6 【3話】町を飛び出して救世主と使者が汚染と腐敗の進む世界を救うのを協力しながらも見届ける話【全8話】
9月から連載予定の和風ファンタジーものの前身となった全8話構成の短編です。
架空の西洋、汚染と腐敗が進む世界で、窮屈に生きていた町から離反して、救世主と使者と関わりながら、世界が救われるのを見届ける話。上記控えてる連載の全身ということで、大幅に中身端折りぎみ。主人公とヒーローの恋愛のターンとか最後に至るまでの旅の途中とか旅人のこととか救世主側の世界のこととか。全編にわたってシリアス、暗い話の中で自分を立たせ奮起し着地するまでを描いてます。
けれど、次の村には救世主はおろか使者はいなかった。
代わりに、前に町で教師をし追い出された、かの師に再会できた。
再会を喜ぶのも束の間、村で奇病が流行りはじめていた。
汚染と腐敗が招く作用の一つ。
そうなると使者が訪れるのも近いだろう。
「セチアさんたちは東から来ましたか?」
「はい」
「道中、汚染のひどい森と採掘場があったはずです」
「えぇ、確かに」
「あの場所に何かあるんですか?」
私と彼はそこを避けて迂回してここに来た。
「あの採掘場にこの村の研究者がいるんです」
「え?」
汚染と腐敗について現場に言って研究をかさね、原因の追求と浄化を人の手で行おうとする人物。
最近になり、汚染がもたらす奇病に効く薬を見つけたらしい。
なんだ私達だけじゃない。
前に進もうとする人間もいるのか。
その研究者が助けを求める手紙を送ってきたが、魔法や錬金術を扱えるものがいないため、どうしたらと悩んでいたらしい。
手紙を送る魔法や錬金術は初歩だから、誰でも出来るけどいざなにかあったときに対応できる魔法はやはりこの村でも限られた者しか使えない…しかもその限られた者は奇病にかかっている。
薬も特効薬でないのですぐには効かないし、完治しない場合もある。
悠長に回復を待つことはよくない。
「私が行きます」
「イリス?!」
「セチア、私、その研究者に薬のこととか聴きたい。人の知り得たこととマリーゴールドの話とを掛け合わせたら、もっといい案がでるかもしれないもの」
「なら、僕も」
「ううん、だめ」
「なんで」
「ここに残って。救世主や使者がきたら、初めて浄化を見ることが出来る」
「けど」
「大丈夫。かならず戻るから」
なんとか彼を説得して、私は馬に乗って道を戻った。
異様だった。
森の中、木々は異様に育ち、その表情たるものは不気味以外の何物でもない。
そう、木々には表情があったのだ。
草木の異様な窪み…見間違いとは言い難いその表情。
どれも苦悶の表情だ。
呪われてもおかしくない森の顔。
人はおろか動物達の気配もないところが不気味さをより深いものにしていた。
そして森に入って割とすぐに採掘場にたどり着いた。
「ここか…」
研究者を探すがてら、私と彼の話をしてみようか。
自衛組織に入り、1年たった頃、私は彼から告白を受け付き合いはじめた。
私は随分と驚いたのだけど周りは割とそうなると思っていたらしい。
つまるとこ彼はずっと私が好きだったと。
そんなの微塵も感じられなかったけど…近くにいすぎてわからなかった、という言い訳は、どうやら私と彼の関係性としてはままあることらしい。
確かに私の傍に彼がいるのは当たり前で、気心も知れて、居心地がよかった。
付き合い始めて8年で私たちは結婚し家を持った。
彼がいることはもう当たり前で、息をするのと同じくらい自然なものだった。
だからこそ、彼がいないことがここまで怖いと思うなんて考えたこともなかった。
汚染の深い森を目の当たりしたことも不安を煽ったが、なにより一人で行動することが今までなかった。
彼がいるだけで安心で、自信を持って進める。
いまさら気づくなんて。
ここにきて何故彼がここまで私に付き合ってくれるのか不安にすらなった。
彼は私の気持ちに賛同して一緒に町から出てきたけど、はっきりとした理由も知らないし、ただたまたま私と意見が一緒だったという記憶しかない。
戻ってもいないんじゃないか、と頭によぎる嫌な未来。
呆れてどこか別の安住地に行ってしまってるのではないか。
「……いけない」
汚染区域にいすぎると自身も汚染者になる可能性があるが、初期症状に近いものが出ていたか。
人は気持ちから崩れていく。
それは旅人サルビアにも教えてもらったことだった。
疑心暗鬼、悲観、絶望。
いずれかの気持ちが大きく人の体を蝕む初期段階から、徐々に奇病へと段階を移っていく。
大丈夫、私は彼の元へ帰る。
そして救世主と使者と共に原因を取り除いて、汚染と腐敗を止めるんだ。
「誰かいるのか?」
採掘場に入り、怯えたように蹲る1人の男性と出会った。
研究者で間違いない。
村で容貌について詳しく聞いた通りだ。
ただの人がこんな場所にいる手前、研究者はそれなりに疑っていたが、師が用意した魔法の手紙を彼に渡せば、その内容から私を一応に認めてくれた。
彼を馬に乗せて急いで戻らないと。
「……それは?」
「あぁ、これはあいつから奪ったんだ」
「あいつ?」
「…恐ろしい奴だ、まだこの周辺にいるはずだ。気を付けた方だいい」
「どういうことですか?」
言葉にしたくないような何かと遭遇したようだ。
私が指摘した研究者の両手に握りしめられた蓋のされた三角フラスコの中には、何かの植物の種が3粒入っている。
「これが奇病を治せる一手になるかもしれない」
「え?」
2人で採掘場を出る折、私が世界の汚染と腐敗をどうにかしたいこと、そのために薬のことを聴きたいことを話すと、彼は少しずつ話をしてくれた。
研究者が目の当たりにしたのは、汚染と腐敗の元凶とのことだった。
元凶については今ひとつピンとこなかったが、彼が開発した薬についての話は非常に有益だった。
錬金術も並行して学んでいてよかった。
そこでの知識が研究者との会話で非常に役立ち、私がある程度の知識を有していることに研究者は少しばかり警戒を解いたようだった。
「では行きましょう」
採掘場を出て、汚染された森の入り口に立った瞬間、背後で気配がした。
がさがさという物音。
風のせいでおこる物音とは違う人工的な物音。
動物だろうか。
いや、違う。
ここに来たとき、この場所に生き物はいなかった。
汚染が進むと、動物から植物の順で生き物が死滅していく。
この森はすでに植物が朽ちようという段階だから、動物がいるはずがない。
それなら、可能性があるのはと考えると……人だった。
今やそう見なくなった追手を撃退してきた中で、割と人の気配に敏感になった。
気配からして人なのだろう…真っ先に思いついたのは追っ手。
そう見なくなった追手はあの町が汚染と腐敗の危機にあるのかと思っていたけど、私と彼が別れて行動するのを待っていた、という可能性もある。
にしてもこの場所を選ぶだろうか。
「ひっ!」
「!」
そして現れたのはやはり人。