1.この世界は空想に過ぎない
初心者で分からないことも多いですが、頑張って書きました。どうぞ宜しくお願いします。
「本当にありがとうございます……」
そう言って彼女は握手を求めるように、笑顔で俺に手を伸ばした。
彼女の背後で僅かな物音がたった。
「――――甘かったな」
そう言って、笑う男がいた。
鈍い音と共に目の前に飛び散る鮮血。
驚きや焦り、後悔。感情の混雑により声も出ない。
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とんでもない夢を見た。しかも、もうこんな時間とはな……
俺は常識はある方だ。勉強はそこそこできて運動は人並みだが、これといった短所は無い。いや……短所といえば、こんな親父を持ったことだろうか。
「聞いてるのか! 高校生にもなって朝起きれないのはどうにかした方がいいぞ。将来1人暮らしする時に起きれないと困るのは自分だぞ!」
「はい……」
っるせぇなぁ……今日は何も無い日だし、1人暮らしで寝坊なんてしないに決まってるだろ。なんで少しのことで大袈裟な例え話するんだよ。
なんでも言うこと聞くって言ったら、もし死ねって言われたら死ぬのか?って言い返すのと同じくらいくだらないことだ。
「何か言いたいことがあれば言えよ」
ほら、すぐこういうこと言う。何か言い返すと文句言うのに言いたいこと言えって……
だいたい高校生にもなって、こんな些細な理由で説教くらってる奴そうそういねぇよ。小学生じゃないんだからさぁ。
そして最後にはいつも……
「俺はお前の将来のことを想って怒ってるんだよ」
ほら来た。傲慢だ。
自分勝手すぎるって……こういう親はだいたい子供の将来よりも子供に注意してる自分自身に溺れてるんだ。言うこと聞いて話を終わらすのがベストだ。
やっと説教が終わった。たいてい毎回同じ話をされるんだが、そろそろ飽きないものなのか……俺は部屋に戻る。俺の部屋は何と言うか……その、誰が見ても分かるようなオタクの部屋だ。壁にはポスターやタペストリーが、そして本棚にはライトノベルや漫画が詰まっている。
キャラクター達は皆自由に生きてて羨ましいな。何にも縛られない生活を送ってみたいものだ。
「俺も異世界系主人公みたいに暴れまくってやりてぇな……力、欲しいな」
嫌なことがあったら、いつもすぐ寝てしまう。夢の中では何でも許されるし、寝ることで嫌なことを忘れられる。今日のくだらない説教だって、あの内容を聞くのは何十回目だろう。いや、そんなことはどうでもぃぃ……
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「いい加減に……しろっ!」
ズシッ……
頭を本のようなもので叩かれた感覚。
いきなりの事で状況が掴めない。とりあえず目覚ますとここは……ここは。
「教室ぅぅ!!??」
周りからは笑い声が溢れる。どう考えてもおかしい。
「転校して早々、面白いやつだな! 咲」
ここはどこだ?教室じゃなくて部屋で寝てたはずだが。
転校?どういう事なのか全く検討がつかない。
でも、咲と呼ばれたし俺で間違い無いんだろうが。
「ちょっと星野。ついてこい」
と言って、先生?らしき人が教室を出たから咄嗟について行く。スタイルが良くてめっちゃタイプな先生だ。呼び出しということは寝てたことを注意されるのか。そんなことより現状を把握したいんだが。
「何が起きたか理解出来てないって顔だな。まぁそれも仕方ないがな」
夢なのか知らないが、今何が起きてるかは先生が知っているらしい。正直夢じゃなかったら嬉しい。
「お前は今ここに召喚された。そして他の人には、昨日この学校に転校してきた〈星野咲〉として記憶に埋め込まれている」
なるほどなぁ。正直、召喚と聞いて興奮したり疑ったりするべきなのだろうが、いやそうするのが異世界系の王道リアクションなのだが。実際に直面したら受け入れざるを得ないな……
それにしても、記憶に埋め込むねぇ……流石は異世界と言うべきか。
ん?待てよ。それなら先生が主ということなのか。この事実を知っているわけだし。
「それで、何の要件でこんな所に呼び出したんですか?」
「それは授業中にここに呼び出した事に対してか?それともこの世界に連れてこられたことに対してか?」
先生は分かっているだろうに、わざわざ質問をしてくる。何の目的があってかは知らないが……まぁいいか。ここで頭を働かせていても意味は無い。
「もちろん、後者ですよ」
「それなんだがな、私も分からないんだ。何故私だけがこの事実を知っているかも分からない。もしかしたら、お前が召喚されたという嘘を記憶に埋め込まれているのかもしれないが……まぁお前の反応を見る限り間違いはないだろう」
とりあえず先生は信じる。そうしないと何も話が進まない。今出来ることは、とりあえずここで学校生活を送っていくことだろう。
「分かりました。普通にここで生きていくことにします」
「そんなに簡単に決めていいのか。まぁ個人の自由だがな。ちなみにお前は……いや、生徒にその呼び方はダメだな。星野はA高の1年1組の生徒だ。しっかりと馴染めるようにな」
「はい」
元の世界はウンザリだった。あんな親父と顔を合わせなくて済むというだけで、すごい気が楽だ。それにしても1年1組か……学年は元の俺と同じだな。そこは合わせてくれているということか。
「すまなかった。それでは授業を再開するぞ」
教室に戻り、先生はそう口にした。俺のせいか、教室はザワザワしてたが気にしないでおこう。
黒板を見るといくつかの数字が書いてある。数学の授業だろうか。
「じゃあ、寝てた罰として。星野。答えろ」
そう言い先生が指さした問題は〈35×35〉だった。
確か、1の位が5の数の2乗はやり方があったはず。3と、3に1を足した4を掛けて12。そして下2桁は5×5の25。だから、答えは1225だな。
「1225です」
やり方を覚えてたということがあって、暗算で5秒ほどで答えられた。周囲からは歓声のようなものが聞こえるが……まぁいいや。
「正解だ。こんな問題よくわかったな。やり方を教えるのは高校2年生のはずなんだが」
まじか。俺は中2くらいで習った気がするんだが……それに黒板をよく見ると今掛け算を習っているのだろうか。応用にしろ、進みが遅すぎる気がする。
「すげぇぜ咲! こんなん誰も出来ないだろ。天才かよ。おい」
なんか見るからにバカそうなやつが話しかけて来た。誰でも解けるだろ! とか言っても通じないだろうしな……
「そうか? まぁ得意ではあるな……」
適当に答えたが、これで合っているだろうか。まぁいい。この世界の教育が遅れてることだけ分かった。とりあえず話を合わせるしかないな。
「今日の授業は終わりだ。気をつけて帰れよー。あと、星野は職員室に来い」
はい。と軽く返事をした。良かった……これ以上の説明は無いのかと思った。最悪の場合こっちから先生に色々聞きに行くところだった。
「それでは色々説明しよう。まず、先の授業を受けて思ったことは?」
この人もこの学校の学力について何か思っているのか。確かにちょっと遅れてるとは思ったが、この世界の基準とかは知らないし……これが普通かもしれないしな。
「ちょっと、レベルが低いなぁとは……」
先生にこれを言うのは失礼だろうか。でも、そういう意図で聞いてきたような気がする。先生が自分でレベルが低いと思った訳じゃなくて、俺のさっきの問題への答えとかその後の反応とかを見てそう思ったんだろう。
「ストレートに言うんだな、星野は。それにしても、やはりレベルが低いのか。まぁ逆も言える話だ。これを基準とすると、そっちの方がレベルが高いと言う見方もある」
そう考えるとそうだな。でも、そんな話をしに来たんじゃない。話を逸らされる前に早く話題を変えないとな。
「そんな話を聞くために俺を呼んだんですか? 早く本題を聞きたいんですが……」
俺は話の旨を分かっているような反応をしたが、実を言うとあんまり理解していない。ただ、あの教室の不自然さには色々気づいた。ただ机上の空論……というか妄想みたいな話なんだが。あの教室は本来存在しないのではないか。そう思えるほどであった。よく考えたら、異世界に来てるって時点で既に有り得ない話だ、もう何が起きてもおかしくは無いのか……
「ほほう……貴様はどこまで気づいたんだ」
この反応。やはり俺の推理は正しいのだろう。しかし、貴様って……あくまでも今は生徒。その呼び方は……まぁいいか。
「まず、クラスメイトだ。教室にはあんなに人がいて、ザワザワしてたのに俺に話しかけてくるのは1人だけ。転校してきたばかりのやつにはもっと人が集まるはずだ。それに、あの教育のレベル。そして、後ろに飾ってあった生徒の創作品や―――――――――といっぱい思うところがあった。何のために創った教室だ。あれは」
思い当たる節を全て話した。確信はないが……まぁ当たっているようでよかった。
「ふふっ……全てお見通しということか…………バレちゃったなら仕方ないなぁ。もう少し頑張りたかったかなぁ」
先生の態度は一変した。さっきまでの態度は作っていたということだろう。それにしても…やっぱりあの教室は存在しないニセモノだったわけだな。
パチンッ!
彼女が手で音を鳴らすと同時に……辺りは白い空間で埋め尽くされた。
「なっ……まさか」
そう。創ったのはあの教室ではない。この学校ごとだった。
「そう。これがホンモノさ。頑張って寄せたつもりなんだけど…ダメだったみたい。異世界学校で無双する主人公の物語にはならなかったね」
一瞬で学校が消えた―――
「短い間だったけど楽しかったよ。またキミに会えることを期待してるよ」
そう言うとまた手を鳴らす。
――世界が揺らいだ。
――視界が暗闇に飲まれた。
しばらくすると意識がはっきりしだした。目を開く。
ここは……どこだ?
そこは、そう。アニメで見るような異世界の町そのものだった―――
読んでくださいありがとうございました。
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