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2 【短編】吸血鬼と転移社会人の話 前編

前後編。現実世界から吸血鬼のいる世界へ転移した話。

その日はとても疲れていた。

だから注意力散漫と言われればその通りだったと思う。


社会人、残業ばかりの毎日に疲弊して、帰宅のラッシュも過ぎた中、だんだん目の前がぼんやりしてくる。

このままだと過労死かな、なんて薄く笑ってたら、まったく違う死が私にやってきた。

大きな音と光に気付かず、気づいたら数センチの距離だった。


「あ」


死因は過労死ではなく事故死でした。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「ありきたりすぎでしょ…」


ずいぶん寝たわー睡眠最高、なんて思って起きたら別世界だった。


海外?それかアニメとかで見るような西洋じみたとこ。

曇ってるから薄暗くて、なんか黒い靄ぽいのも見えるし…疲れ目ではなさそう。


死んだと思ったら別世界に来ました、的な。


にしても人の気配がない。

猫とか鳥なら少し見たけど…人はどこにもいない。

しいていうなら見て見ぬ振りした骨がとても人骨ぽかったけど、きっとそれは私な勘違い、勘違いであってほしい。


「誰だ」


散策ということで廃墟なあたりを歩いていると、背後から声がかかってびくついた。

恐る恐る振り向けば人だ。

やった、人がいる。


「見慣れない顔だな…」

「す、すみません、迷ってしまったみたいで…」

「いや、待て」


と、目の前の青年はぐっと距離を詰めてきた。

いやいや近い近いゼロ距離。

その前に私が振り向いたとき、5mぐらい離れてたのに、そんな急に距離って縮められる?

私の常識の範囲ではありえない。


なんだ、人じゃないわけ。

それでも人だけどなんかすごい力がある世界みたいな?

ええい、もうなんでもこいって気持ちになってくるわ。


「あの…なにか?」

「お前…人間か?」

「うわ…その質問しますか……そちらは人間じゃないってことで?」

「人間なのかときいている」

「貴方方の人間の定義はわかりませんが、私は自分のことを人間だと思ってます」

「そうか」

「で、そちらは?」

「吸血鬼だ」

「おう…」


アニメの世界へようこそ。

自分で自分のことを吸血鬼だとかいう人いますかね。

人じゃないんだけど。


と、なるとここでの展開としては、人の血じゃー吸うたるわーきゃーやめてーからの死亡で終わると。

早すぎるぞ死ぬのが…いっそあの時、事故死させてくれればよかったのに。


「あれ、リーダーどうしたんすか?」


新手だ。


「リーダーじゃない」


目の前の吸血鬼が不服そうに唸る。

そして、私を指差して人間がいるとかいってくる。

そしたら、えらい驚かれてまた距離詰められて、じろじろ見てくる。

見るだけで人間だってわかるみたいで、うわー人間だーとか驚かれる。


「てか、貴方たち本当に吸血鬼なんですか?」


どっきりとかじゃないでしょうね。


「そっすよ、ほら」


といって、ご自慢の牙を見せてくれる。

これだけ見ても。


「他に人間は…」

「いないっすよ」

「え」

「随分前に絶滅した」

「うわあ…」


もう食べられて終わりだ。

生きてたと思ったらすぐ死ぬとか…アメリカ映画なら後半戦で復活とかあるかな。

あ、そしたらさっき見た人骨は人間じゃなさそう。

よかったよかった。

ん?よかったの?よくない気もするけど。


「ひとまず、うちきます?」

「え?」


二人目の吸血鬼はやたらフレンドリー。

自分たちの住まいに誘ってきた。

いやいい加減私の生き死にの保証どうにかしてほしい。


「あの、私の血を飲んだりします?」

「んー?飲めないこともないっすけど、お腹減ってる奴いないしなー。それに祭事?神事?の時しか飲めないし、たぶん生きてる人なんて見つかったら奉られるしー、許可性的な?」

「うん…いまいちわからないけど、今死ぬわけじゃないんですね」

「俺達はそう血を飲む必要はない」

「そうなんですか?」


曰く、怪我とかで血が流れなければ、食事としての吸血は月に1度もいらないらしい。

しかも人間がいない世界な手前、人の血は貴重。

大事な国のイベントなことでしか人の血を飲むことはできないそう。


私の知る吸血鬼と少し違うな。


「でも俺達そんな中枢組織に仇成すレジスタンスっすけどー!」

「…はい?」


人の血をどうこうできる組織へ反抗する団体だとか。

だからリーダーとか呼ばれるのか。


「俺は違う」


リーダー断ってきた。

こんなタイプがグループのトップだと危険では…組織として成り立つか微妙なとこな気が…。


「まー、リーダーって孤高つーか俺が出会ったときも一人だったんすけど」


結局、このへんうろうろしても仕方ないので彼らについていくことにした。

幸い、移動速度は合わせてもらっている。


見える範囲で先を歩くリーダー(本人否定)についてきかずとも話してくれる隣の若い青年もとい吸血鬼。

リーダーはなにかにつけていろいろな吸血鬼を助けてくれてたようだ。

それが意図したものかはさておき、そこから彼を慕うものが増え、纏まってレジスタンスの形をとったと。


この世界は中枢組織が全ての権力、益や富を牛耳っていて、そこに属さないものは迫害やら一族殲滅やら富を奪われるやら大変な目にあうらしい。


そこに抗い続けているのが彼だと。

彼はずっと中枢組織を壊すことを目的にしてるらしい。

そこに何の背景があるかはわからないけど。


…会ったばかりなのに随分私馴染んでる気がする…よくないよな、長い物には巻かれる精神…。

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