第四話 騎士学園
季節は巡り、春を迎えた。
憑依魔に襲われて、あれから一年以上たった四月。東河春人はバスに揺られていた。
窓から見えるのは満開に咲いた桜並木。
この地域の桜は今日が満開の日らしい。
新たな門出の日である今日に丁度満開の桜を見るとは中々縁起が良いと思いを馳せながら、春人はバスに乗り風情を楽しんでいた。
このバスはレインボーブリッジ南方に浮かぶ南北三キロメートル・東西二キロメートルの人工浮島に設立された学び島、殲教騎士を育成する総合教育機関への直通バスだ。
春人は黒のネクタイを直しつつ、バッグの中から綺麗に折り畳まれ紙を取り出し、目の前で広げる。そこに書かれていたのは「私立聖進館学園高等部」への転入許可書だった。
つまりは転校生である。
東京駅から発車して一時間半ほどで着き、目的地のバス停に止まる。忘れ物のないようにしながら春人はバスから降り、自身の着ているブレザー状の白い制服についた埃を軽く落としたあと、左腕に嵌めている腕時計を見て時刻を確認する。時刻は午前九時四十分。
そして正面の建物へとゆっくり視線を移す。
「……久しぶりだな、本当に」
それはいかにも洗練された雰囲気の建造物だった。
それでいて、他の校舎にはない風格のようなものも漂っていた。
威厳さを感じさせる外壁は、磨き上げられた御影石のパネル。無駄のない現代的デザインの校舎なのに、聖堂のような厳粛さも併せ持っていた。
国内有数の殲教騎士育成機関、聖進館学園の高等部校舎。
目の前にあるのはその一般教科棟であり、春人のクラスがある場所。
それ以外にも戦技教科棟、模擬訓練棟という一般校にはない校舎。
内部レイアウトが操作可変式の大講堂。地上二階・地下三階の資料図書館。四つの大小ある体育館。学園内に七つもある食堂も別棟になっており、それ以外にも大小様々な付属建築物が学園内に建ち並ぶこの学び島は、一般的な学校より多大な敷地と言える。
それどころかこの学び島は、国・地方の行政機関以外の生活に関わるものが全て備わっている。大手家電量販店・ファストフード店・レストラン・私立病院・製造工場まであるのは、もう小さな都市と言いきっていいだろう。
「さて、時間はまだあるな」
正門で待ち合わせをしてる人物が来るまでの待ち時間、春人は腰を落ち着ける場所を探して、アスファルトで舗装された道を歩くことにした。
学園内施設を利用するためのIDカードは、転入終了後に貰うことになっている。
学園専用の情報端末に表示された案内図と見比べながら春人が歩き回ること一分、視界を遮らない程度に配置された並木の向こうに側に、ベンチの置かれた憩いの場を発見した。
今日は晴れてて良かった、と安堵しながら、三人掛けのベンチに腰を下ろし、改めてこれからの学園生活を一考する。
私立聖進館学園。
毎年、極東支部へ最も多くの卒業生を送り込んでいる高等殲滅騎士教育機関としてこの国の十字教ローマ聖教派信者には知られている。
それは同時に、優秀な殲教騎士を最も多く輩出しているエリート校ということでもある。
もちろん、表向きは違う。表向きは普通の一般校という扱いになっているが、ここに通う人間のほぼ全てが常人以上の霊力を有し、魔や異端と戦うことを望む騎士候補生たちだ。
ゆえに、使える者と使えない者を分別する教育格差が当たり前のようにある。この学園に平等という普通の学校が掲げる理念は存在しないために。
徹底した階級主義。
残酷なまでの実力主義。
それが、殲教騎士候補を育てる場。
この学園に入ることを許された自体がエリートということであるが、同時に組織の中核たる戦力になるために熾烈な競争が推奨されている。
なら、そこに多くの騎士を輩出している名門・東河家の養子である自分が中途転入したらどう思われるのか?
注目度は抜群。そして東河家として頭一つ抜けた実績を残している一族の端くれがこの学園に不自然な時期に、突然転入してくる。
となれば単純な興味から、嫉妬や妬み、あるいば東河家の人間を倒して実力を証明したいだの、名門の取り巻きになって美味しい思いをしたい、などを養子の相手ならと考える者は一定するいるはず。
なぜなら、安定性の低い一般人に取り憑くより霊的災変――霊災――という大気中に偏在する霊力を乱すことで、こちらの世界へと出現する魔が多くなったので、殲教騎士という職業の重要性は近年徐々に、だが確実に増しているから。
しかし、素質を持たぬ者では中々なりえない職種だけに、殲教騎士の社会は閉鎖的な面や排他的な面が強い。そしてそれは正規に限らず、学園に通う騎士候補生の中でも変わらないのである。それが今自分がこれから挑もうとしている世界なのだ。
ついでに言うと、運のなさはあの憑依魔に襲われたことを除いても、揺るぎない確信がある。
一応は騎士候補生として来たが、それも言ってしまえば失っていた「誓いを取り戻した」程度に過ぎないのだ。霊力が増大したとは言え、それだけで優れた殲教騎士として極端にパワーアップしているわけでもない。自分は相変わらず、殲教騎士になるのにはどうしても他と比べて出遅れているのだ。
であるならば、相手の油断を誘う策略は効果的かも知れないのでは、と考えつつ、
「……とにかく頑張るしかないよな」
小さくではあるがしっかりと呟き、春人はもう一度、眼前に聳える私立聖進館学園高等部一般教科棟を見上げた。
覚悟を決めたのだ、自分に。そして、
――待っててください、九重さん。
行方不明になってしまった――しかし、まだどこかにいるはずの憧れの人物に向けて、春人はそっと心の中で囁いた。
◆
と、色々なことで熟慮していたら、授業の区切りを告げるよく聞くチャイムが鳴り、春人は待ち合わせ場所の正門に戻るか、という考えへと切り替えられる。
待ち時間まで、あと二分。
「申し訳ありません。来るのが遅れましたね」
春人の座っているベンチの後方から、広く静かな湖畔を想起させような、落ち着いた深みのある女性の声が春人の耳に届いた。
それに振り向くと、相手の顔の位置は目測ではあるが、ベンチから立ち上がった自分より、五センチ程度だか低いことがわかった。
自身の背が百七十五センチだから、十代の女性として見れば比較的高身長だと言える。男子生徒とは異なる黒いブレザー制服の上からなので正確にはわからないが、身体を特に鍛えているようには見えなかった。
春人はベンチから立ち上がり、「自分が休息のために待ち合わせ場所に来てなかっただけなので、気にしないでください」と当たり障りのない挨拶をしながら、簡易ではあるがそんな戦力分析をする。
「いえいえ、退屈な時間を作ったこちらに責任がありますから。……それと、そんなに警戒してこちらの戦力分析しなくともあなたの脅威にはなりませんよ? 私は」
「!?」
こちらの視線の不審さを気付いてなおこの待ち人は人懐っこい性格らしい。口調と言葉遣いが先ほど相対したときよりも、もう砕けたものにやや変化している点から垣間見える。
それにしても、さすがに迂闊だったか、と春人は内心で反省の弁を述べた。
「あ、申し遅れましたね。私は当学園にて風紀委員会の副委員長を務めている、千波明日菜です。千の波と書いてせんばと読みます。お気軽に呼んでいいですよ」
最後にウインクが添えられ、そんな自己紹介をしてくれた。腰まで届くウェーブを靡かせた黒髪。綺麗な美人と評して問題ない美貌。しっとりとした雰囲気ながらもモデルさながらの均整の取れたプロポーションと相まってか、殲教騎士を知らぬ男たちが初対面でナンパするであろう蠱惑的な色香を醸し出していた。
それなのに現在話している春人は、思わず顔を顰めそうになった。
殲教騎士の強さの半分以上は、遺伝的素質に大きく左右される。
殲教騎士としての資質に、家系が大きな意味を持つ。
千波家は今から百年以上前に何らかの不祥事を起こし、没落となったが旧家と呼んで差し支えない家系である。とすると、その家の直系の血を引き、この学園の風紀副委員長を務めるまでの実績を積んだ彼女は、学園でも「別格」の強さを最低でも有しているわけだ。策を講じなければ今の自分では勝ち目がない、と言わざるを得ないだろう。
だからか、そんな強さを秘めた彼女・明日菜に、少なからず春人は好感を抱いた。周りから見下され差別や嘲笑を受けたであろうに、家格として上の東河家の人間を毛嫌わずに普通に話してくれるから。
「そういえば、あなたのことは教官方で噂になってましたよ?」
黙り込んだ春人を気にした様子もなく、明日菜は楽しそうに笑って、そんなことを言う。
まあ、こんな中途半端な時期に転入してくれば詮索もしたくなるよな、と春人は思ったが、不思議とそういう内情を知りたいというニュアンスは彼女からは感じられなった。
明日菜の表情は、それとは違う感心したかのような笑みを浮かべる。
「転入試験、一般教科を含め全十教科平均、百点満点中七十三点。特に良かったのは天言陣知識学と魔分類情報学。合格者の基準点が六十点必要なのに、両教科とも七十五点。転入試験でのこの二教科は一般教科より重要なので、難易度を高めに設定しているそうですって」
手放しの称賛に、この学園に入った自分を気遣ってくれてるのだろう、と解釈し春人は言った。
自己を低く評価して、こちらを油断してもらうために。
「でもそれは今回だけの話ですよ。これからはどうなるのかわかりません。自分は殲教騎士としては天才ではなく落ちこぼれと呼ばれる側の人間ですから」
それにこの学園において優先評価されるのは、筆記の点数より、実技での成績である。
確かに筆記は出来ないより出来た方がいいが、殲教騎士に最も求められるのは前線で戦える強さだからだ。
そうわざと卑屈な返答をする春人に、明日菜は首を振った。縦ではなく、左右に。
「あら、自らを過小評価をして相手の油断を目論むなんて、あなたのこれから学園での生活が楽しみですね。……私としてもありがたいことです、これは。それに天才や落ちこぼれなんて自己評価は些細な問題です。必要なのは、強かさと無駄死にしないことです。ちなみに」
「……申し訳ありません、風紀副委員長さん。そろそろ学園長室までご案内して頂けませんでしょうか? 挨拶する時間も押してるみたいですから」
強引に話しを続けようとする明日菜を遮って、春人は不躾かつ意図的に別の話を切り出す。
明日菜がそれで若干不機嫌になったのか、笑顔がスッと消える。
正直好ましい会話のコミュニケーションから大分逸脱しているが仕方ない。春人としては何らかの方法で、思考を読まれているのではという疑念、正確にはわずかな恐れがあったからだ。
◆
来客用の正面玄関から学園の一般教科棟内に入り、
「当学園の表向きになりますが、一般校としての理念は文武両道となっていますので、あなたも気を付けてくださいね」
学園長室へ向かう道すがら、春人の前を歩く明日菜が振り返って微笑んだ。
学園は外見以上に、近代的で開放的な高層建築だった。
一般教科棟は二つの校舎で成り立っており、それが渡り廊下で広大な中庭を囲むように並び、中でも学生数が多い一年が最も広い造りになっている。
学園長室へ向かっている間ずっと、
「それはさておき。私と春人くんは先輩後輩ですが、私はあなたを学園長室への案内を進んで受けた立場ですから、もっと砕けた喋り方でも問題ありませんよ?」
「いえ、遠慮しておきます。風紀副委員長さん」
「そう言わず、どうぞ名前でお呼びください」
「わかりました。千波副委員長さん」
「いえ、そうではなく。明日菜、で結構ですから」
「ちょっとそれは……。というより初対面の先輩に対してそれは失礼に当たります。一般常識として」
どこの高校で、初対面の先輩に馴れ馴れしい物言いをする一年生がいるのだろうか。もしそんな人物がいたら私刑は間違いなく下る。
気心の知れた目上で、自分に鍛練を施してくれた保さんならやや砕けた口調でやり取り出来るが、さすがに初対面の――風紀副委員長――女先輩の名前を呼び捨てにするのは度が過ぎてるため抵抗感がある。
「明日菜、です」
「あの、だから……」
「あ・す・な、ですよ」
「……わかりました。明日菜先輩」
見た目とは裏腹に意外と押しが強い。というより腹黒で男を手玉に取るタイプだ。
春人が根負けして妥協点とも言える下の名前に先輩を付けて呼ぶと、それでも明日菜は納得がいかないのか口を尖らせた。
でも、これ以上の呼び方をする無礼者ということで余計な諍いは避けたいので、我慢してもらうしかない。
「なら、自分のことは気軽に自由に呼んでいいですよ。悪意あるニックネームじゃなければ受け入れますから」
「なら、そうですね。ん~、では王子様でどうでしょう?」
「……それはそれで、悪意あると思うんですが」
「ふふっ、冗談ですよ。春人」
にっこりと慈母のような笑みを浮かべながらそんなことを言うので、春人は呆れながらついこんなことを言ってしまう。
「明日菜先輩。腹黒とか周りに言われませんか?」
「あら、ずいぶんとキツいことを言いますね。でも春人の予想通り腹黒いかも知れません」
「……本当に、腹黒いんですね」
「なんでしたらご覧になりますか?」
「えっ? 何を……」
そう言葉を紡ごうとした春人の声を無視するように、明日菜は自身のブレザーのボタンを外し、男女共通の青いカッターシャツの裾を強引にめくり上げた。
「いや、ちょっと!?」
まるで清楚な趣と言える透き通った白い柔肌の腹部が露わになり、春人はとっさに首を捻って視線を移す。
腹黒さなど、外見ではなく内面の話なのだから、目で見てわかるわけもない。
……嫌がらせか、思った以上に手強い女だ。視線を動かしたままそんな考えが春人の頭に浮かんだ。
「ふふっ、冗談です。見た目と違って可愛いらしい反応をされますね」
今日出会って一番の笑顔を見せて、楽しそうに明日菜は肩を震わし口許を押さえながら笑う。
悪戯を成功させた子供のように。
どうやら予想通りにからかわれてたらしい。
「――さて、到着です。どうぞお入りください」
そうこうしているうちにたどり着いた学園長室は、普通ではあり得ない一般教科棟の最上階にあった。というよりこの階層は学園長のプライベートルームも担っているらしい。
明日菜が自身のIDカードの認証システムにより、扉のセキュリティが外してくれる。そしてそのまま扉を開けて、こちらが入るのに手間取らないようにしてくれた。
「――さて、到着です。どうぞお入りください」
そうこうしているうちにたどり着いた学園長室は、普通ではあり得ない一般教科棟の最上階にあった。というよりこの階層は学園長のプライベートルームも担っているらしい。
明日菜が自身のIDカードの認証システムにより、扉のセキュリティが外してくれる。同時に扉を開けて、こちらが入るのに手間取らないように配慮してくれた。
それに頷きと目配せによる軽い感謝をしながら、「失礼します」と声を掛けながら春人は学園長室へ足を踏み入れていく。
あれ? 入ってすぐに春人は小さく声をもらした。部屋の中の雰囲気が、外の廊下とがらりと変わっていたのだ。
そこはまるで、大正時代のカフェのような、落ち着いたレトロな部屋だった。
壁は色あせた灰色で、床には臙脂色の絨毯が敷かれている。ブリキのコート掛けにステンドグラスの間仕切り。その奥には猫脚の椅子と天板が煌めくテーブルの応接セットがある。
しかし一番目立つのは、両側の壁を埋め尽くす書架だろう。おびただしい数の蔵書が、整理されているのかいないのかすぐには判別できない様子で、隙間なく並べられている。洋書もあれば和書もあり、古文書、巻物の類まであった。
そして応接セットの隣かつ部屋の奥。
空を切り取ったかのような巨大な窓を背に、巨大な樫造りの重厚そうな執務机が置かれている。そしてその向こう側に、椅子に腰かけた小柄な人影があった。
色々な物品に春人の視線が動いていたら、開けてくれた明日菜が部屋の扉を閉めた。そのタイミングを見計らってこちらに向けて言葉が投げ掛けられた。
「ふむ、遅かったな。うん? ……いやこれは礼儀のなってない発言だったか」
それなりに高齢――八十代前半あたり――なのだろうが、そうは見えないのは頭に痣のある白い口ひげを蓄えた威厳のある姿が要因だ。着ているのはベストも加えたスリーピーススーツと呼ばれるもので、ほとんど身体の一部であるかのように、しっかりと着こなしていた。
「では改めて、東河春人君。学園長の國島堂十郎だ」
「ど、どうも今日から転入させていただきます。東河春人です」
「………………」
春人が挨拶し、会釈をする。そして、老人――國島学園長に呼ばれるままに、彼の執務机の前に移動した。
なんだか、学園長に挨拶する転入生というよりは、たまにしか会えない祖父に新しい制服を見せに来た孫という気分だった。着なれないブレザー制服のせいか、それとも部屋か学園長の雰囲気がそんな気分にさせるのだろうか。
すると、國島学園長はしげしげと春人を眺めたあと、不意に唇を綻ばせた。
「春人君のことは保君から聞いてるよ」
春人は発言の裏を探るように、静かに國島学園長を観察する。
しかし、國島学園長は柔らかく笑い、すぐに次の話題を持ち出してきた。
「そう言えば春人君は、ここの中学受験に落ちて憑依魔に遭遇するまで、殲教騎士としての戦い方をあまり知らなかったのだったな」
と、執務机の書類をめくりながら、親しい口振りで行った。
「でも、これからはそれを学んでいく。というより保君は詳しく話すのを面倒臭がる性格なのでな」
「ま、まあ、そうですね……」
「不肖の教え子で悪かったな。でも、早く慣れることだよ。春人君はこれから、異常が蔓延る『こちら』の世界で生きていくことになるのだから」
國島学園長はそう言って、真っ直ぐな眼差しを春人に注いだ。
「春人君にして思えば素人同然の自分がこの学園に合格したことを不思議に思ってるだろう。だから特別に教えるが、転入試験を受けれたのは、憑依魔に襲われたことが一因でもあるのだよ」
「……やはり、そうですか」
特に驚いた様子もなく、春人が口を開く。
何しろ、聖進館学園と言えば東日本全域から殲教騎士志望者が集まる教育の場だ。名門・東河家の出だろうと、独学で知識を身につけた者だろうと、そう易々と――ましてや、エスカレーター式のこの学園で、中途入学など出来るものではない。何か裏があるのだろうということは、春人自身、薄々気づいていたことだった。
「だからと言って、素質がないというわけでもないのだがね。春人君は自分の霊力が平均を大きく上回っていることを、自覚してるかの?」
「え? ああ、はい。保さんのときや試験のときに、馬力だけは相当飛び抜けていると言われた記憶が……」
春人は思い出すように言った。もっとも、そのときは褒められたと言うより、他があまりにも地味で何も言わないと失礼だと配慮されたような気もするが。
「素質がない候補生を集めても、休みがちになり高等部で中途退学になるのが関の山だ。私が春人君の転入を認めたのは、立派な殲教騎士になれる素質を有していると判断したからだ。もちろん、その判断が誤っている可能性は大いにある。ま、いずれにせよ、春人君は正式に、聖進館学園に転入した。これから先どのような結末を辿るかは、きみが選ぶのだよ。……ああ、それと春人君きみの担任教官は、一階の教務官室にいるから挨拶をしておくように」
「はい……」
――結構、見も蓋もない。
上品な見た目に反して、ずいぶん言いたいことは率直に言う学園長だ。いや、彼が明け透けと言うよりは、この聖進館学園というもの自体、生徒に対する姿勢が一般的な教育施設とは些か異なっているのだろう。
そんな学園長との会話があったあと、春人は学園長室を出て言われた通り、一階の教務官室へと向かった。
「というか転校生が来てるのに、担任教官が学園長室に現れないのはだいぶ変わってるよなぁ。でもそれが、この学園が普通ではない証拠か」
と、ひねくれた物言いで小さく呟きながら。