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3.拒む者

 

「私の名前は、――――――やっぱ内緒」


 え……


「えっっ!?? なんで、今のは絶対教えてくれる流れだったのに……でも、理由があるってことだよな……」


 教えてくれないってことは、それなりの理由があるのだろう。気になるがまぁいい。


「いいの? 理由を聞いたりしないで」


「いいよ。そんなの……それよりなんて呼べばいいんだ?」


 少し頬を赤くしている。最初の印象とはまるで違って……その、すごい可愛い。


「なら……いや、やっぱサクが決めていいよ」


 まじか……そんなに急に言われても思いつくわけないじゃないか。


「そんなこと言われても……名前なんて付けたことないし」


「何でもいいよ。ぱっと思いついた言葉とか、サクが好きなものの名前とかでも」


「え……荷が重いよ。何も思いつかない」


 必死に頭を働かせるがホントに何も思いつかない。名前をつけるとか、ゲームじゃあるまいし。生まれてからこんなに困ったことがあろうかと言うほど俺は今困っている。


「ギャハハ。冗談に決まってんだろー。自分の名前を出会ったばっかのやつに決めさせるわけないって!」


 くそ。さっき可愛いと思い直したばっかなのに、またこれかよ。でも、こんな感じで接してくれる方が楽かもしれない。


「分かった。じゃあなんて呼べばいいんだ?」


「んー。〈エネ〉でいいよ。うん、自分でも気に入ったからボクのことはエネって呼んでくれ」


 やっぱり笑ってると可愛いんだな。にしてもエネという名前は実際の名前に関係があるのか、それとも今思いついたのか。まぁどっちでもいいかな。


 それにしてもあれだな。エネも俺のこと言えないくらい態度とか言葉遣いバラバラだと思うんだけどなぁ。


「分かった、エネ。よろしくな。で、これからどうするんだ」


「どうするも何もボクはいつも通り。行くあてなんてないから、その辺で野宿でもするさ。町中だと目立つから森とかでね」


「でも、森っていろんな生き物が出てきたりしないか?」


 もしも寝てる間に熊やらモンスターやらに襲われたら話にならない。


「そこは気にしないで大丈夫だよ。ボクが結界を張っておくからね」


 夜に周りを気にしないで寝てられるくらい自信があるんだな。結界に。武力にも長けてるし、何者なんだ。エネは。


「それよりも気にしなきゃいけないのはメモリアのことだよ。もしも何か大事とかに巻き込まれて騎士とかに……いや、問題ねぇ! サクが騎士の格好してるから大丈夫だ」


 そうか。既にその場には騎士がいるということになるのか。


「それなら良かった。とりあえず暇でも潰しながら野宿する場所探すか……」


 その後、2人で少し町を歩いたがエネの顔色があんまり良くないような気もした。そこまでという程では無かったから何も言わないでおいたが……


 ――――――――――――――――――――――――――――


「それにしても、ホントに何も襲ってこないんだな」


「それに関しては大丈夫だよ。それよりボクは、サクが襲ってこないかが心配だよ。隣に麗しき少女が眠っているんだ。君も男なら……ね」


 ウインクしながら言われ、とてつもない怒りを覚えた。


「お前こそ、俺を襲わないようにするんだな」

「それは無いから平気」


 即答されると傷つくな。


「――――静かだな」


「そりゃ森の中だしね。どしたの? 寝れない感じ?」


「いや、大丈夫だ」


 思ったよりも、安心して寝ることが出来た。結界の力を信用しているからこその行動である。が、この時はまだ己の浅はかさを思い知ることとなるとは考えていなかった。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 「……サクっ! 起きろ」


 もう朝か。それにしても……まだどう見ても夜だ。何が起きたのか。考えろ。


 隣には軽傷を負ったエネが、それに地面には矢が転がっている。奇襲か? それにしてもどうやって。いや、そんなことはどうでもいい。エネは飛んできた矢を避ける時に軽傷を負って、ついでに俺も助けたということだ。その間俺は、寝てた……


 迂闊だった。いくら結界が強いとはいえ考えが甘すぎた。


 「すまん。エネ」


 視界を前に向けると、木の裏側に何者かの気配を感じた。


 「エネ……そう名乗っているのですね。ここで全てを話してあげてもいいんですが」


 「セレナ、それだけはやめろ!」


 セレナ……? まさか、さっき会ったあのセレナさんが?


 「よく眠れましたか? サクさん。先程はどうもありがとうございます」


 さっきはすごい綺麗に見えた金髪が、夜の薄暗さを纏って不気味さを醸し出している。

 やはり、エネとセレナさんは面識があったのか……今気にしている問題ではないかもしれないが、どうしても……いや、今は忘れよう。


 「セレナさん。どうしたんですか? 夜中にこんな場所で」


 「それは冗談ですか? 冗談ならとてもつまらないですよ。私がなんでここに居るのか言うまでもないでしょう? サクさんには……うん。死んでもらいます」


 狂気に満ちた表情で笑うと。俺に目掛けて攻撃を放つ。


 「〈ライトアロー〉!」


 光の矢が俺に向かって迫ってくる。


 「クソ、間に合わねぇ。サクーーー!!」


 やばいやばいやばいやばいやばいやばい。今まで感じたことの無い恐怖。死を前にすると人間はこんなにも怯えてしまうのだ。さっきの可憐なセレナさんとは対の……そんな彼女を見て震えが止まらない。

 やめろやめろやめろやめろやめろ。


 やめてくれぇーーーーーーっ!!


 「なっ! 攻撃が効かない……だとっ」


 自分でも何が起きたのか分からない。俺は攻撃を受けた。と思ったとら受けていなかった。それだけのことだが……まさか、俺には攻撃を弾く能力もあるのか……

 いくら異世界転生だからと言っても、俺そんなに強くていいのか?


 「残念だったな。セレナさん」


 何が何だか分からないが、とりあえず今は演じるしかない。俺自身が戸惑っているのを見せてしまったら、それは負けとイコールだ。


 「な、今日のところは見逃しておくわ。〈テレポート〉!」


 逃げられちまった。まぁこの状況下においては及第点……いや、凄いよくやったと思う。



 「どういうことだ! サク。今のは〈リジェクト〉の能力なのか?」


 攻撃無効の魔法はリジェクトと言うのか……どうしよう、エネにはしっかりと話すべきか。ここまで来たら信じよう。


 「たぶんそうだ。と言っても俺自身がよく分かっていないのが現状だ。それと質問だが予知夢を見れるような魔法はあるのか?」


 「それはきっと〈プレディクト〉だ。流れから察するにサクはプレディクトも使えるということか……」


 大体のことはどうやら分かってくれたようだ。


 「ただ、俺自身にもよく分からないんだ。その〈プレディクト〉も見たのはたまたまだし。今回の〈リジェクト〉も自分では分かってなかった」


 「なるほどな。まず最初に、魔法とはそこらの平民が簡単に扱えるようなものじゃない。使えるのは貴族くらいだ。町中での私的利用は禁止されている。サクの正体の手がかりになるかもな」


 俺は貴族だったというのか、でも服は騎士のものである。エネから見たら俺は謎だらけの人物だろう。


 「ちなみに、簡易魔法とは違って〈プレディクト〉や〈リジェクト〉は1人が両方とも覚えていられるような魔法ではない。セレナの〈ライトアロー〉もそうだ。たぶんサクの高度魔法には何かしらの制限があるよ」


 ま、そりゃそうだよな。そんなに簡単にやって行ける世界じゃないよな。


 「――――俺が知ってる自分のことはここまでだ。次はエネの番だ」

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