5 【2話】町を飛び出して救世主と使者が汚染と腐敗の進む世界を救うのを協力しながらも見届ける話【全8話】
9月から連載予定の和風ファンタジーものの前身となった全8話構成の短編です。
架空の西洋、汚染と腐敗が進む世界で、窮屈に生きていた町から離反して、救世主と使者と関わりながら、世界が救われるのを見届ける話。上記控えてる連載の全身ということで、大幅に中身端折りぎみ。主人公とヒーローの恋愛のターンとか最後に至るまでの旅の途中とか旅人のこととか救世主側の世界のこととか。全編にわたってシリアス、暗い話の中で自分を立たせ奮起し着地するまでを描いてます。
10年年月が過ぎた頃だった。
毎月満月にくる手紙。
知られないよう旅人が使役している魔法でできた鳥を使ってやってくる。
これなら町に知られても鷹狩だとか魔法だとかの練習をしていたとか言って誤魔化せる。
自衛組織にいるから、驕ることなく謙虚で熱心だと大方みんな納得するだろう。
町民は思考することがあまりないから。
言い方は悪いけど、この町は思考させず領主の命令に従うよう教育している。
私と彼だけが特殊だった。
それでも彼が傍にいて私と同じ気持ちでいてくれることは、なによりの励みになったし、支えにもなっていた。
旅人からの手紙のことに話を戻そう。
この10年で世界は様変わりしていた。
汚染と腐敗の進行が早い。
救世主と使者が救う場所もあるけど、それでは追いつかないぐらいに。
そろそろ出てもいいかもしれない。
私たちに敵うものもそういなくなった。
魔法、剣技、錬金術。
学校で学べないけど知りたかったものは、全部自衛組織で知ることができた。
「出る?」
「…なんでわかったの?」
「そんな気がして」
そうとなれば動き出すのも早かった。
計画だけは年密にしてたから、後はいつやるかぐらいだったし、すっかり自衛組織も私たちに対し油断していた。
だから簡単に村の外に出ることができた。
馬に最低限の荷物をのせ、旅人に魔法で手紙を送り、さらには無人の馬車を別方向へ出して。
外の世界に出られたという解放感は言葉にしづらいものだった。
ただただ気持ちが高陽し、馬に乗って走る景色が全然違うものに見えた。
旅人に手紙を出せば、すぐに返事が返ってきた。
何度目かのやり取りのあと、指定された村に行って私達は驚かされる。
だって旅人が救世主と使者たちと一緒にいたから。
私達が辿り着いたころには、救世主たちは村を救った直後だったらしい。
初めて会う救世主と使者たちは、私達より少し年上の半人半獣だった。
半人半獣はかつてこの世界にいて、程なくして別次元へ消えたと言われる伝説の生き物たちだ。
人が辿り着けない聖域にいて、この世界と行き来していたけど、人が争いを激化させた時代に、聖域に戻ってそれ以来こちら側に来ることがなくなったと、歴史上そう言われている。
かつての決められた範囲外のことを教えてくれた先生が話していた世界の話。
後々領主が嘘だと言っていた内容の1つだ。
「会えてよかった」
「久しぶりだね。イリス、セチア。こちらが救世主だ」
「初めまして、ナスタチウムだ。名前で呼んでくれ」
救世主と使者は想像以上に気取らず、親しみやすい人たちだった。
「私達は発つけど、すぐに会えそうね」
「え…?」
使者マリーゴールドは笑う。
いつどこに現れるかはわからない、救世主と使者。
その言葉通りになった。
救われた村を出て、私と彼は追っ手の襲撃に遭う。
いずれも退け撤退していったが、なかなか早かった。
もしかしたら、私たちが離反することはばれていたのかもしれない。
そしてまた次の村でマリーゴールドと出会う。
「やっぱり」
微笑みながらも村の浄化をすませていた。
私は何か出来ないのか彼女に問うた。
何を持って浄化しているかわからないけど、それが魔法や錬金術なら私たち人でも出来るはずだ。
汚染と腐敗の進みが早い以上、人の中からも浄化出来る者を増やさないと、救世主と使者の負担が増え、それはいつか破綻を招く。
人の中でも協定を組むことをしているなら、さらにステージをあげてもいいと思った。
それに対し、使者マリーゴールドは驚いた。
そんなこと言われたのは初めてだと。
待つことしかしない。
ただ救われるのを待つだけ。
それは私と彼がいた町と同じだ。先がない。
「そうね、ナスタチウムもいいって言ってるし」
「え、彼がここに?」
「ここにはいないわ。今はスターチスとモミと一緒ね」
「魔法?」
「ふふ、そうね…あと愛?」
「え?」
「冗談よ」
ナスタチウムの了承の元、マリーゴールドから教わることから始まった。
そもそも、救世主と使者は長くこの世界に留まれない。
転移という形で違う世界から来ている。
そしてこの世界に汚染と腐敗の元を持ち込んだのは、救世主の世界に偶然転移した人間が持ち帰ってしまったことが発端だ。
それが故意か偶然かはわからない、当の本人に救世主たちはこの世界でまだ会えてないからだ。
ただ最初の汚染者になっていたら生きていない可能性もあると。
汚染と腐敗の元は救世主たちの世界…聖域において毒ではない。
この世界において毒であり拡大するものだ。
本来自分の世界のものだったのを回収し、自身の世界に持ち帰る。
これが本来の救世主たちのやりたいことで、私達から見たら救ってもらったという認識になるだけだった。
「やっとまとまってきた…」
「少しずつしか話聞けないしね」
彼と馬に乗って次の村へ行く道中、マリーゴールドから教えてもらったことを文字でまとめたものがある程度形になった。
元々この世界にいたとはいえ、人によって様変わりしてしまった今のこの世界に長くいられないのは、人によって汚れた空気の含有物質によるのだけど、それを魔法でねじ曲げて存在してるから消耗が激しいらしい。
それをこなした上で浄化してるのだから、私達の世界の腕の立つ魔法使いも知ったら驚くでしょうね。
「次会って初めて汚染と腐敗の元を取り出す方法を教えてもらえるかしら?」
「そうだね、そんな感じのことは言ってたし」
けれど、次の村には救世主はおろか使者はいなかった。