3 【短編】吸血鬼と転移社会人の話 後編
厄介になり割とすぐだったと思う。
なにやら、私の存在が世界に知られ、神様的な立ち位置になっていた。
なぜだ。
最初は思ったけど、ようは祭事とか神事に使う血だから献上すべきもの、イコール神と同等、といった連想ゲームみたいな感じで伝わっていったらしい。
困った。
私の血を求めて、厄介になってるレジスタンス側と中枢組織側で争いが過熱した。
もう目の前で起こるのは世紀末。
そもそも早すぎて見えないし、ぐちゃぐちゃになっても再生するし、建物壊れるわ、地面えぐれるわ、川は真っ二つだわ、映画を生で見てるようだった。
それでも私が生きてるのは彼らのおかげなわけだから感謝だ。
血を失っても私の血を飲む吸血鬼はいなかった。
かといって私を手放すこともしなかった。
「あの…」
「なんだ」
きいたことがある。
私を引き渡すとか、血を飲み干すとか、方法はたくさんあるけど、まがりなりにも仲間も自身も傷つくのだから、私を匿う必要ないんじゃないかって。
リーダーである彼は自身は否定しつつも、戦いにおいても周囲に気を使ってたし犠牲をださないようにしてた。
彼は薄く笑いながら、このままだと答えた。
あちらから来るなんてちょうどいいと。
そう言いつつも全部抱えて守ったうえでなんだから笑えるな。
「優しいんですね」
「……」
この頃、私は噂を聞き付けていた。
人の血は吸血鬼の力を高めるとかいうものだ。
元より、神がどうこう話が盛られてるから、おかしいとは思っていたけど、今度はパワーアップアイテム扱い。
こちらの吸血鬼の見立てでは、多方面で人の血を求めた争いを激化させ、レジスタンスを弱体化させたとこで私を回収するための中枢組織の企みなのでは、ということだった。
確かに真正面からいっても、ここにいる彼らは強く、負けることがなかった。
ジリ貧くらってる中枢組織も同じことを繰り返すわけには行かなかったのだろう。
そうなると、彼らには厳しい戦いがやってくると踏んでいた。
いくら目的がやってくる中枢組織の壊滅でも、私を狙ってくる吸血鬼と戦うことで傷つくなら、それはみたくない。
いなくなろうにも行く当てもない、1人でどうにかしていこうという度胸もない手前、どうにかならないかとリーダーに話を降っても却下された始末。
やっぱり一人こっそり出るしかないのかと思ったときだった。
地響きと轟音。
いつもとは規模が違うけど間違いなく襲撃の音だった。
こっそり、建物の隙間から見れば、映画さながらのアクロバットとスプラッタ。
ただ違うのは、襲ってきた吸血鬼がなにかを手にしていたことだった。
剣?棒?よく見えないけど、そのせいでこちらが不利なことはわかった。
その得体の知れないアイテムに触るなという声が響く。
誰かがそのアイテムがかすったのか、そのままよろけて私が見てる隙間近くの壁に当たって崩れ落ちる。見れば体が再生していない。
正確にはかすったところの血が止まらない。
お約束な吸血鬼が苦手の銀が含まれてるアイテムとか?
うまいことヒットするとそのまま消えてしまうとか?
お腹の奥底から嫌なものなはい上がる。
ここにいるみんなが消える。
そう一瞬でも考えたら吐きそうだった。
そんな、長い間じゃないけど、みんな私に優しくよくしてくれた。
私の知る人間の血を吸って殺すようなのはいなかった。
みんな気さくで、仲がよくて。
彼が、リーダーがいい人だからこそ、いい仲間たちが集まったような、そんな。
「リーダー!」
声に我に返って見上げれば、他の吸血鬼をかばって斬られてる彼が見えた。
そのまま墜落していく。
かまうものか。
私は外に出て、彼の元へ走った。
ひどいもので、お腹あたりで、真っ二つ。
かろうじて皮でつながってるようなものだ。
よくこれ間近で見られるようになったな、私。
「…戻、れ」
「なにいってるんですか!」
再生しない。
このままだと血が足りなくなって塵と化す。
その様子は今までの戦いで相手方がそうなっていってたから嫌という程見てた。
「……」
やるしかない。
覚悟はあるかと問われると嫌で仕方ないけど。
度胸だってないもの。
ここに出てこれただけ、私には進歩。
さらに1歩進んでみるしかないんだ。
「な、にを…」
近くのガラス片をとって、左手に突き刺した。
「うっわあああ痛い!ハンパなく痛いい!」
やっぱりアニメの主人公みたくいかない。
なにこれ、堪えられない。
痛い痛いって。
やだもう、私なんでこんなことしてるの。
「何を、して、いる…?!」
「噂かどうか試してみるんですよ!」
彼の口を無理矢理開けて左手から流れる血を飲ませた。
無理矢理だ。
彼が唸って抗議してるけど無視。
痛いからどうにかしたい。
終わらせたい。
幸いなことに、すぐに結果はでた。
彼の胴体が動き出した。
流れる血が動き出して、繋がれていく。
やっぱり、ひとの血は他と違う。
神とは違うけど、吸血鬼に作用される効果がたかい。
程なく彼は全回復した。
「…後で言うことがある」
「エー…助けてくれてありがとうですよね?」
「隠れていろ」
後は語るべくもなく。
回復した彼はいつも以上に力を発揮して、相手方を殲滅した。
恐ろしいアイテムは回収できずに生き残りが持ち帰ってしまったけど。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「何を考えている」
「…助かったんだからいいじゃないですか」
お説教を受ける羽目になった。
刺した左手はすごいことに、吸血鬼に舐めてもらったら血が止まった。
やったね、ラッキー。
これもどこかの映画とかアニメで見た気がする。
吸血鬼特性あるあるみたいな。
「…礼は言う。助かった」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
おかげさまでリーダーである彼の最初の怖さは軟化され随分馴染んできたと思う。
これからも仲良くしつつ、私はささやかに地味に暮らすことを考えよう。
あれ、そしたらまずこの争いをどうにかしろ的な?
「俺たちの戦いはこれからだ!なノリじゃないですか」
「何を言っている…」
「いや、このまま敵が来る→戦う→ピンチがたまにくる→今回みたいなことでミラクルがおきる→エンドレス、だとね…?」
少年漫画の概念を話してもわからないか。
けど、何を思ったか薄く笑ってリーダーは、それは違うと言ってきた。
「ここには留まらない」
「というと?」
「直接乗り込む」
「え?」
「中枢へ直接行く」
どうしたの、この吸血鬼。
きけば、私の血を摂取してから調子いいからいけそうとかなんとか。
やめてほしいんですけど。
伝えても無視だ、無視。
急いで仲間たちのとこへ行って止めた方がいいよねと言って回っても、周りはやっとその時がきたー!みたいなノリになってしまった。
逆効果だなんて。
「諦めろ」
「え…」
楽しそうに吸血鬼のリーダーが私を笑い見下ろしている。
「俺たちの戦いはこれからなんだろう?」
「こういう意味ではないですよ」
「それに中枢をどうにかしないことには、お前はこの世界では暮らせない」
「はあ…」
安心しろ。
そう言って吸血鬼は機嫌よく去っていく。
まさかとは思ったけど、あの吸血鬼は私まで助けようとしてるのか。
そうだとしたら、相当なお人好しだ。
「独りが好きなくせに」
ちょっとツンデレったのは恥ずかしいからじゃない。
という夢を見た(またか)。
BOY meets GIRL的なの書きたかったけど、そもそも設定が社会人なのでボーイでもガールでもないことに書き終わってから気づいたという。