4 【1話】町を飛び出して救世主と使者が汚染と腐敗の進む世界を救うのを協力しながらも見届ける話【全8話】
9月から連載予定の和風ファンタジーものの前身となった全8話構成の短編です。
架空の西洋、汚染と腐敗が進む世界で、窮屈に生きていた町から離反して、救世主と使者と関わりながら、世界が救われるのを見届ける話。上記控えてる連載の全身ということで、大幅に中身端折りぎみ。主人公とヒーローの恋愛のターンとか最後に至るまでの旅の途中とか旅人のこととか救世主側の世界のこととか。全編にわたってシリアス、暗い話の中で自分を立たせ奮起し着地するまでを描いてます。
私は郊外を超えた町に住んでいた。
人はそんなにいない、王都と比べるにも至らない百人規模の町だった。
その町は一人の富豪が統治していた。
とてもじゃないが良い領主とは言えず、町民に対する束縛も厳しかった。
ずっとおかしいとは思っていたけど、それを周囲と共有できることはなかった。
町を出たいと思ったのは10代半ばぐらいだったろうか。
想いを持て余し、ずっと窮屈な気持ちを味わっていたところに、外からの人間が来た。
町民は町の外に出るのを禁止され、領主が認めた人物でないと出られなかった。
外からの訪問者がいたとしても内密に領主の元へ案内され私たち町民には知らされることもなかった。
そんな中来たのは旅の行商、乗っていた馬車の車輪が壊れ、一晩町の牛舎でいいから貸してくれというものだった。
そこで選ばれたのは私の家の牛舎。
領主の使者からは接触禁止と言われていたが、両親には牛の様子を見なければという尤もらしい理由を掲げて牛舎に入った。
旅人はとても優しい人で、私が話しかけても嫌な顔一つせず、聞きたいことをまくし立てる私の言葉、すべて丁寧に返してくれた。
どうやら、車輪の修理ついでに話し相手がほしかったらしい。
私は彼の売り物を眺めては気になるものの内容やらその国のことやらなんでもきいた。
世界がただただ広いということを話を聴いていくうちにわかり、やっぱりこの町がおかしいと思って、私は思わず隣の家に住む幼なじみを起こしに行った。
ぐっすり眠っていたところを窓を叩いて起こし、着替えさせて旅人に合わせると、彼もまた外の世界に興味があったようで多くのことを旅人に聞いていた。
この時、すでに外の世界は少しおかしくなりつつあった。
汚染と腐敗。
怪物が異常に増え人を襲う。
原因不明の奇病がはやる。
木々が枯れる、水が黒く染まる。
元々動植物以外に怪物と呼ばれる生き物がいるのは知ってる。
この町にもそういった怪物が襲ってくることがあった。
町には領主直轄の自衛組織があったから、その活躍でこの町が損害をだすことはなかった。
けど旅人のいう世界の汚染と呼ばれる何かが町を襲えば簡単に町は滅びるだろうということは、10代の私にも容易に想像できた。
王都に近い発展した街においても、このよくわからない何かによって街ごと壊滅してるともきけば、その力の強さが窺える。
私はよほど不安な顔をしていたのか、旅人が大丈夫だと笑って次の話を始めた。
救世主の話だ。
ある日、怪物に襲われ、人々が原因不明の呼吸困難で倒れはじめた街で、突然現れたのが始まり。
救世主と7人の使者。
8人で現れる時もあれば、神託を受けた7人の使者だけの時もある。
怪物なんて魔法で瞬時に消し去るし、汚染と腐敗を清浄に戻してくれる。
この世界で人が使える魔法魔術や剣技、錬金術を極めた者達。
王都が抱える精鋭も敵わないという噂。
救世主と使者たちは、突然現れ突然去っていく。
痕跡がないから追いかけることもできない。
それでも救われた人々はたくさんいるという。
なんて夢物語。
そう思っていると、この苦しい中でできた作り話ではないと旅人は断言した。
私は旅人にお願いをした。
外の世界の情報が欲しいと。
この町からいずれ出たいけど領主が厳しい統治をしているからすぐには難しいかもしれないということまで伝えた。
隣にいた幼なじみはすごく驚いていたけど。
旅人は快く頷き、満月の夜に手紙が届くようにすると約束してくれた。
何故と隣の幼なじみが言う。
確かに会って数時間しかたっていない、彼が言うのももっともだ。
ただ牛舎を貸しただけ、食事や車輪の材料は領主側が用意してるから、私の家が何か特別なことをしてるわけじゃない。
「君は昔の私によく似ているんだよ」
「え?」
「自由を求めて、未知へ飛び込んでいく」
懐かしいのか、目を細めて車輪を直す旅人に、いくらか淋しさが見えたのは気のせいだろうか。
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旅人は約束通り翌日早朝に去って行った。
私の家と幼なじみの家には箝口令。
幸い、私と彼が旅人と接触してることは誰にも知られていないようだった。
両親もあまり気にしてなかったのか、私が牛舎に行ってたことを念頭に入れてなかったようだ。
「本気?」
「なにが?」
「外に出ること」
町に唯一ある学校、領主の素晴らしさを学び、限られたことしか学べないこの場所のこの時間は退屈だ。
つい半年前、教科書にないことを教えてくれる先生は町を追い出されてしまい、後任は教科書通りしか教えてくれない授業になってしまった。
ひっそりと隣り合う幼なじみに話をする。
「もちろんよ」
黙っててね、と伝えると彼は頷く。
「僕も行く」
「別につき合わなくてもいいよ」
「いや、僕がそうしたい」
彼もまた同じ考えだったと言うことだった。
そんな話を今更になってしてる。
やっぱり旅人がきたのは転機だったんだろう。
「ねぇ、考えがあるんだけど」
「なに?」
「自衛組織に入らない?」
「え?」
曰く、私たち子供は簡単な魔法ぐらいしか習わない。
今後出て行くことを考えれば自衛組織と対立する可能性がある。
そうであれば、自衛組織の中身を知ることと、魔法と剣技、錬金術を極めていた方がいいだろうと。
自衛組織に入ることで領主への忠誠を示したふりもできる。
「…いいわね」
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早速学校終わりに行けば、自衛組織にあっさり入れた。
若いのにやる気があるとか大歓迎だった。
私たちは皮を被ってひたすら学んだ。
どんなに忙しくても、毎日かならず魔法も剣技もふるいにいく。
錬金術の研究も余念なく、唯一外に出られる町民にお願いして、最新の錬金術に記された書物や研究について仕入れてもらえるよう頼んで、新しいことを常に学べるようにした。
おかげで町の中での腕試しでは私たちはいつも上位を示せるぐらいに上達したし、勉強熱心で町に尽くす民として評判を上げた。
私達がこの町を出ていくことなんて誰も考えてなかっただろう。




