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10 【7話】町を飛び出して救世主と使者が汚染と腐敗の進む世界を救うのを協力しながらも見届ける話【全8話】

9月から連載予定の和風ファンタジーものの前身となった全8話構成の短編です。

架空の西洋、汚染と腐敗が進む世界で、窮屈に生きていた町から離反して、救世主と使者と関わりながら、世界が救われるのを見届ける話。上記控えてる連載の全身ということで、大幅に中身端折りぎみ。主人公とヒーローの恋愛のターンとか最後に至るまでの旅の途中とか旅人のこととか救世主側の世界のこととか。全編にわたってシリアス、暗い話の中で自分を立たせ奮起し着地するまでを描いてます。

「何?」

「イリス、あっち」


視認できる範囲で爆発による白煙が見えた。

そう遠くない。

その白煙から時折光の線が見える…あれは魔法だ。

しかも数が複数。

地上付近を見ても、村や町らしいものは見えないし、人の姿もまだ。


「セチア、行こう」

「あぁ」


案外、くるときは油断してる時にやってくる。

白煙の元へ行けば、見慣れた顔ぶれ。

使者だ。

そして白煙がなくなった場所に、多くの怪物と件の植物。

汚染が急激に進むのを毒の魔法で緩和しつつも、怪物を次から次へと倒していく使者の視線はあくまでその中心。

あの男がいた。

私が見た時と変わらない。

けれど、立ち方は違う。

ふらふらで歩いて立つのもやっとだったあの時と比べ男はしっかり地に立っていた。


「マリーゴールド!」

「貴方たち、やっぱり来たの」


存外呑気な調子で返事をした使者も纏う空気だけはひりついている。

応戦しようにも男は広範囲に渡る魔術を行使してくる。


「マリーゴールド」

「危ないからさがっていて」

「いいえ、それはしない…私…」

「?」

「あの男と話がしたい」


驚かれた。

汚染と腐敗の根源だ。

そもそも会話のできる相手でもなさそうだし、今の状態を見る限り、立ち姿はしっかりしていても、その表情は虚ろだ。

浸食が進んでいれば、私の希望が叶うはずもない。

あの男のことなんて思っていたけど、今になっても話したいと思ってしまった。

だからやってみたいと使者に伝えた。


「……ナスタチウムが来るまでなら、としか」

「マリーゴールド!」


傍にいたカランコエが止めようと声を荒げる。

それもそうか、危険極まりないことしようとしてるわけだ無理もない。

怪物の襲撃をかわして対応しながら、マリーゴールドから目を逸らさない。


「ナスタチウムは10分とかからずここに来るわ」

「わかった」

「道は作らない。自力でやってみて」

「ありがとう」


セチアを呼んで、私達は馬を走らせた。

全方位で男と戦闘をしてる中、使者たちは汚染の抑制と怪物の対応で手間取っている。

マリーゴールドの言葉からナスタチウムを待っているなら、これ以上のことはしないはずだ。

男を囲む植物を潜り抜けられれば男がいる。

狭い範囲での戦闘になるかもしれないけど、そこはもう覚悟の上だやるしかない。


「イリス」


セチアが魔法を使い道を指し示した。

馬を共に走らせて、怪物を避け、馬から飛び降りる。

転がりながらなんとも不格好ながら植物を乗り越えることが出来た。

おって、セチアもやってくる。


「イリス、怪我は?」

「大丈夫」


落馬する時に魔法を使ったから、怪我に至るものはない。

束の間、中心を見る。

以前よりしっかり立っているように見えた男の足は汚染が進み、大地と同化しつつあった。

顔は虚ろだけど、こちらを見ている。

認識しているようだ。


「貴方と話したい」

「…………」

「何故私を知ってた?」


しばらく植物の向こう側の喧騒だけが響く。

口を開く様子はない。

けれど、こちらに何か攻撃をしようという素振りもなかった。

魔法や魔術なら前振りがあるからすぐわかる。

錬金術は出来上がったものを行使する場合はわからないけど、今のところその様子はない。


「イリス、待って」

「え?」

「もう喋れないんだよ、ほら」

「え…」


セチアの目線をたどり、男の顔を見れば汚染が進み、鼻から下が腐敗していた。

それを見てセチアがなにかを行使した。

魔術?


「あの男は魔術を使うからこれが攻撃かわかる」


なるほど、行使する魔術が無害であることがわかるから戦闘に至らないと。

魔術はさして私達は使えない。

町では魔法と剣技と錬金術がメインだった。

魔術は旅の途中で学んだものだ。

古くから魔法を使えない人たちが極めた術。


「これなら話せる」

「本当?」

「答えて…くれます?」

「…………あぁ」


頭の中に響く声は、あの時聞いた声と同じだった。

ただしゃがれることもなく、途切れ途切れでもなくしっかりした声だった。


「私たちどこかで会いました?」

「……いや。君達のことは君の町の人間から聞いただけさ…あの町も簡単に壊せたな」


その言葉で私と彼の故郷がないことを悟った。

けど町の人間から話を聞いただけで私の顔をわかるものだろうか。


「君たちを追う人間からも話を聞けたよ。本当よく動く…追う人間たちは君達の顔もよく覚えていたね」

「魔術か…」

「あ…」


セチアの言葉で至る。

そもそも唆すのに初対面の男の言うことを信用する人間はなかなかいない。

となれば魔法や錬金術を使うのが手っ取り早い。

男の場合、それが魔術だった。

相手の記憶をいじったり見たりしたのか。


「なぜこんなことを…」

「理由が必要かな?」

「え…」


表情はまったく読めないから声の調子からしか判断するしかないけど、なんてことないといった調子だった。


「少しくらい人の数が減ったところでどうだというのかな」

「なにを」

「まぁ確かに私の目的は人間のいない世界だから、それが理由なのか」

「は?」

「人が世界に必要だとは思えない」


彼の言い分は人に対する怨嗟でしかなかった。

まったくわからないわけではない。

私とて、あの町で窮屈な思いをしていた。それ故に町を出た。

けど広い世界に出て、やっぱり私が…人が安心して住める世界を求めた。

この男が汚染と腐敗を招いてなくても私の本質は変わらなかっただろう。

私にとっての人としての安心は自由ということだから。


「貴方死にたいの?」

「そうだね、ずっと死にたいと思ってる」

「私は違う」

「イリス?」

「私の生きることも死ぬことも貴方なんかに左右されたくない。私は自由にするって決めたのよ」


私の言葉に男は一瞬、戸惑いをみせ軽く笑った。


「君は私の兄によく似ているな」

「え、兄って…」

「自由なんて言葉使うのは…」


まだ聞きたいことは山ほどあった。

けど時間はそれを許さない。

囲んでいた植物が消滅して視界が開ける。

終わりが来てしまった。


「終わりにしよう、コルカチム」

「ナスタチウム…!」

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