異世界の魔法使い
――日本という国を知っているだろうか。
私が小さいころ読んだ物語に出てくる国で、文明が発達し、みんなが基本的な自由を手にすることを許された国。まさに理想郷。
対して私の住んでいる国は戦争に紛争、身近なところまで争いであふれている。
最強の魔法使いと呼ばれた私でさえも、どうすることもできないような惨状であった。
いつしか私には夢ができていた。
いずれ、日本に行きたい。誰かと笑って過ごしたい。
日本という国は物語の中の国だったけれど、日々日々その思いは強くなっていった。
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「……ついに完成したー!」
目の前に広がる魔方陣の前で、金髪の少女はうれしげに額の汗をぬぐった。
約一年の月日を経てようやく完成した魔方陣に、少女――アリシア・ハークレスは笑みを抑えきれない。
それもそうであろう、目の前に広がる魔方陣は日本への転移魔方陣だからだ。
アリシアは日本への転移という長年の夢をかなえられる喜びに頬を紅潮させていた。これまでの苦労を思うとなおさらである。
「ついに日本か……これまで長かったなぁ。日本に行ったらどんなことが待ってるのかな?」
そんなことをつぶやきながら弾むような足取りで魔方陣の中心に向かうと、アリシアは虚空から杖を取り出し魔方陣にありったけの魔力を込め始めた。
「はああああああ!」
アリシアの魔力で魔方陣は次第に光を増していき、中央からは風が吹き始めアリシアの長い髪とローブがなびき始めた。いかにもな雰囲気は漂うが、一向に転移は始まらない。
「あれぇ?なんで発動しないんだ?」
魔方陣に不備があったのかとアリシアは床に這いつくばって魔方陣を見るが、一見すると不備があるようには思えない。アリシアはしばらく首をかしげていたが、もう一度魔力を込めることにして立ち上がった。
「今度は成功するといいけどなぁ……」
アリシアが杖を構えて魔力を込めようとしたとき、魔方陣が点滅を始めた。さながら時限爆弾のように。
「え……失敗したの!?」
顔を引きつらせながらアリシアは魔方陣から離れようとするが、時すでに遅し。アリシアは魔方陣の爆発に巻き込まれてしまった。




