女子目線③
最期です。
思わず告白されたのかと思ってドキッとした楓だったが、よくよく考えるとそこまで直接的だったわけでもないと思い、言葉を発した相手の出方を伺うように見る
「あー、すまん。色々と言葉足らずだった。花巻が可愛いといったのは本心で、性格も花巻の外見にあっていて、ん?外見が性格に合っていて?あーまあどっちでもいいが、ともかく両方込みでいいと思った。ああでも告白とかいう気はなくて、なんとなく思った事が口から出たというか、そんな感じ?」
「プッ、アハハ、もー桂木君焦りすぎ。でも有難う。私もすごくうれしい。正直ドキッとしちゃった。一瞬人生初の告白かとおもって、びっくりしちゃったもん」
思わず吹いてしまった。告白云々は私の勘違いっぽいが、ちゃんと私を見て、それでキチンと考えてくれて出た言葉だと思って、嬉しさがこみ上げる。ただ少々桂木君は慌て過ぎだ。だから私は気負いなく、改札を出たところで桂木君に声をかける。
「桂木君今日は、有難う。あっ、ライン交換しようよ。ライン」
「ああ、そうだな」
そして桂木君とラインを交換して、これで今日はお別れでいいはずだ。でも私も桂木君もなんとなくその場を離れられない。本音を言えば、もう少し一緒にいたい。でもさっき断った手前、誘うのも気まずいし、などと考えていると、桂木君から声がかかる。
「あー、花巻、やっぱ家の近くまで送るよ。迷惑でなければ、もう少し花巻と話たい」
「うん、私ももう少し一緒にいられたら、ってちょっと思った。でも帰り遅くなっちゃうけど、いいの?」
「ああ、まあ男子なんて、連絡だけ入れとけば、多少遅くなっても何も言われない。まあ妹が変な勘繰りを入れてこなければ、大丈夫だろ」
私は正直嬉しさがこみ上げて、ニヤケ顔になるのを懸命にこらえ、真面目な口調で言葉を返す。
「それならご同行、よろしくお願いします。あっ、でも荷物は持つよ?流石に悪いし」
「なら俺の鞄持ってくれ。こっちの方が軽いし、今日は辞書とかも入ってないしな」
桂木君はこんなところでも私を女の子扱いしてくれる。勿論、気を遣われるだけだと心苦しい部分もあるけど、ちゃんと妥協案を出してくれて、私も少しだけ、気が楽になる。そうして桂木君と連れだっての帰り道。道は明るさは申し分ないのだけど、人気がなくて少し寂しい。だから隣に桂木君がいるのは正直有難かった。
「フフフッ、やっぱり桂木君に一緒に来てもらって、正解だったかも」
「まあ確かに、ちょっとこの道寂しいもんな。バンドの練習帰りだといつもこの時間なのか?」
「うーん、スタジオの借りれる時間次第なの。今日は7時から9時までの2時間しか借りれなくて、その前の時間が借りれれば、大丈夫なんだけど、こればっかりはタイミングだから」
そうなのだ。授業が終わって、急げば、5時からの時間も借りれるのだが、空いているかどうかの問題なのだ。勿論予約受付もできるのだが、他メンバーの都合も加味して、どうしても予約が遅れ気味になる。そうすると遅い時間での予約になってしまうのだ。
「ふーん、練習って曜日とかも決まっているのか?」
「うん、一応各自週末は色々あるだろうからって、毎週金曜日の放課後にしようって事になってる。ただスタジオ借りるのもタダじゃないから、週1回位で、それ以外は学校でやろうかって話になってる。私とかは楽器持ってるからいいけど、ドラムの子がねー。スタジオじゃないとできないから、本当はもう少しやりたいんだけど」
「ならもしまたこの時間に帰るようだったら、ラインくれよ。俺は毎週金曜日は予備校だから、タイミングが合えば、一緒に帰れるだろ?」
桂木君が予想外の提案をしてくれる。勿論タイミングが合えばという前提だが、それでも私にとっては嬉しい提案だ。
「えっ、いいの?もしそうしてくれるならすごく嬉しいけど」
「喜んでくれるなら、全然問題ないぞ。まあ花巻と話しているのは楽しいし、俺には彼女とか居ないから、なんかそういう気分を味わえて嬉しいし」
また桂木君がヘンな事を言ってくる。彼女って、そうすると桂木君は彼氏ってわけで、などとグルグル変な事を考えていると、思わず動揺が声になる。
「ふぇ、彼女?」
「あっ、いや、気分の話で、そこまで深い意味は無いんだけど。ただ花巻の彼氏になる奴は羨ましいとは思うけど」
どうやら桂木君は動揺が声になって零れるタイプの男子だ。明らかに狼狽えている。私は少しだけ意地悪な気になって、桂木君を茶化す。
「桂木君って、もしかしてそうやって気安く女子を口説いたりするタイプ?」
「なっ、いや、口説くとかそういうのじゃなくて、つい本音が零れたというか」
「プッ、アハハ、冗談、冗談よ。でも私の彼氏かー。でもそれなら桂木君の彼女になる子の方が、よっぽど羨ましいけどな。桂木君、優しいし、かっこいいし」
やっぱり彼は真面目だ。勿論、ガリ勉とかそう言う事ではなく、誠実というか、でも迂闊でもある。なので、やはり少しだけ意地悪にそれでもちょっとだけ本心を混ぜて、彼を褒める。
「はいはい、お世辞でもそう言ってくれて嬉しいよ。バレンタインのチョコも義理しか貰ったことのない俺に、そう言ってくれるのは、花巻くらいだな」
「もー、自己評価低すぎ。桂木君って。その義理チョコだって、ホントは本命だったりするんじゃない?そもそもモテない子は、義理すら貰えないし」
私はそう言って少しだけ不満げな表情を見せる。正直、桂木君は自己評価が低すぎる。今日話をしただけで、見た目だけでなく彼の人となりや優しさなどは好感を抱かせるものだった。本当にモテない奴は義理チョコすら貰えないとうのも本心だ。まあいい人止まりの可能性も無きにしも非ずだが。
「いや、だってくれた時これは義理だからって念押しされたぞ。もし本命だったら義理だなんて念押ししないだろ?」
「えっ、勇気出せなくて、ひよっちゃう子だっていると思うけど。私も男子に告白とかって、普通に無理だと思ってるし」
正直、バレンタインでチョコを用意するのって、結構めんどくさい。それをわざわざ用意するだけでも結構手間だし、何か含みがあっても不思議ではない。少なくても私はそこまでの事をしたことがない。
「ええっ?本当に?えー、あれって本命チョコの可能性あるのか。マジか」
「まあ、本気で義理の可能性もあるけどね。ちなみに誰からもらったの?」
「ん?ああ、ほら、去年同じクラスだった、白浜祐美。俺一時期、席が隣でさ。隣の席のよしみらしいぞ」
「ええーっ、祐美っ?祐美ってあの祐美でしょ?学年で一番男子に告白されて、悉く断ってるあの?」
白浜祐美。私とは友達グループが違うからそう仲が良い訳ではないが、別に嫌いあってるとか、仲が悪い訳でもない。真面目で優等生、優しげで間違いなく美少女。褒める形容詞には困らない女子だ。実際、彼女に告白した男子は何人か知ってるし、協力してくれないかと相談された事もある。勿論、そう多く接点があるわけではないので、全部無視しているが。
「おっ、おう。なんかモテるってのは聞いた事はあるけど。偶々隣の席になった時には、クラスの男子から、相当羨ましそうな顔で見られたけど。ただ流石に、白浜が実は俺の事本命とかはないだろ。2年になってクラスも別れて、今は余り接点もないし」
「えっ、っていうか、まだ接点あるの?」
「いや、接点って言っても廊下ですれ違ったら、挨拶したり、帰りがけ一緒になったら、途中まで一緒に帰ったりするくらいだぞ。そんなの多少仲の良い友達だったら、誰でもするだろう?」
私はそれを聞いて、少しだけ胸がチクリとする。こうして2人で帰るのって私だけじゃないという気持ちとあの祐美が男子と会話している姿を思い浮かべ、なんだかモヤモヤするのだ。
「ギルティね。本命の可能性、かなり高いと思うけど。あの子、男子は殆ど接点もたないようにしてるのよ。ほら、変に絡まれても嫌だからって事で。でもあの祐美が、へー、そうかー」
「まあ花巻はそういうけど、普通に義理だろ。流石に白浜に好かれる理由がわからん」
「ええー、可能性あると思うけどなー。でももし祐美に付き合ってって言われたら、どうするの?やっぱ祐美クラスの女子なら小躍りしちゃうでしょ」
うーん、なんだか胸のモヤモヤが止まらない。何せ相手はあの祐美なのだ。男子たる者、少なからず並んで歩いただけで、ニヤニヤが止まらないレベルの女子だ。やっぱり桂木君もそうなのかなと思うと、また胸がチクリと痛む。
「まあ嬉しい、嬉しくないでいえば、嬉しいかもしれないけど、付き合うかどうかでいえば、ちょっと微妙かもな」
「えっ、何で。祐美なら文句ないでしょ?」
だからだろうか、桂木君から出た意外な言葉に、思わず声が上がる。あの祐美だよ?鼻の下が確実に伸びるレベルだよ?
「あー、ほら、途中まで一緒に帰ったっていったろ?正直その時、あんま話が広がらなかったんだよな。正直、こうして花巻と話ている方が、楽しいし」
「フフフッ、そう言ってくれるのは嬉しいかも。まあ実際に祐美に告白されたわけでもないから、その時になってみないとわからないかもだけど」
それを聞いて、胸がジンワリと暖かくなる。嬉しい。それと同時に顔が少しだけ赤らんでくるのがわかる。でも口調は悟られないように、もっともらしい事を言う。勿論、ここまでは仮定の話なので、それにやきもきしても仕方がないのは事実である。
「まあ、やっぱり俺はその線は無いとも思うしな。残念ながら17年間の人生で女子からモテた記憶がない。当然、女子と付き合ったこともな」
「アハハ、それを言うなら私もだけどね。宮原君のをノーカンにすれば、告白されたこともないし。男子と付き合いたいと思ったこともないかも」
やっぱり桂木君は祐美が気があるかもというのを、全く信じていないのか。私は少しホッとする反面、彼女いない歴17年と聞いて、それもまた嬉しくなる。
「ん?花巻って男子苦手とかそう言うタイプ?ってわけでもないよな?」
「うーんそうね。別に苦手ではないよ。あーでも2人きりってのはあんまないかも。周りに友達とかいてみんなでワイワイって感じで。だからこうして、桂木君と2人でいるのって少し新鮮かも」
そうなのだ。こうして男子と2人っきりって、余り記憶がない。少なくても帰り道、男子と並んで帰るなんて、初めての事だ。ただ全然嫌じゃなく、むしろ嬉しい気持ちが勝る。ただ相手が誰でもそうなるかというと、決してそんな事は無く、やはり目の前にいる男子に好意を抱いたのが原因だと思わず口にする。
「あっ、いや、そう言われるとテレる。まあでも俺も花巻とこうして話をしているのは、楽しいし、また、こうして話たいとも思う。まあ今日は偶然だったけど、また話そうぜ」
「うん、取りあえずは約束もしたしね。それとまた帰り道でも会いたいし。あ、それならお近づきのしるしに、名前で呼んでよ。私、あんまり苗字で呼ばれるの好きじゃないんだ」
私はそう言って、少しだけズルをする。まだライバルと決まったわけではないけど、もしライバルになったら、物凄い強敵になるだろう彼女に対し、少しだけ距離を縮めるだけのズル。でももし叶ったら嬉しいズルでもある。そして桂木君はそんな私の夢を簡単に叶えてくれる。
「ん?花巻の下の名前って、楓だっけ?」
「うん、そう。楓」
「なら俺は創太でいいぞ。ダチはみんな創太だし。君もいらねー」
至極あっさりとした了承。私はならばと既成事実を作るべく彼の名前を呼び捨てにする。
「なら創太、これからもよろしくね」
「はいはい、楓もな。って言うかこうして改まって言うと、恥ずかしいな」
「ちょっ、そう言う事言わないでよ、私も我慢していたんだからーっ」
私はそう言って文句を言いながらも、やはり顔は嬉しさでにやけてしまう。男子に名前を呼び捨てにされるのって、ドキドキする。彼の名前呼び捨てにする以上にドキドキする。でもこれで一歩リード。まだ始まったばかりだけど、これからどうなるのか、私が一番楽しみだった。