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花言葉の花屋  作者: レニィ
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5.施肥

 朝、マノンはソファーで目を覚ました。

 ベッドはあるにはあるが、どうしても考え事をしている間にソファーで眠ってしまうため、使わないベッドは物置になっている。

 いっそのこと、ソファーの寝心地を上げれば、ベッドへ行かなくても済むのではないだろうか、と考えながらキッチンへ向かう。


 キッチンには、昨晩食べたスープの器を洗っていない上に、水に浸けておくのも忘れていて、こびりついたスープがカピカピに乾いている。

 パンも昨晩噛み締めたのが、最後の一切れだったようだ。

 せめて、コーヒーでもと思ったが、豆もない。


 マノンはガリガリと頭を掻くと、仕方なく外で朝食を食べるために、シャワールームへと向かった。


❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀


 「あれ?マノンじゃん。こんな朝早くに外にいるなんて珍しいな」


 マノンが適当にぶらぶらと歩いていたら、何故かヴァンに遭遇してしまった。

 マノンは朝から元気そうなヴァンの顔を見て、思わず深いため息が出る。


 「……朝から元気だな、ヴァン」

 「マノンは相変わらず、朝は酷いなぁ。ゾンビ見たいだよな」

 「あー……ゾンビかー……ゾンビって、法律的にセーフだっけ?」

 「アウトだよ。何言ってんだよ。昔の戦争で散々使われて、非人道的すぎて世界中で禁止されたやつじゃん。俺でも、知ってるわ」

 「冗談だよ……そんな常識くらい、アタシだって、わかってるよ……」


 マノンは頭をガリガリと掻きながら、道を歩く。

 もう頭の中は朝食よりも、未だに完成しないリュカの"お母さんを生き返らせて欲しい"花の事で頭がいっぱいだ。

 

 "トリックスター"、ミアの考え方は大回りをする事。

 けれど、マノンに思いつく大回りな方法は、どうしても法律や禁忌に触れがちだ。


 「いっそ幻覚……いや、それも法律に触れるか……」

 「マノンー、とりあえず飯食えよー。栄養取らないと、賢い頭も回らねぇぞ?」


 ヴァンは、マノンの背を押して店を探す。

 

 「マノンは朝クロワッサンだよな」

 「それどんだけ昔の話だよ」

 「そんな昔でもないだろー?」

 「昔だろ。ヴァンはアタシよりずっと先にあそこを出たんだから」

 「……そんな昔か、俺が学舎を出たのって」


 ヴァンの声が、少し寂しそうに聞こえたのは、マノンの気の所為ではなさそうだった。

 背を押す力も、少し弱くなった。


 「……だからって、変わらない物もある」

 「たしかに。豆スープ好きだもんな、マノン」

 

 ヴァンは、マノンの頭をわしわしと乱暴に撫でる。

 1つしか違わないのに、やたら兄貴分のように絡んでくるのも、昔から変わらない。

 マノンは髪をぐしゃぐしゃにしてくるその手を乱暴に払って、ちょっとだけ睨みつける。


 「わかったから、さっさとクロワッサンが美味い店にでも案内しろ。カフェ・オ・レも飲めるとこじゃないと承知しねぇからな」


❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀


 マノンはクロワッサンを齧りながら、大口を開けてバゲットサンドにかぶりつくヴァンを見る。

 

 「……学舎の時から思ってたけど、ヴァンって、硬い物でもバリバリ食うよな」

 「んぁ?そうか?」

 「普通、バゲットってそんな簡単に噛みちぎれるもんじゃないと思うんだけど」

 「朝だし、焼き立てだから、まだ柔らかいぞ」

 

 そう言いながら、また大口を開けてバゲットサンドにかぶりついたヴァンが立てる、バリバリという音を聞いて、マノンは何かを思い出せそうで、思い出せないでいた。

 

 「まぁ、俺は育ちが良いわけでもないから、そこそこ硬いバゲットぐらいで文句は言わないさ」


 たしかにマノンは、ヴァンが学舎で出てくる食事に文句を付けているところを見た事がない。

 スープに浸けてもふやかしきれない、他の学舎の子どもたちが残すような硬いパンですら、ヴァンは喜んで食べていた。

 好き嫌いもなく、何でもよく食べてくれるヴァンに、同じ頃学舎に居た子どもたちは、よく世話になっていた。

 マノンも何度もトマトをヴァンの皿に移した事がある。


 だけど、一つだけ。

 一つだけ、ヴァンがこれは食べられないと言った食べ物があったはずだ。

 バゲットの硬い皮よりも、硬くて、丸くて、独特の香ばしい香りのする物。


 「あーでも、センベイは硬かったな。あれは流石の俺でも、歯が立たないというか」

 「センベイ……?」

 「あれ、覚えてねぇ?先生が良く食べてたやつだよ。お菓子だって言うから、ねだってもらったら、すっげぇ硬くてさ。歯が折れるかと思ったって、言ったら、ミアがゲラゲラ笑ってさ。あれは絶対に、ミアはセンベイが何なのかを知ってたな」


 ミアの名前が出た時に、マノンはセンベイが何かを思い出した。

 そして、先生がわざわざセンベイを取り寄せた国で行われる魔術的儀式について語っていた事を思い出したマノンは、残りのクロワッサンを全部口の中へ入れると、カフェ・オ・レで流し込んだ。


 「悪い、ヴァン。思い出した。すぐにデータベース……アトリエに戻らないとクロワッサンありがとうじゃあ」


 マノンが忙しなく動いて駆けていくのを、ヴァンはサンドイッチを咀嚼しながら見ているしかなかった。

 ようやく口の中の物がなくなった頃には、もうマノンは見えなくなっていた。


 「……ま、昼間も立ち寄るからいいか」


 あの調子だと、下手すれば今日は店を開けずにアトリエに籠りっきりになりかねない。

 

 「さて、昼は何を持って行こうかね」


 ヴァンは、手に持っていたサンドイッチを口の中に収めると、路肩に停車させておいた愛車に乗る。

 学舎を出る前に改造方法を覚えて、それを施したこの魔導バイクの良いところは、魔力登録をした運転手以外では起動が出来ないところだ。

 おかげで、路肩に停車させていても、誰かに盗られることはない。


 魔導バイクを走らせて、局へ出勤する道すがら、マノンとあの少年が喜びそうな食事がテイクアウトできるカフェがないかを探す。

 朝の空気を運ぶ風が、ヴァンの側を横切って行く。


❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀


 アトリエの奥で、マノンはデータベースが入っているパソコンを立ち上げる。

 検索ワードは、

 

 “ジャポン”

 “降霊”

 

 ヒットしたファイル名は『イタコ』。


 学舎では、基礎的な学問から、専門的な事まで全てを入室した研究室にいる学者の先生から学ぶ。

 最低限こなさなければいけない基礎の他は、研究室を預かる学者の裁量で学んで行く。

 

 マノンたちの恩師の専門は、魔術式の解読や開発だったが、それだけを突き詰めているのでは、面白くないという理由で、ありとあらゆる学問に手を出しては、知識を深めるのが趣味のような人だった。

 基礎を話しているかと思えば、全く知らない事柄について、唐突に話し始める。

 その一つ、一つを、わざわざメモして、清書して、こうしてデータベースに残しているのは、マノンぐらいだろう。

 

 ミアやヴァンには、よく『先生の雑談を取っておく意味あるの?』と言われたものだ。

 

 学舎を去って5年。

 ようやく今、意味を成しそうだった。

 

 “イタコ”は、ジャポンの一部地域にいる巫女の事だ。

 彼女たちは、“口寄せ”という方法で死者の霊魂を自らの身に降ろし、大切な人を亡くした人たちと死者を繋ぐ役割をしている。


 ネクロマンサーたちとは異なる体系の降霊術を持ち、人々の支えとなるべくして集まった巫女たち。

 

 彼女たちのやり方は、死者を尊重し、弔い、遺族に寄り添う素晴らしい方法だとして、世界的にも許可が降りている。


 「……このやり方なら、魔術式を騙せるかもしれない」


 "口寄せ"はできなくとも、降霊術の式はいくつかある。

 降霊先は、術者本人が望ましいとされるが、人でなくともいい。

 咲いた花を降霊先として指定すれば、最善ならば、花が咲いている間は母親の霊魂を定着させる事も可能なはずだ。


 マノンはその方向で、止まっていた錬成機の式を一気に書き上げる事にした。


❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀


 リュカが花屋に着いた時、花屋は「閉店」の看板のままだった。

 いつもならとっくに開店しているはずのドアを見て、リュカは首を傾げる。


 「……店長さん、倒れてないよね?」


 一番嫌な想像に、リュカは慌てて花屋のドアに飛びつく。

 鍵がかかっていなかったドアに驚きつつも、リュカは真っ直ぐに、アトリエへ走る。


 アトリエには、何かに取り憑かれたようにモニターにかぶりついて指を動かしているマノンがいた。

 

 ひとまず倒れていない事にホッとしたリュカは、マノンの近くへと歩みを進める。

 

 「……あの、店長さん」

 「っし!構築式はこれで問題ないはずだ。あとは、実行をしてエラーが出るか、出ないか、だな」


 満足そうに伸びをしたマノンがリュカに気がつくまで、15秒ほどかかった。

 

 「おわっ?!お前、いつからそこにいた」

 「え、あの、ついさっきです。本当に!」

 

 リュカは慌てて、こっそり忍び込んだ訳じゃないことを説明する。


 「看板、閉店のままで……。もし、もしかしたら、僕の注文のせいで、店長さん、倒れていたらどうしようって、それで、お店のドア開けたら、鍵は空いていて、だから、きっと、ここに居ると思って、入りました。……でも!声はかけました!ちゃんと!」


 リュカはマノンに声をきちんとかけた事を強調する。

 マノンは軽くため息を吐くと、頭をガリガリと掻いて、リュカを見下ろす。


 「お前の注文で倒れそうなのは確かだよ。ご心配どうも。……ただ、そうだな。糸口は見つけた」

 「……糸口って?」

 「お前の注文のだよ」

 「本当ですか?!」


 リュカは嬉しくなって思わず、マノンに詰め寄る。

 マノンはリュカを手で押し留めて、離れさせる。


 「あの、えっと、ごめんなさい。……でも、本当に、お母さんが生き返るの?」


 リュカの期待の籠った視線から、マノンは目を逸らす。

 契約内容はきちんと説明したつもりだったが、やはり、子どもは理解しきれて居なかったに違いない。

 マノンはガリガリと頭を掻いて、軽く深呼吸をしてから、少年と目線を合わせる。


 「……まず、お前は知らなきゃならねぇ事があるな。いいか、良く聞け」


 マノンはリュカの目を真っ直ぐに見据える。


 「『何があっても、死者を蘇らせてはならない。』これは、魔術の基礎の基礎と言ってもいい決まり事だ」

 「え……」

 

 リュカはマノンの話に言葉を失う。


 「でも、そんな……だって、契約したのに!」

 「あぁ、した。アタシがやるのは、種の設計と魔術付与と錬成だけ。成功するかしないかは、絶対に保証しない。そういう契約だったはずだろう?」

 「でも、それでも!」

 

 リュカの続きの言葉を奪ったのは、男の怒鳴り声だった。


 「おい!クソ店主!出てこい!!」


 マノンは、その声に聞き覚えがあった。

 "永遠の愛を誓う"花を注文した若いカップルの男の方だ。


 「……やっぱり来たか」

 

 マノンは大きく舌打ちをすると、いつも以上に激しく頭をガリガリと掻いた。


 あの男は来ると思った。

 だがタイミングが悪すぎる。

 

 怒りの感情に支配されている人間は、相手が何だろうと、危害を加えて来る事が多い。

 弱い相手と分かれば尚更だ。


 「おい、リュカ」


 リュカは初めてマノンに名前を呼ばれた事に驚いたが、それ以上にマノンの顔がいつもの不機嫌そうな顔ではなく、シュッとした、初めてこの店に来た時に見た、花屋の店主の顔をしている事にも驚いた。


 「私はこれから接客がある。だから、リュカはそれを邪魔してはいけない。いいか、何が起きても、どんな音がしても、表に出てきてはいけない。もし、このアトリエに誰か入って来たら、あの扉から2階にある私の部屋に行って、外階段を降りて、外に逃げなさい。いいね」


 花屋の店主は、それだけ言うと少年に背を向けて、客の待つ店へと出向いた。

 

❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀・❁・❀


 男は、小脇に花の咲いた鉢を抱えて店の真ん中に立っていた。

 曲がりくねって歪んだ茎から生える花は、バラにもアネモネにも見えない、赤く、まだら模様のある花弁が重そうにぶら下がっている。

 花から漂って来る香りは、思わず鼻を押さえたくなるほどの悪臭だった。


 「……お客様。本日はどのようなご用件でしょうか?今日はまだ、店の看板を開店へ変更していなかったと思うのですが?」

 「そんな事はどうでもいいんだよ!この花はなんなんだ!」

 「何、と申されましても。私にも、何が何やら……私が設計した花とまるで違うようですが、どうされたのですか?」

 「どうもこうもあるか!この花はあんたが売りつけた、クソみたいな花の種から出た芽が育って咲いたもんだ!」

 「そうですか、発芽はされたのですね。おめでとうございます」

 「こんな花が咲いて、何がめでたいんだ!」


 男は植木鉢を店の床に叩きつけた。

 花から漂う悪臭に加えて、水を吸いすぎて腐ってしまった土の臭いが混ざって、漂う。


 床の掃除に、換気。

 これは、今日一日店は開けられないだろう。


 面倒だなと思っている間に、男はマノンとの距離を詰めて、胸ぐらを掴んできた。


 「……なんのおつもりでしょうか?」

 「まだシラを切る気か!お前の売りつけたクソみたいな種のせいで、彼女と別れる事になったんだ!」

 「はぁ、そうですか。それは、残念でしたね」

 「何だその態度は?!お前の売りつけた……」

 「お客様。契約書は、きちんとお読みになられましたか?『"花言葉の花"は、発芽しても、想いの込め方を間違えれば、花が設計図通りに育つことがない。時に異臭を放つ事もある。』と、きちんと記載しておいたはずです。そして、お客様は誓約書にもサインされましたよね?誓約書には、『"花言葉の花"が設計図通りに育たなくても、当店の責任ではない事を認める事。』とも、記載してあったはずです」

 「何?!」


 マノンはギリギリと締め上げられる喉から、言葉を紡いでいく。

 

 「お客様の、書いた"花言葉"。覚えて、いらっしゃいますか?……"永遠の愛を誓う"。……その言葉と、異なる思いを、持っていれば、花は……魔術は、歪みます。……お客様、彼女への思いは、本当では、なかったのでは、ありませんか?」


 "花言葉の花"は、良くも悪くも正直な術具だ。

 魔術式として組み込んだ"花言葉"の通りに、本当の想いを込めて水をやらなければ、魔術は歪む。

 元がどんなに美しい花であっても、それにかける魔術が歪んでいれば、育つ花も歪む。


 特に、愛の"花言葉"を紡いだ花は、少しの気持ちの揺らぎで、魔術が歪む。

 "永遠"を誓ったくせに、他所の女にも気があれば、"花言葉の花"は醜く歪んで、悪臭を漂わせる様に育つだろう。

 

 男も、おそらく育てていた女もそれが分かったのだろう。


 だからこそ、別れた女は今日来ていないし。

 男は、植木鉢を抱えて店に乗り込んで来たのだろう。


 「お客様。契約書も、誓約書も、納得して、サイン、されたのは、お客様です。……この様に、乱暴をされるのは、契約にも、誓約にも、違反します。……通報されても、文句、言えませんよ」


 思わずマノンはニヤリと笑ってしまった。

 男はより一層怒りで頭に血が登ったらしい、拳を振り上げていた。

 

 これで、殴ってくれたら、通報が楽だな。

 

 と、マノンが思っていた時だった。


 「やぁやぁ、お兄さん。女性に手を上げるだなんて、同じ男として俺は恥ずかしいと思うんだけど?」

 「な、なんだ!誰だ、お前!」

 「通りすがりの、配達員ですよ。何、ここは花屋だろう?俺は美しい花を愛でるのが好きでね。よく、この"大きな窓"から見える、店の中を見るんですよ」

 「大きな、窓」


 ヴァンの指差した方向を見た男は、頭が冷えたようだ。

 マノンが通りに面した窓を大きくしたのは、日当たりや、見栄えだけが理由じゃない。


 トラブルが起きれば、外から丸見えになる事も考えての事だ。


 窓の外には、何人もの野次馬たちが、何事かと店を覗き込んでいる。

 電子端末で、どこかへ連絡している人も見える。


 男は掴んでいたマノンの胸ぐらを離すと、慌てて店を出て、何処かへと走り去って行った。


 「おーおー、卑怯なやつ。さっさととんずらしてら」

 「とんずらしたところで、個人情報はこっちにあるってのにな」


 マノンは会計カウンターの下にある鍵付き金庫から、あの男のサインの入った契約書と誓約書を用意する。

 防犯用の記録水晶の映像も確認する。

 しっかりと、男が店に怒鳴り込んで来てから、マノンの胸ぐらを掴んで、出て行くまでが残っている。


 「よしよし。これだけあれば、警察のおっさんが来ても、証拠十分ですぐに追い返せるな」

 

 マノンが満足気に笑う横で、ヴァンは険しい顔でマノンを見下ろす。


 「……何だよ、ヴァン」

 「マノン。わかってんのか?今回も危なかったんだぞ」

 「ヴァンが知っているよりも、アタシはもっとヤバい客ともやり合ってきた。今更、何だって言うんだ」


 あぁして、暴れる客が過去にいなかった訳がない。

特に、自分の浮気がバレて怒鳴り込んで来る客は珍しくもない。


 マノンも何度殴られて、何度ナイフを突きつけられて、銃を発砲されたかも覚えていない。


 そんなクレーマーとやり合っている時に、ヴァンが通りかかるのは稀だ。


 「そいや、ヴァン。何で居るんだ?まだこの辺りを通りかかる時間でもないだろうに」


 マノンの問いかけに、ヴァンはため息どころか、しゃがみ込んで落胆する。

 その後ろから、小さな少年の不安そうな顔が覗いているのが見える。


 「少年が走って局まで知らせに来たんだよ。大人の男の人が店に怒鳴り込んで来たって」


 リュカの顔を見たマノンは、今アトリエで動いている機械のことを思い出して、アトリエに走る。


 「おい、マノン!」

 「警察が来る前に、リュカの注文した花の種のモニターをダミーに変えておかないと、禁忌に触れかけているのがバレたらお終いだ!」

 

 その言葉には、ヴァンも慌てた。

 禁忌に抵触している魔術に、契約までして加担している事がバレれば、せっかく就いた仕事から放り出されてしまう。


 結局、二人が少年に詳細を伝えるのは、次の日になってしまった。

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