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テキトーに思うがままに書いております。
ご了承ください('Д')
香港は九龍島にある一際大きな高層ビルにて。眼下に見えるネオン街を凍てつくような瞳で見下ろすのは一人の女性。ただ、女性というには少し幼いような気はするが彼女の瞳に純粋さは欠片も見られなかった。
彼女のいるのは高層ビルの最上階から一つ下の階。一面ガラスで囲われた部屋に光はなく、ネオン街の光が容赦なく突き刺さる。社長室の様な大きなデスクと椅子、来客用のソファセットが置かれただけの部屋は広くそれ以外は何もない。
――コンコン…
音もなく沈黙が支配していた空間に、重厚感漂う扉がノックされる音が響く。その音に見向きもせず、一切微動だにしない彼女の部屋に一人の人物が入ってきた。
「失礼致します。ご報告に伺いました」
入ってきた男性は黒のスーツにグレーのワイシャツ。ワインレッドのネクタイで左手にタブレットを持っていた。ツーブロックにされた髪型でアッシュグレーのその姿は、堅気の人間か少し疑う要素を備えていた。
「……状況は」
「セタル(墨)は新たに貿易ルートの開拓を急いでいるようです。マラ(米)の方は少し落ち着います。シチリア・コーサ(伊)は裏切り者が出たとのことで現在調査中になります。他にも――」
業務連絡のように淡々と各国のマフィアやギャングたちの現在の情報を述べていく彼。窓の外を見つめる彼女は未だ冷徹な瞳を眼下の喧騒に向けていた。
「……では引き続き情報収集をしつつ精査を怠らないように。…裏切り者が気になるね」
「こちらでも詳しく調べますか?」
「…そうだね」
彼からの情報を聞き、一つのマフィアについて詳しく調べるよう告げる。そこから沈黙が支配する。男性の方は、扉の近くにあった秘書用のデスクに座りPCを起動させた。
喧騒の世界を見つめる冷酷な彼女と、暗闇の中でPCのキーボードを高速で打つ彼。沈黙に支配されたそこに誰も割って入ってくる事はない。時刻は現地時刻でAM2:00。そもそもこのビルに残っているのは彼らしかいないのだ。
「…明日の定例会は会長が来るって言ってたけど、何か話し聞いてる?」
「いえ、特には何も。いつも通りで構わないとの事です。…気になるようでしたらお聞きしましょうか」
「……いや、そこまでは及ばないよ。そろそろ私は戻るから、あとよろしく」
「畏まりました。お休みなさいませ」
秘書である彼を一度も見る事なく、彼が開けた扉から出ていく彼女。そのまま上へと向かう。そんな主の後ろ姿を見つつ、彼女が見えなくなるまで低頭し続ける彼。最初から最後まで無表情であった彼ら主従は、主は私室へと。そして従者の方は社長室の自分のデスクに戻り、またPCを激しく打ち始めた。
夜は深まるばかりであるのにも関わらず、相も変わらず喧騒と夜の世界を象徴する光は消える事なく彼らの傍らに居続けた。
場所は変わってイタリアのローマ。表通りから数本裏通りに入ったところ。観光客はもちろんの事、住民たちも決して入らない裏通り。警察官も「入るな」と日に何度も注意するほどに危険な裏路地に、とある男性が追い詰められていた。
「た、頼む!殺さないでくれっ!!」
サイレンサーが付けられたグロックを突き付けられているのは、ローマでも指折りの名家の跡取りであるダミアーノ・クレシェンツィオ・カウジオ。古くはビザンツ帝国時代からある名家中の名家であるカウジオ家。その跡取り息子である彼は、今まさに殺されようとしていた。
乱れた髪と恐らく撃たれたのであろう流血している左腕を抑え、恐怖だけをその表情に浮かべていた。そんな彼に銃を突き付けているのはどこにでもいる青年の様な私服の男性。黒いパーカーとキャップで顔は見えないが、その口角は若干上がり笑みを浮かべているのが手に取るように分かった。
「…お前は知ってはいけない物を知った。だから消えるのは通りだろう?」
「そ、そんなことっ!!」
「黙れ…」
――っ……!
抵抗するダミアーノを無視し、青年は笑顔のまま引き金を引いた。
銃声は当たり前のごとくなく、ただ空気を大きく震わせるのみであった。
音もなく倒れるダミアーノ。青年は彼が絶命しているのを確認すると、彼のスーツの胸ポケットから小さなマイクロSDを抜き取った。
「…知ってはいけない事を知った人物が消されるのは当たり前の事なんだよ」
ニタリと不気味な笑みを浮かべる青年。マイクロSDを自身のポケットに入れ、ゆっくりとその場を立ち去った。
あとに残ったのはダミアーノの無残な亡骸だけであった。




