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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

傍らの妖精

作者: ピヨシキ

 満点の星空に見守られた木の上、そこに作られた家の窓から、橙色の明かりがこぼれていました。

中から、子供の声が聞こえてきます。

「ねぇねぇ、お父さん、お話を聞かせてよ」

「お話かぁ。よしっ、途中で寝るんじゃないぞ」

「やったぁ。」



 昔々、本当にずっと昔のこと。まだ世界にエルフもドワーフもいなかった時代。そこには人間と呼ばれる種族がいました。彼らは向上心に満ち溢れた一族でした。その勤勉さがどのくらいかと言えば、魔法を使えない血に生まれながら、努力によって魔法の恩恵を享受できるようになったほどです。燃料さえあれば、魔法細工で色々な魔法を扱える今と違って、人間たちには魔法を扱う術がありませんでした。この魔法細工を生み出したのが、彼ら人間だったのです。彼らの文明は魔法細工の発明により、栄華を極めました。街には魔法細工を身に纏った人間があふれ、空を飛び、水面を歩き、思い浮かべるだけで意思を伝えあっていたのでした。そんな時代の隆盛に、誰かが思いました。


「もはやドラゴンを畏れる理由はなくなった。今こそヤツを倒そう」


 魔法細工によっていかなる苦難も乗り越えてきた彼らに、これを拒む理由はありませんでした。それまで、彼らはドラゴンの絶大な力を恐れていました。火を吐き、雲を呼び、地を割る。彼らにとってドラゴンとは天災そのものであり、抗えぬものの代名詞でした。それ故に、災いなき日々を送れるように、半年毎にお供え物をしていたのです。その負担たるや決して小さくありませんでした。要求されるお供え物は度々変わりましたが、一貫して人間、魔法石・鉱石、食料を求めました。そして、ドラゴンの元へ届けられたそれらは、2度と帰って来ないのでした。

 最初の人間の想いは、魔法細工を介して人々に伝播し、ドラゴン討伐の気運はあっというまに国中に行き渡りました。まもなく、第1次ドラゴン征伐隊が組織されました。魔法細工によって武装した彼らは、ひとっ飛びにドラゴンの住処"浮遊山ローエン"の湿地にたどり着きました。そして、その"竜のゆりかご"と呼ばれる湿地を包囲したのでした。

 ドラゴンは1匹。対して、一級細工で身を固めた精鋭100人。ローエン山の頂を少し下った場所、大きな凹型の湿地を彼らは見下ろします。来たる戦いを知ってか知らずか、湿地にはひたっと息を潜めるような気配が漂います。その静寂は上空で待機する兵士たちにも聞こえるようでした。湿地のあちこちに妖精たちの光が浮かんでいます。その中央で、大きな灰色の”何か”が動きました。その姿を認めた兵士たちは困惑しました。天を仰いだその頭らしきモノには目も耳も、口もありませんでした。太い尻尾だと思い、反対側を見ても首はありません。それがつながった胴体と、支えとなる足らしきもの4つ。それらすべてが均一な灰色をしていました。自然のものではありません。もしこれがドラゴンだとするならば、言い伝えのものと違っていましたし、何よりそのシルエットは粗雑で、子供の落書きのようでした。

 不意にそいつが、その頭らしき先をクイッとそらしました。


ぱしゃっ。


 シャーベットを地面に落としたような音がしました。かと思うと、急に叫びが聞こえました。見ると兵士たちの肉体がなくなっていました。跡形もなくはじけ飛んだ者もいれば、腕だけ、足だけが破裂した者もいました。緑豊かな湿地に、赤黒い雨が降りました。人間たちの悲鳴が、嗚咽が降りました。

ウィーッウィッウィッウィ。ガラスを布で擦るような音が、湿地中に響きます。兵士たちは息をのみました。さっきまでの阿鼻叫喚が嘘のようです。ぎょっとした表情のまま、皆がその音に、灰色の何かにくぎ付けになっていました。ふと動く気配が走ります。いなや、兵士たちが一斉に空を駆けます。ぱしゃ。ぱしぱしゃ。飛び去る兵士たちが、一人また一人と消えていきます。まるで見えない大きな手が彼らを追いかけて、握りつぶしていくようでした。

 気が付けば、その戦場から帰還したのは2人だけでした。一人は片腕を失いながらも、重傷のもう一人を背負い、帰り着いたのでした。国に到着したころには、もう一人は死んでいましたが。


                          *


 "ドラゴン"によって悪い人間たちは追い払われ、"竜のゆりかご"に再び平穏がおとずれたのでした。日頃、人間たちが供物を捧げるときは、湿地ではなく洞窟に置かれていたものだから、それが攻撃してくるモノだと確信する間もなく、ある者は死に、ある者は逃げたのでした。



 牛舎の隅に置かれたベッドの上で、母親と娘が横になっていました。ベッドの脇の燭台に淡い光がともっていました。母親は眠たそうな、やわらかな微笑みを湛え、お話の続きを語ります。


 

 浮遊山ローエンの頂き、そこから湿地へとくだる途中の斜面には、大きく口を開けた洞窟がありました。この洞窟に棲む者らは皆、ここに来る以前、国の人間たちによって虐げられていたのでした。彼らは目の見えない人や耳の聞こえない人、心を病んだ人、そういった人たちでした。厄介者として蔑まれ、挙句、供物として追いやられた彼らを救ったのが、ショイリでした。彼は研究者でした。しかし、せんなき事を理由に狂人とみなされ、迫害されたのでした。その時に逃れてきたのがこの洞窟でした。ここは魔素・妖素に満ちており、魔法学の研究に事欠きませんでした。彼は研究に没頭し、その成果でもってこの集落"竜のゆりかご"を築いたのでした。研究の結実”ドラゴン”で、彼を迫害した人間たちに災いを突きつけ、欲しいものを供えさせました。その資源を基に集落を営み、爪はじきにされた人間を受け入れては、救いの手を差し伸べてきたのでした。ここへ追いやられた一人ひとりと向き合い、その悩みに真摯に耳を傾けました。そして、彼らの為に研究に一層励み、仲間たちを次々と癒していきました。ショイリと彼に救われた人間たち、彼らこそ、誉れ高きエルフ、我々の始祖だと言われています。


                         *



 父親は、船をこぎ始めた息子を見やり、小さな声で提案しました。

「そろそろ寝ようか」

「うーん。最後まで聞く!」

「眠たいんだろう?」

「でも聞く!」

頑固なところはお母さんそっくりだな、ふと思って父親は微笑み、物語を再開しました。




 このエルフ達の始祖にあたるショイリ、そして私たちドワーフの始祖にあたるコムズワーは兄弟でした。ショイリと一つ下の弟コムズワー。二人はニンフィリエ"妖精を愛する者"の親の下に生まれ、幼少の頃より妖精たちと共に暮らしてきました。生身のままに魔法を使える種族、ドラゴンと妖精。この妖精たちを助け、必要な時に妖精たちの力を少し貸してもらう。そして、時に重病に臥した人を助けたり、妖精たちと共に舞踊を披露したり、というのが彼らニンフィリエの営みでした。

 

 つんつん。ショイリは地べたに膝を抱えて座り、指先で妖精のほっぺをつつきます。すると、妖精はうれしそうにほっぺを擦り付けてきました。

「かわいいなぁ、おまえはぁ」ショイリは目じりを下げ、妖精の頭をなでます。

「兄ちゃん、キモイよぉ」コムズワーはそんな兄を、苦虫をかみつぶした顔で揶揄するのでした。

「そんなことないよなぁ。ほれほれ」ショイリはそんな言葉には構わず、妖精と戯れるのに夢中です。

「兄ちゃんが妖精と遊んでる時ってさ、11歳の顔じゃないんだよぉ」

 なぜだかショイリが得意げな顔をして振り返りました。

「大人の顔ってことか」

「オヤジ顔ってことだよ!」

「へへっ」ショイリは悪びれない様子で笑うと、また妖精にちょっかいを出すのでした。

「兄ちゃんの妖精愛にはお手上げだよ、もうっ」コムズワーは半ば呆れつつも、そんな兄の様子を穏やかな表情で見守るのでした。

 

 そんな二人も成長して、ショイリが18歳、コムズワーが17歳になった時の事です。ショイリとコムズワーはとてもよく似た育ち方をしていました。二人とも歳の割に身長が極めて低く、揃ってずんぐりむっくりとしていたのです。

 ある日の午後、ショイリが家の庭で本を読んでいると、通りすがりの少年たちがヤジを飛ばしてきます。

「見ろよっ!小人が本を読んでやがる」

「それ以上脳みそでっかくしたら、体より頭がでっかくなるぞ!」

 ショイリは本を閉じて言い返します。

「うるせぇ!脳みそすっからかんのガキども!」

「かかってこいよ!ちび助!」ショイリはゆっくりと本を開いて読みだす、と見せかけて駆け出します。すると少年たちは、小人が来たぞ!と笑いながら逃げ出します。ショイリは力持ちでしたが、走りとなると分が悪いのでした。少年たちはそれを知っていて、からかうのでした。

「どうせ追いつけやしないんだ、あの短足は」

「本と現実の区別がつかないんだぜ。想像の中で走ってろよ」

 少年たちは聞こえよがしに誹謗中傷を言い合います。そうやって自分を笑いもにするのを、ショイリは睨みつけながら、こぶしを握り締めることしか出来ずにいました。

「兄さん。兄さんっ」コムズワーがショイリの肩に手を置きます。

「あいつらは子供なんだ。放っておきなよ。さっ、深呼吸、深呼吸!」そう言って、スーハ―、と大仰に呼吸をしながら、カエルのように両腕を上へのばしては下ろし、伸ばしては下ろし、コムズワーはおどけてみせるのでした。その恰好が可笑しくて、ショイリは笑ってしまうのでした。

「わかったよ。スーハ―、スーハ―。」

 ショイリがコムズワーの動きを真似すると、コムズワーもニヤッと笑い、

「そうそう。スーハ―、スーハ―。」

 二人一緒になって奇妙な動きをするのでした。


 この年、二人は魔法学についての知識を深めたいと思い、マイントウェル氏に師事しました。主に魔素学や魔法細工、魔法石学について習ったのでした。マイントウェル氏は識者であるだけでなく、人格者でもあったので、今は亡き奥さんのフビトさんも含めて、周囲の皆から慕われていました。

 ある日のこと、マイントウェル先生の書斎でショイリが尋ねました。

「先生、僕たちが魔法を使えないのは、魔素の通り道を持ってないからなんだよね」

「そう。ドラゴンのように体内に魔素経絡を持っていれば、魔法は使えるはずだよ」

「じゃあ、作ればいいじゃん。体の中に魔素の通り道を」

「そうだね。ただ、脳みその中も含めた体中の至る所に張り巡らせなければいけないんだ。だから、難しいと思う」

 今度は、横で本を開いていたコムズワーが聞きました。

「じゃあ、妖精も魔素経路を持ってるの?」

「うーむ、おそらく。」

「おそらく?」

「妖精はね、確かに魔法を使う。けれど、僕が観察した印象を表現するなら、彼らが魔法を使う時、彼ら自身が魔法になるような感じなんだ」

「魔法になる?」

「うーん。そういえば二人とも、まだ僕の研究室は見たことがなかったよね」

 二人はうなずくと、はっとして目を輝かせました。

「見せてあげよう」

 そう言われて二人はマイントウェル先生に連れられて、地下への階段を下りると、大きな部屋に入りました。部屋の中には大きな机があり、その上には布で覆われた何かが置かれていました。反対側の一角には、さらに小さな部屋があります。封護石造りの小部屋は、手前側の面だけがガラスになっていました。中を見ると、真っ白の空間に10匹程の妖精たちがいました。彼らは穏やかな笑みを湛えながら、ぷかぷか浮かんでいます。

「先生はニンフィリエでもないのに、どうやって妖精たちを集めたんですか?」ショイリが尋ねます。

「それはね、こいつを餌にしたのさ」先生は机の上の布を取りました。

「なんです、それ?」ショイリが布を見つめていると、机の上を見たコムズワーが声を上げました。

「天眼石っ!」その声にショイリが反応するより早く、びたんっ、びたびたびたんっ!と何かの張り付くような音が部屋に響きました。びっくりして兄弟が振り返ると、ガラス面に顔を張り付けている妖精たちと目が合いました。それは空腹の動物が獲物を見つけたときの、嬉しさと飢餓感がむき出しになった表情でした。

「すごいだろう。妖精は天眼石に目がないんだ。」サッと布で石を覆い直して、先生が言いました。兄弟は、フッと妖精たちの表情が微笑みに変わるのを見て、なんだか少しショックを受けたのでした。

 そんな二人の事をよそに、先生が箱型の魔法細工取り出して、なにやら操作をします。すると、中にいる妖精たちの様子に変化が現れました。両手をすり合わせたり、体をさすったりし始めたのです。魔法で小部屋の温度を低くしたのでした。突然、妖精たちが仄かな橙色の光を纏いました。そして、ボッという音と共に妖精が火になりました。正確に言うならば、妖精が妖精のカタチをした火になったのでした。

「これが妖精の使う魔法・・・」ショイリがまじまじと見つめなが呟きます。

「たしかに、魔法になるって感じ分かるかも」

「ああ。ドラゴンの魔法や魔法石によるそれとは、少し違うよね。どの点か分かるかい?」

 兄弟は火になった妖精たちを見つめながら、一所懸命考えます。

 ショイリが先に口を開きました。

「魔法石もドラゴンも魔法が発動する前に、何かしらの前兆が見られる。妖精にはそれがなかった!」

「惜しい」

 コムズワーが閃いた、という顔をしました。

「魔法陣だ。魔法陣がなかった!」

「正解!」

 ショイリが悔しそうに顔をしかめます。

「同じじゃん」

「ショイリも正解だったようなものさ。妖精の使う魔法には、二人が答えてくれたように、魔法発生前に魔法陣の展開が見られないんだ」

「一緒に暮らしてきたけど、妖精の使う魔法を意識して観察したことなかったわ」

「たしかになぁ」

 兄弟は妖精たちを眺めながら、うーんとか、なるほどとか言いつつ、物思いに耽っているのでした。


 ある日のこと。ショイリが家のリビングで先生から借りた本を読んでいると、コムズワーがやってきました。ショイリは本を閉じ、コムズワーに話しかけました。

「どうした?」

「えっ、どうもしないけど。」コムズワーは不意に話しかけられたので、かえって驚きました。

「そうか。」ショイリはどこか所在なさげです。

「兄ちゃん大丈夫か、最近疲れ気味に見えるよ」

「大丈夫。ありがとう」

 ふと、思い出したといった様子でコムズワーが言いました。

「そういやさ、前に先生から訊かれたんだけど、兄ちゃんは訊かれた?」

「何のことだ?」

「いやさ、もし魔法が使えるようになったら、何がしたい?って話」

 ショイリはなんだか訝しげな顔をしました。そしてフッと笑いを漏らして言いました。

「先生も、子供みたいなこと言うんだな」

「笑っちゃうよな」

「で、何て答えたんだよ」

 いつの間にか真剣な表情に戻ったショイリが言います。

「え、聞くのかよ」

 何も言わずにショイリは促しました。コムズワーは下を向いて黙ると、小さな声で言いました。

「・・・びたい」

「えっ」ショイリは訊き返します。

「だから、空を飛びたいって言ったの」

 ショイリは破顔しました。コムズワーは耳を真っ赤にして言います。

「そんな笑うことないだろっ!」

「だって、それは、いひっ、あっはははは」

「じゃ、じゃあ兄ちゃんだったら何て答えるんだよ」コムズワーが大きな声で言いました。ショイリはひとしきり笑ったあと、答えました。

「決まってるよ。俺を、俺たちを笑いものにしてきた奴らを、見返してやるんだ。」

 コムズワーの顔に寂しさが陰を落としました。けれど、すぐにおどけた顔になって、

「まーた物騒なこと考えちゃって、やーねぇこの子は」と井戸端会議のご婦人風に言うのでした。


 初めて先生の研究室に入ったあの日以降、二人はそれぞれの学問に没頭しました。ショイリは魔素と魔法細工について、コムズワーは魔法石について研究をしていました。研究内容はお互いに秘密で、あとでビックリさせ合うという取り決めでした。だから、魔法石の研究でコムズワーが鏡状の魔法細工を作り上げても、ショイリは知りませんでした。その2枚1セットの細工は、遠くにいても鏡越しにお互いの様子を見聞きすることの出来る鏡でした。コムズワーはこの魔法細工で先生とショイリをビックリさせようと、ある作戦を考えました。先生にプレゼントと称して、一方の鏡を研究室内に置かせてもらい、そこへ二人が来たところで驚かせるという計画でした。

 さっそく、コムズワー側の鏡にはマジックミラーのシートを被せておき、先生側からはこちらが見えないようにして、研究室に置かせてもらいました。

 そして、数日が経ったある日。

 ガチャリ。自室で読書をしていたコムズワーは、扉の音を聞いてニヤリとしました。そーっと鏡の向こう側をのぞくと、そこには先生とショイリの姿があります。

「(にっしっし)」声を殺して笑うと、ショイリはマジックミラーのシートを剥がすべく、鏡の淵に手を伸ばします。と同時に、鏡の向こうで先生が壁面に手を当てました。すると、妖精のいる小部屋と机の間の壁に切れ目が走り、手前に大きく傾いたかと思うと、机のようになりました。コムズワーはそれを一度も見たことがなかったので、呆気にとられてしまいました。

 机の上には鍋や笊、包丁などの調理器具とコンロが並んでいます。何をするんだろうと気になって、ショイリが黙って様子を見ていると、先生が箱型の魔法細工を操作しました。すると妖精たちの居た小部屋のガラス面が横にスライドしました。ショイリがそれに合わせて、あの布を剥がします。瞬間、妖精たちがものすごい羽音を立てながらコムズワーの方へ突進してきました。

「わあっ!」

コムズワーはビックリして尻餅をついてしまいました。ドックンドックンとする自分の拍動を聞きながら、鏡を見上げると、妖精たちが向こうの鏡の前でグルグルッと物凄い速さで旋回していました。


ぎぃいぃいぃぃぃ。

 

 突如、黒板を引っ掻くような音がコムズワーの耳を襲います。あまりの大音量に思わず耳をふさごうとします。だんっ。今度は机を叩くような音がしました。さっきの金切り音が止みました。何事かと思い、ゆっくりと立ち上がると、耳栓をした先生が白い湯気を見つめているのが見えます。その奥で、同じく耳栓をしたショイリの姿が目に入ってきました。ぎいいぃぃいぃい。再びの金切り音に、コムズワーは思わず目をつぶり、両手で耳を塞ぎます。だんっ。音が止みました。コムズワーがゆっくりと目を開けると、ショイリが前かがみになって、何かに手を置いています。それを見ようと覗き込んだら、妖精を押さえつけていました。ぎいいぃいいぃ。妖精は叫びながら、激しく抵抗します。そしてショイリのもう片方の手には、包丁が握られていました。


だんっ。


 切断された妖精の首が転がります。まな板の脇を抜け、転がりが止まると、鏡越しにコムズワーと目が合いました。

 無表情でした。無表情のまま。コムズワーはそれから目が離せません。だんっ。じっとこちらを見ています。だだんっ。無表情のまま。ぎいぃぃい。見つめています。ぎいいぃいいっぃ。コムズワーの中で。だんっ。その存在が大きくなります。だんっ。包丁の音が。ぎいいぃいいぃ。責め立てるように。だだんっ。無表情のまま。責め立てます。ぎいいぃぃっつぃ。だんっ。無表情。コムズワーを。だんっだんっ。責め立てます。だんっ。ぎいいぃ。まま。ぎいいぃいいぃ。だんっ。無表情。いいぃいいぃ。だんっ。だっだん。目が離せません。ぎいぃついっぃぃ。だんっ。ぎぃ。目が。



わらった。


初心者です。お手柔らかにお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法や異種族のいる魔法世界の中で語られるダークなおとぎ話、興味深く読ませていただきました。 驕った人間がドラゴンによって全滅させられる話など、子供に聞かせるには少々物騒なお話ですが、きっと…
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