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9 【6話】町を飛び出して救世主と使者が汚染と腐敗の進む世界を救うのを協力しながらも見届ける話【全8話】

9月から連載予定の和風ファンタジーものの前身となった全8話構成の短編です。

架空の西洋、汚染と腐敗が進む世界で、窮屈に生きていた町から離反して、救世主と使者と関わりながら、世界が救われるのを見届ける話。上記控えてる連載の全身ということで、大幅に中身端折りぎみ。主人公とヒーローの恋愛のターンとか最後に至るまでの旅の途中とか旅人のこととか救世主側の世界のこととか。全編にわたってシリアス、暗い話の中で自分を立たせ奮起し着地するまでを描いてます。

「これの研究を重ねて、よりよい薬の開発を続けたいと考えています」


翌朝、村を出る前に研究者から話を聞けた。

あの男から奪った種はそのまま研究者に託された。使者たちに話を持って行った時に、研究に持ったままだといいと言われたそうだ。

同時に、人の気持ちに左右されるものだから取扱には気をつけるようとも。

人が不安を抱えれば汚染と腐敗を招く。

あの種は感情で育つのか。

そこは研究者に任せるしかない。

私達はあの男を追わないといけないからだ。

念のため、私と研究者の間でやり取りできるよう約束を交わし、師と話し、私達はこの村をあとにした。


あの男と出会った汚染が進んだ森を前にして、私達は魔法を使ってみた。

毒の魔法はじわじわ汚染された森の木々と大地を染め上げていく。


「どう思う?」

「最終段階まで汚染が進んでいると時間がかかるかな…効果はあるみたいだけど」


昨日のは汚染の最初に立ち会った時だった。

この森は随分な時間が経過している。森に入り毒の魔法を繰り返し使いながら進んでいく。

あの男はこの森の中へ入っていった。

ここを進んだ先にいるはずだ。


「イリス、森を抜けるよ」

「うん」


森を抜けると大地が汚染されてるだけの草原に出た。

あの男が通ったあとだろうか、汚染が直線に進んでいて、それを基準にじわりじわりと広がり草原を蝕んでいる。

毒の魔法を使いながら、汚染の道を追うと前方に大きな建物が見えてきた。


「大きな街…」

「イリス、待って」


言われ、馬を止める。

よくよく街を見れば、あちこちから黒煙があがっている。

汚染の道が真っ直ぐ街へ続いているのが見え、街の入口はすでに腐敗が進んでいた。


「まさか、こんな早く?」

「逆だよ」

「え?」

「この規模だから早いんだ」


規模が大きい街であれば、人の不安もその分大きくなる。

一度汚染と腐敗が引き起こされれば、村とは違う圧倒的な速さで最終段階へ進むのだろうとセチアは考えたようだった。

確かにそう。

人の不安は伝染する。

この街の人工規模を考えれば不安の量は先ほどの村の比ではない。


「入ろう」

「あぁ」


街へ入ると人の気配がなかった。

汚染の最終段階を迎えた街には生きてる人はおろか動物も植物もいない。

建物は火災で燃えた後だったり、腐敗が進んで廃墟になっていたり。

毒の魔法で汚染と腐敗を止めても意味がなかった。

この街から拡大する汚染と腐敗を止めるだけ。

あの村とは違い、私達は何も救えないまま、街を後にするしかなかった。

街の反対側から出れば、別の場所で汚染が始まっているのが見えた。

あの男はあのゆるい足取りでまだ進んでいるのか。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



何故あの男を補足できないのか、ここ数日考えていた。

行けば汚染と腐敗が始まっている。

あの大きな街のように全てが終わっている場所はなかったけど、あの男の姿が見えないし掴めない。


追跡に誤りはなかったはずだ。

事実、使者に再会することは多く、私達が先に浄化を済ませていれば、件の種を回収してくれたし、あの男のことを聴いても私達の判断は合っていることだけは教えてくれた。

使者たちにも補足はしたけど追いついてないようだった。

特殊な魔術を使うようだった。


それでもできれば使者より先にあの男に再会したかった。

問いたかった。

たぶん、あの男は救世主たちに浄化されたら、そのまま人としての死を迎える。

あれだけの汚染に耐えていること自体おかしいのだから、それを浄化したら男の中に残る人らしい部分はどれくらいあるのか。

いいえ、あの男のことを考えて何になるのか。

私は早くにこの汚染と腐敗が進む世界を終わらせたい、それだけで動いているんだから。


「あれ…?」

「どうしたの、イリス」

「私のやりたいことって…?」


最初は村を出たいだけだった。

束縛されて限定的な村から出て自由になりたいだけだった。

いつの間にか、汚染と腐敗をどうにかしようとしているだなんて。


「きっかけはサルビアさんだったよ」


セチアはわかっているようだった。

旅人が最初に会わせたのは確かに救世主たちだった。

それから行く先々で再会して、その過程で汚染と腐敗をどうにかできるんじゃと考えたはずだ。


「イリス、自信をもって。僕たちは僕たちの意思でこれを終わらせたいんだよ」

「セチア…」

「視野が広がって知識も増えれば価値観も変わる。やりたいことだって変わるんだ」

「そう、そうね…」


私の中で渦巻いた疑心。

それは間違いなく、汚染と腐敗が蝕む感情の1つだ。

また私は傾いていたなんて。


「セチアがいないと駄目ね」

「そんなことないよ」


助けられているのは僕の方だとセチアが苦笑した。


「君がいないと、僕は1人で立ってることもできないさ」

「そんなこと、」

「格好悪いけど本当だよ。それぐらいイリスがいて当たり前の世界なんだよ、僕にとってはね」


それを言うなら私も同じ。

でもそれは言わなかった。

大きな爆発音がして、私達の意識はそこに持っていかれたからだ。

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