる山々で、王国が統一する大昔からその地の周辺に住む靱の民や嶺の民から光神の王冠と呼ばれている。

 この山脈のおかげで、山脈の北端から吹き荒れる寒風は遮断され、大陸は人族が繁栄できる環境でいることができた。遊吟詩人達はこの地を訪れると、生死は紙一重と感慨しながら歌でこの山脈の存在を謳っていた。

 なぜなら、山脈の北側より先は四季が無く、寒冬のみが続く地だった。大地は年中厚い氷に覆われ、空は四六時中に轟く暴風が吹き荒れ、生き物もろくに生存してなく、この地はウルドン大陸と呼ばれ、二百年前に封印された闇の王「ドゥーケン」の本拠地だった。寒氷に封じられた無尽に広がる埋骨荒野の先に魔都ケルンベストがあり、そしてそこにいまだにドゥーケンは封印されているのだ。

山脈の南側は北側と真逆で、生気溢れる大木が山脈を覆い、生き物の楽園になっていた。このどこまでも連なる森は当然ヤルデンの森と呼ばれ。森の西部分の山谷地方には土の元素を扱う靱の民、その上の北部の高原には大気を扱う嶺の民達が王国統一するまで栄えていた。

 山脈の南側の平原との接する場所は壺の口の形をしているため「ヤルデンの壺口」と呼ばれていた。200年余り前に、人族の連軍がこの場所で初めて闇の軍勢に打ち勝ち、この勝利を始めに、連軍は闇の王との最終決戦を制する事が出来た。

その後サマーレイン家のギルターナ王によって人族は統一され、北部は王の弟コンスタント公爵の封地になった。コンスタント公爵は闇の王の再起を恐れ、重要な戦略地であるヤルデンの壺口を最も信頼する二人の家臣、ノルメンとポーレットの二人を鎮守に任せた。

 ヤルデンの壺口を西にノルメン家が治め、東をポーレット家が治めた。二人とも公爵の期待を裏切らず、山脈の闇の軍勢の残党を狩り、何世帯も渡って一帯の安全を守ってきた。

 しかし、ヤルデン山脈は闇の王がウルドン大陸を越え、人族を侵攻してからたくさんの伝説や恐い噂が流れ、呪われているとも言われていた。

 「俺らはこの地を知り尽くしてても、あの木の周りには近づかねーつぅのに、これだから命知らずの都会者は…。」年長の巡査隊員は手に持っているカチカチな黒麦のパンを割り、たき火の上でグツグツしているスープの中に入れた。

 「まったくだよ、獣狩官かなんだか知らねーけど、死ぬなら自分で勝手に死ねってんだよ。俺たちにまで迷惑かけやがって。なぁ、紫目の旦那?」隣に座っている若い巡査隊員は小さい声で悪態をつきながらアランに言った。

 紫色の瞳のことで紫目の旦那と呼ばれるのは確かに良い気分では無かったが、イーゴンのところで化け物だの気味悪いだのを言われるのよりかはマシだ。少なくとも若い巡査隊員は悪意を持って言っているわけではなかった。

 「イーゴン様からの命令は遺体の回収だから、早く見つかって、葬ってあげられると良いけどね。」アランはたき火に出来るだけ近づき、両手をこすり合わせながらぶるぶる震えた。山の風はまるで命を持っているように、服の隙間を見逃さずに潜り込んできて、手土産に体温を奪っていく。

「そううまくはいかんのさ、こう何日も経っていると、遺体どころか、バラでも見つかれれば良い方だ。」硬いチーズも追加でスープに入れて、年長の巡査隊員はスプーンの代わりに木の枝でスープをかき混ぜ合わせながら、ため息ついた。「鴉や狼、熊、獣どもからしたら、俺達は生きている時はどんなご身分だって、死んだら、ただのうまい肉の塊でしかねーのさ。」

 せめてエド爺さんとカールを一緒に葬ってあげたいと思っていたアランは悲しい気持になった。

 イーゴンから調査をしてこいと命令を受けて、アランは巡査隊の騎手たちと太陽が地平線に現れたと同時に町から出発し、夕方には森際にある村の巡査隊の拠点で一夜を過ごした。

次の日の朝、隊長は念を押して二十人を集め、万が一襲われても最小の損失で済むようにと4人一組に分かれて出発した。

 獣狩官の青年は意識を失う前にはっきりと狼霊木の周辺で怪物に襲われたと言っていたから、向かう先は分かっていた。だが、目的地がはっきりしているからこそ、一行は余計に不安になったが、領主様のご命令を背く訳にもいかないのだ。

 隊長はアランに気を遣い、自分と同じ隊にした。アランのほかにはアランより年下の青年ダリルと三十年以上この地で巡査隊を勤めたハロルドがいた。

 一行は朝一に森に進み、そして太陽が真上に昇った頃に馬を下りて、風邪をしのげる小さい丘の側で昼休憩にした。

 ハロルドは粥状になったスープをトチの木で荒削ったお椀に入れて、アランとダリルに渡した。

 「飲みな、この天気じゃ、熱いものを腹に入れないと、あっという間に体力は風に持って行かれちまう。」ハロルドが言った通り、まもなく春がやってくる季節だが、森にはまだその気配は感じられない。むしろ奥に進めば行くほど、積もっている雪も増し、風も更に冷たくなって行く。

 「普段は森の奥まで行ったりしないもんですか?」アランは粥をすすりながら聞いた。

 「俺たちの役目は森の周辺の村人が安全であるこった。森の奥…ははっ…とんでもねぇ、誰も要がねーなら行かねーさ。」ハロルドは熱いお粥を眉一つ動かさずにごくごくと喉の奥に流し込み、白髪交じりのあごひげに付いている粥を汚れている袖で無造作に拭いた。まだ五十代にもなってないハロルドは長年外で山風に吹かれているせいで、顔色は赤黒く、皮膚はひび割れて、年よりずいぶん老けて見えたが、巡査隊の暗緑色の皮鎧の上からでも分かるほど体はがっしりしていていた。濃い茶色の髪に混ざっている銀糸は余計に目立つが、その銀糸の数と同じだけ、ハロルドはこの地を熟知していた。

 「そこら辺の盗人や酔っ払いを相手にするほうが、森に入るのよりよっぽどマシだよ。」ダリルは口にいっぱい粥をほおばって、もぐもぐしながら話した。

 「ダリル、無駄口叩いてねーで早く飲め。いつまでもぐずぐずしてると、隊長が他の隊の確認から戻ってきちまう。そしたらお前の口から椀を取りあげるぞ。」

 「だって本当のことだよ。最近また森近くの小さい農場の人が全員バラバラになって見つかったって、フィンが言ってたよ…あれは絶対ダークウルフの仕業だってね。」ダリルは小さい声で素早く反論したが、ハロルドはダリルをきつい目線でにらみつけた。ダリルはすぐさまにまた粥の椀に顔を埋めた。椀と同じような栗色のぼさぼさした髪だけが見えていた。まだ16歳のダリルは心機が無く、思ったことをすぐに口にしていた。

 「…これ以上従騎士様の前でたらめを言うと承知しねーぞ、フィンのガキにもこんな根も葉もねー噂話を広めねーようにきつく言っとかねーとな。」ハロルドはチラッとアランの方を見て、粥の鍋が焦げないように雪を入れながら一人事を言うようにしてぶつぶつと言った。

 「イーゴン様には余計な事は一切言わないから、安心して下さい。」

 アランはすぐさまにハロルドは自分がイーゴンに報告するのを防ぐために余計の事を知らせたくないのが分かった。

  「俺だって本当は来たくないですよ。従騎士って立派な肩書きを背負ってる雑用のようなもんですから。」アランは本音を言った。けどイーゴンの家でみんなから白目で見られるより、ここの方が気楽に言いたいことを言えて気分は良かった。

  「紫目の旦那は従騎士なの?騎士って…なんか響きだけでもイかすな。」埋もれたお椀の上からダリルの両目が見えた。薄い茶色い瞳は小さいがまるで瑪瑙のように輝いていた。

  「けどイーゴン様に付きっきりか…げっ。俺はやっぱ巡査隊の方が楽で良いな。」おそらくイーゴンの顔を脳裏に思い浮かべたのか、ダリルの両目はまたすぐさまお椀の下に隠れて見えなくなった。

  「嫌…そういうわけじゃねーんだけど、最近はこういった事が多すぎて、正直に言って、俺達でもどこに被害があったかを把握しきれてねーんだ。」ハロルドはアランが自分の考えをすぐ見抜いたことに少し面食らって、バツ悪そうに鍋の中をかき混ぜながら答えた。

  「噂は聞くんですが、最近は本当にそんなに物騒ですか?」普段森の方に来ることは無いが、イーゴンのそばにずっと居続けると、噂や情報は勝手に耳に入り込んでくる。

  ハロルドは左と右と周りを見渡し、隊長が帰ってきてないことを確認してから、手に持っているスプーン代わりの枝を捨て、アランの方を見た。

  「正直に言って、森は俺が物事を覚えたときから、この調子だ。猟師が狩りに行ったきり、戻って来なかったり、森の近くで遊んでいる子供が居なくなったり、ひどいときは、離れに住んでいる一家がしばらく顔を見せないと思いきゃ、バラバラにされた肉片が散らかり、血潮が家のそこら中飛び散ってるのだけが見つかっていたり、こんなの年に何回か起きるのは日常茶飯事だ。それが、去年から一気に増えたから注意をひくようになっただけだ。」

  アランはゴクリと唾をのんだ。ダリルもお椀から顔を上げ、ハロルドのほうを見た。

 「俺は生まれてからずっとこの森の東領にいる。俺の母さんもばあちゃんも、そのばあちゃんの母さんもだ。そして、年寄りたちはみんな言うんだ、この森は200年前の闇の王との戦いに勝ってからずっと呪われてんだよ。」二人が自分の話に釘付けになっているのを見て、ハロルドは少しいい気分になった。

人からこうして注目されるのも悪くねーな。まるで遊吟詩人にでもなったみてぇだ。けど観衆はこんなかわいくねー小僧たちじゃなー…せめてつねれば蜜がでるような若い女ならもっと気分は乗るのに。そう思いながら、ハロルドはポケットから愛用の岩ツツジの木こぶで出来たパイプを取り出した。

 死んだじいちゃんも、父さんもこれをずっと使っていた。ハロルドで三代目だ。最初は慣れないたばこの香りも、今になると落ち着きたいときに欠かせないものになっていた。ハロルドは胸ポケットから大事に取っといてる葉たばこが入っている布袋を取り出して、極力こぼさないようにと三回ほどに分けてパイプに詰めて、手で軽くトントンとたばこを平した。

たき火から炭化している小枝を拾い、たばこに着火させながら、ハロルドはパイプの口を咥え、ゆっくりと2、3回息を吸い込んだ。淡い青色のような煙がゆっくりと立ち上って、冷たい空気の中に消えていった。

「その話、今まで俺にだって話してねーのに」ダリルはハロルドがこの話しを自分に話してないことに少し腹が立った。

「おめぇさんみてぇな毛も生えそろえてないガキにこの話をしたら、森のパトロールが割り当てられた時、夜恐くて便所にも行けねーだろ。そしたら、隊長から小言を言われんのは俺なんだよ。」ハロルドは笑いながらからかっている目つきでダリルをみて、そして深くパイプを吸って、口から煙の輪っかをポッと出した。

「それで、なんで闇の王との戦いの後から森は呪われてるんですか?」ダリルとハロルドの話よりアランは森の噂話が気になってしょうがなかった。

「始めから言えば、当時の樹林の長、今の帝国東部の守護者、スプリングフィールド公爵家のご先祖様が命を換えに木元素の封印術で闇の王を封印して、人族の連軍が勝利した後からだな、話しによると闇の王が自らの体の一部を分けて作ったすさまじい闇の力を持つ腹心たち竜王「煉獄のツヴァイアサン」、トロールの王「重峰のウードゥン」、獣人の王「百刃牙のグダンダバ」は先に聖器ヴァルフレイによって斬殺されたが、唯一、ダークウルフの王「暗影のシュー」は重傷を負いながらもヤルデンの森に逃げ込んで、そして森の中で命が尽きたらしい。その場所があの狼霊木と呼ばれた気味の悪い木の所だ。」

この話アランは知っていた。ヤルデン地方でもっとも有名な昔話で、家にある「王国史伝」にも記載されているし、遊吟詩人が歌う「ギルターナ開国伝」のなかでも必ず出てくる一節だ。

「あの狼霊木はダークウルフの王の死骸から生えたとの噂だぜ。それに王の手下のダークウルフの生き残りは王の骸を今も守っていて、あの木に危害を加えようとする者は死よりむごいことをされるらしい…気味悪いよな」ダリルはアランが知らないと思って、付け加えた。

「いや、年寄り達からの言い伝えだと、ダークエルフの王はそもそも死んでないってんだ。」ハロルドはまた一息つき、パイプを深く吸った。

この話はアランもダリルも初耳で、二人そろって目を大きくした。

「聖器ヴァルフレイの聖光によって完全に抹殺されたほかの怪物たちと違って、ダークウルフの王は闇の王が封印された後に、他の人族の長たちによって重傷を負わされたらしい。だけど、闇の王の一部を分け与えられたダークウルフの王は聖光じゃないと完全に滅ぼす事ができねーんだとさ。だから、ダークウルフの王は弱り切っているが、実はその命は尽きて無く、どこかで眠りについている。そしてその力をより戻すために、手下のダークウルフが人間を捕らえて、その血を抜き取り、魂を吸い込み、王がよみがえる準備をずっとしているんだってな。」

「特に若くて、生きの良い男の鮮血を求めてるらしいぞ、ははっ。」ハロルドはびびっている二人をみて、さらに付け加えた。

血に飢えた怪物がすぐ周りで自分を狙っているかも知れない、と思うとアランは寒気がして、慌てて周りを見渡した。相変わらず寒いが、太陽は残雪を照らし、周りはまぶしかった。

ダリルも平気な振りを装っているが、両膝はまるで痙攣しているようにぶるぶる震えていた。

「っていうのは噂話で、ダークウルフの王がまだ生き残ってるなんて、そんなのだれも信じちゃいないさ。」ちょっと怖がらせ過ぎたと思ったハロルドは冗談をやめ、また真顔に言い始めた。

「けど、この森にダークウルフの生き残り、もしくはさらに何か邪悪な存在がいるのは間違いねーな。殺された人とか、見つかったバラをみても、明らかに獣の仕業ではねーからな。」

「昔からこんなことが起きて、何か対策っていうか,森へ大規模の捜査とかはなかったんですか?」アランは疑問に思った。

「そりゃあったさ、200年前もギルターナ王が国を統一してすぐ、闇の王の残党を消滅させるために、獣狩官や魔狩官を立ち上げ、各地に残っている化け物どもを狩っていたんだ。特にこの森にはダークウルフの王の側近が潜んでいるという噂だから、強力な獣狩が来たそうだ。」

「親父はあんな奴らはただのインチキで、ならず者の寄せ集めって馬鹿にしてたよ。」

ダリルは獣狩官や魔狩官の名前を聞いて、思わずふんっと鼻で笑い、口先をゆがめた。

「当時の両狩は今のやつらとは物が違うって話だ。詳しくは知らんが、当時は強い元素師やがほとんどで、今は…世も末ってやつさ。」

「強力な獣狩は森にいる化物を倒したんだよね?」話がまたずれそうで、アランは聞き直した。

「手慣れの獣狩たちが森をくまなく捜査して、そして潜んでいるダークウルフと遭遇した。何人もの死亡者を出して、やっと仕留めたが、死亡者の中には王族の者やスプリングフィールド公爵家の者もいたらしい。それがどれほど強い化け物だったかはわかったろ?」ハロルドは語るのに夢中で、パイプの火種は消えかかっていた。慌てて深く息を吸っては吐いてもう1回火を付けようとしたが、中々煙は上がってこなかった。

がんばって火をつけようとしているハロルドをみて、アランはふっと自分もなんちゃって元素を使える事を思い出した。

アランは空中で舞っている元素に集中させ、ハロルドのパイプのたばこが入っているくぼみの周りに集めさせた。そして元素を消えかかっていた火種に接触させると、ポッという音共に、たばこの粉は一斉に着火し、空中に小さいキノコ雲が現れた。

「なっ!?」突然の出来事にハロルドはパイプをズボンの上に落とした。まだ燃え尽きてないたばこの葉の灰はグレンの暗緑色のズボンを灰色に染めた。

ダリルも飛び上がって、空からなにか落とされたと思い、頭の上をキョロキョロした。

「たばこを吸い始めて二十年経つけど、こんなこと一度もねーのに、やっぱこの場所が悪いな…」ハロルドはズボンの灰をはたきながらぶつぶつ言っていた。

アランはハロルドに対して申し訳ない気持でいっぱいになったが、自分がやったと説明するわけにもいかなく、冷めた粥を慌てて飲むふりをするしかなかった。

「あっ、隊長が戻ってきた。」立ち上がってたダリルは、丘の上を指した。

一匹の馬が丘の上から現れ、馬の上の騎手は急ぎでこっちに駆け寄った。

「光神の加護を、なんか良い匂いがするな、もう腹が減って死にそうだ。」馬から降りた隊長は三人の馬のすぐ近くの木の丈夫な枝に馬の取り手を結び、こっちに向かってきた。

「カーティス、大分時間かかったな。」

ハロルドは空いているお椀に残りのスープを全部入れて、隊長に渡しながら話した。

 隊長はドカッとダリルの隣に座り、お椀のスープを喉に流した。隊長のカーティスはイーゴンに報告した三人の騎手の一人で、年はハロルドと相応だが、見た目は若くて30代に見えた。

綺麗にまとまったカールかかっているくすんだ金色の長髪、明るいブルーの目、そして男らしい顎には短く手入れしているひげ。今ごくごくスープを飲んでいるのもなぜか風格を失っていない。ハロルドたちと違って、軽鎧は磨かれて、その下のセーターも毛羽立っていない。暗緑色の長ブーツもピカピカだ。地元の騎士の家の次男として生まれたカーティスは継承権をもっていないが、自分の努力で巡査隊の隊長までのし上がってきた。アランはこの見た目が男前で、豪快な隊長さんへの印象はよかった。なぜなら、イーゴンの命令とは言え、嫌な顔をせずに足纏いな存在である自分を連れて来た。そして路中、ずっと自分に気を遣ってくれている。

「デールたちのグループはこないだ獣狩の若者を見つけた場所の近くの道路で血の跡を見つけたぐらいかな。2箇所だった。1箇所は絶対に馬のだけど、もう一つは分からない。

恐らく馬の死体を奪う動物の共食いかなんかだろう。」

お椀一杯のスープをあっという間に飲み込み、なおも物足りないカーティスは残った黒麦のパンとチーズを平らげながら答えた。

ポケットから刺繍が入ったハンカチで口元をサッと拭き、カーティスは立ち上がってアランの方に振り向いた。

「しっかり休めましたか?」

「はい、大丈夫です。」アランはかしこまって答えた。

「森の奥は大変ですからね、いきなりこんなところに引っ張られて、閣下も大変でしょうが、狼霊木まであと少しです。そして現場を見たら、太陽が沈む前に森を出ましょう。」

「なにも変なものに遭遇しないと良いですけどね。」アランは先ほどグレンが言った噂話を思い出して、思わず身震いがした。

「ダリル、閣下に当てにならん噂話を言ってないだろうな?」アランの反応を見て、カーティスは片付けをしているダリルを叱りつけた。

「俺は何も言ってないよ、、、、」俺は、を強く言いながら、ダリルは恨めしそうにハロルドをにらみつけた。

ハロルドは知らんぷりして荷物を馬に乗せ続けた。

「まあ、大丈夫ですよ。そのためのこの人数ですから、なんかあれば、そうだ…」なにか思い出したように、カーティスは馬の背に乗っかっている荷物から手のひらサイズの爆竹のような物を出して、アランに渡した。

「これは「黒犬」と言って、巡査隊の緊急知らせ用の花火です。森ではぐれたり、なにかあったとき、これを空に向かって放てば、だれか必ず気付くはずです。昼間でも使えますので、一応渡しておきます。」カーティスはそう言って、馬に軽やかに乗り上げた。

アランは絶対に黒犬を使う機会が来ないことを祈りながら、黒い筒を大事にポケットにしまい込んだ。



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