2.いつか夢見た景色
2話になります。読んでくれたら嬉しいです。
ここは……どこだ?
さっきの会話から察するに、あの学校――いや、彼女が創ったあの世界とは違う場所に飛ばされたようだ。
それにしても、黒髪ロングのあの彼女の名前は何なんだろうか。聞いておけばよかったと今更後悔してるが、結局教えてくれたとは思わない。
そんなことより、現状だ。こんな場所に制服で1人、それに金も持っていない……少し見渡して分かったことだが、言語は大丈夫なようだ。随分都合が良いんだな。だったら金の少しくらい持たせてくれりゃ良かったのに。
周りを見る感じ、町並みは西洋風と言ったところだろうか。まぁ西洋なんて実際行ったことないが。床はタイルが敷きつめられていて結構オシャレだ―――って痛ぇ!!?
余所見してたせいで誰かにぶつかってしまった。
「すいません! 俺の不注意で……それより、コレ落としましたよ」
相手は女の子……いや女性の方か。歳は分からんが背が俺よりやや高く金髪碧眼だ。
「いえ、こちらの方こそすみません。とても大事なものなので、拾ってくださって本当にありがとうございます。私はセレナと言います。また会う機会は……あるかは分かりませんがよろしくお願いします」
「俺は星野咲と言います。それにしても大きいですね」
無神経ながら、そう言ってしまった。すると、セレナさんは自分の胸に目を向けて恥ずかしそうに言った。
「大きいのは……コンプレックスなんですよ……そ、それではまた」
そう言って小走りで去っていったセレナさん。セレナっていかにもな名前だな……
もしかして、あの子がヒロインポシションか? 十分に綺麗だ。でも俺はロリコン……じゃないけど、どっちかと言ったら小さい方が。もちろん身長の話だ。
しかし、あの人が落としたアレは一体何なんだろうか。重要そうなものだったが。まぁ俺が気にしても仕方ないな。
それにしても、行くあてがないな……しかし、さっきから妙に視線を感じる。俺が何か変なことをしてしまっているのだろうか。
「何故君は町中でセーフクを来ているのかな? 騎士様か何かなの?」
お、制服は伝わるのか……それと、騎士様? この世界だと騎士が制服を着るのか。なんかダサいよな。それ。
「よく分かんないけど。そっちこそ何その大胆な露出狂みたいな格好。もうホントに隠すべきところしか隠してないじゃん」
この人はさっき会ったセレナさんと比べるととても小さい。もちろん身長の話だ。薄紫の髪にセレナさんと同じく碧眼。こっちは俺のタイプそのものと言ってもいいレベルだが。
「さっきの人と話してた時とだいぶ態度が違うんだね。女として悲しくなるよ」
こういう態度がなぁ。俺が好きなのは清楚系というか何と言うか……
「俺が掲げてるスローガンは臨機応変だからね。相手によって態度を変えてるんだよ。悪気はない。ところで名前は?」
まぁ何にせよ。女の子と仲良くなれるのは良い事だ。
「スローガン? リンキオウヘン? よく分かんないけどフレンドリーに接してくれるのはとても嬉しいよ。でもさ、人に名前を聞くならまず自分が名乗るってのは常識じゃないかな? ボクは常識にはうるさいんだよね」
なんか終始よく分からんやつだな。ただボクっ娘か……これはかなり点数が高いぞ。
「さっきの人と話してるの見てたんだよね? なら名前も知ってるはず」
「そう言えばそうだったなぁ。サクだっけか。盗み聞きしてただけだし、周りもうるさいから聞こえずらかったけど」
「盗み聞きとは……常識がなって無いな」
ちょっと挑発した感じで言ってみたが……
「そんな常識だなんて、細かいことでネチネチ言うなよー。ギャハハ」
ん? なんか無性にムカついてきたな。
「常識にうるさいって誰かさんが言ってたような気がするけどなー」
「誰のことだろな。いちいちうるせぇやつはあんま好きになれねぇからよ」
もう本物のバカだ。こいつは。
「まぁいいや。それで俺たち何の話してたんだっけ」
話が逸れすぎて本当の目的を見失ってしまっていた。あっちから話しかけて来たと思うが何の用事だろうか。
「そりゃ。サクがセーフクなんて着てるからだよ。町中にいたら、視線浴びるって。そりゃ」
そっか。これは誤魔化すべきなのか。と言っても正直話したところで信じるとは思わないな。
「俺が制服なのは……自分でも分からない。ここがどこかも分かってないんだよ。とりあえず注目されたくないし、歩きながら話そうか」
そう言ってゆっくり歩き出した直後に、隣を――ホントにもう少しで肩がぶつかりそうなくらい横スレスレを男が駆け抜けた。とても急いでいたが……
すると次は女の子がそれを追いかけるように走っていった。
あの女の子……見覚えがある……
「また盗難か。ほら、助けに行くよ」
「え。困ってる人を見たら放っておけない的なキャラだったっけ? こういうのは騎士様のお仕事じゃないの?」
さっきからキャラが掴めないな。コイツ――そういえば、まだ名前聞いてないんだった。
「キャラがどーとか知らねぇー。けど、サクは傍から見たら完璧に騎士に見えるぞ? その格好しといて、盗難を知らんぷりしてたらどーなるかって話だよ」
そっか制服は騎士の格好なのか……けど俺戦ったり出来ないんだよ。どうしよう……
「分かった。追いかけよう。ところで俺は盗難を捕まえるような力無いけど、どうすればいいんだ?」
「へっ。そこは任しときな。ほら、そこの角曲がった。きっと仲間とかが待ち伏せしてるだろうからサクも気をつけてな」
そう言って角を曲がって、スピードも落とさず突っ込んでいく。なんで彼女は俺の手伝いをしてくれるんだろ……
それにしても強い。やはり、男の仲間が待ち伏せしてたが……既に彼女の手によってボコボコにされていた。
「あの……騎士様、ありがとうございます! 盗まれた時は本当にどうしようかと……」
そう言って彼女は握手を求めるように、笑顔で俺に手を伸ばした。
この光景……見覚えがある。
彼女の背後で僅かな物音がたった。
「危ないっ!!」
俺は無意識に彼女の手を引き寄せ抱き、思いっきり後ろへ下がった。
「サク……ごめんな。完全に倒したと思ってた。それにしても、咄嗟の判断力がすげぇよ。後はボクに任しときな!」
そう言ってから敵を倒すまでは一瞬の出来事だった。
「本当に……ありがとうございます! 私はルミエと言います。何かお礼を……」
「お礼……ですか。大丈夫ですよ。強いて言うなら、次会った時は仲良くお話でもしましょう」
「そんな……でも、分かりました。サクさん」
名前呼ばれるとなんか照れる……それに、清楚系っぽい。だとしたら俺の好みのタイプだ。
それにしても……やはりあの光景は夢で見たものと同じだ。
異世界での俺の能力は〈予知夢〉ってことか……?
「おいサク! ボクに対しての態度と全然違うじゃんか」
「言ったろ。臨機応変だ。相手に合わせて柔軟に対応するんだよ。俺は」
とりあえず〈予知夢〉かどうかは別としてこれからどうするか考えていかないとな……
普通の人間でも夢で見た事が、実際に起こるって経験した事ある人めっちゃいるし。まぁいい。
「それではまた会いましょう」
ルミエさんはそう言って去っていった。果たしてまた会えるのだろうか……
「ところで、ルミエさんが盗まれたものって何だったんだ?」
正直、これが一番気になっていた。本人がいる前では聞けなかったが。
「さっきサクがぶつかった、セレナさんだかが落としたものと一緒だよ〈メモリア〉さ」
メモリア……? あのセレナさんが落とした四角いカードみたいなやつのことか。
「あー、あれか。あのカードみたいな……無くしたらそんなに困るものなのか?」
そんなことを言うと、とても驚いたような顔で尋ねてくる。
「サク……お前これを持ってないのか? メモリアは自分を証明するもの、もといココで生きていくための資格そのものだぞ」
なるほど、アレがないと死んだのと同じ。だから、皆あれほど焦っていたのか。
「そういうことか……でも、まずここがどこで俺がどんな存在かも何も分からないんだよ」
とりあえず、事実を話す。この後のことをしっかり考えないといけないな……
「そっかー。記憶喪失ってやつねー。でも、ボクを当てにされても困るなぁ……ボクは貧乏で路上暮らししてるんだよ。それでもいいってんなら一緒に来てもいいけどよ」
正直、ここはついて行くのが最善の手だろう。
「そうだな。ついて行くことにするよ。それより、ずっと気になってたんだよ。名前……教えてくれ」
「私の名前は、――――――」
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